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『踊る不夜城』(1937年・MGM・ロイ・デル・ルース)

 1930年代のMGMミュージカルのメイン・ストリームの”Broadway Melody”シリーズ第三作”Broadway Melody of 1938”『踊る不夜城』(1937年・ロイ・デル・ルース)を久しぶりに堪能。アマプラで配信中のジュネス企画版の字幕入りをスクリーン投影。まだハイティーンのジュディ・ガーランドのパワフルなシャウト、ブロードウェイのレジェンドのソフィー・タッカーの歌声、そしてエレノア・パウエルのエスコート役としてスクリーン初お目見えのジョージ・マーフィの華麗なダンス。芸達者たちのページェントは眺めているだけでウキウキしてくる。

 また、ロバート・テイラーのビジネス仲間のコラムニスト・ダフィ役に、ロバート・ベンチュリー。ユーモリストにしてニューヨーカーの劇評などを執筆、俳優でもあるロバート・ベンチュリーはこの時代のハリウッド映画によく顔を出している。ビング・クロスビーとボブ・ホープの『アラスカ珍道中』(1946年・パラマウント)の前説に登場したり。余談だが『ジョーズ』(1976年・スティーブン・スピルバーグ)の原作者ピーター・ベンチュリーの祖父である。

キー・ヴィジュアル

 主演は前作『踊るブロードウェイ』(1935年)に引き続いて、エレノア・パウエルとロバート・テイラー。さらにバディ・イブセンも独特の味わいのコメディ・リリーフとして映画の笑いを支え、随所でユーモラスなダンスを披露してくれる。

 前作同様、ロバート・テイラーの若き演出家が、新作舞台を成功させるべく、出資者の妻・ビニー・バーンズのモーションをかわしつつ、無名の新人・エレノア・パウエルの才能に惚れ込んで彼女を主役に抜擢。しかしビニー・バーンズの嫉妬から事態はややこしくなり「舞台中止」の危機に…

 といったバックステージものに、この年公開された『マルクス一番乗り』(1937年6月11日・MGM・サム・ウッド)とよく似た「競馬騒動」を絡めて、賑やかな物語が展開する。エレノア・パウエルはダンサー志望でありながら、父が手放した競馬馬を取り戻そうとする。ジョージ・マーフィーもバディ・イブセンも競馬馬の調教、飼育の仕事をしているが、いずれも俳優であり、ダンサー。という無理な設定が納得できてしまうのは、娯楽映画として良くできているから。

 失業中のソニー・レッドフォード(ジョージ・マーフィ)と相棒ピーター・トロット(バディ・イブセン)は、馴染みの床屋の親父ジョージ・パパロパス(ビリー・ギルバート)と甥でオペラ好きのニッキー(チャールズ・イゴール・ゴリン)から20ドルを出させて「800ドルにして見せる」と豪語する。

 冒頭、ニューヨークの床屋のシーン。ウクライナ出身のユダヤ人のバリトン歌手、チャールズ・イゴール・ゴリンが気持ち良さそうに「カルメン 闘牛士の唄」を歌いながら、バディ・イブセンの髭を剃っている。床屋の親父と甥からまんまと20ドルせしめたソニーとピーターは、意気揚々と競馬場へ。

 若き調教師、サリー・リー(エレノア・パウエル)は、家族がかつて所有していた競馬馬スターゲイザーが新しい持ち主の手に渡っても、かつての愛馬が気になって仕方がない。スターゲイザーの現在のオーナーは、アイスクリーム王のハーマン・J・ホイップル(レイモンド・ウォルバーン)と若き妻・キャロライン(ビニー・バーンズ)。ハーマンを演じているレイモンド・ウォルバーンは『踊るアメリカ艦隊』(1936年)でユーモラスな潜水艦の艦長を演じていた。

 ホイップル夫妻は、ブロードウェイの若き演出家、スティーブ・ローリー(ロバート・テイラー)の新作舞台「ブロードウェイメロディー」の出資者でもあった。

 さて、ソニーとピーターの狙った大穴は見事に外れ無一文に、そこでスターゲイザーの調教師として潜り込む。ソニーが馬の世話をしているところに「そんなのじゃダメよ」と現れるサリー。ここでソニーたちとサリーが出会う。怪我をしたスターゲイザーはニューヨークで治療して競売にかけられることに。

