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太陽にほえろ! 1973・第67話「オリの中の刑事」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第67話「オリの中の刑事」(1973.10.26 脚本・市川森一 監督・竹林進)

永井久美(青木英美)
鮫島勘五郎(藤岡琢也)
藤沢修(明石勤)
横井光枝(加藤眞知子)
「さくら荘」大家(福田トヨ)
藤沢浩子(香川リサ)
城北署刑事(石光豊)
城北署刑事(国井正広)
城北署刑事(大宮幸悦)
西山署長(平田昭彦)
城北署署長(加藤和夫)

予告篇の小林恭治さんのナレーション
「七曲署刑事・島公之は、城北署刑事数名に拉致された。容疑は毒物による友人の妻殺し。この事件の解明にあたり、藤堂係長と城北署・鮫島刑事はそれぞれ上司に合同捜査を依頼した。が、それはにべもなく拒否された。次回「オリの中の刑事」にご期待ください。」

 藤岡琢也さんの鮫島刑事、第44話「闇に向って撃て」以来、二度目の登場。今回は殿下が冤罪を着せられ窮地に陥る。キャリアもタイプも異なるが、殿下にとって鮫島刑事は、本当の意味での「バディ」でもある。市川森一脚本は、登場人物の心理を深く抉っていく。今回は犯行の動機や事件の真相がなかなかトリッキーなので「推理もの」としても楽しめる。

 市川森一脚本は、今回も鮫島刑事の型破りなキャラクター、署長たちの官僚体質とつまらないライバル意識、そして殿下の友達への「信頼」とその対極にある「愛憎」と「裏切り」をじっくり描いて、腰の据わった作品となっている。そして鮫島には「初めまして」のジーパンとのコミカルなやりとりなど、「緊張と緩和」の按配が見事で、1時間ドラマとしては理想的な充実の作品となっている。

 ある夜。殿下は帰宅途中に、むくつけき男たちに取り囲まれる。「島公之さんですね?」「なんだ?」その途端に取り押さえられ、クルマに拉致される殿下。クルマが到着したのは城北署だった。「俺を誰だと思ってるんだ。このヤロー。離せよ」。抵抗虚しく殿下は、取調室へ。「君、人違いもいい加減にしろ。俺は刑事だぞ。七曲署の島だ!」。そこへ「しばらくやな、殿下」と鮫島刑事(藤岡琢也)が入ってくる。

「女が重体なんや。それもいつポックリ行くかもわからんさかいな。ま、女の息のあるうちに片付けてしまいたいと思うてな」
「女?」
「藤沢浩子」

 殿下、はっとなる。鮫島は「これに見覚えないか」と菓子折りを殿下に見せる。これは藤沢浩子(香川リサ)を訪ねた時の手土産の菓子折だったのだ。最中の中にヒ素が混入されていたという。これを食べて浩子は重体になってしまった。搬送される途中に、浩子は鮫島に「七曲署の島刑事から貰った」と話したという。殿下は「彼女に会わせてください」「あかん」と鮫島。すでに浩子は意識不明となっている。

 鮫島は殿下のアリバイを訊ねる。
殿下の回想シーン。入院中の友人・藤沢修(明石勤)から、自分がガンに冒されていることを告白する。「死ぬなら早い方がいい。これ以上、女房に苦労をかけたくないんだ」。藤沢によれば妻・浩子は「他に付き合っている男がいるらしい」。

 殿下の友人・藤沢修を演じた明石勉さんは、東京12チャンネル「新藤兼人劇場 ・ 愛妻物語」(1970年)の主演をきっかけに、同年に昼メロだが「花王愛の劇場・波の塔」にも出演して、お茶の間の主婦の人気を集めていた。鮫島刑事初登場の第44話「闇に向って撃て」に続いての出演でもある。また石原プロモーション制作「西部警察」にも何度か出演している。第111話「出動命令・特車"サファリ"」では、サファリ開発の関係者を演じている。

