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太陽にほえろ! 1973・第76話「おふくろ」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第76話「おふくろ」(1973.12.28 脚本・鎌田敏夫 監督・児玉進)

永井久美(青木英美)
柴田たき(菅井きん)
山下院長(武藤英司)
町田勇一(小原秀明)
町田和子(北原一実)
石井麗子
高尾礼子
山口雅生
与力恵子
喫茶店店主(向井淳一郎)
二瓶鮫一
伊藤健
夏木順平


予告編の小林恭治さんのナレーション。
「暖かく懐かしい、母の愛を追って、殺意に満ちた兄妹が闇に消えた。一発の銃声が感謝に満ちた母と子のスイートホームを脅かす。次回「おふくろ」にご期待ください」

 1973年12月28日、この年、最後の放送となったジーパン・柴田純刑事(松田優作)主演回。医療過誤により母親を失った貧しい兄妹の復讐劇。鎌田敏夫脚本は、犯人の動機となる悲しい物語をじっくり描き、ジーパンの母・たき(菅井きん)を思う気持ちと、犯人側の気持ちをリンクさせる。殺されても仕方のない被害者を守らねばならない矛盾。鎌田脚本は「おふくろ」のタイトル通り、二組の「母子の物語」を描いていく。主人公や登場人物を極限まで追い詰めながらも、優しい眼差しを忘れない。生きるべき人が亡くなり、生きる価値のない人間が生きている。その矛盾を、ボスも、山さんも噛み締める。しかもクライマックスはアクション映画としても見事な展開。苦いラストの後にあるホッとする瞬間。児玉進監督の演出は手堅く「太陽にほえろ!」の質的な向上を感じさせてくれる。

 町田勇一役の小原秀明さんは第70話「さよならはいわないで」で、殿下の拳銃を奪ってショッピングセンターに逃げ込むチンピラを演じていたが、今回は母親を喪った悲しみを復讐に向ける犯人を好演した。妹・町田和子を演じたのは東宝映像制作「流星人間ゾーン」(1973年)のゾーン・エンジェル役(この時は北島和美名義)で、少年ファンにはアイドル的存在。小原さんとは「流星人間ゾーン」でも共演している。また「太陽にほえろ!」では第82話「最後の標的」で、町田和子のその後を演じている。

 柴田家の朝。「いつまで寝てるんだよ!」とジーパンの布団を剥がして「母さん、もう出かけるからね」と母・たき(菅井きん)。ジーパンは「母さん出かけるの? 熱があるって言ったじゃない」とぶっきらぼうだが、母親想いである。おでこに手を当てて「(熱が)あるよ」と大袈裟に騒ぐジーパン。取り合わない母・たき。母一人子ひとりで生きてきた二人の日常。たきは看護師をしている。「休めよ、看護婦は一人じゃないんだろ?」「人様の大切な命を預かっている商売だからね。わがままは言えないんだよ。白衣の天使なんだからね。これでも」。母の顔を見て「白衣の天使? うええ、気持ち悪い!」。自分が刑事になったんだから、勤めをやめて家にいたらいいじゃないか。刑事の安月給じゃ食えないだろ。賑やかだがお互いを思い合っている。「俺は一人で飯、食うのか?」「一緒に食べたかったら、起きるんだよ。お嫁さん貰って、一緒に食べてもらうんだよ」。

 捜査第一係。ジーパンが出勤してくる。シンコ「どう?お母さんの具合?」「大丈夫じゃないんだけどさ、勤め出ちゃったから」。さっき久美が聞いた時は「大丈夫」だって答えたのに(笑)ボスも出勤してくるなり「お袋さんの具合、どうだ?」「ええ、もう全然大丈夫ですよ」。言ってることがメチャクチャで、シンコも久美も呆れ果てる。そこへ電話。派出所の警官が殴られて拳銃を奪われた。ボスはジーパンを連れて現場へ。

