『七人の刑事 女を探がせ』(1963年・松竹大船・高橋治)
ラピュタ阿佐ヶ谷「蔵出し!松竹レアもの祭」で、高橋治監督『七人の刑事 女を探がせ』(1963年・松竹大船)を堪能。葛西橋から四つ木橋にかけての荒川河口で、少女の絞殺死体が発見される。捜査一課の7号室の敏腕刑事たちが捜査を開始する。犯行の夜、非行少女たちの厚生施設の寮が全焼。四人の少女たちが脱走したことが明らかになる。
この滑り出し。刑事ドラマ脳にはたまらない、荒川、下町ロケーション。十朱幸代さん、中村晃子さん、香山美子さん、青山ミチさん、それぞれの個性を活かした四人の少女のキャスティング。
次第に点と線がつながり、もう一つの殺人事件が見えてくる。外務省局長夫人・高千穂ひずるさん、その兄・田村高廣さん、抜群だなぁ。少女たちの世界と、外務官僚夫人の世界。庶民の痛みを身を以って知っている刑事たち。
杉山刑事・菅原謙二さんが、十朱幸代さんに惚れられてて大いにクサり。そのかわりに中島刑事・城所英夫さんが、行方不明の中村晃子さんを探して上野、浅草、横浜へと振り回される東京探検シーンが最高! 浅草雷門のアオノヤの前でヨーヨーに興じるハイティーンの女の子! 鬼怒川温泉一柳閣の浅草事務所、あったあった! 雷門の森永エンゼルショップで、十朱幸代さんにねだられたヨーヨーが、森永コーラスの景品で、瓶を抱えて歩き回る中島刑事。森永はもちろん、テレビ版のスポンサー!
クライマックス、容疑者のクルマを追跡するシーン。日比谷映画劇場が映る一瞬に、胸がときめく!
テレビ版でお馴染みのテーマがタイトルバックに流れ、気分が盛り上がるが、山下毅雄さんのサントラの素晴らしさは、パーカッションを主体にしたフリージャズで、時には場面に寄り添い、時には観客の気持ちをざわつかせる。特に、パーラーで高千穂ひずるさんと田村高廣さんが、重要な会話をしているのに、刑事が近くで話を聞けずに、苛立つシーン。他の映画やドラマなら会話が聞こえてしまうのに、わざと音楽をぶつけて、会話を聞き取りにくくしている。サントラとセリフの関係を逆手にとって、犯罪の核心に触れることができないのだ。
それも含めて、高橋治監督の演出は、緩急が見事で、デビュー作「彼女だけが知っている」でもそうだったが、捜査会議のシーンもなかなかいい。状況証拠しかなく、犯人逮捕が難しく、海外逃亡のタイムリミットが迫る。焦る若手たちを前に、赤木主任・堀雄二さんが、苦悩しながら「捜査の原点に帰ろう」と言うシーンがいい。そこで沢田部長刑事・芦田伸介さんが、容疑者に揺さぶりをかけたいと申し出る。これだから刑事ものは、やめられない。
で、すべてが終わって、小西刑事・美川洋一郎さんが、悲しい生い立ちの青山ミチさんにやさしくかけることば。な、なんと、あの回で「寅さんが満男にかけることば」の原点じゃないですか! ああ、松竹映画! 伝統を感じますなぁ。映画を観ていて「ああ生きていてよかったなぁ」と実感(笑)
終映後、観にいらしていた寒空はだかさんと、早速、ロケ地談義をしました。
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