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『魔像』(1952年5月1日・松竹京都・大曽根辰夫)

 娯楽映画研究所シアター第二部時代劇祭(笑)で、阪東妻三郎主演『魔像』(1952年5月1日・松竹京都・大曽根辰夫)をアマプラでスクリーン投影。マスターが正規品ではなくPDのボケボケプリントだったけど、晩年とはいえさすが阪妻。たっぷりと楽しませてくれる。

 原作は林不忘「新版・大岡政談 魔像篇」。大岡越前の名捌きの一つ「魔像」の映画化。戦前から大河内傳次郎(1930年・日活)、阪妻(1938年・日活)、大友柳太朗(1956年・東映)、市川右太衛門(1960年・東映)と繰り返し映画化されてきた。

 阪妻としても二度目となる本作は、明朗痛快時代劇というよりも、阪妻のマスターピース『雄呂血』(1925年)のリフレインというか、狂気の再現にシフトしていて、それが作品の面白さになっている。それプラス『決闘高田馬場』(1932年)の中山安兵衛の豪快さを、阪妻二役で見せてくれるので、阪妻映画二本立ての魅力がある。

 千代田城御蔵番に勤める神尾喬之助(阪妻)は、上役、同僚たちからいじめられる日々。どんな恥辱にも耐えていたのは、美人の妻・園絵(津島恵子)の励ましあればこそ。しかし、ある年の元旦、遅刻をしてしまい、組与頭・戸部近江介(永田光男)たちから年賀の礼を欠いたと詰め寄られる。近江介は、園絵に懸想していて、さらには悪徳商人と結託して私服をこやしていた。それが許せない喬之助は、殿中でついに近江介に刃を向けて逃走。

 ここからは『雄呂血』同様、喬之助は妻と別れて、逃亡者となる。そして狂気の復讐鬼となり、関係者の生命を狙うことになる。で、面白いのは、この喬之助そっくりの、喧嘩屋右近こと茨右近(阪妻)が登場。恋女房・お絃(山田五十鈴)と二人、逃亡中の喬之助を匿い、園絵と再会をさせてくれる。

 神尾喬之助が「陰」とするなら、喧嘩屋右近は「陽」。阪妻のフィルムキャリアで演じてきた二つのタイプのキャラクターが、二役で登場するのが楽しい。特に山田五十鈴のコミカルな演技が楽しくて、戦前のモダンな時代劇を観ているような気分になる。

 喬之助から汚職の実態を聞いた右近が、御蔵番一味十七名に天誅を加える計画に賛同してサポートをする。その復讐シーンは『雄呂血』「大菩薩峠」のように不気味で、怪奇色も豊か。一方の右近のチャンバラは豪快で楽しい。

 そんな二人のトリックに、大岡越前守(柳永二郎)がどういう裁きをするのか。二人をサポートする岡っ引き、壁辰(香川良介)と金山寺屋音松(小林重四郎)のキャラクターもいい。


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