見出し画像

太陽にほえろ! 1974・第99話「金で買えないものがある」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第99話「金で買えないものがある」(1974.6.7 脚本・小川英、田波靖男、四十物光男 監督・野村孝)

永井久美(青木英美)
柴田たき(菅井きん)
及川とみ(一の宮あつ子)
とみの息子の嫁(桜田千枝子)
とみの息子(うたた賢)
内本浩治(田中力)
田川恒夫
九重ひろ子
天理淳
安田泰三
上沢知子

予告編
一の宮あつ子「金返せよ」「え?」「百万円返してくれよ」「こいつですよ、私を付け回したのは」
N「空中にばら撒かれた100万円をめぐって、人々の微笑みに黒い欲望が走る。ジーパン刑事の見たものは?」
一の宮あつ子「あんた立派な刑事さんだ、ほんと立派だ」
N「次回「金で買えないものがある」ご期待ください」

 今回はゲストに戦前からの名バイプレイヤー・一の宮あつ子さん。サイレント時代から不二映画社の女優として活躍。昭和8(1933)年、山岳映画『銀嶺富士に甦える』で鈴木傳明の妹役でスクリーン・デビュー。東京宝塚劇場の開場に伴い、劇場の研究生となる。その後、東宝映画撮影所に移籍してバイプレイヤーとして活躍。戦後は江利チエミさんの「サザエさん」シリーズで、「社長シリーズ」でもお馴染みとなる。黒澤明、成瀬巳喜男作品でも印象的な役が多い。

 「社長シリーズ」の脚本家・笠原良三さんに師事した田波靖男さんのシナリオは、ベテラン一の宮あつ子さんを全面的にフィーチャー。息子夫婦との軋轢でストレスが溜まっていたおばあちゃんが、捜査中のジーパンとぶつかって歩道橋からへそくりの百万円をばら撒いてしまったことからおこる狂想曲をユーモラスに、コメディタッチで描く。とにかく一の宮あつ子さんのセリフ、出番が多く、いつもの「太陽にほえろ!」とは全くテイストの異なる「おばあちゃんの喜劇」になっている。どちらかというと「渡る世間は鬼ばかり」のような嫁姑のバトルの物語でもある。ボスも捜査上だが、おばあちゃん一家の人生相談に対する明快な回答をする。緊張感の続いたエピソードの中のブレイク的なお話。

 白昼の飲み屋街。ジーパンが犯人を追いかけている。路地から高層ビルを望む住宅街、バックしているライトバンの屋根の上に飛び乗り、ジャンプするジーパン。新宿高層ビル街、京王プラザホテルの前を逃走する犯人が杖をついて歩いている老婆・及川とみ(一の宮あつ子)にぶつかる。その時、トミのバッグが宙に舞って現金100万円が散乱。ジーパン、とみを抱き抱えて「大丈夫ですか? どうもすいませんでした!」と追跡を再開して、走り去る。橋から大切な虎の子が散乱してしまい、呆然とするとみ。

 路上に落ちた一万円札を拾い上げた少年。「ママ、これお金だよ」「何かの宣伝でしょ?」とチラシかと思ったが「あら?」。その瞬間、たくさんの人がお札に群がる。BGMは「天国と地獄」のエレキバージョン。コメディ映画のようなコマ落としの映像で人々の欲望が描かれる。「あたしのお金だよ! 返せ! あたしのだよ。返せ!」と必死のとみ。しかしみんな逃げてしまう。とみは一台のライトバンの「オーロラ商事」を見逃さなかった。

 一方、ジーパンは高層ビル街の空き地へようやく犯人を追い詰める。抵抗する犯人。ジーパンのキックが炸裂。犯人のズボンの股が裂けている(笑)高台から放り投げられた犯人、気絶。

 捜査第一係。とみが被害相談に来ている。ボス、とみのバッグを確認している。バッグの口が「だいぶバカになってますな。で、失くした金額は?」「100万円ですよ」。びっくりして振り向く、山さん、殿下、長さん、ゴリさん。「さっき銀行から出してきたばかりのお金なんですよ、ほら」と通帳をボスに見せる。「確かに100万引き出してますね、どうしてこんな大金、引き出したんです?」「どうしてって?そんなことあたしの勝手でしょ」「で、戻ったお金が14万ですか?」。久美がお茶を運んでくる。「本当にひどい世の中ね」。