 ホイップル夫妻との打ち合わせで競馬場に来ていたスティーブは、帰りの汽車で、"Follow in My Footsteps"(作詞・アーサー・フリード 作曲・ナシオ・ハーブ・ブラウン) を唄って踊るサリー、ソニー、スティーブを見て「これはいける」と声をかける。この"Follow in My Footsteps" は、かつてヴォードヴィル芸人だったという設定のジョージ・マーフィーとバディ・イブセンのデュエットダンスに、エレノア・パウエルが加わっての三人の華麗なステップが楽しめる。

 そこで、スティーブはサリーを見染める。夜半に汽車のサロンでピアノに座ってオリジナル曲を書いている。そこへサリーがやってきて、二人が心を通わせ、曲が仕上がる。"Yours and Mine" をデュエットする二人。ロマンチックなシーンである。

ジュディ・ガーランド

 ニューヨーク。スティーブの事務所には、舞台出演希望者が殺到。マネージャー(バーネット・パーカー)は対応に追われている。そこへ、引退したブロードウェイのレジェンド歌手・アリス・クレイトン(ソフィー・タッカー)がティーンの娘・ベティ(ジュディ・ガーランド)のオーディションにやってくる。

「忙しいから」と断られても、アリスは「ここで唄うから聞いて」とベティに唄わせる。天才少女ジュディ・ガーランドは、1929年に二人の姉と共にガム・シスターズとしてデビュー。ディアナ・タービンと共演した短編『アメリカーナの少女』(1935年)での「オペラ対ジャズ」でのスィンギーな歌唱が評価されて、1935年にMGMと契約。ダービンはユニバーサルへ。ジュディはすぐにFOXへ貸し出されて"Pigskin Parade"に出演。ようやくMGMの本編に抜擢されたのが『踊る不夜城』だった。

 ベテランのソフィー・タッカーの娘役は、観客に天才少女の印象付けるため。ロリポップキャンディー手にしていたあどけない少女が、歌い出した途端、その上手さとパワーに圧倒される。この"Everybody Sing" のジュディはまさにシャウト!ショウ・ストッパーである。フリードとハーブ・ブラウンコンビによる"Everybody Sing" は、曲の構成が「雨に唄えば」とよく似ている。途中、前作の”sing before breakfirst''のフレーズが入ったり、楽しいナンバーで、ソフィー・タッカー、バーネット・パーカー、周りの人々もコーラスの大合唱。ジュディ・ガーランドお目見えに相応しい名シーンとなった。

 ベティの母・アリスは、売れない芸人ばかり集まっている下宿屋をやっていて、サリーもスティーブのエスコートで世話になることに。二人は恋人同士だが、リハーサルやステージではプロに徹することを約束する。

 さて、怪我をした駄馬は持っていても仕方ないと、スターゲイザーは競売にかけられてしまう。サリーはそれが切なくて、ついつい1250ドルもの高値で競り落としてしまう。支払うあてもないのに。そこでスティーブは、ホイップル氏に前借りしてお金を工面するが、自分からとは言い出せずにソニーに「君から渡してくれ」と頼む。

 ソニーもサリーを愛しているので、ややこしくなるところだけど、そこは娯楽映画。ソニーは万事飲み込んで、スティーブの気持ちを汲む。セントラルパークで、そのお金をサリーに渡す場面での"I'm Feeling Like a Million" のナンバーは、本作のハイライト。エレノア・パウエルとジョージ・マーフィーのデュエット・タップはまさに至福。途中で雨が降ってきて、土砂降りとなる。フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの「ラブリー・デイ」を意識して、公園の円形休憩所で踊り、雨の中へ飛び出す二人。水たまりに飛び込み、ジャバジャバ踊る。のちのジーン・ケリーの『雨に唄えば』(1952年)のように、雨や水たまりを生かしたダイナミックなナンバーとなっている。

