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太陽にほえろ! 1973・第64話 「子供の宝・大人の夢」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第64話 「子供の宝・大人の夢」(1973.10.5  脚本・小川英 監督・竹林進)

永井久美(青木英美)
梅田政夫社長(千秋実)
高木達郎専務(福岡正剛)
一郎の母(菅原チネ子)
浮浪者(大口寛)
梅田玩具社員(八代るみ子)
一郎(松田洋治)
梅田玩具社員(門脇三郎)
梅田玩具社員(由起卓也)
梅田玩具社員(勝部義夫)
債権者(草間璋夫)
新聞記者(石川隆昭)
金子富士雄
新聞記者(林寛一)
西山署長(平田昭彦)
牧村誠一郎(武藤英司)

予告篇の小林恭治さんのナレーション。
「玩具を愛し、玩具に惚れて、少年少女に宝を配る。そんな男の夢を壊す、黒く汚れた影の工作。子供まで巻き込む、見境なき犯行に煮えたぎる、藤堂の怒り。仕掛けられた罠に、仕掛ける罠。そして友を失い、友に裏切られた悲しみが、今、込み上げてくる。次回「太陽にほえろ!」「子供の宝・大人の夢」にご期待ください」

 今回はボス回。石原裕次郎さんとゲストの千秋実さんの演技が堪能できる。千秋実さんが玩具会社の社長で、物語の展開も含めてよく似ている映画がある。川内康範脚本、渡辺邦男監督、森繁久彌主演『おしゃべり社長』(1957年)。森繁のペーソス溢れる人情喜劇で「社長」とはタイトルにあるものの「社長シリーズ」ではない。「おしゃべり社長」でも欠陥玩具が子供を傷つけて、会社がピンチになる。

 また裕次郎映画で、玩具メーカーを舞台にした『堂堂たる人生』(1961年・牛原陽一)のテイストも本作にはある。

 千秋実さんは、石原プロモーション制作の時代劇『城取り』(1965年・舛田利雄)では裕次郎さんの無二の親友を演じている。

 団地の近くの公園で一郎(松田洋治)が友達と遊んでいる。玩具を触った手で目に触る。「痛い、ママ痛いよ」と泣き出す。木陰からじっと見ている男の足。一郎の母(菅原チネ子)が駆け寄る。「どうしたのよ?」泣きじゃくる一郎。一郎くんを演じているのは幼き日の松田洋治さん!

 救急車。飯野病院に搬送される一郎。「痛いよママ」「一郎ちゃんしっかりして!ママここにいますからね」ストレッチャーの一郎に声をかける母。

 新聞の輪転機が廻る。「子供の夢奪う 欠陥梅田玩具!」「有毒塗料で 被害児続出!」「衛生局、梅田玩具を立ち入り検査!」「一郎君 両眼失明の恐れ!」

 梅田玩具。ゴリさんと山さんが到着。「ここか、子供を傷つける玩具なんか作りやがって!」とゴリさん。「こんな会社、一刻も早く潰れた方がいいんだよ。ね、山さん」とゴリさん、鼻息が荒い。社内、社員総出でクレーム対応をしている。

 オフィスの片隅の応接セットで、梅田社長(千秋実)と高木専務(福岡正剛)が山さんとゴリさんの事情聴取に対応している。「つまり、梅田さん。お宅の商品には絶対に不良品がないとおっしゃるのですか?」。梅田は、玩具作りを始めて二十年になるが、安全性について最新の注意を払ってきていると答える。職人のプライドを感じさせる。「その点については業界随一と自信を持っています」と高木専務。ゴリさんは「現に大勢の子供達が、お宅の作った玩具で被害を受けているじゃないですか?」と責めるように畳み掛ける。

 しかし山さんには思うところがあるようだ。梅田は「わかりません。一体なぜこんなことが起きたのか?」その表情には誠実な人間の戸惑いが感じられる。高木専務も、工場を徹底的に調査しても、有毒物質が紛れ混む可能性は全くないと、不思議がっている。しかしゴリさん「調査と称して証拠隠滅をしたんじゃないでしょうね?」と懐疑的である。「刑事さん!あんたなんてことを」と声を荒げる高木専務。

