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”The Gang's All Here”『バスビー・バークリーの集まれ!仲間たち』(1943年12月24日米公開・FOX・バズビー・バークレイ)

ハリウッドのシネ・ミュージカル史縦断研究。5月25日(水)は、ついにというか、いよいよ、バズビー・バークレイの”どうかしてる”センスが大爆発した世紀の怪作”The Gang's All Here”(1943年12月24日・FOX)をアマプラで字幕版(ジュネス企画版)をスクリーン投影。長らく日本未公開、テレビでも放映されていなかったが、DVDの時代になって『バスビー・バークリーの集まれ!仲間たち』という邦題で日本でもリリースされた。「ギャングズ・オール・ヒア」でいいじゃないか、とも思うけど。まあ、この邦題、間違ってはいないけど、1943年、戦時国債を販売する目的の国策キャンティーン映画だけに、なんとも座りの悪いタイトルである。

このプロジェクトは、1943年、第二次世界大戦の戦地に、アメリカの若者たちが次々と駆り出されていた時代。太平洋戦争が激化、南太平洋の激戦地に赴いた主人公・アンディ・メイソン(ジェイムス・エリソン)が勲功を上げて凱旋。それを富豪の父・アンドリュー・メイソン・シニア(ユージン・ポーレット)が祝賀するために、ニューヨークのナイトクラブのショーを、ビジネスパートナー・ペイトン・ポッター(エドワード・E・ホートン)の自宅で開いて、一人当たり5000ドルの戦時国債購入をチケットにして、国策に協力する。という、この時期、ハリウッドで連作されていた「キャンティーン映画」のパターンで作られたテクニカラー・ミュージカル。

ポスターヴィジュアル

FOXミュージカルの華として、1930年代からのトップスター、アリス・フェイをヒロインに、スイング・ジャズの時代を牽引していたベニー・グッドマン楽団、トーキー・ミュージカル草創期から活躍してきたハイキックを得意としたダンサーでコメディエンヌのシャーロット・グリーンウッド、トップダンサーのトニー・デマルコたちが錚々たるメンバーが出演。豪華なステージを展開するのだが、この映画の「特異性」は、まず、ブラジルの爆弾娘”トゥッティ・フルーティ・ハット”を被ったカルメン・ミランダをフィーチャーしたこと。次に、監督が「映像の魔術師」バスビー・バークレイだったこと、である。

バークレイは、1930年代末にワーナーからMGMへ移籍、スタジオの管理下でジュディ・ガーランドとミッキー・ルーニーの「裏庭ミュージカル」の数々を手がけてきた。この管理下というのは、才気あふれるバークレイのミュージカル・スペクタクルは時として暴走してしまうことを気にしたスタジオによるものだった。

この”The Gang's All Here”は当初、”The Girls He Left Behind”「彼が残したショーガールたち」と題して、ハリー・ウォレン作曲、マック・ゴードン作詞でプロジェクトがスタート。しかし、ゴードンが降板して、レオ・ロビンが作詞をすることに。もともとリンダ・ダーネルが、ビビアン・ポッターを演じることになっていて、ダンスのリハーサル中に足首を捻挫して交番。シーラ・ライアンが代役を勤めることになった。

1943年3月に”The Gang's All Here”としてクランクイン。ヨーロッパ戦線が激化するなか、FOXスタジオのトップ、ダリル・F・ザナックは従軍。スタジオで製作する映画のハンドリングが不可能となり、主にミュージカル映画を手がけていたプロデューサー・ウイリアム・ルバロンが代行。それをいいことに、バークレイは予算超過のみならず、やりたい放題。ついにはバークレイの「映像マジック」が、シュールレアリズム・スペクタクルの域にまで達してしまうことに。出演者も観客も「置いてけぼり」にされるほど、マッドなヴィジュアルが展開される。しかもテクニカラーで!