 「そのおばあちゃんを突き飛ばした男ってのは、どんな奴でした?」「化け物みたいに大きくて、髪の毛ぼうぼうで」「ほう、化け物ね」。ボスの机の電話が鳴る。「なに?殺し?」。立ち上がり、ボスの机に集まる刑事たち。「ようし、わかった。すぐいく!」。被害者は建築請負業の内山亮造と妻・智絵。すぐに山さん、長さん、殿下、ゴリさんが現場へ向かう。

 取り残されたとみ。「あたしの方は一体どうなるんです?」。そこへジーパン「ボス、手配していた梶田組のチンピラ、捕まえてきました」。その声に振り向いたとみ、ジーパンの顔を見て「こいつですよ、あたしを突き飛ばしたのは!」と指を刺す。

 「え?」とジーパン。ボス「なんですって?」。とみ、ジーパンに駆け寄り「返せよ!100万円返してくれよ」と胸ぐらにしがみつく。どういうことかわからないジーパンに「お前な、このおばあちゃん、歩道橋の上で突き飛ばした覚えあるか?」とボス。「いえ、あ、おばあちゃん!(ボスに)そういえばこの野郎追っかけてた時に」「おかげでな、このおばあちゃん持ってた100万円、歩道橋の上からばら撒いちまったんだよ」「え?100万!」。

 ボス、咳払いして「善良な市民を守る警察官が、逆に害を与えるとは、何事か?そいつをぶち込んだら、おばあちゃんの言い分をよく聞いて、拾われた100万円を取り戻すんだ!」と命じる。「いいな」「はい」。ジーパンは梶田組のチンピラを留置所に連行していく。

 「本当に刑事さんですか?あれでも」「ええ」。久美が「ご心配なく、見かけはあんなですけど、仕事にはとっても熱心ですから」とフォローする。ジーパン、戻ってきて「じゃ、おばあちゃん。とにかく現場(げんじょう)行きましょう」「げんじょう?なんですかそれ?」。

 久美がお金を揃えて、バッグにしまおうとすると、とみ慌てて「ちょっと触らないでくださいよ、これ私んですから」。ジーパン、とみを連れて現場へ。

「100万円まいて、14万しか帰ってこないなんて、あたしだったら自殺したくなっちゃうな」と久美。「よせよ久美、万一そんなことになったら、ジーパン立つ瀬がないぞ。援護射撃でもしてやるか」とボス、受話器をあげる。

 北名建設事務所。殺人事件現場。長さんバットを持っている。「山さん、凶器はこれらしい」「死体の状況から見て、かなり滅多打ちにしたようだな」。ゴリさん「被害者の時計です。殴られたとき、壊れたと見て間違いないでしょうね」。時計は1時10分。真っ昼間の凶行だった。この大胆な犯行の同期はなんだろう? 殿下「山さん、金庫が破られていますから、強盗殺人の線も考えられますね」「しかしどうも、ただの強盗殺人事件には思えませんな」と山さん。ただの強盗なら一撃して、逃げ出せる時間を稼げればいいはずなのに、滅多打ちにしていることから怨恨の線が浮かび上がる。金庫を開けるよりも、殺人に手間をかけている。「強盗に見せかけた計画的な殺人ですか?」とゴリさん。「しかしこの酷い殺し方は、被害者に恨みを持つもの仕業としか考えられないな」と山さん。

 「あの、どんな些細なことでもいいですから、思い出してください」。現場の歩道橋でジーパン、とみに話している。「忘れっこありませんよ。あんた。私が銀行を出て、ここまで歩いてきたら、いきなりあんたが私を突き飛ばして」。苦笑するジーパン。「それはもういいじゃないですか」「よかありませんよ」「わかりましたよ、それについては謝りますよ」それよりお金を拾った連中の人相、服装を覚えてないかとジーパン。「そういえば、一番最初にお札を拾ったのは子供だったよ」。母親に連れられて、マスクをしていたことを思い出す、とみ。