 しかし梅田社長は「残念だが、今の我々にはどんな疑いをかけられても、それを否定する根拠はないんだ」。ここで山さんが重い口を開ける。「当面、どんな対策を?」。梅田社長は、当面の間、問題の製品と同種のものを全て回収するとキッパリ。高木専務、慌てて社長に、そんなことをしたら会社の経営が危機に陥ると、静止しようとするが、梅田社長は「こんなことで会社は潰れないさ。潰してたまるもんか!」と、自分に言い聞かせるように言う。このあたり『おしゃべり社長』の千秋実社長と、その代理を勤めた森繁社長とかなりイメージが重なる。そういえば裕次郎さんの映画でも、蔵前の小さな玩具メーカーが舞台の『堂堂たる人生』(1961年)という作品がある。「子供の夢を与える玩具メーカー」の矜持に、相通じるものがある。

 団地で、手に包帯を巻いている子供の保護者の話を聞くゴリさん。梅田玩具の製品で、急に手がかぶれてしまったという。殿下は、幼稚園の先生から三人の園児が被害にあった話を聞いている。斉藤医院の前、長さんが口がかぶれた男の子の母親から「こんな悪質な業者はどんどん取り締まって頂きたい」と懇願されている。

 一郎の病室。ジーパンが見舞いにやってくる。「もうじき見えるようになるからな」と励ます。枕元のロボットの玩具を「すごいの持ってんだな」と褒めるジーパン。しかし一郎は目が見えないのに、ロボットのスイッチを入れて動かした後に、ベッドに下に放り投げてしまう。壊れる玩具。傷ついた子供の気持ちに触れたジーパン。「ぼく、このロボット元通りに、直してやるからな、目が治ったら、また遊んでやるんだぞ」。

 そこへ梅田玩具の高木専務が見舞いにやってくる。一郎の母は、厳しい眼差しを向ける。見舞いの包みをベッドにおいて「一郎君、元気?」。しかし母は「お引き取りください。こんなもの要りません」と追い返そうとする。「あんな玩具を売っておいて、今更何よ! 見舞いなんかに来ないでいいから、一郎の目を返して!」泣き崩れる母。ジーパンも「梅田玩具の人なら帰ったほうがいい。俺につまみ出されないうちにな」と冷たい眼差し。

 病院を追い出され、仕方なく、小田急線の線路脇を歩いて、去っていく高木専務。その後ろから、一郎が目に異常を訴えた時に木陰にいた男の足がそっとつけていく。

 一係。ジーパンが懸命に一郎のロボットの玩具をようやく直しおえる。久美は無邪気に「あたしにやらせて!」。しかしジーパン、怖い顔で「手を出すな」。動き出すロボット。そこへゴリさんと山さんが帰ってきて、呆れ顔。「幼稚園じゃないんだぞ、ここは警察だぞ」。久美が事情を説明してゴリさんようやく納得。山さん「一郎君の具合は?」。ジーパン「手術するそうです」。しかし視力が回復する確率は50%。山さんもゴリさんも言葉を失う。そこへボスが入ってくる。「目をやられた子がまた出た」。被害者はこれで18人目である。

「こんなことは許すわけにはいかん。たとえ過失であってもな」とボス。

 神社の境内で、高木専務の遺体が発見される。一郎の見舞いの帰りのままの姿で。遺体の内ポケットには遺書が入っていた。「大変申し訳ないことをしました。心からお詫びします」。最後に高木専務に会ったジーパンがその時のことをボスに話す。「ただ俺と、子供の母親が冷たく追い返したんですが、まさかそれで自殺を?」。ゴリさんは、警察の追求が始まって「もう逃げられない」と覚悟を決めたか、梅田社長に因果を含められたか、と分析。山さんは前日の様子を、自殺しそうな素振りがあったかどうかはともかく「この騒ぎで消耗していたのは確かですね」

「覚悟の自殺だとすれば、梅田玩具は重大な過失、もしくは手抜きがあったことになる。梅田社長がどう抗弁してもな」とボス。

 そこへ梅田社長がタクシーで駆けつけてくる。高木専務の変わり果てた姿を見て「誰が一体こんなことを?」「彼は自殺をするような男じゃない。どんな苦しい時でも投げ出すような男じゃない」。20年間苦楽をともにしてきた梅田社長は、確信をしているようだ。その姿をじっと見つめるボス。