 現場で負傷した警官から事情を聞く、ボスとジーパン。夜中の3時過ぎ、若い娘からアパートの近くに「変な男がいる」と、警官が一緒にくると硬いもので頭を殴られ拳銃を奪われた。一係では、警官の証言から、その「若い娘」のモンタージュ写真を作成。「やはり共犯ですかね」と長さん。「計画的だとすると、犯人は何か目的を持っていることになる」と山さん。誰かを殺すとか・・・。拳銃の弾は五発。「その弾が使われないうちにホシを挙げるんだ」とボス。捜査が始まる。

 殿下、ゴリさんが師走の街を歩く。長さんはタクシーの営業所の食堂でモンタージュ写真を客に見せている。

 城北病院。柴田たきの勤め先。たきが病院の裏でゴミを捨てていると、階段を降りてくる(小原秀明)。ショッピングバッグから拳銃を取り出し、いきなりたきに銃口を向け、発砲する。

 師走の街を走るジーパン。城北病院に駆けつける。手術室の前、ボスが先に来ていて「大丈夫だ、ジーパン。落ち着け、落ち着くんだ」。やがてドアが開く。ストレッチャーに乗ったたきが出てくる。「母さん!母さん!誰がやったんだよ」と絶叫するジーパン。たきは眠っている。「今、手術が終わったばかりですから」と看護師。「母さん、死ぬなよ」と涙のジーパン、取り乱している。「ジーパン!」とボスが制止する。「今、お袋さんに必要なのは安静だ。わかったな」。子供のように泣きじゃくるジーパン。

 ナースステーションの前あたり。長さんによれば、たきが撃たれる直前、病院に「柴田たきさんはこちらにいるか?」と男の声で電話があった。電話の様子では顔見知りではなさそうだった。そこへゴリさん「弾はやっぱり、盗まれた拳銃のものだった」と報告。ジーパン、ひとり犯行現場のゴミ捨て場へ。現場に残された母の血痕を指で触り、怒りの表情となる。たまらずに木箱にパンチを食らわす。ブルース・リーの大フアンだった松田優作さんらしい怒りの表現。ボスがゆっくりとやってきて、じっとジーパンを見つめている。木箱をチョップやキックで次々と壊すジーパン。病院だけど、なぜか魚屋と酒屋の木箱がいっぱい捨ててある。ボスは、気の済むまでジーパンの好きにさせている。

 アパート。先程の犯人・町田勇一(小原秀明)が青いショッピングバッグから拳銃を出す。その傍らには妹・和子(北原一実)が正座している。「どうする?これから」と和子。「最後までやるよ、あいつらを皆殺しにしてやる」と勇一。「和子、兄ちゃんと別れよう。人殺しは、俺一人でいい」「いやよ、私、兄ちゃんと一緒に行く。一緒にやる!」「ダメだ!」「どうして?」「もうお前のすることはない。足手まといになるだけだ」。しかし和子は、兄が捕まるなら自分も捕まるし、兄が死ぬなら自分も死んで「母ちゃんのところへ行く」ときっぱり言う。しかし、和子の手を振り解いて勇一は「和子、お前は母ちゃんの分も生きろ!俺の分もな!」と言って出ていく。アパートから駆け出し走る勇一。「兄ちゃん、待って!」と懸命に追いかける和子。夜の街に、和子の絶叫がこだまする。じっと物陰に隠れる勇一。近くの線路から小田急ロマンスカーのチャイムが聞こえてくる。「お兄ちゃん!」その声は鉄橋を渡るロマンスカーにかき消されていく。

