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『恋とのれん』(1961年4月28日・松竹大船・番匠義彰)

今宵の娯楽映画研究所シアターは、番匠義彰監督『恋とのれん』(1961年4月28日・松竹大船)。松竹のモダンなコメディ作家・番匠監督による「花嫁シリーズ」のバリエーション。

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脚本は、川島雄三映画でお馴染み柳沢類寿さんと、番匠映画の名伯楽・管野昭彦さん。東宝の『駅前旅館』(1958年)同様、上野、湯島界隈を舞台に、老舗旅館「松岡」の暖簾を守るために団体客を積極的に取り入れて、ホテルに改造しようと考えている女将・淡島千景さん。

舞台となる旅館・松岡は、湯島天神下に、戦前から料理を誇る老舗。今では、若女将・桑野みゆきさんが切り盛りして、若い板前・山下洵一郎さんが板場を預かっている。二人は惹かれあっているが、何かにつけて口喧嘩ばかり。

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そんな桑野みゆきさんと、上野の老舗ホテルの若旦那・小坂一也さんとの縁談が持ち上がっている。母・淡島千景さんは、かつて大恋愛の末に別れた板前・佐野周二さんへの想いを断ち切れないまま、融資をしてくれる北竜二さんと付き合っている。

とまあ、いつもの番匠喜劇のように、様々な人物がそれぞれの思惑で出たり入ったり。旅館組合の慰安で熱海旅行に出かけた際に、淡島さんは温泉場の小料理屋で包丁を握る佐野周二さんと20年ぶりに再会。

実は桑野みゆきさんは、佐野周二さんとの子供だった。そのことを知っているのは、淡島さんと、先代から「松岡」と親しい資産家・伴淳三郎さんだけ。

ある日、桑野みゆきさんは嫉妬から、山下洵一郎さんに厳しい態度をしたため、山下さんは「松岡」をやめて、宮城県松島の旅館へ鞍替えしてしまう。その穴を埋めるために、伴淳さんに頼まれて、佐野周二さんが20年ぶりに「松岡」の板場に戻ってくる。

淡島さんと伴淳さんを見ていると、なんだかヴィジュアルは『駅前旅館』なのだけど、そこは番匠喜劇。とにかくキビキビしていて、スピーディな展開で笑っているうちに、事態はどんどんややこしくなる。

湯島天神が主要舞台なので、親に結婚を反対されたお蔦(牧紀子)と力(山本豊三)が、世を儚んで心中未遂するパロディが効果的にインサートされる。

こじれにこじれて、いよいよクライマックス。舞台は仙台〜塩釜〜松島へ。小坂一也さん、山下洵一郎さん、桑野みゆきさんは、それぞれの思いを果たすことができるのか? また、淡島千景さんと佐野周二さんの焼け木杭は? 

いつものように最後の数分間で、広げた大風呂敷がパタパタっと綺麗に畳まれていく爽快感。娯楽映画はこれでいい。ああ、楽しかったの86分!

よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。