 梅田玩具。ボスが来ている。経営危機にあっても、取引業者に対して誠実に支払いの対応をしている梅田社長の姿を見ている。そこへ社員が「社長、倉庫は返品の山です。これ以上続くと、今月の売り上げはゼロになります」。他の社員は、脅しや嫌がらせがひっきりなしで、仕事にならないと社長に告げる。「それに誠実に応えるのが、今の君らの仕事だ。君たちの子供たちがこんなめにあった時のことを考えてごらんなさい」。そこへ社員(勝部義夫)が「製品の回収を続けようにも、もう資金が底をつきました」。梅田社長は銀行から融資された「新工場の建設資金」を充当するように命じる。「とにかく今は、これ以上、被害を出さないようにするだけだ。それには全製品を回収するしかないんだ!」。

 ようやく、梅田社長、応接セットのボスに「どうも、たびたび中座しまして」と謝罪する。ボスは梅田社長にタバコに火をつけてあげる。ベテラン俳優に対する裕次郎さんのリスペクトでもあり、誠実な梅田社長に対するシンパシーをボスが感じていることがわかるさりげないショット出ある。ボス「高木専務もあなたと同じ気持ちで会社の経営を?」「ええ」と梅田社長。専務は工場の生産管理、製品の安全性の確保に細心の注意を払っていたという。「それなのにどうして・・・金や品物を時間をかけて努力すれば、また作れます。しかし、人間だけは、取り返しがつきません」。悔やんでも悔やみきれない梅田社長の悲痛。「高木君も、傷ついた子供たちも・・・」

 ボスは梅田社長に、誰かに恨まれていることはないかと聞く。心当たりはないと梅田社長。「私が人の恨みを買うような仕事の仕方をしていたら、きっとこの10倍の会社に成長していたでしょう。私は儲けることなんてどうでも良かった。ただ一生、子供の夢を作って生きて行ければ、それで満足なんです」。この梅田社長の経営理念、裕次郎さんの『堂堂たる人生』(池田一朗脚本)での老田玩具KK社長(宇野重吉)と同じ。この映画での裕次郎さんは、意気に感じて、玩具開発に専念する役を演じていた。

 ボスが帰った後、女子社員(八代るみ子)が夕刊を梅田社長に見せる。欠陥玩具が原因で専務が自殺したと、梅田玩具にとっては致命的な報道である。

 一係。ボスは梅田社長と高木専務の工場管理にミスがあったとは思えない、と話す。「まして利益を上げるためにいい加減な塗料を使うとは考えられない」。しかも鑑識の結果、梅田玩具の製品からは有毒塗料が検出されていない。誰か会社に悪意を持ったものが、問屋か小売店で有毒塗料を塗ったのではないか? 透明の液体ならそれは可能だ。しかし高木専務の遺書は筆跡鑑定で、本人だと出ている。ボスは「その書き付けには、死ぬとは一言も書いていなかったぞ!」と指摘する。ジーパンも「そうか、有毒玩具の被害者に見せるといえば、誰でも詫び状を書かせることができる」と気づく。

 犯人の狙いは一体何か? ボスは梅田社長の人柄を信じるすることから、全てを洗い直そうとする。業界Bクラスの梅田玩具に、そんな危険なことを起こすメリットはあるのか? そこへ鑑識から電話で、高木専務の死亡推定時刻から「偽装殺人」であることが明らかになったのだ。死亡推定時刻に、犬の散歩をした人によれば、その時間には死体がまだなかったという。

 ここで一係の捜査方針が、梅田玩具がシロであるという方向に大きくシフトする。「太陽にほえろ!」における、こうした「何が正しいのか」のモラルに、小学生である僕らは、かなり影響を受けた。ただし、ボスは新聞には「高木の死は自殺と断定。捜査は打ち切りと発表しろ」と指示を出す。こうした情報操作、考えてみたら「刑事ドラマ」では、かなりの頻度で行われているね。