 内科・小児科・外科・石川医院で聞き込みをしてきたジーパン。クルマで待っているとみに「おばあちゃん、見つかりましたよ、こんな時期に、風邪ひく子供なんて少ないですからね」「へえ、本当に見つかったの?少しや刑事らしいこともできるんだね」。ジーパン、少しムッとする。

 ジーパンとおばあちゃん。マスクの少年の団地へ。母親に「歩道橋の上からばら撒かれた一万円札を何枚か、拾ってますね」「いいえ、存じません」「嘘おっしゃい、人のお金を盗む気なら、警察へしょっぴくからね」ととみ。「失礼な!あたしお金なんか拾いませんよ、変なこと言わないでくださいよ、証拠もないのにそんな、名誉毀損で訴えますよ!」。そこへマスクの少年が「ママ、どうしたの?」。とみが駆け寄って「坊や、もうお母ちゃんにオモチャ買ってもらったかい?」「オモチャ?」「坊やの拾ったお金、お母ちゃんにあげたんだろ?」。母親が慌てて「なんてこと言うんですよ」。少年は「ママ、おもちゃ買ってくれるの?ならジェット機がいいな、あのお金、僕が拾ったんだもんね」と素直に話してしまう。バツの悪そうな母親。「すいません、つい恥ずかしくて、お金は返しますから、勘弁してください」と頭を下げる。

 3万円戻ってきてご満悦のとみ。「やっぱり、子供は正直だね」。ジーパンは下を向いたまま。「どうしたの?」「いやあ、後味悪くてさ。何も子供、誘導尋問かけなくったっていいじゃない、おばあちゃん」。しかし相手は証拠がないことをいいことにお金をネコババしようとした悪い奴なんだからととみ。「出来心なんだからさ、もうちょっと穏やかに話したらいいじゃない」とジーパン。「おやそう、あんた泥棒の味方すんの?あたしゃ一体、誰のために100万円撒いちまったんだっけね?」。グーの音も出ないジーパンに「さ、次行こう。だんだん思い出してきたよ、蕎麦屋の出前持ちがいたよ」と、そそくさとクルマに乗る。「張り切っちゃって、がんばって行こうか?」とジーパン。

 蕎麦屋の前、覆面パトカーのなか、ジーパン「そういえばおばあちゃん、どうして100万円もの大金、銀行から引き出したのか、俺まだ聞いてなかったな」「うるさいんだね警察ってのは、そんなことはどうだっていいじゃないか」「よかないよ、それを新聞か何かでPRすればさ、拾った連中も同情して、届けてくれるんじゃないかな」。とみは渋々、息子に渡すために引き出したこと話し始める。「どうしようもない出来損ないでね。家を建てて別居したいっていうから、頭金の100万円、くれてやることにしたんだよ。ま、言ってみれば手切金みたいなもんだね」「親子の手切金ね。しかしさ、あてにしていた頭金がなくなったら、息子さんも大変だね」「・・・」。

 そこへ出前持ちがバイクで戻ってくる。「あ、あのオートバイだ、見覚えがあるよ」。ジーパンが「よし」と行こうとすると「ちょいとお待ち、あたしが話、つけてくるからね」といそいそと店へ。「かなわんな」とジーパン。

 「ちょいと、拾ったお金、返しておくれ」「知らねえな」と出前持ち。「知らないとは言わせないよ、年寄りだと思ってばかにするなら、警察が黙っちゃいないよ」とジーパンの方を見る。「変な言いがかり、つけんなよ」とバイクを発進させる出前持ち。ジーパン、猛ダッシュでバイクを追いかける。暗渠を一っ飛び、ジーパンはバイクに先回り。「七曲署のものだ、金返してもらおうか?」。

 とみ、近所の男の自転車の荷台に乗って、ジーパンのところまでやってきて、暗渠をのぞいて(ジーパンがジャンプしたことを察して)「かっこいい!」と帯を締め直して「やるねえ、見かけは悪いど」。

 「で、今度はどこ行くわけ?」「オーロラ商事だね。クルマの横腹に書いてあったんだよ、そのクルマから降りて、拾った奴がいたから、ちゃんと覚えておいたんだよ、頼むよ」「しかしまあ、よく覚えてますね、100万円ほどの大金を落とした割には、ずいぶん冷静ですね」とジーパン。