 翌朝、城北病院。たきの病室。ボスが犯人に心当たりをたきに尋ねる。「いいえ、見も知らない人がいきなり・・・」「病院でもお母さんが人に恨まれるような方じゃないって言ってますしね」。ボスは続ける。逆恨みで自分を逮捕した刑事の家族に危害を加える犯人がいる。今のところ、その線からも何も上がっていない。傍でじっと立っていたジーパンが、母の枕元に近寄り「どんな奴だった?母さん」「そうねぇ、歳は二十歳ぐらいだったかしら」。なんとか手がかりを掴みたくて、ついきつい口調になるジーパン。「思い出してくれよ。母さん!俺がさ、きっと母さんの仇とるからさ」。髪型や衣服の特徴を聞くが、たきの答えは要領を得ない。「さあ、どうだったかねぇ・・・」「母さんの記憶しか手がかりがないんだからさ。思い出してくれよ」

 夜、路地にたたずむ勇一。帰宅中の若い女性をアパートの前で待ち構えて、拳銃を突きつけて、部屋の中へ。

 翌朝、一係。「若い女が自宅で拳銃に撃たれて死んでました」とゴリさん。「あの拳銃ですか?」「分からんよ」。ゴリさんと一緒にアパートに急行しようとしたジーパンに、ボスが「お前はシンコと一緒に、桜町の派出所へ行け!」と命じる。「若い女を泥棒だと言って突き出した奴がいる。揉めてるそうだ。行って様子を見てこい」「しかし・・・」。ボスは捜査に私情は入ってはならないと、あえてジーパンを外したのだ。結局、ゴリさんには、ボスが同行することに。

 ジーパン、シンコと一緒に派出所へ向かう。「大体ね、なんでこんな仕事を俺にやらすんだよ!」と怒っている。「これだってね、立派な刑事の仕事よ」とシンコ。

 犯行現場のアパート。昨夜の女性が死んでいる。現場検証をしているボス。前夜11時に隣人が銃声らしき音を聞いているとゴリさん。まさか人殺しだとは思っていなかった。隣同士、全然関心がないとゴリさん呆れ気味。「なあゴリさん、この害者の名前がしがた・たきっていうんだ。しがた・たき、しばた・たき・・・似てると思わんか? しかも同じ拳銃で殺されている」。ジーパンの母は、人違いで撃たれたのかもしれない。しがた・たきは、看護師で病院を転々として、ジーパンの母と同じ城北病院にも半年ほど勤務していことが長さんの調べで判明。

 桜町派出所。喫茶店店主(向井淳一郎)がジーパンに訴える「この女は一年前、私の喫茶店で働いていたんです」。彼女が辞めた日にレジから十万円がなくなったと店主。女の子(北原一実)は「私、こんな人知りません!」「嘘つくな」。興奮する店主を宥めるジーパン。店主によれば女の子の名前は松村和子。「違います!私、そんな名前じゃありません」。黙っていたシンコ、町田和子のモンタージュ写真をジーパンに見せて「似ていると思わない?」。ポニーテールの髪をほどき、手配写真のようにするジーパン。「連れて行きますよ。ちょっと署まで来てくれ」。半ば強引に連れて行こうとする。かなり乱暴なジーパン。これは今やったらアウトでしょう。怒りに任せて、では通用しないよね。

 取調室。「警官を殴って、拳銃を奪ったのは誰だ?」「・・・」「俺のお袋を撃ったのは誰だ?」。完全に私情が入っているジーパン。これもアウトででしょう。そこへボスが入ってきて、ジーパンに「ちょっと来い」と部屋の外へ。「ジーパン、俺たちはな、お前のお袋の仇を討つために、捜査をしているんじゃない。お前のお袋だろうと、見ず知らずの人間だろうと、生命の重さは俺たちにとって同じだ。お前の気持ちはわかるが、冷静な心を持たない刑事は、捜査の邪魔になるだけだ!」。ボスは取調室に入っていく。

 一係。茫然自失のジーパン。ゴリさん、殿下は忙しくしている。久美がお茶を淹れてくるが、ジーパンの迫力に気圧されて声をかけることもできない。やがてボスと山さんが戻ってくる。和子への取り調べは、黙秘されて進んでいない。警官襲撃の手がかりもなく、松村和子も偽名のようだ。ジーパンは和子のバッグが、相当使い古されているのに、金具だけが新しいところに注目。所轄のカバンの修理屋を調べてみることを提案する。なかなか鋭い着眼点だ。「行ってもいいですか?ボス」「・・・ようし、行ってこい」。

