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エルヴィス・プレスリー「アロハ・フロム・ハワイ」(1973年1月14日放映)

バズ・ラーマン監督『エルヴィス』が素晴らしすぎて、久しぶりにエルヴィス・プレスリーのライブ映画を連続視聴。1972年の全米15都市ツアーのドキュメンタリー『エルヴィス・オン・ツアー』に続いて、6月17日(金)と18日(土)は、1973年1月に全世界中継されたサテライト・ライブ「アロハ・フロム・ハワイ」を娯楽映画研究所シアターで、スクリーン投影。パブリック・ビューイングならぬパーソナル・ビューイングを5.1ch爆音(ヘッドフォンだけど)上映。

全米ではトヨタ提供でオンエア

1970年、エルヴィスは海外公演を望んでいた。何度か企画されるも、マネージャーのトム・パーカー大佐の意向で、アメリカ国内のみのステージにしか立つことができなかった。これにはエルヴィスは相当なフラストレーションを抱えていた。そのあたりの裏事情については、映画『エルヴィス』の後半で生々しく描かれている。

さて、1973年1月14日、ハワイのホノルル・インターナショナル・センター(現在のニール・S・ブレイスデル・センター)で開催されたエルヴィス・プレスリーの「アロハ・フロム・ハワイ」チャリティ・コンサートは、全世界38ヵ国で衛星中継で放送された。15億人の人々がテレビのブラウン管の前でエルヴィスのパフォーマンスを目の当たりにした。

日本でも鳴り物入りで放映され、新聞やメディアでの前宣伝もあって、小学3年だった僕も、この時に初めて「動くエルヴィス・プレスリー」を観た。リアルタイム世代よりは少し上になるが、母親がいろめき立っていたことをよく覚えている。ともあれ、この放映が僕にとって初のエルヴィス・プレスリー体験だった。その時に、もともと日本公演のオファーがあり、エルヴィスは海外公演をしたことがなかったので、ならばハワイから全世界中継を、ということになったと、アナウンスされていた。

日本盤

今となっては、一度のコンサートで膨大な放映契約料が入るという、トム・パーカー大佐のしたたかな戦略だったのだが、同時に「世界中の人にステージを届けたい」というエルヴィスの希望も叶えることとなった。日本での視聴率はゴールデンタイムで37.8%の高視聴率を記録した。クイ・リー癌基金のチャリティ・コンサートで、入場料は設定されず、観客が任意の金額を寄付するというスタイル。エルヴィスとパーカー大佐はそれぞれ1000ドルずつ寄付したという。

この企画がアナウンスされたのは、1972年9月4日。ラスベガス、ヒルトン・ホテルでの59回目のステージ最終日、トム・パーカー大佐は記者会見でNBCテレビスペシャル「アロハ・フロム・ハワイ」を1973年1月にオンエアすることを発表。パーカー大佐は、1972年2月、リチャード・ニクソン大統領の中国訪問の生中継を見て「エルヴィスのステージを世界中継すること」を思いつて、NBCのトム・サーノフ社長に、その企画を持ちかけた。

そこでツアーのプロモーションのためにRCAレコード・ツアーを設立。RCAレーベルの取り分は100,000ドル。エルヴィスとパーカー大佐のギャラは900,000ドル。1967年に二人が交わした契約で、パーカーが取ってきた仕事に関しては総利益の50%ずつをシェアするというものだった。かなりエグい設定だが、パーカー大佐を父親のように信頼していて、この条件を納得していた。映画『エルヴィス』では、このバックボーンとして、パーカー大佐による巧みな精神的支配を描いている。

演出は、ハワイでのペリー・コモ、ビング・クロスビー、グレン・キャンベル、ドン・ホーらのビッグ・アーティストの五つのテレビスペシャルを制作したマーティ・パセッタが手がけることとなった。パセッタはアカデミー賞、エミー賞、グラミー賞などのテレビ放映も制作、演出していた。パセッタはエプロンステージを設定して、観客がエルヴィスに近づくことができるよう、なるべく低くするように提案。さらにエルヴィスが「太り過ぎ」であることを懸念、直接本人伝えた。エルヴィスは忌憚のないパセッタの意見に賛同、4時間に渡ってディスカッション。ショーのスタイルが作られていった。

ダイエットのために、エルヴィスは得意の空手、フィジカル・トレーニング、ダイエット・ピルの服用を続けて、1ヶ月で25ポンド(11キロ)の減量に成功。なので『エルヴィス・オン・ツアー』の時よりも、かなりスッキリした体型となっている。

これぞエルヴィス!というイメージの派手な衣装は、専属デザイナー、ビル・べリューが、エルヴィスのアイデアをもとにデザイン。べリューは、1968年から専属デザイナーとなり1970年代のスーパー・スターのイメージを作り上げた。世界中継のため「これぞアメリカ」の白頭鷲をモチーフにするkとに。ベルトのバックルはアメリカの象徴”グレート・シール”をあしらったもので4インチの白い革ベルトが作られた。

