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『OK牧場の決斗』(1957年・パラマウント・ジョン・スタージェス)

 友人のご好意で、先日、CSムービープラスで放映された、木曜洋画劇場・日本語吹き替え版『OK牧場の決斗』(1957年・パラマウント・ジョン・スタージェス)を娯楽映画研究所シアターのスクリーン投影。僕が、この映画を最初に観た東京12チャンネル「木曜洋画劇場」(1975年4月3日)で、2時間半枠で放映されたヴァージョン。バート・ランカスター(久保松夫)、カーク・ダグラス(宮部昭夫)、ロンダ・フレミング(武藤礼子)の吹替は、とにかく懐かしく、小学6年生になる直前、映画チラシ小僧だった少年時代が蘇った。

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 西部劇史上に名高い「O K牧場の決闘」は、1881年10月26日、ダッジシティの保安官・ワイアット・アープ、弟・ジェイムズ、兄・バージルのアープ一家が、銀鉱山の町・トゥームストーンへやってきて、これまで確執のあった、クラントン一家たちカウボーイズと銃撃戦を展開した。この決闘は、保安官が銃の不法所持者を武装解除しようとして発生したとされるが、その背景にはアープ一家とクラントン兄弟(アイク、ビリー、フランク&トム・マクローリー、ザ・キッド)との確執があった。

 この決闘は、ジョン・フォード監督、ヘンリー・フォンダがワイアット・アープ、ビクター・マチュアがドク・ホリディを演じた名作『荒野の決闘』(1946年)など9回ほど映画化されている。最初の映画化は、ジョージ・オブライエン主演『国境守備隊』(1934年・ルイス・セイラー)だった。1990年代に入っても、カート・ラッセル主演『トゥームストーン』(1993年・ジョージ・P・コストマス)、ケヴィン・コスナー主演『ワイアット・アープ』(1994年・ローレンス・カスダン)が作られて、まさに西部劇の定番となっている。

 ドッジ・シティの保安官・ワイアット・アープ(バート・ランカスター・久保松夫)が旧知のギャンブラー・ドク・ホリディ(カーク・ダグラス・宮部昭夫)と10年ぶりに再会。かつては名家出身の歯科医だったが、今や放浪のギャンブラーで、胸を病んでいるドク・ホリディのシニカルな感じをカーク・ダグラスが見事に出している。ワイアットとは、敵対関係だが、お互いにシンパシーを感じている「言わずもがな」の腐れ縁的な好敵手がいい。

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 この二人の関係を意識しているのが、日活無国籍映画と呼ばれた『ギターを持った渡り鳥』(1959年・日活・齋藤武市)に始まる「渡り鳥シリーズ」の、小林旭さんと宍戸錠さんの好敵手だろう。反目し合いながら、お互いを認めて、最後は共通の敵(大抵は金子信雄さん)を倒す、というパターンも『OK牧場の決斗』の影響大だろう。

 冒頭、フォート・グリフィンの人々に、リンチされようとしている殺人者・ドク・ホリデイを、ワイアットが(保安官として)助ける。そのきっかけとなる、ドクの生命を狙うならず者たちとの小競り合いのシーンに登場するエド・ベイリーを演じているのが、リー・ヴァン・クリーフ(岡部政明)。僕らのようにマカロニウエスタンから西部劇に入った世代は、クリント・イーストウッド映画の悪役としてお馴染みだけに、テンションが上がる。

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 ドクは、ワイアットに助けてもらった恩義に「借りを返す」と、ワイアットを助け、クライマックスの「OK牧場の決闘」となっていく。そのドクの腐れ縁的、勝気な彼女・ケイト・フィッシャーを、『エデンの東』(1955年・エリア・カザン)でアカデミー助演女優賞を受賞したジョー・ヴァン・フリート(京田尚子)。ドクを愛しながらも、クラントン一家の仲間・ジョニー・リンゴ(ジョン・アイアランド・小林清志)の元へ。リンゴを演じたジョン・アイアランドは、『荒野の決闘』で、末弟・ビリー・クラントンを演じていた。ちなみに、本作でビリーを演じているのは、若き日のデニス・ホッパー(井口成人)。俳優を眺めているだけでも壮観、楽しくてしょうがない。