 ジーパン、カバン修理の店を片っ端から調べて歩く。かなりあたったところで、修理をした店が判明。伝票の住所の八百屋の2階のアパートの部屋に入るジーパン。部屋には位牌と線香、しおれた花が祀ってある。位牌を手にするジーパン。

 一係。ジーパンがボスに報告。「女の本名は町田和子です。俺のお袋が撃たれた日。和子が兄を追って泣き叫びながら走っていたのを近所の人が目撃しています。近所の話では評判の仲の良い兄妹なんですよ。父親は10年ほど前、漁船の遭難事故で死亡しています。それから、親子三人で転々として、あちこちで働いていたようですが、その間の無理が祟ったのか、母親は病気になり、一年前に手術を受けたらしいんです」「手術?」とボス。「ええ、もしあの娘が喫茶店の金を持ち逃げしたのが本当なら、おそらく母親の手術に必要だったんじゃないかと思います。ちょうど同じ頃なんです」。母親は半年ほど前に亡くなった。山さんは、しがた・たきが働いていた病院、母親の町田かよが手術を受けた病院を調べることに。

 とある企業。医師がエレベーターに乗る。「何階ですか?」と医師が訊く。「同じです」と同乗者・勇一は青いショッピングバッグから拳銃を取り出そうとする。次の階で、たくさんの人が乗ってくる。拳銃をしまう勇一。医師が医務室のあるフロアで降りると、慌ててついていく勇一。「君、ここは会社の附属施設で、一般の人は・・・」と断ると、勇一、狂ったように胸ぐらを掴み、医師とともに医務室へ。「何をするんだ?」「俺を覚えている筈だ。お前たちが母さんを殺したんだ」。勇一の手には拳銃が握られている。「お前たちが母さんを殺したんだ」・・・。

 救急車のサイレン。現場のビルの駐車場に降りてくるボスと山さん。そこへジーパンの覆面パトカーが到着。「ボス!」松田和子の母を手術した病院が判明したのだ。しがた・たきも務めていた「山下病院」である。「今からそこへ行くところだ」とボス。殺された医師も半年前まで「山下病院」に務めていた。「行くぞ!」ジーパン、山さんとともにボスのクルマへ乗る。

 山下病院。院長の応接室。山下院長(武藤英司)は、一年前に手術をした町田の母を覚えておらず。カルテから探している。「病名は覚えていても、名前は忘れてしまうもんでね」と医者の本音を漏らす。そこへ看護師がカルテを持ってくる。院長「町田かよ。58歳。食道下部、狭窄筋の手術です」。それから半年後に町田かよは亡くなっているが「手術の失敗が原因とは考えられませんか?」と山さん。「手術の失敗? 医者に向かって軽々しく言うもんじゃない。第一、手術に失敗した患者を退院させるわけ、ないじゃないですか」と院長。執刀医は院長だった。その日は、看護師・しがた・たき、そのころ勤務していた滝川ゆうきち医師がサポートをしていた。

山さん「二人とも殺されました。同じ拳銃で」
ボス「犯人はおそらく、患者の息子だと思います。まだ弾は二発残っているんです。犯人が次に狙ってくるのは・・・あなたです」
院長「私が? 私がどうして狙われなきゃならないんですか?」
ボス「それは、わかりません。母親が死んだ原因が手術にあると、勝手に思い込んでいるのかもしれません」

この日から、七曲署の刑事が張り込むこととなった。

 取調室。ボスが和子に、勇一の最後の狙いは「院長の山下さんだね」「・・・」「いい加減に話してくれんかね」と山さん「君が話してくれたら、ひとりの人間が殺されずに済んだんだ」。ボス「兄さんも罪を重ねずに済んだ」「・・・」無言の和子。ジーパンは、そっと和子たちの母の位牌を、和子の前に置く。