 世田谷線の踏切で停車するジーパンのクルマ。ふと売店を見ると、毎朝新聞のリードが書いてある。「風に舞う百万円 戻らぬ金に 老婆の涙」。ボスの助け舟はこれだったのだ。

「人情地に落ちたり 殆ど戻らぬ百万円 行先を断固追求と警察当局」新聞を開いているオーロラ商事社長。そこへ事務員「社長、警察の人が見えてますよ」。ジーパンととみの姿を見て慌てて「刑事さん、どうも、今、こちらからお届けに上がろうかと思っていたんですよ、なにしろ忙しくってね、このおばあさんですか? お金を落とされたのは?」と一方的に喋りまくる。よほど後ろめたいのか。胸ポケットからお金を出して「お気の毒にね、ああ、私の拾ったお金はこれですよ、これで全部」と渡す。

 「大したもんだね、新聞ってのは、ちょっと記事になっただけで、自分の方から進んで返してくれるんだから、この調子だと案外、簡単に戻ってくるかもしれないね」。今までの14万円と合わせて25万円になったと満足気なとみ。「なんだ、まだ75万円も足りないの?」「(少し考えて)そうだよ、これじゃ家にも帰れやしない、息子や嫁とまた喧嘩するぐらいなら、野宿した方がましさ」。そこへ無線が入る。「ああジーパンか、森下町の交番に、金を拾ったと届出があったそうだ」とボス。「あ、それからボス、夕刊に売り込んだのはボスでしょう?早速効き目がありました」「余計なことを言ってないで、早く行け!」。

 捜査第一係、山さんが戻ってくる。「どうだ殺しの方は?」「今のところ動機を怨恨の線で洗っているんですが、商売上の恨みから同業者の内本浩治ってのが有力ですね」。土建業の内本土木の主人である。

 森下町の交番。内本土木のクルマが停車してある。交番の中でジーパンととみと話しているのは内本浩治(田中力)。「あなたですか?お金拾ったのは?」「いや拾ったというわけじゃないんです。店へ帰ってトラックから荷物を下ろそうとしたら、荷台に一万円札が散らばっているじゃないですか。数えてみたら26万円もあるのでビックリしましたよ」「はあ26枚も」嬉しそうなジーパン、少し暗い顔のとみ。内本は続ける。「そしたら夕刊におばあさんのことが出てたでしょう、ちょうど私もあの頃、あの歩道橋の下を走っていたもんですから、これはてっきりおばあさんの失くされたお金だと思いましてね」。礼を言うジーパン。「世の中みんな、内本さんみたいだといいですがね」「当たり前のことをしただけですよ。これでいくらぐらい戻ってきました?」「ええ、確か51万円です。そうだったねおばあちゃん」「は、あ、ええ」と不思議な顔をしている。「あんまりうれしかったんで、ぼうっとしちまってね」。内本「でも51万円じゃ100万まであと半分あるじゃないですか、頑張ってください」と内本は去ってゆく。

とみの様子がおかしい。くたびれたからと繕い「あとは明日にしましょう」「そうか、家に帰りづらくて困ってるんだろう、俺が一緒に行って話をしてやろう」と、とみをクルマに載せる。

 及川家。孫がロボットのおもちゃで遊んでいる。ちゃぶ台を囲んで、とみの息子(うたた賢)、ジーパン、とみが座っている。「新聞見てびっくりしてたんだよ、お母さん、一体、今までどこでうろついていたんだい?」「探してたんだよ、お金を」「電話ぐらいすればいいだろ、心配しているのわかってるんだからさ」「したくもなかったよ、どうせお前たちに喚かれるんだと思うとね」「ひと聞きの悪いこと言わないでください」ジーパンを気にする息子。「仲の悪い親娘だってのは近所中、知ってますよ」。お茶を淹れてきた嫁(桜田千枝子)が「おばあちゃん!」。