ボスの狙いは犯人を油断させて、次の動きを引き出そうというもの。「相手は無差別に子供を犠牲にするような奴だ。どんな手を使っても構わんぞ」。

 病院、一郎の手術が終わる。心配そうな母親。直したロボットを持って、病院に駆けつけるジーパン。廊下で泣いている母親。「手術、うまくいかなかったんですか?」とジーパン。難しい手術だけど、医師はもう一回やってみると言ったと母親。「でももう、諦めたほうがいいのでは?」と弱気になっている母親にジーパンは「諦めちゃダメですよ。こいつだって待っているですよ」とロボットを見せ、お母さんを励ます。

 例の茶色のスーツに黒い靴の男。電話ボックスから梅田玩具に電話する。「社長さん、あんた少しは反省しているのかね。こんなに世間を騒がしてどう思っているのかね?」。男は「責任は取らないのかね? あんたが取らないのなら、そこの社員に取ってもらうよ。社員たちが可愛かったら、これだけは伝えておけよ。いつまでも会社にいたら、どんな目に会うかわからないよ、と」不気味に笑いながら電話は切られる。

 梅田玩具の女子社員(八代るみ子)が社用で郵便局に向かう。その後をつける茶色のスーツに黒い靴の男。その帰り道、横断歩道で信号を待つ女子社員の背中を茶色のスーツの男がドン、と押す。倒れた彼女は車に轢かれてしまう。

 救急病院。梅田社長がボスに脅迫電話の話をする。現場検証の警官によれば、彼女は「全く突然に」路上に飛び出したという。ボスも殿下も不審に思う。その夜、梅田玩具の社員(門脇三郎)が歩いていると、工事現場から落下物が! ことなきを得るが、現場から誰かが立ち去った足音を聞く。度重なる社員へのアクシデントに憔悴しきる梅田社長。女子社員は全治1ヶ月で幸い命は取り留めた。ボスは「運び込まれた時に、彼女も言っていたそうです。後ろから誰かに突き飛ばされたと」。犯人は梅田社長を苦しめるのが目的のようだ。「とすれば、必ずもう一度電話がかかってくる。そいつを待つんです」とボス。

 梅田玩具の電話には逆探知装置が設置され、山さんが常駐することに。その様子を、向かいのビルの屋上から双眼鏡で伺っている茶色のスーツの男。やがて男から電話がかかってくる。「今日の午後四時、あけぼの公園に現金で500万円もってこい」。男の目的はやはり金だったのだ。山さんは梅田社長に「私たちの指示に従ってくれますか?」「はい」。大きな信頼関係がすでに生まれている。「お金は用意する必要はありません」と山さん。ボスの作戦が始まる。

 あけぼの公園には長さんと山さんが張り込み、後のものは待機することに。反発するゴリさんたちに、今、こちらの手の内を明かすわけにはいかない。「これは本当の敵の狙いではないからだ」とボス。

 あけぼの公園。指定の時刻に、梅田がやってくる。そこへ「梅田さんかい?」と浮浪者が現金を受け取りにくる。長さんが浮浪者を取り押さえる。山さんが「誰に頼まれた?いえ!」と厳しく迫る。浮浪者は千円をもらって頼まれただけだった。「どこにいるんだそいつは!」。パチンコ屋で、誰かに頼まれた若い男から依頼されたという。用意周到、用心深い犯人である。その様子を、近くのビルの屋上から双眼鏡で見ている茶色のスーツの男。ボスたちが撤収すると静かにその場を立ち去る。

 京王線沿線の線路脇を歩く梅田社長。これまでの被害者がフラッシュバックする。「誰なんだ?なんのために、社員までも?」疑問が頭をぐるぐる回る。またしても茶色のスーツの男が、その様子を伺っている。

 梅田玩具。ボスに梅田社長が「お前は裏切った。何が起こっても、全ての原因はお前だと」と犯人の言葉を伝える。「他に社員を守る方法はありません。私は会社から手を引きます」。ボスは「それが犯人の狙いであってもですか?」と厳しい眼差し。会社の信用を失墜させ、社長を脅して社員を傷つける。「全てあなたを窮地に陥らせるための工作としか考えられない」「たとえそうだとしても、私の気持ちは変わりません」と梅田社長。

「子供の夢を育てるのが、あなたの一生の仕事だった筈でしょう? それを今、投げ出したら・・・」

 梅田社長も自分が責められて済むことなら、石にかじりついてでも続けたいが、自分のために社員が傷つくことを黙って見ていることはできない。と苦渋の選択であることを吐露する。