 七曲署、捜査第一係。宿直のゴリさんが電話で叩き起こされる。「冗談じゃないよ」。城北署の鮫島から殿下が参考人として勾留されている旨、伝えられる。深夜2時。ゴリさんはボスに電話。ボスは黄色いパジャマを着ている。ボスはすぐに着替えて城北署へ。その頃、鮫島は城北署署長(加藤和夫)に「島刑事を藤堂に返しましょう」と進言していた。しかし署長は「我が管内で起こった事件は、たとえ相手が誰であろうと、我が管内で処理をする」とにべもない。鮫島はどこで調べようと、真相が明らかになればいいじゃないかと反論。それが藪蛇となり「君はよっぽど七曲署の藤堂が気に入っておるようだな。何なら藤堂の下で働いてもいいんだよ」「何言ってはります。わいは城北署の刑事です」。

 鮫島とボス。「うちのものしょっぴくなら一言挨拶があっても良かったんじゃないか?」と怒り心頭のボス。時間がなかったと言い訳する鮫島。ボスは「電話一本で済むことだよ」。そらそうだ。仮に藤堂がOKをしても、城北署の署長と、七曲署の西山署長(平田昭彦)は警察学校以来のライバル。殿下を貸せと言われても、必ず西山署長が横槍を入れてくるに違いない。エリート同士のライバルというのは手に負えないね。ボスが殿下に会いたいと言っても、鮫島は「それはあかん」。殿下はただの参考人ではない。任意出頭の形をとっているが、本当は容疑者であると、鮫島。事件の内容も、捜査が始まったばかりという理由で、ボスには話すことができないと。

ここでのボスと鮫島のやりとりがいい。

「あんたんとこでは何か? 相手が刑事の場合は、例外を許すんか? 藤堂、ワイは忘れてへんで、島はワイの恩人や、ワイがメクラになってホシを追い回した時にな、あいつはワイの杖になって、ホシ、捕まえさしてくれた。あん時のことは一生忘れてへん。ワイがこうやって生きてられんのも、島とあんたのおかげやないか。今度の事件の担当を買うて出たのも、そのためやで。ワイは借りは返さんと気が済まんタチやよってな」
「鮫さん。あんたの立場はよくわかった。でもな、あんたは俺の性格をよくわかっているはずだ」
「まあ、あんたの方で勝手に動く分にはとやかくは言うまい。そういうこっちゃ」
「よし、殿下はひとまず預けておく。そのうち別の土産を持って迎えにくるからと、伝えてくれ」
「殿下がホシやないと、言い切れるのか?」
「部下を信頼できないで、何ができる? お互いの上のようにはなりたくないな」

 七曲署・署長室。西山署長が忌々しそうな表情。「島刑事が城北署に連行されたというのか? 何の事前通告もなかったっていうんだな」。ボスは事件の真相を解明するためにも、署長から城北署に合同捜査を申し入れて欲しいと進言する。しかし「向こうが頼みに来るならいざ知らず、こっちから頭を下げて捜査に協力させてくれって言えるか!」。あーあ、メンツに話になってきた。嫌だ嫌だ。西山署長は、事件の内容は問わず、殿下には懲戒免職の処置を取らせる。「島を見捨てるんですか?」「島刑事だけじゃない。事態によっては、君にも覚悟を決めてもらうよ」。相変わらず無茶苦茶な西山所長の判断。事勿れの官僚主義の極みだね。

 一係、ボスが憤然と入ってくる。ゴリさん、早速、一昨日から昨日までの殿下の足取りを辿っていた。30日の午後3時ごろ「病気の友人の見舞いに行く」と署を出て行った。午後7時ごろ、一旦署に戻った時にゴリさんがあったが「学生時代の友人が、ガンになったと沈んでいました」。ボスは久美に「何か変わったことはないか」と訊ねる。久美によれば、お見舞いの花は「鉢植え」がいいか、「切り花」がいいかと聞かれたので「長持ちするから鉢植え」とアドバイスして、殿下もそれに従ったという。久美も殿下も、お見舞いの常識を知らなかったと、ゴリさん、長さんが苦笑する。このネタは「太陽〜」ではしばしば使われる。