ゴールドウィン時代、ワーナー時代から、数々のミュージカル・スペクタクルをスクリーンで展開、観客を驚嘆させてきたバークレイだが、完全なテクニカラー作品は本作が初めて。かつて、エディ・キャンター主演のゴールドウィン映画『フーピー』(1930年)で2色テクニカラーのダンス・ナンバーを演出したことはあったが、予算、規模ともに、桁違い。それゆえに、キュービニズムの極北ともいうべきクライマックスが、いつの時代も観るものを圧倒させる。

ベニー・グッドマン カルメン・ミランダ

FOXがカルメン・ミランダを、この時期のミュージカルで次々とフィーチャーしたのも、アメリカの「南米政策」によるものだったが、カルメン・ミランダのフィルモグラフィーの中でも代表作となった”The Gang's All Here”は、なんとブラジルで上映禁止となる。今では彼女のアイコンともいうべき”TheLady with Tutti-Frutti Hat”のナンバーが南米輸出コードに抵触して、結局はブラジルでは当時上映されなかった。メキシコでは1944年10月に公開されたが、ブラジルで正式に上映されたのは2005年9月25日、リオデジャネイロ国際映画祭でのことだった。

長らくFOXミュージカルのトップスターとして活躍してきたアリス・フェイだったが、翌年の”Four Jills in a Jeep”(1944年)のカメオ出演を最後に、しばらくミュージカル映画から去ることになる。本作出演中に、二人目の子供を孕ったことを理由に引退。ベティ・グレイブルが”ピンナップ・ガール”として兵隊たちのアイドルとなり、スタジオはそれまでアリス・フェイが担っていたパートをベティにシフトさせたことも大きい。ちなみにアリス・フェイが久しぶりにFOXミュージカルに出演したのは、パット・ブーンとアン・マーグレット主演『ステートフェア』(1962年)での母親役となる。なので、本作がアリス・フェイにとって最後のミュージカル映画での主演作となった。

また本作では、1940年代から50年代にかけてミュージカル映画で活躍していく”未来のスター”がコーラスガールとして出演している。ジューン・ヘイバー、ジーン・クレイン、ジョー・キャロル・デニソン(1942年のミス・アメリカ)たちである。まさに新旧交代、時代の変わり目でもあったのだ。

ともあれ、いろんな意味でアイポップ、インパクトの強いミュージカルだが、ストーリーは至ってシンプル。芸達者たちのアンサンブルもハリウッド映画の定石通り。美しい女性も、ダンサーも、ベテラン・コメディアンも見せ場がある。だけど、それらを突き抜けてしまうほどバズビー・バークレイの「やりすぎ」が天晴れ!である。

ベニー・グッドマンが自身の役で、芝居をして演奏だけでなく歌も披露してくれる。前半のブロードウェイ・キャンティーンでの演奏や、バンド登場で演奏するバンドテーマ”Let's Dance”などは貴重な映像である。またクライマックスのショーで、カルメン・ミランダをフィーチャーした”Paducah”では、カルメンと掛け合いで甘い歌声を聴かせてくれる。このシーンで、ジャズ・ドラマーのルイ・ベンソンが見事なテクニックを披露。ジャズ映画としても貴重な作品である。

コーラスたちが歌う”Hail! Hail! The Gang's All Here!”(作曲:セオドア・モース、アーサー・サリバン 作詞:ドリー・モース)が流れるタイトルバックが開けると、客船SSブラジル号がニューヨークの港に接岸。船からはたくさんの荷物が荷下ろしされる、カメラがズームすると、その荷物はカルメン・ミランダのエキゾチックなフルーツの帽子!というケレン味たっぷりの演出。そこで、アロイシオ・オリビア、カルメン・ミランダが歌うのは”Brazil”(作曲:アリー・バロッソ 英語作詞:ボブ・ラッセル)。ハリウッド映画に限らず、アメリカのショービジネスで南米のイメージを喚起させてきた曲といえば、やはりこの”Brazil”。カルメン・ミランダのパワフルな歌声に圧倒される。この曲は、わがPINK MARTINIのステージでも定番のアンコール曲で、チャイナ・フォーブスが歌う”Brazil”に合わせて、観客たちが総立ちになり”コンガライン”を気づいて、ホールの客席、ステージを練り歩く。そんな楽しいナンバー。

で、このニューヨーク港が、実はセットでナイトクラブのステージだったという滑り出し。このクラブ・ニューヨーカーでは、ラジオで一世を風靡したショーマン、フィル・ベイカー(自身)がステージをプロデュースしている。”You Discover You're in New York”(作曲:ハリー・ウォレン 作詞:レオ・ロビン)をカルメン・ミランダと共に歌う。