 ジーパン、申し訳なさそうに「あのですね、おばあちゃんが金を落としたのは、俺のせいなんですよ、だからみんな、おばあちゃんを責めないでください」「刑事さんのせいじゃないですよ、母はね、自分のなけなしの貯金を僕らのためなんかに出したくはないんだ、僕が必死になって頼んだものだから、渋々出す気になっただけでね、腹ん中じゃ、こんな金、無くなった方がいいと思ってるのかもしれないんだ」。息子、とみの顔を見て「そうだろ?おばあちゃん」。憮然とするとみ。嫁は子供に「大人の話を聞いてないで、向こうへ行ってらっしゃい」と邪険にする。とみは孫にお菓子をあげようとすると、息子「甘いもの勝手にやらないでって、言ってるだろ!」。

 たまりかねたジーパン。「及川さん!あんたら、金さえちゃんと戻って来ればいいんでしょ?100万円はちゃんと俺が責任持って返しますよ。おばあちゃん行こう」と、ジーパンはとみを自分の家に連れて帰る。「100万円揃うまで、俺が面倒みるよ」。呆然とする息子夫婦。

 柴田家。美味しそうにジーパンの母・たき(菅井きん)の手料理を美味しそうに食べるとみ。食欲旺盛である。「歳をとると食べるだけが楽しみでね」。ジーパン、自分のおかずをあげる。「幸せね、あなた、こんないい息子さんを持って」「とんでもない、いくつになっても子供でしてね。早く嫁さん貰って、私、楽したいですわ」「それはダメ、嫁なんか貰ったら、おしまいですよ。うちの息子もね結婚するまではとても親孝行ないい倅だったんですけど、嫁が来てから、ガラッと変わっちゃいましてね。まあ一生、嫁を取らないってわけにはいかないでしょうけどね、できることならお母さんが死んでからってことにして欲しいですね」。びっくりするたき「私が死んでから?」呆れてしまう。

 とみの肩を揉むジーパン。「おや、純が人の肩を揉むなんて珍しいね」。今日はあちこち引っ張り回したからとジーパン。「本当に気持ちの優しい、いい息子さんですね」とデザートのリンゴを食べるとみ。ジーパンの分まで食べてしまう。「よくまあ食べて憎まれ口を聞いて、元気な年寄りだこと。母さんが死んでから嫁さん貰えだなんて、若いんですからね」とたきはプンプン怒っている。

 この辺りの呼吸。さすが「若大将シリーズ」の田波靖男脚本である。「今日は疲れたわ」とたきも、ジーパンに「後で頼むよ」と肩たたきをリクエスト。「甘ったれんじゃないよ、若いんだろ?」「よその親は叩けても、母さん叩いてくれないの?」「母さんも嫁と同居ってのは、当分無理だな」とジーパン。

 一の宮あつ子さんと菅井きんさんは、東宝映画『黒い画集 あるサラリーマンの証言』(1960年・堀川弘通)や、黒澤明監督『悪い奴ほどよく眠る』(1960年・東宝)、恩地日出夫監督『若い狼』(1961年・東宝)など共演作も多い。「太陽にほえろ!」の後も、伊丹十三監督『あげまん』(1990年・東宝)でも共演している。

 翌朝、捜査第一係。ジーパンが「サラリーマン風、学生風、奥さん風」ととみの記憶にあるお金を拾った人々のリストを見ている。「これじゃさっぱりわからんな」。久美も「まあ、こんな特徴じゃ無理でしょうね」。そこへボス、ゴリさん、山さんが戻ってくる。

 「おいジーパン、お前、昨日、内本って男に会っただろう?」「ええ、交番に26万円届けてくれた、あの正直な人でしょう?」「ところがその男が昨日の殺しの有力な容疑者なんだよ」と山さん。殿下と長さんも部屋に入ってくる。「容疑者?」「内本はな、自分が請け負うはずだったある工事を、殺された石山に横取りされて、それをひどく根に持っていたらしいんだ」と長さん。凶器のバットは、内本のものではないが、出入りをしていた内本はそこにバットがあることがわかっていたとゴリさん。昼の1時頃が、1日のうちで最も来客が少ない時間であることも内本ならわかっていたと殿下。「ところが内本は、その時刻、あの婆さんが札をまいた歩道橋の下を通ったっと言ってるんだな」と山さん。