 そこで山さん。殿下が友人を見舞った病院は、事件の起きた城北署管内から当たるのが「順当」だろう、と。がん患者と聞いて「総合病院だな」と山さん。さすが奥さんの入院で苦労しているだけはある。しかも城北署管内では総合病院は一つしかない。城北大学病院だけ。しかし病気が病気だけに、患者を探すのがホネだろう。ボス、すかさず「手がかりはある。鉢植えだよ、山さん」。さすがボス! ゴリさんと山さん、早速動く。

 久美は、自分のアドバイスが役に立ったんですね! ボスもそれを認めるが、長さんは「今度、病院に見舞いに行くときは、切り花の方がいいよ」とアドバイスをする。「誰だって、病院に長くいたいとは思わないだろ? だから長持ちのする鉢植えは禁物!」。さすが長さん、年の功だね。

 城北大学病院を見渡すことができるビルの屋上。山さんとゴリさん、双眼鏡で病室を探す。あった!窓辺に鉢植えの花が置いてある病室を見つけたゴリさん。藤沢修の病室を見つけた二人に看護師(加藤眞知子)が「御面会ですか」と声をかける。藤沢は、先ほど警察と一緒に外出していた。藤沢修、26歳、豊島区池袋のさくら荘3号室に住んでいることが判明。すぐにジーパンが向かう。「さくら荘」の大家(福田トヨ)が、前日、先月分に家賃を受け取りに藤沢の部屋を訪ねたら「あの奥さんが、虫の息で倒れてるじゃない。旦那さん長患いで入院しているのに、好きな男ができたみたい」。さすがに大家さんだけに、いや福田トヨさんだけに詳しい。福田トヨさんは日活のバイプレイヤーで、若い頃から裕次郎映画でも、こうした役を演じていた。ジーパンは、藤沢浩子が近くの救急病院に入院していることを聞き出すことに成功。

 その救急病院。鮫島が藤沢を浩子の病室へ案内している。昏睡状態の浩子に思わず声をかける藤沢。病室を出てきた鮫島と藤沢の前に、山さんとゴリさんが現れる。「さすがやないけ。もうここまでたどり着いたんか」と鮫島。山さん「あなたが島の友人の藤沢修さんですか?」。そこへ鮫島割って入り「尋問はお断りやで」とシャットアウトする。

「殿下をいつ釈放してくれるんですか?」とゴリさん。
「まさか逮捕状に切り替えてまで、交流するつもりじゃないんでしょうな」と山さん。

 藤沢を連れて、その場を立ち去ろうとする鮫島を制止した山さん「捜査に協力させてもらうわけにはいきませんかね?」「そっちがうろうろ動き回るのは結構だが、捜査の邪魔はせんといてくれよ」と鮫島。気持ちはわかるが、捜査協力だけは無用だ「帰ったら藤堂にもそう言っといてくれ」。とにかく事件の輪郭を掴むことができたと山さん。しかしゴリさんは歯がゆい。

 城北署・取調室。憔悴しきっているが、黙秘を続ける殿下。鮫島「一体、何しに、彼女をアパートに訪ねて行ったのか? それだけ答えてくれればいい」。黙っていたら、殿下が不利になるだけだと鮫島も苛立っている。「病院で旦那に、何か頼まれたのか? 例えば女房の素行調査・・・」「藤沢は他人にそんなことを頼むような男じゃないですよ」。ではなぜ刑事が、亭主のいない留守宅へ、出かけて行ったのか? 鮫島の疑問はここに絞られている。その翌日に、浩子は殿下が持ってきた「ヒ素入り最中」を食べて倒れていた・・・。「最中にヒ素を入れたのは僕じゃないですよ!」と殿下。その証拠はどこにあるんだ!と声を荒げる鮫島。だから言って欲しい。何をしにアパートに行ったのか?と。