投資ビジネスで大成功しているアンドリュー・メイソン・シニア(ユージン・ポーレット)は、何かにつけて神経質で恐妻家のパートナー、ペイトン・ポッター(エドワード・E・ホートン)を連れて、ニューヨーカーへやってくる。そこへ、アンドリューの息子・陸軍軍曹のアンディ(ジェームズ・エリソン)も合流。ステージではトニー・デマルコが華麗なダンスを披露している。

やがてアンディは、ショーガール、イーディ・アレン(アリス・フェイ)に一目惚れ。彼女がステージの合間に出演している、兵士慰問の所”ブロードウェイ・キャンティーン”にやってくる。

狭いキャンティーンでは、陸軍、海軍、海兵隊の若者たちでごった返している。ステージではベニー・グッドマン楽団が、ジッターバグ・スタイルの”Minnie's in the Money”(作曲:ハリー・ウォレン 作詞:レオ・ロビン)をホットに演奏。アンディはなんとかイーディを口説こうと必死にアプローチする。ベニー・グッドマン楽団の”Soft Winds”(作曲:ベニー・グッドマン)でダンスを踊るアンディとイーディ。しかし、次々と兵隊たちがパートナーとなり、アンディは大いにクサる。

兵隊の扱いに慣れているイーディに交わされながらも、アンディの口説きは続。その時、アンディは大金持ちの息子という身分を隠して、咄嗟に戦友のパット・ケイシーと名乗る。再びニューヨーカーに戻った二人。ステージでは、ドリタ(カルメン・ミランダ)をメインにした本作で最高最大のプロダクション・ナンバー”The Lady in the Tutti Frutti Hat”(作曲:ハリー・ウォレン 作詞:レオ・ロビン)となる。

もうこのナンバーだけでも、この映画の存在価値はある。カルメン・ミランダといえば、大きな”フルーツ飾りの帽子”というイメージがあるが、それをバズビー・バークレイならではのシュールな映像で拡大してヴィジュアル化。コーラスガールたちは腕にバナナの房をつけ、巨大なバナナを手に、バークレイ・スタイルのマスゲームが展開される。カルメン・ミランダのパワフルなパフォーマンス。日本で言うなら、差し詰め「買い物ブギウギー」を歌う笠置シヅ子か?「私が巨大なフルーツの帽子をかぶっている訳」をおもしろおかしく歌うカルメン・ミランダ。キスをするとき、帽子を外すと「彼氏が喜ぶ」というオチ! しかも、カルメンのアップから、キャメラがずっと引いていくと、巨大なバナナを被っているという信じがたい光景! このナンバーのスチールを、大判の洋書”THE HOLLY WOOD MUSICAL"の見開きページで見たとき、本当に驚いた。作画によるマット合成なのだけど「何もここまで?」というシュールさに、いつか観たいと思い続けてきた。

どうかしてる!

さて、アンディの猛アタックに、イーディの心も動いて、二人は深夜、スタテン島行きのフェリーでデート。深夜のフェリーには、恋人たちばかり。そこでアンディは「何か歌って」とイーディにリクエスト。彼女が歌うのが主題歌”A Journey to a Star”(ウォレン&ロビン)。ロマンチックなラブソングである。終夜デートで、すっかりアンディの虜となったイーディ。翌日、軍務で「南の方に行くから、見送りにきてほしい」とアンディに頼まれて、グランドセントラルステーションへ行くイーディ。実は、アンディな南太平洋戦線へ向かうことになっていたが、それを隠してイーディと、再会を約束して別れる。

といった前半は、ボーイ・ミーツ・ガールのラブコメが展開される。アンディには、幼馴染のビビアン・ポッター(シーラ・ライアン)と言う婚約者がいたが、イーディに夢中でそれどころではなくなった。ビビアンは、ペイトン・ポッター(エドワード・E・ホートン)の娘で、その母・ブロッサム(シャーロット・グリーンウッド)は実はかつてパリで「ナイトクラブの女王」として貴族とも浮名を流した伝説のダンサーだった。しかもニューヨーカーのフィル・ベイカーはかつてのパートナー。