「たとえ警察の力を頼っても、全従業員80名を守り切ることは不可能でしょう?」

 ボスは一つだけ手があると。なんと「全社員が蒸発するんですよ」と大胆な提案をする。やがて、社員たちが忽然と姿を消してしまう。新聞の見出しには「梅田玩具事件!突如!! 社長以下 全員蒸発? 現代の怪・・・謎!?」

 七曲署・西山署長が驚いている。西山玩具失踪事件について「それをやったのが君だというのか!」「そうです。私です。社員の生命を守るためです」「ほう、一民間企業の全社員の生命を君がね」。西山署長は、犯人が梅田玩具の社員二人が襲われたことを「知らないね」と惚け、わかっているのは「有毒玩具を売った梅田玩具の社員が、おそらく、その悪徳行為を恨んだ何者かに襲われた、ということだけだ」とニベもない。高木専務を自殺と新聞には報じさせておきながら、密かに他殺の線で捜査していることも「私は知っている」と冷たく言い放つ。

「その上さらに、一捜査係長である私が独断で、その悪徳会社の社長と社員の全員を、私がどこかに蒸発させたことも、今はご存知です」「・・・」
「私をクビにする条件は、これで十分すぎるほど揃ったわけですね」
遠慮なく記者会見で発表してください、とボス。つまり記者会見を強要しているのだ。

「梅田玩具社員は、おそらく何者かを恐れて、全員一致して姿を消したものと思われる。わが七曲署は、彼らの行方を追求するとともに、事件の核心を掴むため、一係捜査官を特殊任務につかせることにした。記者諸君は、街で彼らの顔を見かけても、消して正体を明かさないよう、協力していただきたい。これが私が考えた、署長の発言内容なんですがね」。

「藤堂くん!」
「とんでもありません。ですから私は何もかも発表してくださいと申し上げているだけです」。ただしその場合、梅田玩具社員80名は戻ってくるが、そのうち何名かが襲われ傷つけられることは間違いない。「そしてクビになった私は、全責任が署長にあることを、全マスコミに公表します」
「貴様、取引する気か?この私と」
「捜査のための取引は時には必要ですからね。特に人の生命に関わるとなれば」

 グーの音も出ない署長。石原裕次郎さんと平田昭彦さん。二人のスターによる丁々発止のやりとりは、こうした腹芸をみる楽しみでもある。ほとんど忠臣蔵の堀田隼人と大石内蔵助みたい!そこへジーパン入ってきて「記者会見の時間ですが」と署長にニッコリ笑う。記者会見は、ボスの筋書き通り進んでいく。西山署長「突然姿を隠した梅田玩具株式会社の社長および全社員の行方は、目下我々も鋭意捜索中でありますが・・・」

 一係。長さんによれば全て計画通り。梅田社長だけは、社員とは切り離して保護してある。梅田玩具を恨んでいるもののリストからは何も出てこないと山さん。二十年前に一緒に会社を立ち上げた男がすぐに会社を辞めて、南米に渡って事業に成功している筈。「南米とはまた遠いな。しかし誰か(恨みを抱いているものは)いる筈だ。必ずいる」とボス。あとは犯人の出方を待つだけである。

 梅田玩具に債権者が集まっている。その中に「石塚塗料の石塚公平」も紛れている。ゴリさんだけでなく、殿下も、債権者に紛争している。会社に押し込む債権者たち。事務所では伊達眼鏡をかけたジーパンと、これまた変装している久美が、留守番アルバイトとして将棋を指している。これがボスの作戦なのか。「スパイ大作戦」の世界だね。ゴリさんジーパンに「君!社長はどこだ」。殿下「経理部長を出せ!」。ジーパン「僕たち学生アルバイトだから何も知らないんです!」。久美「そうよ、あたしたち日当2000円もらって、電話番しているだけなのよ」。飛んだ茶番である。しかし・・・