「浩子夫人の意識が戻れば、何もかもわかることですよ」と殿下。
「その通りや、けど、もし助からなんだら、どうなる? そうなったら殿下。お前、出口なしやで!」と鮫島。

 殿下の回想。「あの人とはもうおしまいです。ダメです私たち夫婦は・・・」と浩子の悲しそうな表情。殿下のモノローグ「もしかして、浩子夫人に他の男がいたら、藤沢は・・・」

 黙考している殿下に、痺れを切らした鮫島。殿下の胸ぐらを掴んで「お前、ワシに隠さないかんことがあるのか?」と激しく、悲しみをこめて詰め寄る。「お前は今、自分がどういう立場に置かれているか、よく考えてみろ」とビンタをする。しかし殿下は、藤沢への友情と信頼を守るため、黙秘を続ける。「コイツ誰か、庇おうてるな?誰やろ?」と鮫島の心の声。

 一係、ボスが経緯を整理している。「30日の午後、ガンで入院している友人を見舞った後、その友人の奥さんのアパートへ行った。そして、その翌日、その奥さんは何者かに毒を飲まされた。その毒物はヒ素か・・・」。夫人の容態は今日、明日あたりが山じゃないかとゴリさん。長さん「夜、菓子箱を下げて訪ねた男が殿下だとすれば、一体、何のために夫人ひとりのアパートを訪ねたのか?も問題ですな」。ジーパンは浩子の男関係について「管理人もそう言うんですけどね」。それが引っかかるとボス。久美は「ご主人に知れたら、どうするつもりだったのかしら」とポツリ。そこで長さんは「旦那は知っていたのかもしれないな」。しかしジーパンは「もし知っていたら、のんびり入院なんてしちゃいないですよ」と否定する。ゴリさんは「その辺のところも、殿下がいりゃ、パッと聞けるんだけどな」と歯がゆい。「どうも靴の上からおできを掻いているような気分だね」。まさに隔靴掻痒である。

 そこへ山さんが病院から帰ってくる。「ボス、藤沢氏の病気はガンじゃありませんね。胃潰瘍です」。担当の医師からカルテも見せてもらったから間違いない。では、なぜ殿下だけ、藤沢がガンだと思い込んでいたのか? 山さんも「直に殿下に聞いてみないと、わからんな!」。そこでボス「山さん、藤沢氏のアリバイはどうだ?」「完璧ですね。この一週間、病院の外には一歩も出ていませんね」「旦那はシロか?」。ボス、ジーパンに「お前、城北署に知り合いはいるか?」「いいえ」。一係で鮫島の顔を知らないのはジーパンだけ。そこで「殿下に面会に行ってもらおうかと思ってな」。やるね、ボス!

「でも会わしてくんないでしょ?」
「会えるよ」ボスは何かを企んでいるようだ。

 ラーメン屋で、うまそうに札幌ラーメンを啜る鮫島。そういえば藤岡琢也さん「サッポロ一番 みそラーメン」CMの顔でもあった。ラーメンを食べさせたら天下一のうまさ(笑)その隣に、チンピラ風の態度のジーパンが座って「何にしようかな」と言いながら、鮫島のポケットから拳銃を抜き取ろうとする。「おいおい、何をしてるんやお前」「ちょっとこれ(手錠)貸してくれませんか」と笑うジーパン。で、結局、スることに成功して逃げ出す。追う鮫島。ベルトを外され、走りながらどんどんずり落ちてくる。とある路地でジーパン「いやに遅いな。少し本気で走りすぎたかな」と鮫島を待っている。すると後ろから「オンドレ、このガキ!」と鮫島。嬉しそうなジーパン。飛んだ茶番だけど、これが子供の頃、面白かった。トムとジェリーじゃないけど。自分で手錠をはめたジーパン「自首、自首です」(笑)怒って、ジャンプしながら「このノッポ!」とジーパンの頭を叩く鮫島。嬉しそうに連行されるジーパン「バンドが下がってますよ」(笑)