ジーパン「人を殺して、おふくろさんが喜ぶとでも思っているのか?」
和子「・・・」
山さん「院長は、手術は成功したと言っている
ジーパン「おふくろさんが死んだからって、医者を逆恨みしちゃいけないよ」
和子「逆恨みなんかしてません」

 では、なぜ勇一は手術の関係者を次々と殺しているのか? ボスは優しく「もう話してくれたっていいだろう。たとえ君が話してくれなくたって、同じことなんだよ、もう」。和子はようやく重い口を開く。

「お母ちゃんが死んだわ。手術して半年ぐらいして、お腹が痛いって言い出したかと思うと、痛い痛いって暴れるように死んでしまった・・・あたし、兄ちゃんと一緒に焼き場に行った・・・二人だけで、お母ちゃん見送った。あっけないくらいに早く、お母ちゃん、灰になってしまったわ。ずっと一緒だったのに、ずうっと一緒だったのに、お母ちゃん、あっと言う間に灰になってしまった。お骨を拾おうとしてみたの。そしたら・・・そしたら・・・」

和子の回想シーン。勇一と和子が骨を拾おうとすると・・・
「お母ちゃんのお骨の中に、鉗子が焼けないで残っていたのよ!」
鉗子を手に、呆然とする勇一。

ジーパン「鉗子?」
山さん「手術用の12〜3センチぐらいある道具だよ」

きちっと視聴者にわかるように説明する。テレビのシナリオの基本でもある。手術の時に、山下院長が町田かよのお腹の中に、鉗子を忘れていたのだ。

ボス「そんなものが入っていたなら、手術後も痛んだろうな」

 きっと痛んだには違いないが、母は何も言わなかったと和子。兄妹が手術費用を捻出するのに苦労をしていたのを知っていた母は、決して弱音を吐かなかった。「あたしたちに心配かけまいと、じっと我慢をしていたんです。そんなお母ちゃんだったんです。そんなお母ちゃんだった」。ジーパン、たまらなくなる。

 母の遺骨を抱く、勇一と和子のセピア色の回想ショット。「あたしたち、あちこち行ったんです。でも、誰も取り合ってくれなかった。実証する決めてがないから、訴えてもダメだろうと。お母ちゃんのお腹の中に、鉗子がある時ならともかく、灰になったあとじゃ、どうしようもない、って。だって、死ななきゃわからなかったんじゃない! 灰にならなきゃ、わからなかったんじゃないの!」。斎場を力なく出てくる二人・・・

「あたしたち、諦めようとしたんです。仕方ないから・・・でもお母ちゃん、お父ちゃんが死んでから、貧乏してても学校へは行かなきゃダメだって、あたしたちを学校へやるために、一生懸命働いてくれたんです。そのお母ちゃんが死んだのに、殺されたのに、何もしてあげられないなんて!あんまり、あんまりで・・・。その時、お兄ちゃんが殺そう、って言い出したんです。お母ちゃんの手術に関係した人間を・・・」

「どうして止めなったんだよ、そん時」とジーパン。「あたしだって殺してやりたかったからよ!みんな、殺してやりたかったからよ!」。ボス、目に涙をためている。山さんの目も潤んでいる。ジーパン、和子の気持ちが痛いほどわかる。取調室に和子の鳴き声がこだまする。

 山下病院。ジーパンが、鉗子を山下院長に見せる。「こんなものが母親の身体の中に入っていたんですよ!」「知らん!そんなもの、あいつらの作り話さ」「作り話で、人を殺すまで思い詰めますかね」と山さん。「先生、あの兄妹があなたに会いに来た時、あなたがせめて、まともに話を聞いてやってくれていたら、あの二人も人殺しまでは思い詰めなかったんだ」。山下は、生きている間に言ってくれれば、それだけの処置はできた。「あんなものが入っていたら、腹が痛んだ筈だ。それなのに、今までどうして黙って痛んだ」