 「誰に雇われたんだね」と茶色のスーツの男(武藤英司)が、ここで初めて顔を出す。ジーパンオドオドと「アルバイト協会の紹介で来たんです」久美「昨日、ここの会社の人に面接されて、一週間分前金でもらったの」。「じゃ社長の居場所は知らないというわけだね」。ついに網にかかった! ここでさらにゴリさん、ジーパンに「社長はどこにいる!」と他の債権者を煽りながら詰め寄る。「警察呼びますよ」とジーパン。ゴリさん悪ノリして「警察、呼んでもらおうじゃないか!俺たちには生活がかかっているんだ!」うなづく殿下。オドオドするジーパンと久美の芝居がおかしい。

 殿下、ボスに報告。芝居をそのまま続けるように指示される。夜、ゴリさん酒を片手に梅田玩具の前に座り込み。翌朝、茶色のスーツの男「いや、頑張ってますな」とゴリさんに声をかける。「私もあなたと同じ被害者なんです」と、ゴリさんに協力を求める。しばらくしてジーパンと久美のアベックでご出勤。ゴリさん「魚はかかった、うまくやれよ」と小声で伝える。ゴリさん、ジーパンと久美を乱暴する真似。そこへ茶色のスーツの男が「学生さん、その人のいう通りだ」とやってくる。「どんなことをしても梅田さんに会いたいんだ。逆らわない方がいいね」と脅す。怯えるジーパン。男は、ジーパンが社長の居場所を知っている分で、責め立てているのだ。しかしゴリさん、本気で殴り始める。たまりかねた久美が「わかった教える案内しますよ」。男は喜んでゴリさんの運転する車に乗って、梅田社長の居場所へ。バックシートでは縛られたジーパンと久美。緊迫感あるクライマックスというより、喜劇映画みたいでおかしい。

 やがて車は休業中のレストランへ。ゴリさんと男が入っていくと、梅田社長に扮したボスが座っている。ナイフを取り出し、ゴリさんの喉元に突きつける。人質に取ったつもりなのだ。男は声をかける「梅田、私が誰かわかるかい?おい」。

「ああ、わかるよ牧村誠一郎」立ち上がり振り向くボス。「七曲署の藤堂だ」「そんな!どうして?」「梅田社長を恨んでいるものは、いくら探しても他にはいなかったんでね」。念のため、南米に問い合わせて牧村のことを調べたのだ。「成功どころか札付きの悪党で、いまだに行方不明だと聞いた時に、俺には大筋が読めたんだ」。

 ゴリさん、ジーパン、久美たちもやってきて、警察のトラップにかかったことを知る牧村。そこへ梅田社長「なぜだ牧村?二十年前、私はお前が会社の金を使い込んで、悪態をついて出て行った時も、やる気になったら戻ってこい、と言った。お前の持株はそのままにしておくと約束もした。今でも金庫にしまってある。私は昔の友達が戻ってくるのを待っていたんだ」悔しそうな梅田社長。

「梅田さん。その株券がこの事故を作ったんです」とボス。偽名を使って帰国した牧村は、梅田社長が昔の約束を守って、株券をそのままにしていることを知り、会社を傷つけて梅田社長を窮地に陥れれば、会社を乗っ取ることができると思ったからだと、ボスが指摘する。そのためには手段を選ばずに罪もない子供達を傷つけたのである。「ちきしょう」とボスに挑みかかる牧村。しかしボスは強烈なパンチで応戦して、ノシてしまう。さすがタフガイ!「逮捕しろ!」

 ボスに頭を下げる梅田社長。刑事たち全員に深々と頭を下げる。本当に苦労人なんだね。この人柄をボスは信頼したんだね。「これからも子供達のためにいい玩具を作ってください」とボス。『堂堂たる人生』のスピリッツがここにあるのが日活映画ファンには嬉しい!

 一郎の病室。ジーパンに直してもらったロボットに喜ぶ一郎。もう目が見えている。「ありがとう!」。枕元には、梅田社長からたくさんのおもちゃのプレゼント。パンダのぬいぐるみを抱えるジーパンに一郎は「かわいいねジーパンくん!」笑顔の母親。笑うジーパン。

一係。梅田玩具からの玩具のプレゼントに大喜びする一同。ボスもパンダのぬいぐるみを抱えてニコニコ。「たとえチョンガーでも人間いずれ子供が産まれ、孫ができる。その連中がきっと、梅田の玩具を可愛がってくれるに違いない。梅田玩具健在なり!だな」。


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