 城北署。殿下の留置所へ、ジーパンが勾留されることに。「一晩、面倒みたって、こいつの!」と言い残して鮫島は去っていく。ジーパン、にっこり笑って、殿下に「よろしく!」

「奥さんには好きな人がいたそうですね」
「嘘だ。あの人はそんな人じゃない」
「・・・」
「ガンで死にかけている夫を残して、他に恋人を作る人じゃない」
「藤沢さん、ガンじゃありませんよ。胃潰瘍だそうです」
「医者は大抵そう言うのさ」
「山さんが調べてきたんですよ。本当に!」
「・・・(微笑む殿下)」
「ガンだってことが奥さんにわかるのが怖いんですか?」
「彼女は知ってたよ。担当の看護婦が身の回りのものを取りに来た時、うっかり漏らしたそうだ」
「看護婦が?」
「ガンのことが気になるんなら、もう一度調べなおすんだな」

 殿下、ジーパンに、帰ったらボスに「俺のことは心配ない」と伝えてくれと頼む。浩子の容態を聞いた殿下「彼女はな、俺が藤沢に紹介したんだ。二人を不幸にすることは、俺にはできないんだ」。それが殿下の思い、気持ちだったのだ。でもそれが事態をややこしくしているんだけど・・・。

 一晩泊まって、無事釈放されるジーパン。身元確認とかしないの?城北署は(笑)鮫島「お前仕事持っとんのか?」とジーパンの仕事を世話してやろうか?と優しいところもある。「図体でかいのに、馬鹿力があるんやから」と高いところで重いものを載せる仕事でも世話してやろうと(笑)この辺りの藤岡琢也さんの関西弁、抜群におかしい。「力生かして!」。優作さんも負けていない。「体弱いんです」と咳き込む。どこまでもエスカレートする二人のやり取り。そこへ刑事がかけてきて「鮫さん。事件当日の朝、別の男がアパートを訪ねています」と慌てて報告する。

「被害者の部屋から、長髪でジーパンの若い男が出てくるのを、新聞配達の少年が見たんです」
「長髪でジーパンの若い男?」思わずジーパンを見やる鮫島。「おい、お前、帰っていいぞ!」

一係。ジーパンの情報を聞くボスと山さん。殿下が犯人じゃないとするなら、最中にヒ素を入れたのは、その若い男しかいない。

城北署。鮫島、立ち上がり「そいつがホシや!」「島刑事は?」「簡単やないか。そいつがクロなら島はシロ! そいつがシロやったら、島はクロ・・・」。

 鮫島の顔、ボスの顔。二人が同時に同じことを思っていることが示唆される。浩子に恋人がいる噂は本物だったようだと山さん。しかし殿下は強く否定していたとジーパン。ボス「庇っているんだよ、あいつ」。山さん「殿下らしいですな。それが黙秘の理由か」。

 城北署では鮫島が「探すのや!夫人が付き合うていた男を徹底的に洗い出せ!」と刑事(石光豊・国井正広ら)に命じて、自分が真っ先に部屋を飛び出す!

 一係でも「その男、一つ洗い出してみるか!」とボス。一体どうするのか? ボスは鮫島を尾行しろとジーパンに命じる。ゴリさんとジーパン、鮫島を尾行する。顔を見られたらどうしようと心配するジーパンに、俺が追いかけてやるさとゴリさん。「刑事に追われるってのはあまりいい気持ちはしませんからね」「刑事を尾行するってのも妙な気分だな」とゴリさん。

長髪の若い男を探す鮫島。なかなか見つからない。
昏睡状態の浩子を見舞う鮫島。
留置所の殿下。「もしも、浩子が死んだら?もしも?」
城北署の鮫島、何かを考えている。

