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『野良猫ロック セックス・ハンター』(1970年・長谷部安春)

 「野良猫ロック」の最高傑作は何か? 意見が分かれるところであるが、長谷部安春監督による第三作『野良猫ロック セックス・ハンター』(9月1日)が、シリーズの中でも際立っていることは間違いない。梶芽衣子の名台詞「バッキャロー!」は本作で登場。冒頭、中年のオジさんをカツアゲる不良少女グループのリーダー、マコを演じた梶芽衣子のスタイル! つば広の帽子にマキシ、ファッショナブルな梶芽衣子の美しさが輝いている。藤田敏八監督による前作『野良猫ロック ワイルドジャンボ』(8月1日)では、ナチュラルな女の子だったが、今回は堂々たるヒロインぶり。このシリーズが女の子のものであることを再認識させてくれる。

 今回の舞台は、基地の町・立川。藤竜也扮するダンディなバロンが率いるイーグルスと、マコたちの不良少女グループたちが、イーグルスによる「ハーフ狩り」によって対立していく様を描いている。スタイリッシュなバロンは、藤竜也が「野良猫ロック」シリーズで演じたキャラクターの中でも、群を抜いている。黄色いレイバンに、マオカラーのジャケット(藤竜也によると、実は小林旭の衣裳の流用だとか!)を着て、いつも洋書を携えている。

 仲間たちとのケンカで、倒れているマコの前に、幼いときに妹と生き別れになったハーフの数馬(安岡力也)が現れる。この出会いのシーンが素晴らしい。主題歌「禁じられた一夜」を歌う数馬。この「禁じられた一夜」は、なかにし礼作詞、鈴木邦彦作曲による名曲。この唄が、マコと数馬の心を通わせるリリカルな名場面となった。

 脚本は、鈴木清順門下でもあり、作家集団・具流八郎にも参加していた大和屋竺。もとは、1969年からスタートした「夜の最前線」シリーズとして企画され、長谷部監督所蔵の初稿台本には『夜の最前線 人間狩り』というショッキングなタイトルが付けられている。ともあれ「人間狩り」「ハーフ狩り」というテーマは、大和屋脚本の段階からあるもので、基地の街・立川を舞台に選んだのは、長谷部監督だという。1969年の傑作『野獣を消せ』で、藤竜也率いる暴走集団が、渡哲也と戦ったのも米軍基地のある街だった。本作のバロンは、『野獣を消せ』で藤竜也が演じた狂気を秘めた無軌道なリーダーの延長にある。

 そのバロンのトラウマの原点が、基地の街で姉が米兵に強姦されるという事件。それが原因となり性的不能に陥っている。彼は「血の純潔」を求め、セックスを否定し、自分の配下たちに「ハーフ狩り」を命じる。その狂気。相棒的存在の進(岡崎二朗)たちが、ハーフの一郎(城あきら)の股間に、割れたコーラの瓶を突き立てるショッキングなカット。ジープを疾駆させ「ハーフ狩り」に興じる姿を、イギリスのフォックスハンティングに見立てるバロン。

 数馬の妹探しを手伝うマコと、バロンと数馬の三角関係の微妙な均衡は、やがてマコとバロンの決定的な対立の構図へと発展していく。そのきっかけとなるのが、外国人へ女の子を売り飛ばすために企画したパーティ。人身売買をあっせんする男たちの卑しさ。タブーともいうべき状況が次々と提示され、それがバロンの狂気と孤独を際立たせて行く。

 全編を貫くさまざまな「血」の問題は、数馬の妹・メグミとの対峙と、悲劇的な結末へと発展する。エスカレートするバロンに、自らイーグルスを降りると宣言する進。かつての相棒を見限った進に対するバロンが下した裁定は? ジープをスタートさせたバロンが、進の一言で、振り向き様に銃をかまえる。このシーン、当初、進の台詞は違うものだった。撮影が終わり、ラッシュを観た長谷部監督が「物足りない」と、思いつき、アフレコで入れたものだという。この進の台詞で、『野良猫ロック セックス・ハンター』を貫く「血」の問題が、さらに強いメッセージを伴うことになる。

 クライマックス。基地の監視塔に立てこもった数馬とマコ。満身創痍の二人が、バロンとの戦いを前に、「禁じられた一夜」をデュエットする。マコが女の子としての気持ちを告白するシーンの切なさ。安岡力也は、長谷部監督が『あしたのジョー』(1970年)を撮ると聞いて、自ら力石徹役を売り込むが、結局実現をみなかった。そこで長谷部は、大和屋に『セックス・ハンター』に安岡を出演させることを先に伝え、数馬というキャラクターを作ったという。この静かで切ないシーンは「野良猫ロック」シリーズのなかでも最高の名場面。

 そしてバロンの台詞通り、西部劇の「砦の戦い」を思わせる壮絶なアクション! その後に訪れる苦いラスト。悲劇の連鎖に終止符が打たれる瞬間。本作はシリーズ屈指の傑作となった。

 音楽シーンは、当時人気絶頂のガールポップ・グループ、ゴールデンハーフが出演。「恋人がほしいの」と、浜口庫之助作詞作曲のリバイバルヒット「黄色いサクランボ」をキュートに歌う。しかも初期メンバー、石山エリが参加していた5人組の頃の映像!

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