 「26万といえば、大金のようだが、それでアリバイが買えるとすれば、安いもんだな」とゴリさん。殿下は「内本のトラックがそんなところを通らなかったことがはっきりすれば、このアリバイは崩せるんだがな」。山さんが続ける「婆さんが内本のトラックを見ているかどうか、確かめたいんだがな」。ジーパンは「わかりました。多分、家にいると思いますから」と電話をかける。

 たきが出て「あのおばあさんなら朝から出かけたわ。それがね、大山の競馬場なのよ」。競馬を当てるのが得意なとみは、へそくりの100万円も競馬で儲けたんだ、とたき。「絶対、3倍になるからって、私から千円出さしたんだよ」。昼の5レースが狙い目だとか。ジーパン呆れて「冗談じゃないよ母さんまで、いい加減にしてくれよ」と電話を切る。

 大山競馬場。疾走する競馬馬。スタンドにいるジーパン。とみの姿を探している。ハモンドオルガンの追跡のテーマが流れる。とみは見つからない。「しゃあないな」とジーパン。そこへとみ「当たり、当たり、大当たり、5−7大当たりだよ」と現れる。2−2から馬を見て切り替えたという。相当の競馬師である。「あんたのお母さんに頼まれた2−2は千円だけ買っといたけどね。あんたなんだってこんなとこに?」。

 捜査第一係。とみがボスのデスクの前に座る。「で?」とジーパンに訊くボス。「聞いてみたんですがね、どうもはっきりしないんですよ」「無理ですよ、あんた、何十台、何百台ってクルマが走ってるんですから」「しかしお金が荷台にこぼれ落ちたクルマっていうのは、そう何台もないでしょう?」と山さん。「覚えてませんね。拾っている連中の方ばかり見ていたから」。ボスは「そこをなんとか思い出してくれませんか?あなたの証言ひとつで殺人犯が逮捕できるんですがね」。とみ一瞬躊躇してから「関係ないでしょ、私には。それにね、いくらなんでも嘘で26万もの金を出すはずはないでしょう?」。

 山さん「とにかくおばあちゃんは、そんなトラックはみた覚えはない、それは確かですな?」「でも、見なかった覚えもありませんよ」。ボスと山さん顔を見合わせる。そこへ久美が戻ってきて「あ、おばあちゃんいたの?ちょうど良かったわ。七曲署の気付でね、おばあちゃんにって、ほらこんなに」と現金書留の束を見せる。夕刊を読んで気の毒に思った人たちが送ってくれたのだ。

 中学2年生の女の子からの千円、二万も送ってくれた人、5歳の男の 
子がおやつ代30円を封筒に入れてくれたり、合計10万円ぐらいはありそうだ。「この調子で行くと、100万円ぐらいじきに行きそうだな」と山さん。ジーパンは「安心しなよ、内本の金が本当だろうと嘘だろうと、おばあちゃんの100万円はきっと俺が・・・こうやって寄付の金もあるしさ」と優しく語りかける。

 とみ、突然「もういいですよ、あんなケチのついた金、もう欲しくない、このお金もね、ありがたいけど、私、要りませんよ、どっかの施設にでも寄付してあげてくださいな。どうもお世話様でしたね」と立ち上がるとみ。「ちょっと待ちなよおばあちゃん、何怒ってんだよ一体?」「怒ってなんかいませんよ、虎の子はなくしちまうしさ、せっかく戻ってきたお金は変な言いがかりつけられるし、もう何もかも嫌になっちまっただけですよ」。止めるジーパンに「あんただってさ、仕事で私にくっついていただけでしょ!」と出て行ってしまう。

「わかりませんな、どうも」と山さん。ボスも「ああ、何か隠しているな」「ちょっと探りを」「ああ、頼む」。

 ボスは内本土木に張り込んでいる殿下の様子を無線で訊く。変わった様子はないと報告する殿下に「まもなく、何かが起きるかもしれん。そのまま続けてくれ」とボス。

 「何も俺の家からも出て行くことないじゃないか」とジーパン。スタスタ歩くとみ。「責任なんかとってくれなくて結構よ、実の息子だって他人同様なんだからね、赤の他人のあんたが、なんでそんな」「おばあちゃん。いや、俺、いくら仕事のためとはいえ、おばあちゃんの金無くしてしまったのは事実だし、だから、刑事として責任取りたいしね」「やめてくれと言っただろ、情に絡まれるのは、私大っ嫌いなんだよ、そうそうそう、あんたのおっかさんに頼まれたハズレ馬券」と帯の中をゴソゴソ。「ああ、お腹すいた。夕飯頂いたら、あたしゃすぐ出て行くからね」と柴田家に入っていく。