 新宿の雑踏。ジーパンの上下にタバコを持った長髪の若者を見たゴリさん「あれでも男なんだからな」。若者振り返って「あたしになんか言った?」と女の子、憮然とする。「何だよあいつは!女なら女らしい格好をしろよ」とゴリさん。その一言に、ジーパンが気づく。「ゴリさん、こいつは男とは限らないかも知りませんよ」。朝帰りの長髪でジーパンの若い男・・・「そうだ!女だったかもしれんぞ」。ジーパンのこういう気付き、ボス譲りになってきた。

「女か?」。ボスは、藤沢がガンだと浩子に告げたのが看護師であることを思い出した。「ゴリ、藤沢氏の係の看護婦だ!」ゴリさんも気づく「あの看護婦(加藤眞知子)だ!」。ジーパンとゴリさん、その看護師をマークすることに。

 ドットの2ピースに赤いスカーフ、おめかししてマンションの部屋を出る看護師・横井光枝(加藤眞知子)をゴリさんが尾行する。ジーパンは、マンションの屋上から、降りながら、横井光枝への部屋のベランダへ。アクションシーンとしてはなかなかだけど、家宅不法侵入ですからそれは。光枝の部屋を調べるジーパン。ベッドの下から、長髪の若者スタイルのウイッグとデニムの上下が出ていくる。

 一係。亭主の担当看護婦なら「夜中でも安心してドアを開けるね」と長さん。「看護婦ならヒ素を手に入れるのは、訳ないことだな」とボス。「城北署でもヒ素の出所を真っ先に洗い回っただろう」と山さん。ボスは、長期に渡って少量ずつ盗み出したのだろうと推測。ゴリさんは、看護師なのにマンション暮らしが気になって、光枝の資産状況を洗っていた。「実家が千葉で、大変な土地成金なんですよ。仕送りがかなりあったんです」。

ボス「乗り換えか?」
山さん「亭主のアリバイが固いんで、こいつはまた別の線かと思いかけてたんですがね」と山さん。
ジーパン「じゃ、犯人は?」
ボス「毒入り最中を食わせたのが横井光枝、藤沢修は殺人教唆」

 地下駐車場。ボスのクルマ。助手席の鮫島に「どう思う?」。クルマを無言で降りる二人・・・。ボスの顔は確信に変わっている。長髪の若者に変装した光枝が、藤沢の部屋を訪ねる。それを目撃している近所の主婦たち。

「長髪でジーパンの若い男っていうのは、藤沢と看護婦ででっち上げた架空の男だ。結局、浩子さんには恋人なんていなかった。看護婦が男に化けて恋人に見せかけていたんだよ」
「藤堂、あとはワイに任してくれるか?」
「推理は通っても、証拠を掴むのは骨だぞ」
「夫人が生きているがな。意識はないけれども、まだ生きているんや、夫人の証言さえあったら・・・藤堂おおきに、よう知らせてくれたな。島は必ずあんたんとこに返すさかいにな」

 こういう時の裕次郎さん、実にかっこいい。しかし・・・鮫島が病室の浩子を訪ねると、すでに亡くなっていた・・・。どうする鮫やん!呆然とする鮫島。留置所の殿下のカットが入る。病室を力なく出てベンチに座る鮫島。

「やってみるか・・・けど、今更、平巡査に逆戻りはしとうないしな・・・しゃあない、やったるか」

 鮫島の作戦が始まる。藤沢修に「明日の朝までには浩子の意識がはっきりする」と電話をかける。「今、奥さんね、お宅へお連れしたところでんねん」その電話を心配そうに横で聞いている光枝。「10時になりましたらね、家政婦がくることになってますさかい。それまで私がつきそうてます」。トラップをかける鮫島。焦った藤沢は病院を抜けしてくると。鮫島はそこまですることではないと断りつつ、わかりました。そちらにクルマで迎えに行きますからと告げて電話を切る。

 「生きてたの?」と光枝。「女房の意識が戻ったら、何もかも終わりだ。あの晩、島が帰った後に訪ねたのがお前だとバレたら」と藤沢。「逃げましょう。お金ならいくらでもあるわ」「刑事はまだ気が付いていない。まだ間に合う!」。藤沢は何かを企んだようだ。