伝説のショーガール=シャーロット・グリーンウッドと言う設定がいい!不思議なハイキックで一世を風靡したシャーロットは、バズビー・バークレイとはブロードウェイ時代からの昔馴染み。映画でもエディ・キャンターの『突貫勘太』(1931年)などで一緒に仕事をしている。ポッター家のパーティのシーンで、若い男の子(チャールズ・サガウ)に「踊ってください」「あたしはあなたより少し年上だから無理」などとのやりとりがあって、結局、ご機嫌なジッターバグ”The Jitters”(作曲:ジーン・ローズ)を踊る。このシーンのシャーロットが実に素晴らしい。ハイキックは健在で、その鮮やかな体重移動に惚れ惚れする。

それから数ヶ月、イーディは毎日、オーストラリアで闘っているパット・ケイシー(アンディの偽名)に手紙を送り、彼への想いを募らせていた。そのアンディが歴戦の勇士として勲功されて、帰国することになった。アンディの父・アンドリューは、息子を歓迎するのはクラブ・ニューヨーカーのショーが一番と、フィル・ベイカーに掛け合う。しかしクラブはあいにく改装中で店では難しい。ならばと広大な敷地のポッター宅の庭、バラ園をステージすればいいとアンドリューが勝手に決めてしまう。

リハーサルのために、ニューヨーカーの踊り子、スタッフ、ベニーグッドマン楽団、ドリタ、イーディ、フィル・ベイカーたちがポッターの屋敷に寝泊まりすることになる。何も知らないビビアン・ポッターは、「恋人がオーストラリアで戦っている」イーディにシンパシーを感じて仲良しに。まさかアンディ=パット・ケイシーとは思わずに…。全ての事情を知っているのはドリタだけ。そこで笑いのシーンとなる。

リハーサルが始まるが、トニー・デ・マルコが「こんなバラ園じゃ踊れない!」と激怒。パートナーが帰ってしまったと大クレーム。薔薇を丹精してきたポッターにとってはもってのほか。「そんなこと言うなら出てってくれ」と大揉め。しかしトニーは、ポッターの娘・ビビアンに一目惚れ。彼女がダンスを踊れると知るや、代役はビビアンでとなる。しかし、堅物の父・ポッターはそんなことは許さないとさらに激怒。

そこで母・ブロッサムと、昔のパートナー、フィル・ベイカーが一計を案じて、父・ポッターの弱みにつけ込んで、ビビアンの出演をOKさせてしまう。リハーサルで、アリス・フェイのヴォーカルで”No Love, No Nothin'”(ウォレン&ロビン)を踊るトニー・デマルコとシーラ・ライアン。このナンバーのアレンジは、なんとあのジャズ・ジャイアンツのベニー・カーター!

と、色々あってアンディが帰ってくる。そこでヴィヴアンとイーディが鉢合わせしてややこしいことになる。さぁ、どうしよう! ステージの開幕が迫る。

まずはベニー・グッドマン楽団の”Paducah”(ウォレン&ロビン)演奏が始まる。1コーラス目は、クラリネットを吹くベニー・グッドマン、それに続くメンバーの演奏。やがてベニーが甘い歌声で2コーラス目を歌う。そして白いドレスのカルメン・ミランダが登場。3コーラス目をコミカルに歌い、そこで転調する。カルメン専属のラテン・バンドのサンバのリズムに合わせて踊る。ダンス・パートナーは、トニー・デ・マルコ。まずベニー・グッドマンがこうしたコミックソングを歌うのに驚くが、カルメンとの相性もぴったりで、楽しいナンバーとなる。

続いて、噴水のウォーターカーテンが下がると、アリス・フェイが登場。美しいコーラスガールを従えて、”A Journey to a Star”(リプライズ)を甘く囁くように唄う。テクニカラーだけど、陰影を強調した演出は、バークレイの感覚なのだろう。1コーラス目が終わると、円形のステージでトニー・デ・マルコとシリア・ライアンがワルツのリズムに合わせて優雅に踊る。これも暗めの照明で、シリア・ライアンの白いドレスが映えるようなライティング。この時代のハレハレのテクニカラー・ミュージカルを見慣れていると違和感を感じるが、これもまたバークレイの狙い。噴水のカーテンを照明でピンク色に染めて、不思議なトリップ感がある。

