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『スチャラカ社員』(1966年8月13日・松竹大船・前田陽一)

ラピュタ阿佐ヶ谷「蔵出し!松竹レアもの祭」で、前田陽一監督、香川登志緒原作、澤田隆治脚本、朝日放送の人気テレビコメディの驚愕の映画化『スチャラカ社員』(1966年8月13日・松竹大船)を四半世紀ぶりにスクリーンで、しかもピカピカのプリントで!

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この作品を観て、テレビコメディ「スチャラカ社員」がどんな番組だったのかは、さっぱりわからないだろう。舞台となるのが大阪の商事会社・海山物産ではなく都田物産に改変、社長がミヤコ蝶々さん、部長が長門勇さん、社員が中田ダイマル・ラケットであることだけが同じ。

前田監督は映画化にあたって「なるべくテレビとは違うものを」というスタンスで独自の演出にこだわった。脚本には若井基成さん、澤田隆治さん、前田監督がクレジットされているが、その作業もメチャクチャだったと、前田監督、澤田さんからそれぞれ伺ったことがある。

音楽は萩原哲晶さん!クレージー映画のような軽快なサウンド、主題歌アレンジが楽しい!

野心的なのはトップシーン。テレビ番組の音声(セリフ)を流しながら、普段はABCホールの舞台に出ているレギュラー陣を、大阪の朝のラッシュに解き放つ。長門勇さんは、ストローで牛乳を飲みながらパンを齧りつつ、大阪駅前の歩道橋を歩いている。ダイラケ師匠は、通勤ラッシュで騒然とする横断歩道をそれぞれ渡る姿をロングショットで捉えている。バックに流れるのは舞台中継のテレビ音源での二人の会話。「イヤーン、イヤーン」で人気沸騰ルーキー新一さんが社員として登場。やはり大阪の街並みを歩いている。

ドキュメンタリー映像風に彼らを捉えるのが前田監督の狙い。野心的なのはこのアバンタイトルまでで。ここから先は、行き当たりばったりの、計算0の前田喜劇が展開される。

しかし関西喜劇人が次々とゲスト出演して、持ちネタを披露する展開は、今となっては貴重な映像資料。若井はんじ・けんじ、上方柳次・柳太、夢路いとし・喜味こいし、かしまし娘、南都雄二、横山アウト、そして宮川左近ショー! 眺めているだけでも昭和41年の大阪笑芸カタログのような感じ。

大阪のオフィスビルの屋上のペントハウス。都田物産は、鍋釜やマッサージ機を扱っている勝者だが、売り上げが芳しくなく、今日も返品の山。社長(ミヤコ蝶々)は資金繰りに窮して、家賃を支払えなくなり、社員に現物支給をして会社の精算を決意する。しかし部長(長門勇)ら社員(中田ダイマル・ラケット、ルーキー新一)、事務員(新藤恵美)は猛反対。会社再建を決意した社長は、日本全国資金繰りの旅へ。

一方、部長はマッサージ機のリースを思いついて、いっそのこと「なんでも貸します」会社へ業態転換。ガラクタリースで商売は再び上向きになる。

テレビ版では長谷百合さん→藤純子さん→東山明美さん→西川ヘレンさんが演じていた事務員の役を、映画版では新藤恵美さんが演じている。なかなか可愛い。

そこへチャッカリ者の若者(藤岡弘)が、祇園祭に一緒にいってくれる女の子をリースして欲しいと飛び込んでくる。新藤恵美さんは仕方なしに京都へ。しかしデートの相手はスケベな男・横山アウトさん。このシークエンスは本編とはあまり関係なく、京都ロケ、祇園祭ロケのためのシーン。

面白いのは、ダイマル・ラケットが会社で寝ていると、深夜、怪しい男・いとし・こいし師匠たちが「日本刀と覆面マスク」を発注してくる。強盗団かと疑うが、彼らはどうやら「大阪独立運動」を企てている連中で、テレビのニュースではそのクーデターが成功。西日本一帯は大阪を中心に、独立したと報じている。アナウンサーは「今日から関西弁が標準語となった」と関西弁でニュースを読む。

この「大阪独立運動」のアナーキーな感じが前田監督らしい。焼け跡派の前田監督は、いつも戦争や地震で、世の中がリセットされればいいという幻想を、映画の中に入れていた。現場への不満をリセットするためのディザスターである。『日本列島震度0』(1973年)もその発想。

新藤恵美さんがミシンで縫ったマスクを被った一団が、秘密結社のごとく大阪城に集結するクーデターを思わせるシーンに、この映画の面白さがある。結局、それは映画の撮影だったというオチなのだけど。

で、藤岡弘さんが就職した会社が、都田物産のビルの階下、アメリカのテキサス・リース社。つまりライバル会社。その社長がビンボー・ダナオさん(淡路恵子さんの元ご主人でフィリピン人歌手)。強敵が現れて戦々恐々となる、都田物産の面々。

南道郎さんの社長(風の男)が、テキサス・リースと都田物産に持ちかけた会社の創業イベントの余興の仕事。テキサス・リースの専務・穂積隆信さんは「水中バレエ」をステージで展開(もちろん、読売ランドの水中バレエ劇場タイアップ)すると豪語。敵愾心を燃やした長門勇さんは、つい「都はるみショー」を開催と大風呂敷。

とはいえ伝がなく、都はるみさんのそっくりさんをテレビ局の前でスカウトして、口パクでインチキ歌謡ショーを企てるが・・・一事が万事、この調子で、こうした短いエピソードを重ねて、物語は進んでいく。

最高なのは、クライマックス。南道郎さんが取り込み詐欺団で、結局、両社のリース品をトラックに積み込んで横流しを企てる。密偵としてソファーに潜り込んだルーキー新一さんの「人間椅子」が一部始終を目撃。

京都は山崎街道のドライブインに、詐欺団がトラックをとめて昼食。そこでなぜか、宮川左近ショーが始まり、南道郎さんは夢中になって、宮川左近師匠の歌謡浪曲を楽しむ。で、ルーキー新一さんが、南道郎さんたちをやっつけるためにあの手この手。食べ物を使ったスラップスティックが延々と展開される。その間、ずっと宮川左近師匠は自慢の喉をたっぷりと披露。およそ5分以上(体感時間で)。

映画としてのまとまりは、ないけど、昭和41年の大阪のお笑い事情が活写されていて、それが嬉しい。ミヤコ蝶々さんの社長の資金繰りシーンは「一方、社長は・・・」のテロップが出て、茶川一郎さん、佐々十郎さんたちが次々と登場。徳島では阿波踊りのかしまし娘、北海道ではアイヌの南都雄二さんが、蝶々さんの相手を務める。

ちなみに若井はんじ・けんじさんは電気工事夫で、ルーキー新一さんと絡む。上方柳次・柳太さんは床屋の主人と客で、長門勇さんと珍妙なやり取りをする。

テレビ版では、体調の関係で「喫茶店のマスター」として準レギュラーだった南都雄二さん。ミヤコ蝶々さんのパートナーでラジオとテレビの公開番組「夫婦善哉」で一世を風靡した「蝶々・雄二」のツーショットが、ほんのわずかだが楽しめる。

よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。