 藤沢の部屋。鮫島が浩子の遺体をベッドに寝かしている。えー!病院から持ってきちゃったの? 両手を合わせて拝む鮫島「奥さん。堪忍しておくんなはれや」。

 城北署では、鮫島が救急病院から浩子の遺体を運び出したことが大問題に!そらそうだ。 署長(加藤和夫)はカンカン!「すぐ遺族に電話しろ!鮫島は免職だ!」。藤沢の病院へ署から電話。光枝が受ける。「藤沢さんの奥さんがお亡くなりになりましたもので」「え!」。狼狽える光枝。

 ゴリさんとジーパン。救急病院へ。玄関から慌てて出てくる光枝を任意同行する。

 アパート。藤沢が忍び込むように入ってくる。寝ている浩子をチラリを見てから、ガスの栓を開けた瞬間、鮫島に気づく。「やっぱり、おのれやったか?」。追い詰められた藤沢、ナイフを取り出し、構える。「わいも女房に辛う当たったけどな、おのれほど割り切れなんだ。かわいい女房を二度殺すきか?おどれは!」「よるな!」「藤沢、よう見てみい、奥さんはもう死んどる」。呆然とする藤沢に「死化粧はな、俺が代わりにさしてもろうた」。往生際の悪い藤沢、鮫島ともみ合いになる。ガスの栓は開いたまま。鮫島、なんとか組み伏せようとするが、二人とも苦しくなってくる。それでも藤沢を殴り続ける鮫島。

「一口に刑事いうてもな。島みたいに純情な奴も居れば、仏まで担ぎ出す罰当たりもおるのじゃ!」

 なんとか手錠をかけようとする鮫島。もう苦しい。そこへゴリさんと長さん、ボスが駆けつける。ボス、浩子の顔にそっと白いハンカチをかけてやる。

 七曲署・屋上。殿下が佇んでいる。「浩子さんは知っていたんだ。藤沢と看護婦のことを・・・俺は、なんのために藤沢夫婦を庇ったのか・・・」虚しさいっぱいの殿下に、鮫島が声をかける。「まだ怒ってんのか?」「・・・」「そらな、俺のやり方が間違うとったかもしれんわ。けどあの時な、あんなことでもせんと、あの男は尻尾を出さんと思ったんじゃ。それも皆お前を助けたい一心からや。礼言うてくれとは言わんけど、ちっとはワイの気持ちを汲んでくれたらどうや」「・・・」。

「実を言うとな、今日は別れに来たんじゃ。山田のな、派出所の方に行くことになってな。ははは。まあ、達者でな」
「鮫さん!今夜、いっぱい飲みませんか?僕が奢りますよ」
「奢ってくれるんか? 嬉しいなぁ。けど、これから行かなあかんのや。いずれまた、じっくりと」

 一係でみんなに挨拶をして出てきた鮫島。ジーパンを見つけて「お前、今度はこっちで世話かけたんか、お前は?ほんまにもう、しょうがないやっちゃな」とジーパンに頭を叩く。「実はその・・・」本当のことを言い出せないジーパン。そこで山さん「刑事になりすましましてね。映画館にタダで入ろうとしたんですな」「アホやな、誰がお前みたいなフーテンをデカやと思うか。ほんまに・・・バカにすんなよ、デカを!」。それだけ映画を見たいならとジーパンのポケットに金を入れてやる鮫島。ゴリさん、吹き出しそう。

そこへボス「いいからもらっておけ」。仕方なくゴリさんに追い出されるようにその場から去るジーパン。

鮫島、最後の挨拶をみんなにする。
「藤堂、借りかえすつもりが、また仮を作ってしもうたな」
「鮫、島助けてくれたのはあんただ、これで貸し借りなしだぜ」

鮫島、去り際に「殿下、がんばりや! おおきに」。


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