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『たそがれの東京タワー』(1959年2月18日・大映東京・阿部毅)

 大映歌謡映画『たそがれの東京タワー』(1959年2月18日・大映東京・阿部毅)『宇宙人東京に現わる』Blu-rayに同梱されているDVDで観た。

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 フランク永井さんの「たそがれのテレビ塔」(1958年11月発売・作詞・吉川静夫 作曲・豊田一雄)をモチーフに、星川清司さんが脚本によるロマンチックなメロドラマ。当時の若い女性は感涙しただろう。

 ヒロインの仁木多鶴子さんは、孤児院育ちの19歳。銀座の洋品店のマダム・三宅邦子さんの世話になり、住み込みで働いている。マダムのパトロンがやってきたので、急に翌日まで店はお休みになる。先輩たちが、いそいそと支度して、映画やランデブーに出かける。けれど仁木さんは、恋人もいないし、外に出かける洋服もなし。田舎の養護施設に入っているおばあちゃんに手紙を書いて、なけなしのお給金からお小遣いを送るのが関の山。

鏡の自分に話しかけると、もう一人の積極的な自分にけしかけられて、おめかしして夜の冒険に出かけることに。誰もいなくなった夜、店のドレスを着て、おしゃれをして銀座の街角に出るが、寂しくて虚しい。ふと目をやると、美しい虹彩を放っている光の塔が見える。そこで彼女は、黄昏の東京タワーへ。

昭和33(1958)年竣工なった全長333メートルの東京タワーは、戦後復興の象徴として、完成以来、日本が誇る新名物となっていた。まだ、モスラやキングギドラが破壊する前、大映特撮部門を率いていた築地米三郎さんによる、ミニチュアの東京タワー、展望台の外景が、晴れがましい。

 展望台で自動車整備工をしていると自称する青年・小林勝彦さんと出会い、恋に落ちる。ランデブーを重ねるが、二人とも相手に自分の境遇について「嘘」をついてしまって…

 好きな男性についた「嘘」、店のドレスを持ち出していることへの「罪悪感」。不幸な身の上の彼女は一人で悩み、苦しむ。鏡のなかのもう一人の自分は、その「嘘」をつくことを正当化しようとする。その、アルターエゴ、葛藤が、観客のヒロインへの共感をもたらす。これがなかなかいい。

 小林勝彦さんには、幼馴染で親の決めた婚約者・金田一敦子さんがいて、彼女の嫉妬がささやかな「悪意」となる。その意地悪は、婚約者を奪われたくない一心の乙女心なのだが…

 ラストに、見明凡太郎さんと金田一敦子さんによって、この御伽噺がハッピーエンドになる。「悪意」が「善意」となり「嘘」が「真」になる。クライマックスの夜の東京タワーのシークエンスは、見明凡太郎さん史上、最も素晴らしい場面かもしれない^_^

ストレートなシンデレラ・ストーリーだが、星川さんの脚本がなかなか良い。仁木多鶴子さん、貧しい境遇の現実と、お嬢さんのフリをする姿と、暗い顔と華やかな表情を見せてくれる。

 市田ひろみさんが先輩のお針子。その恋人に藤山浩二さん。大映映画を観ている気分を味わえる。アベレージのプログラムピクチャーで、東京タワーはロケと、築地米三郎さんによるミニチュア撮影も楽しい。丸の内、神宮外苑前などの東京風景も楽しめる。


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