 さて、芸人ばかりの下宿では、前作『踊るブロードウェイ』「イビキの専門家」として登場した大学教授芸人、ザ・スニーザー(ロバート・ワイルドハック)が、再登場。今回は様々なクシャミのパターンを分類解説。まさに「くしゃみ講釈」である。

「いとしのゲイブルさん」のイメージショット

 その下宿の一室では、ベッドでベティが、クラーク・ゲイブルから届いたサイン入りポートレートを嬉しそうに眺めている。しかしステージママのアリスは、無情にも「早く寝なさい」と写真を破ってしまう。悲しみにくれるベティは、アリスが出て行った後、ゲイブルへのファンレターを書く。『ザッツ・エンターテイメント』でも紹介された「いとしのゲイブルさん」"You Made Me Love You (I Didn't Want to Do It)" (1913) である。

 作曲はジェームズ・V・モナコ、原曲の作詞はジョセフ・マッカーシーを、ロジャー・イーデンスが「いとしのゲイブルさん」として替詞。のちにアーサー・フリードを支えてMGMミュージカルのプロデューサーとなるロジャー・イーデンスはジュディ・ガーランドを育てた音楽家である。本作では、前作に引き続き編曲を担当。ジュディの魅力を観客にプレゼンするために、このシーンをクリエイトした。

 さて、スターゲイザーを手に入れたサリーは、ソニー、ピーターと調教に余念がない。障害レースで優勝したら大金が入ると、床屋のジョージとニッキーもオーナーに。しかし肝心のスターゲイザーは、思うように走ってくれない。ところが、スティーブの新作舞台に甥のニッキーをどうしても出させたいジョージが、ニッキーに「フィガロの結婚」を唄わせると、元気100倍。猛烈な勢いで走り出す。

 好事魔多し。スティーブが新作「ブロードウェイ・メロディ」の主役を無名の新人サリーに演じさせることに、嫉妬から腹を立てたホイップル夫人・キャロライン。夫をそそのかして、舞台への出資を中止してしまう。スティーブは金策に走るも、うまくいかない。さあ、どうする?

 というところで、スターゲイザーが障害レースで優勝すれば、その賞金でショーの幕を開くことができる。果たして、スターゲイザーは、優勝することが出来るのか?

 ピーターが騎手となりレース開始。しかし、スターゲイザーは走ってくれない。そこでニッキーは、スターゲイザーの側に駆け寄って「フィガロの結婚」を唄い始める。まさに『マルクス一番乗り』のリフレインである。観客には、その顛末は容易に想像できるが、そのミラクルがあってこその、クライマックスである。

 いよいよ「ブロードウェイ・メロディ」の、幕が開く。階段の上に白い摩天楼。センターにはドレスを着たエレノア・パウエルとブラック・タキシードのジョージ・マーフィー。

 曲は"Your Broadway and My Broadway" (1937) 。完全にフレッド・アステア&ジンジャー・ロジャースのスタイルで、エレガントに踊る二人。MGMは、この二人を第二のアステア&ロジャースとして売り出そうとしていたのがよくわかる。

 続いて、長身のバディ・イブセンがステージの袖からタップを踏みながら現れる。長い手足を持て余している感じがおかしい。そこに小さい白い高級車に乗ってきた小柄のジュディ・ガーランドが現れ、彼女をエスコートしてコミカルなデュエットダンスを展開する。

 やがて、ソフィー・タッカーがステージの階段の上に立ち、ブロードウェイのレジェンドとして。”Broadway and MyBroadway" (1937)のヴァースを、自分とブロードウェイの歴史を語りながら歌い出す。フローレンツ・ジーグフェルド、ジョージ・M・コーハン、チャーリー・チャップリン、リリアン・ラッセル、マリリン・ミラーが登場した頃の思い出語りを、ゆっくりと唄い上げる。マンハッタンの摩天楼をイメージしたゴージャスなセットに白いタキシード姿のコーラスがズラリソフィー・タッカーをエスコートしながら唄うのは、トップハットにブラック・タキシードのチャールズ・イゴール・ゴリン。