 その時、玄関の前に、とみが落とした封筒を見つけるジーパン。中にはなんと現金が入っていた。「あれ?」

 柴田家の勝手口、菅井きんさんが玉ねぎの皮を剥いている。BGMはなんと「飛び出せ!青春」の劇中音楽。デジャブのような一瞬。懐かしいなぁと思っていると、テレビの音声。とみが帰ってきて「飛び出せ!青春」観てるんだね。たき、こっそり勝手口から入ってきたジーパンに「なんですよ、馬券のことならもう聞いたわよ、千円損しちゃったわよ」「そんなこっちゃないんだよ」金を見せるジーパン。「家の門の前に落ちてたんだよ」。テレビからは片桐次郎(剛達人)の声がする(笑)「心当たりは?」「あるわけないじゃない」。テレビからは柴田良吉(頭師佳孝)の声もして、ジーパンのセリフに集中できない(笑)「やっぱりおばあちゃんかな」「一体いくらある?」「ピッタシ50万円」「え? わかったわ!本当は50万円落としてもさ、100万円落としたとなれば、みんなが同情するじゃないか」「よせよ、そんな風に悪く取るのは」「お前はまたバカにあの人の肩を持つんだね」。テレビでは河野先生(村野武憲)が話している!

 ジーパン、茶の間に入り。テレビのスイッチを切る。「何すんだよ、今、いいところだったのに!」。ちゃぶ台に50万円を置いて「これおばあちゃんのだろ?」。とっさに帯をまさぐるとみ。「そういう風にいつも帯を気にしてるってのは、その下に、これ(お金)があったんじゃないの?」「知らないね、あたしんじゃないよ、そんなもの」。

 「おばあちゃん、正直に言ってくれよ、これがさ、銀行からおろしてきた100万円のうちの50万円だとすると、戻ってきたお金を合わせて101万円、1万円多いだろ? つまりさ、ボスが推理した通り、内本の26万円はアリバイ工作だってことが証明されるんだよ、おばあちゃん、そうなんだろ?おばあちゃんのお金なんだろ、これ」「しつこいね、あんたも、知らないったら知らないんだよ」「じゃこれ落とし物として交番届けるよ、いいんだね?」。とみの顔色が変わる。「ああ、いいよ」。

 捜査第一係。ボス「そうか?50万をな」「でも変なんですよね、おばあちゃんの方に間違いはないと思うんですが、当の本人はがんとして自分のものではないと言い張るんですよ」とジーパン。「よしわかった、おばあちゃんから目を離すなよ」。

 山さんが戻ってくる。とみと一番親しいお年寄りと会ってきた。だいぶノイローゼ気味で、近頃しきりに「死にたい」と漏らしているとか。ボスはとみが別に50万円を持っていたことを山さんに話す。「やってみるか?ひとつ」とボス。何か企みがあるようだ。

 新聞の輪転機。見出しが踊る。「戻り過ぎた百万円? 総額百一万円!当局疑惑をもつ」。ボス、またメディア操作しちゃってるよ。公権力の乱用(笑)

 長さん、覆面車で内本土木を張り込んでいる。内本が出てきてライトバンで出かける。「ボス、内本が動き出しました」「すぐゴリさんたちを応援にやる、離れるなよ長さん」。追跡開始! 都内を走る内本尾行に気づくが、すぐに長さんは、殿下のクルマとバトンタッチ。「ただいま、世田谷通りを東に向かって走ってます」。スピードをあげる内本、殿下のクルマに気づいた。ボスは「構わん、追え」。

 必死に逃げる内本のバン。追う殿下だが、世田谷線の踏切で足止めを食らってしまう。そこでゴリさんにバトンタッチ。246号から東名に入る内本にぴったりと張り付くゴリさん。