同行メンバーは、ラスベガスのインターナショナル・ホテルのステージのために編成されたTCBバンドが『エルヴィス・オン・ツアー』に引き続き担当することになった。ジェームズ・バートン(ギター)、ジョン・ウィルキンソン(リズムギター)、ジェリー・シェフ(ベースギター)、ロニー・タット(ドラム)、ラリー・ミュホベラック(ピアノ)、チャーリー・ホッジ(リズムギター、バックグラウンドボーカル)。The Sweet Inspirations、The Imperials、The Stamps、KathyWestmorelandのバックボーカルチーム、30人編成のジョー・グレシオ・オーケストラのベストメンバー。

エルヴィスは、公演5日前、1月9日にホノルル入り。空港から宿泊先のヒルトン・ハワイアン・ヴィレッジまで専用ヘリで移動。その様子が番組用に撮影されているが、ホノルルのプレスリー・ファンが集結、民族衣装を着たコーラス・グループが歓迎のレセプションを展開。エルヴィスは、かなり疲れている表情だったが、ファンを前にすると、黄色い歓声を送る女性ファンに、例によってキスのプレゼント、サービス精神を発揮する。

「アロハ・フロム・ハワイ」コンサートは、香港、日本、韓国、南ベトナム、フィリピン、オーストラリアなど、アジアを中心とした放映エリアのプライムタイムに合わせて、1月14日(日)、ハワイ時間の午前0時30分からスタート。その二日前の1月12日(金)の午後9時から、6000人の観客を前にリハーサル・ショーが開催された。本番とほぼ同じ構成、演出で、カメラリハ、ステージのリハーサルを兼ねてのショー。この模様もビデオを収録されてDVD「デラックス・エディション」やCDに収録されている。

ステージでエルヴィスが歌ったセットリストは22曲。「ブルー・スエード・シューズ」「ハウンド・ドック」「ラブ・ミー」など定番の曲、バラードの傑作「ユー・ゲイブ・ミー・ア・マウンテン」「マイ・ウェイ」「愛さずにはいられない」「アイ・リメンバー・ユー」「アメリカの祈り」など圧倒的かつ、これぞエルヴィス!といった王道の選曲。特にラストの「アメリカの祈り」「恋の大穴」「好きにならずにいられない」の流れは完璧。リハーサル・ショーもいいが、本番でのエルヴィスは神がかり。

本番終了後、観客が帰ったあと、エルヴィスはステージに戻り、NBCで4月に放映されるテレビスペシャルのために「ブルー・ハワイ」「KU-UI-PO」「ノー・モア」「ハワイアン・ウェディング・ソング」などが複数テイク収録された。あの映像は真夜中に撮影されていたのである。

ショーの収益は、当初の予定の25,000ドルを遥かに超えて75,000ドルにものぼった。「アロハ・フロム・ハワイ」は、36ヵ国で15億人が視聴。前述の通り、日本では37.8%、香港70%、フィリピンはなんと91.%を記録、韓国もテレビ視聴者の80%を獲得。ヨーロッパでは録画で数日後から数週間後、21ヵ国で放映。冷戦下、西側のほとんどの国で、エルヴィスのパフォーマンスが観られた事になる。さらにNBCでは4月4日に90分のテレビスペシャルが放映された。ハワイ到着からのドキュメントや映画の名場面を交えてのスペシャル版で「ノー・モア」はカットされた。

【セット・リスト】

♪ツァラトゥストラはかく語りき Also Sprach Zarathustra

♪シー・シー・ライダー  See See Rider

♪バーニング・ラヴ  Burning Love

♪サムシング Something

♪ユー・ゲイヴ・ミー・ア・マウンテン  You Gave Me A Mountain

♪スティームローラー・ブルース Steamroller Blues

♪マイ・ウェイ My Way

♪ラヴ・ミー Love Me

♪ジョニー・B.グッド Johnny B. Goode

♪イッツ・オーヴァー  It's Over

♪ブルー・スエード・シューズ Blue Suede Shoes

♪泣きたいほどの淋しさだ  I'm So Lonesome I Could Cry

♪愛さずにはいられない  I Can't Stop Loving You

♪ハウンド・ドッグ  Hound Dog

♪そして今は  What Now My Love

♪フィーバー Fever

♪私の世界へ  Welcome to My World

♪サスピシャス・マインド Suspiciopus Minds

♪アイル・リーメンバー・ユー I'll Remember You

♪のっぽのサリー~陽気にやろうぜ(メドレー)
Long Tall Sally~A Whole Lotta Shakin' Goin' On

♪アメリカの祈り  An American Trilogy

♪恋の大穴  Big Hunk o' Love

♪好きにならずにいられない Can't Help Falling in Love


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