 ソフィー・タッカーが唄い上げたところで、ブラック・タキシードのエレノア・パウエル、ジョージ・マーフィー、バディ・イブセンがステージ奥から登場。"Follow in My Footsteps" (1937) を三人でリプライズする。階段を降りながら、ズラリとブラック・タキシードのダンサーたちが三人と一緒にタップを踏む。これもフレッド・アステアの『トップハット』(1935年)をイメージしたヴィジュアルである。ロングショットで、センターで踊るエレノア・パウエルの後ろの白い摩天楼のセットが立ち上がる。こうしてエレノア・パウエルのソロとなる。

そ のまま、おまちかねの"Broadway Rhythm" (1935) のスペクタクル・ナンバー。エレノア・パウエルのソロ・タップをたっぷり。バックのタキシード姿のダンサーもそれぞれ見事なダンステクニックを披露。ナンバーのクライマックスに、新曲"Got a Pair of New Shoes" (1937)となり、彼女のアクロバティックなダンスが観客を圧倒させる。

 やがて"Broadway Rhythm" のリプライズいよいよ全員ラインナップ。ロバート・テイラーとエレノア・パウエルの間には、名馬スターゲイザーも! 全員のコーラスで、エンドクレジットとなる。

【ミュージカル・ナンバー】

作詞:アーサー・フリード 作曲:ナシオ・ハーブ・ブラウン

♪ブロードウェイ・メロディ ”Broadway Melody" (1929) 

*オープニングクレジット

♪君こそ輝く幸運の星 "You Are My Lucky Star" (1935) 

*オープニングクレジット

♪フォロー・イン・マイ・フットステップ "Follow in My Footsteps" (1937) 

*唄・ダンス:ジョージ・マーフィ、バディ・イブセン、エレノア・パウエル(吹替・マージョリー・レイン)

♪君と僕 "Yours and Mine" (1937) 

*唄:エレノア・パウエル(吹替・マージョリー・レイン)
*ダンス:エレノア・パウエル、ジョージ・マーフィ
*ダンス:ジュディ・ガーランド、バディ・イブセン

♪エブリバディ・シング "Everybody Sing" (1937) 

*唄:ジュディ・ガーランド、ソフィー・タッカー、バーネット・パーカー、コーラス

♪百万長者になった気分 "I'm Feeling Like a Million" (1937) 

*唄・ダンス:ジョージ・マーフィ、エレノア・パウエル(吹替・マージョリー・レイン)
*ジュディ・ガーランドも録音したが、映画ではカットされた。

♪君と僕のブロードウェイ "Your Broadway and My Broadway" (1937) 

*唄:ソフィー・タッカー、チャールズ・イゴール・ゴリン
*ダンス:ジョージ・マーフィ、エレノア・パウエル、バディ・イブセン、ジュディ・ガーランド
*ジュディ・ガーランドもソロで録音したが、映画ではカットされた。

♪ブロードウェイ・リズム "Broadway Rhythm" (1935)  

*唄・ダンス:エレノア・パウエル

♪新しい靴を手に入れよう!"Got a Pair of New Shoes" (1937)

*唄・ダンス:エレノア・パウエル、コーラス(フィナーレ)

♪サン・シャワーズ "Sun Showers" (1937)

*チャールズ・イゴール・ゴリンが録音したが、映画ではカットされた。

【そのほかの楽曲】
♪闘牛士の唄 "The Toreador Song" (1875)「カルメン」より

作曲:ジョルジュ・ビゼー
*唄: チャールズ・イゴール・ゴリン

♪サム・オブ・ゾーズ・ディズ"Some of These Days" (1910) 

作詞・作曲:シェルトン・ブルックス
*唄:ソフィー・タッカー

♪フィガロの結婚"Largo al factotum" (1816) 「セビリアの理髪師」より

作曲:ジョアキーノ・ロッシーニ
*唄:チャールズ・イゴール・ゴリン

♪いとしのゲイブルさん

"You Made Me Love You (I Didn't Want to Do It)" (1913) 

作曲:ジェームズ・V・モナコ 作詞:ジョセフ・マッカーシー 替詞:ロジャー・イーデンス
*唄:ジュディ・ガーランド


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