 捜査第一係。ジーパンがとみを連れてくる。山さんに「なんですか、あれは!さっきのニュースは」「テレビのニュースにも出たそうですな」「そうですよ、出ましたよ、戻り過ぎた百万円ってね、一体誰がそんなこと言ったんです?」。ジーパンも「山さん、一体、どういうことなのか、説明してもらえませんか?」。

 山さんは、とみに見せたいものがあると、別室に案内する。そこからは隣室の息子夫婦がマジックミラーで見える。「どうしてあの子たちがここへ?」「頼みに見えたんですよ、おばあちゃんが家に帰るように、助言してくれってね」。驚く、とみ。

 ボスが、息子夫婦に「色々とご面倒をおかけしまして」と頭を下げる夫妻。「山村刑事からお気持ちは伺いましたがね」「どうも、昔っから気の強い母でしてね」「あなたも悪いのよ、すぐかーってなっちゃうんだから」「遺伝ていうんですかね、つい・・・」。ジーパンに迷惑をかけたこと、子供のことで感情的になってしまうこと、売り言葉に買い言葉で「出て行く」となってしまうこと、そこにお金が絡んでしまった・・・。ボス「じゃ、別居したいわけじゃないんですね」。ほとんど人生相談だね。息子は別居する意思はない、母がどう思っているかは知らないが。ボスは続ける「そのお母さんが、実は50万しか落としてないことをご存知ですか?」。

 それを聞いたとみ「また、あんなこと!私は」と言い訳するが山さんに制止される。ボス「お母さんはおそらく、あの百万円をあなた方に渡したくなかったんです。いや、これ意地悪でじゃない。百万円を渡してしまったら、あなた方が出てってしまうからです。落とした50万円を全部取り戻しても、あなた方と別居しないで済む方法がたった一つだけ、そいつは百万円落としたと、嘘をつくことです」。ボス、「テレフォン人生相談」の加藤諦三先生みたい(笑)

 息子「バカなことを」「なんでも話してくれさえすれば、あたしだってあんなに苦しまなくても良かったわ」と泣き出す嫁。その気持ちを知ったとみ、心から反省する。涙を浮かべるとみ。ジーパンの目にも涙。もう、今回は「太陽にほえろ!」ではなく「東芝日曜劇場」の世界!石井ふく子ドラマみたい!

 「バカだな、おばあちゃん、何も言ってくれないからさ、俺まで余計なことしちまったじゃないか、無理矢理、俺ん家連れてきたりしてさ」。とみ、涙を流しながら「いえ、刑事さん、今のあたしが、こんな素直になれたのは、あんたのおかげですよ、それにね、あのお金、本当はあんたのせいでばらまいたじゃないんです。もともとどっかに置いてくる気でいたんですよ、それでなきゃあんた、誰があれぐらいのことで、大事なハンドバッグ離すもんですか。だからね、安心していいんですよ、あんた立派な刑事さんだ、本当に立派・・・」。とみ、言葉に詰まり号泣。

山さん「ジーパン行くぞ、内本を逮捕する」。

 東名高速。山さんとジーパン。サービスエリアで食事をしている内本のもとへ向かう。ゴリさん、殿下、長さんもレストランの前にいる。裏の窓から逃げる内本。追うジーパン。格闘、キック!内本を確保!

 捜査第一係。とみ宛の現金書留の山。「大したもんだねこれ」と感心するゴリさん。長さん「沖縄!」「これだけ送り返すんじゃ大変だぞ!」とボス。「はあ、全部、私がやります」とジーパン。「そらそうだよ、何もかもお前のミスから始まったんだから」とゴリさん。「全てあたしが悪いんです」。そこへ久美「また来たわよ、新聞社に来てた分ですって」と袋いっぱいの現金書留を持ってくる。「後からまた来るらしいわよ」。呆然とするジーパン。「いやあ、こいつは驚いたね」と山さん。「大丈夫かジーパン」と長さん。「たった今、引き受けるって言ったよな」と殿下。ゴリさん「みんな、お前が悪いんだろ、な?」。ジーパン胸を押さえて「急に心臓が痛くなった」と仮病のふりをするが、みんなに笑われて「ええ、私がやりますよ!」とやけくそになって、笑うボスのストップモーション。


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。