このナンバーを終えて、バックヤードに戻ったイーディ。トニー・デ・マルコがヴィヴィアンに惚れて、ブロードウェイのステージに誘い、彼女も快諾して、アンディとの婚約は解消。ここで全ての問題がクリア、イーディの気も晴れてステージの後半の幕が開く。

続いてのナンバーは、かわいい子供たち。男の子と女の子のカップルがポルカを踊っている。”The Polka Dot Polka”(ウォレン&ロビン)。そこへアリス・フェイが登場して楽しくコミカルに歌い始める。かつてのワーナーミュージカルでのバズビー・バークレイのナンバーを彷彿とさせる。1880年代の古き良き音楽を連想させる前半の展開。しかし、女の子の服の袖(花束のようなイメージ)がアップになると、いつしかそれが巨大な作り物になっていて、画面が暗転。レースの袖の中の円が、ネオンを仕組んだ真っ赤な輪となる。そのネオンの輪を手にしているのは、バズビー・バークレイ・ダンサーズ!真っ暗ななかで赤く怪しく光るネオン管の輪。それを持っているのは女の子だとかろうじてわかる程度。

かなり妖しい世界になってきた。バークレイとしては「シャドウ・ワルツ」のリフレインをテクニカラーでやろうという企画なのだが、あまりにも妖しすぎる!この赤い輪のトリッキーな映像がしばらく続く。するとガールズたちが現れて、ようやく照明でその顔、衣裳が浮かび上がる。ネオン管の輪を持って、無表情で踊るダンサーたち。ゆっくりと動く輪、まるで催眠術をかけられているかのよう。華麗、流麗というより、妖しい。ようやくグリーンを基調にしたセットの坂道のステージに、ブルーの衣裳のガールズたちが、ピンク色の丸い輪を持って座っている。ピンク色の輪の裏はグリーン。1930年代、ワーナー時代と同じ「手」でのバークレイショットなのだが、テクニカラーになるとより「異様さ」が際立つ。

バークレイショットは、モノクロだったから、人々を惹きつけ、時代のアイコンとなっていたのだろう。ここからの逆回転などトリッキーな演出は、ワーナー時代と同じなのだけど、何かが違う。ピンク/グリーンの輪が、いつしかゴールド/パープルの輪にスイッチされて、ゴールドの輪がアップになると、いよいよ万華鏡タイム。「ハレンチ学園」のポチ校長のようなパラソル状のドレスから首だけ出しているアリス・フェイ。キャメラが俯瞰で引いていくと、万華鏡の鏡となる。「万華鏡のような」と喩えられるバークレイショットだったが、ここで初めて万華鏡を使った演出となるのだ! 美しいと言うより不気味。このトリッキーな映像がしばらく続いて、観客は不思議なトリップ感覚に包まれる。

そこで、いきなりブルーバック合成で、丸いブルーの輪に乗ったユージン・パレットの二重顎の大きな顔がズームアップ。”A Journey to a Star”のサビを歌って観客に迫ってくる。これはミュージカルというよりは、ホラーの演出じゃないか? 続いてピンクの輪の中に、シャーロット・グリーンウッドの顔がくり抜かれて迫ってくる。さらにゴールドの輪の中のエドワード・E・ホートン、シーラ・ライアン、ベニー・グッドマン、カルメン・ミランダ、フィル・ベイカー、アリス・フェイが「生首」を晒しながらワンフレーズずつ歌いながら登場。ラストはブルーの画面に、全員の「生首」だけがズラリとレイアウトされ、さらにはコーラス・ガールたちの顔がミシン目のようになって・・・音楽が最高に盛り上がって大団円。

なんともはやのシュールなヴィジュアルに唖然茫然。しかし作品は大ヒット。スタジオに莫大な利益をもたらすことに。とはいえ、バークレイとFOX上層部は、あまりのコストに衝突して、最後まで合意できなかった。バークレイはザナック不在にかこつけて「やりたい放題」の限りを尽くしてしまった。この後、バークレイは古巣ワーナーに戻り、40年代後半にはMGMに戻って、ジーン・ケリーとフランク・シナトラの『私を野球につれてって』(1949年)、ジュディ・ガーランド版『アニーよ銃をとれ』(1950年)などを手がけ、エスター・ウイリアムズの水中バレエ映画で再び黄金時代を迎えることとなる。

ロビーカード

【ミュージカル・ナンバー】

♪ギャングス・オール・ヒア! Hail! Hail! The Gang's All Here!

