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『歌くらべ荒神山』(1952年7月24日・新東宝・齋藤寅次郎)

広沢虎造の次郎長親分!

齋藤寅次郎監督研究。1952年7月24日公開、二代目・広沢虎造がなんと清水次郎長に昇格した『歌くらべ荒神山』(新東宝)をスクリーン投影。おなじみ「吉良仁吉VS安納徳太郎」に助っ人として加わる次郎長一家の物語を、歌あり、笑いありのオールスターでアチャラカ時代劇化。原案はあをいきくらぶ、脚本は八住利雄。

安納徳には柳家金語楼!これが極めてケチケチな親分で、その用心棒で吃音の角井門之助には伴淳三郎。唄好きのお調子の良い子分・ベロ松に川田晴久。この安納徳一家を中心に、アチャラカ版「荒神山」が展開。「歌祭り」というわけで、バタヤンこと田端義夫が、次郎長一家の子分オーディションで挫折して、安納徳一家に鞍替えした三太を演じている。

前半は、金語楼と伴淳がメインで、酒を水で薄め、茶碗をひっくり返してご飯を盛り付け、客人に出す、安納徳の吝嗇ぶりがおかしい。ケチな親分の目を盗んで、ご飯や酒をちゃっかり頂く、女中・お松(堺駿二)が、ホントにおかしい。こうした喜劇人のアンサンブルが、この時期の新東宝アチャラカ喜劇の楽しさ!

ケチケチ安納徳。柳家金語楼!
伴淳三郎と金語楼 山盛り飯の中身は茶碗!

さて、その安納徳一家に草鞋を脱いだ子連れの旅人・原田梅七(星十郎)が、お千代の眼を治す金を作るために、神戸一家の利三郎暗殺を試みる。しかし宵闇に紛れて出てきた門之助(伴淳)に、利三郎ともども殺されてしまう。ケチな安納徳の言いなりになった挙句「相討ち」として兇刃に倒れてしまったのだった。残されたのは盲目の女の子・お千代(打田典子)は、何も知らずに安納徳一家で世話になり、父の帰りをひたすら待つ。

寅次郎監督のお気に入り、第二の美空ひばりとして売り出された打田典子ちゃんが、『トンチンカン三つの歌』(1952年7月2日・東宝)に続いて、その三週間後の本作でも大々的にフィーチャーされて、ナミダナミダの芝居を見せてくれる。

打田典子ちゃん!

さて、金語楼の安納徳親分、数ヶ月前に小さい女の子を亡くして、お千代を我が子のように可愛がる。ケチで非情な親分のウィークポイントが子煩悩。こうした落差が笑いに繋がる。養女になって欲しいとの親分の希望を、頑なに拒否するお千代。お父ちゃんと、清水港にいるお母ちゃん・お光(市川春代)に会いにいくと、言い張る。

それで怒り心頭の安納徳・金語楼が、バタヤンと川田晴久に、お千代を捨ててこいと命じる。しかし、二人ともお千代に情が湧いて、捨てるに捨てられなくなる。これは『東京キッド』(1950年・松竹)のリフレイン。打田典子ちゃんを第二の美空ひばりに育てようとする寅次郎監督の作戦でもある。

結局、ベロ松と三太は、お千代の母親が芸者をしている清水へと、子連れ旅となる。ここでの道中ソングを、川田晴久とバタヤンが交互に歌うシーンがいい。道中で加わった永田とよ子が主題歌を川田とデュエットする。

さらに「♪吉良の仁吉は良い男〜」ということで、高田浩吉が仁吉を演じて、その女房で安納徳の妹・お菊に関千恵子。高田浩吉は、ここでは二枚目に徹していて、とにかくカッコいい。残念ながら歌唱シーンはないが、出てくるだけで「元祖 唄う映画スター」の風格がある。

高田浩吉
古川緑波

キャスティングは次のとおり

清水次郎長(二代目・ 廣澤虎造)
吉良仁吉(高田浩吉 ・松竹)
安濃徳一家・ベロ八( 川田晴久)
安濃徳一家・三太(田端義夫)
宮川玲子
千代(打田典子)
その母・お光(市川春代 )
安濃徳一家・お松(堺駿二 ・松竹)
神戸一家・長吉(キドシン)
安濃徳一家・角井門之助(伴淳三郎) .
神戸一家・お安(淸川虹子)
淸川荘司
次郎長一家・法印大五郎(小倉繁)
原田梅七(星十郎)
冬木京三
次郎長一家・大政(鳥羽陽之助)
花岡菊子
三原葉子
若宮淸子
藤京子
西朱実
靑木泰子
武村新
沢村昌之助
石川冷
築地博
次郎長一家・小政(今淸水基二)
千代をいじめる雲助の小僧(西岡タツオ )
谷晃
菊地双三郎
髙村洋三
宇田勝太郎
三宅実
秋山要之助
村山京司
生方賢一郎
安濃徳太郎(柳家金語楼 ・金プロ)
旅の女(永田とよこ ・コロムビア)
緒方洪庵(古川緑波)

ロッパは、長谷川一夫との『男の花道』(1941年・東宝)で演じた医者・土生玄蹟のキャラクターそのままで、お千代の眼を治す次郎長贔屓の医者・緒方洪庵を、いつもの旦那芸で演じている。キドシンは、神戸一家の養子・長吉。その妻・お安に清川虹子。寅次郎一家勢揃いである。というわけで、後半は、お馴染み「荒神山」の戦いとなり、いよいよ広沢虎造の次郎長親分と高田浩吉の吉良仁吉の見せ場となる。アチャラカ時代劇だけど、展開は浪曲や映画でお馴染みの「荒神山」となる。

齋藤寅次郎監督は『大岡政談 びっくり太平記』(1953年・新東宝)『珍説忠臣蔵』(同)『初笑い寛永御前試合』(同)などなど本歌取りアチャラカ時代劇を連作。次郎長ものは、のちに、勝新太郎主演、大映オールスターでの『花の二十八人衆』(1955年・大映京都)でリフレインされることとなる。

主題歌「歌くらべ荒神山」作詩 ・那珂零吉 作曲 ・上原げんと
唄・川田晴久 永田とよ子

主題歌「吉良の仁吉」作詩 ・那珂零吉 作曲 ・上原げんと
唄・川田晴久 永田とよ子

新東宝データベース1947-1962(作成・下村健氏)

katsubenwagei@gmail.com

2023年1月21日(土)齋藤寅次郎監督のお住まいだった成城・一宮庵(いっくあん)で<キング・オブ・コメディ 映画監督・齋藤寅次郎を語る2023 ザッツ・寅次郎・エンタテインメント! VOL.1>を昼夜開催、こうした戦前作から戦中、戦後の齋藤寅次郎監督の映画人生と、笑いの足跡をたどります。お申し込みは、katsubenwagei@gmail.com まで。


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