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 ワイアットの弟・モーガン・アープを演じているのは、デフォレスト・ケリー(飯塚昭三)! 「宇宙大作戦」のドクター・マッコイ(「宇宙大作戦」で吉沢久嘉)である(笑)しかもこの吹き替え版は、バート・ランカスターを久保松夫さんが吹き替えているので、ワイアットとモーガンのツーショットは、ミスター・スポック(久保松夫)とドクター・マッコイに空目してしまった(笑)しかも「宇宙大作戦」第3シーズン第6話「危機一髪!OK牧場の決闘」(1968年)で、ドクター・マッコイとスポックが1881年10月26日の決闘当日にタイムスリップ! 実は強力なテレパシー能力を持つメルコト人の策謀なのだけど、嬉しさ倍増である(笑)

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 ドッジ・シティで、ワイアットの補佐を勤める若き保安官・チャーリー・バセット(アール・ホリマン)の吹き替えは佐々木功さん! ちょうど「宇宙戦艦ヤマト」の主題歌を歌っていた頃の録音で、今も変わらぬ声の張りが味わえる。

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 ワイアットが恋をして、保安官をやめてカリフォルニアに行こうとする美人ギャンブラー・ローラ・デンボー役は“テクニカラーの女王”と呼ばれたロンダ・フレミング(武藤礼子)。彼女の美しさにワイアットがメロメロになるのもよくわかる。しかし、クラントン一家との決闘のために、この恋を諦めなければならなくなる。そのストイシズム!

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 クライマックス、トゥームストーンのOK牧場での決闘シーン。ジョン・スタージェス監督ならではの豪快かつ緻密な演出で、立体的に楽しめる。この決闘演出は、1960年代の日活アクションなどに多大な影響を与えている。

 なんといってもフランキー・レインが歌う主題歌“Gunfight at the O.K. Corral”(作詞・ネッド・ワシントン 作曲・ディミトリ・ティオムキン)は西部劇主題歌史上、ベストと言える名曲。一度聴いたら、鼻歌で歌いたくなる。当時の少年たちが夢中になったのもよくわかる。西部劇映画の主題歌って、特撮ヒーロー番組のようにストレートで、血湧き肉躍るものばかり。あとは詩情と抒情があるものが多い。一瞬のガンファイトの記憶を、永遠にリフレインできる主題歌の果たした役割は大きい。

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 ジョン・スタージェス監督の、わかりやすくカッコいい演出は、ロバート・テイラーとリチャード・ウィドマークの『ゴーストタウンの決斗』(1958年)、カーク・ダグラスとアンソニー・クインの『ガンヒルの決斗』(1959年)と年一作撮られ「決斗三部作」と呼ばれることになる。

そして、その翌年、1960年には僕らの世代のマスターピース『荒野の七人』(1960年・ユナイト)が作られ、ジョン・スタージェスは“特別な監督”となる。1963年には『大脱走』(ユナイト)を手がけるのだから!

 そして本作から10年後の1967年、ジョン・スタージェス自ら、史実に忠実に描くべく、再びワイアット・アープとドク・ホリディの物語として『墓石と決闘』(ユナイト)を監督する。「墓石」は”ぼせき”ではなく”はかいし”と読む。ワイアット・アープにジェームズ・ガーナー(羽佐間道夫)、ドク・ホリディにジェイソン・ロバーズ(久保松夫)。「OK牧場の決闘」で生き延びたアイク・クラントン(ロバート・ライアン・納谷悟朗)が、ワイアットに復讐を誓い、兄・バージル(フランク・コンヴァース・内海賢二)を半身不随にし、弟・モーガン(サム・メルヴィル)を殺す。そこでワイアットはドク・ホリディとクラントン一味を追い詰めていく。後日談というよりは「真実はこれだ!」的な仕切り直しで、ジェームズ・ガーナーのワイアットがなかなか良かった。ちなみにガーナーは、ブレイク・エドワーズ監督の『キャデラック・カウボーイ』(1988年)で1920年代、晩年のワイアットを演じている。

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