作曲:セオドア・モース、アーサー・サリバン 作詞:ドリー・モース
*唄:コーラス(タイトルバック)

♪ブラジル Brazil (Aquarela Do Brasil)

作曲:アリー・バロッソ 英語作詞:ボブ・ラッセル
*唄:アロイシオ・デ・オリヴィラ、カルメン・ミランダ、コーラス

♪ニューヨークで貴方をみつけてYou Discover You're in New York

作曲:ハリー・ウォレン 作詞:レオ・ロビン
*パフォーマンス:カルメン・ミランダ、アリス・フェイ、フィル・ベイカー、コーラス

♪ミニーズ・イン・ザ・マネー Minnie's in the Money

作曲:ハリー・ウォレン 作詞:レオ・ロビン
アレンジ:エディ・サウター
*唄:ベニー・グッドマン、ジッターバグ・コーラス

♪ソフト・ウインズ Soft Winds

作曲:ベニー・グッドマン
演奏:ベニー・グッドマン楽団
*ダンス:アリス・フェイ、ジェームズ・エリソン

♪フルーツ帽子をかぶったレディThe Lady in the Tutti Frutti Hat

作曲:ハリー・ウォレン 作詞:レオ・ロビン
*パフォーマンス:カルメン・ミランダ、コーラス

♪星への旅 A Journey to a Star

作曲:ハリー・ウォレン 作詞:レオ・ロビン
*唄:アリス・フェイ(キャストによるリプライズ・エンディング)
*ダンス:トニー・デ・マルコ、シリア・ライアン

♪ジッターズ The Jitters

作曲:ジーン・ローズ
演奏:ベニー・グッドマン楽団
*ダンス:シャーロット・グリーンウッド、チャールズ・サガウ

♪愛なくしては No Love, No Nothin'

作曲:ハリー・ウォレン 作詞:レオ・ロビン
アレンジ:ベニー・カーター
*唄:アリス・フェイ
*ダンス:トニー・デ・マルコ、シーラ・ライアン

♪カラマズー (I've Got a Gal in) Kalamazoo

作曲:ハリー・ウォレン 作詞:マック・ゴードン
*演奏:ベニー・グッドマン楽団

♪パデューカ Paducah

作曲:ハリー・ウォレン 作詞:レオ・ロビン
*演奏:ベニー・グッドマン楽団
*唄:ベニー・グッドマン、カルメン・ミランダ、トニー・デ・マルコ

♪ポルカ・ドット・ポルカ The Polka Dot Polka

作曲:ハリー・ウォレン 作詞:レオ・ロビン
*唄:アリス・フェイ、ダンサー
*パフォーマンス:バズビー・バークレイ・ダンサーズ

♪ホットタイム・イン・オールドタウンA Hot Time in the Old Town

作曲:テオドール・メッツ
*演奏:「ブラジル」ナンバーの後、車が登場するシーンの曲

♪サイレント・セニョリータ Silent Señorita

作曲:ハリー・ウォレン 作詞:レオ・ロビン
*唄:コーラス。"Lady in the Tutti Frutti Hat"のエンディング。

♪'Valse des rayons' from 'Le Papillon'aka "Valse chaloupée"

作曲:オッフェンバック
*唄:シャーロット・グリーンウッド、フィル・ベイカー

♪P'ra Que Discutir

作曲:ネスター・アマラウ

♪Diga o Ella

作曲:ネスター・アマラウ

♪Let's Dance

作曲:グレゴリー・ストーン、ジョセフ・ボニミ、ファニー・バルドリッジ

♪The Flower Song

作曲:グスタフ・ランゲ

♪Carnival

作曲:ラッセル &ウォレン


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。