 それほど兄妹のお母さんは、子供たちのために我慢をした。それがわかるジーパンは「金がなかったんですよ。手術をする金がなかったんですよ。だから母親はじっと痛みを我慢するしかなかったんです」。

 山さんは院長に「病院の鉗子の数ってのは一定の筈ですがね?」。手術後にそれに気づかなかったのか?と病院の過失を問う。「それとも、鉗子の数など数えてもみなかったんですかな?」「君たちはね。一体、この私を守りにきたのか、それとも責めにきたのか?」「守りに来たんですよ。それが我々の仕事ですからね」とジーパン。しかし院長を見る目つきは、憎しみに満ちている。

 城北病院。たきの見舞いに来ているシンコ。花を花瓶に活けている。「ありがとうございます」「だって、花ぐらいないと、病室が殺風景でしょう?柴田くんたら、こういうことに全然気がつかないんだから」。嬉しそうなたき。「安物だけど、賑やかな方がいいと思って、たくさん買ってきちゃった」とシンコ。義母とお嫁さんのような二人の和やかさ。ここには幸せが満ちている。

たき「純にもやっとガールフレンドができたんですね」
シンコ「え?」
たき「あの子、何だかいつも怒っているような、ゴツい顔しているで しょ?だから、全然ガールフレンドができなかったんですよ」
シンコ「(嬉しそうに)やだ、あたしガールフレンドとして来たわけじゃありません。あのう、同僚の刑事として来ただけです。そんな、変なこと言わないでください」

満更でもないシンコ。ジーパンとの交際が順調なのがわかる。

 山下病院。ジーパンが玄関で張り込んでいる。院長の息子に「どこへ行くんですか?」「行き先をあなたがたにいちいち言わなきゃいけないんですか?」「お父さんを殺されたくなかったらね」。どうしても用事がある場合は刑事が付き添うとジーパン。憮然とする息子・ノブオ「いつになったら犯人が捕まるんですかね」。病院に戻る息子。「何様だと思ってるんだ、馬鹿野郎」とジーパン。

 院長の息子・ノブオと娘。どこへも行けずにクサっている。「親父のこと逆恨みして殺そうなんて、バカだよ。人を殺しゃ、自分が人殺しで捕まるだけじゃないか。考え、浅いよな」と笑い飛ばすノブオ。ジャズのレコードをかけているステレオの音量を最大ボリュームにして、思い立って、ベランダから抜け出し、車で病院を抜け出す。それに気づいたジーパン、慌てて追いかけるが、逃げられてしまう。「あのドラ息子!」。

 ボスとゴリさん病院へ到着。院長室では、山さん、ジーパンが出迎える。院長夫妻、塞ぎ込んでいる。院長夫人によれば、息子の友達にもあたったがどこへ行ったかがわからない。「どうしてこんな時に出したんだ」とボス。「屋根伝いにガレージへ降りたんですよ」と山さん。「ノブオは犯人に殺されるんでしょうか?」と院長夫人。その可能性もあるから、外に出さないように頼んでいたとボス。「ただ、犯人の拳銃には二発しか残っていません。院長を殺すとするなら、無闇には使わんでしょう」。ギョッとする院長。

 病院の外ではゴリさんが見張っている。サイレンが響く、院長室。誰もが押し黙っている。

 町田兄妹のアパート前。深夜、殿下と長さんが張り込んでいる。犬の遠吠え。12月末の寒さが画面から伝わってくる。

 山下病院の前。夜が明けた。牛乳配達の自転車が通る。完徹のゴリさん。憔悴しきっている。ジーパンも寒さに震えている。

 院長室。ボス、山さん、院長夫妻と娘。静寂を破る電話のベル。逆探知のセット、ボスの合図で電話に出る山下院長。「どうしてそんなことをするんだ?ノブオになんの罪があるんだ? 何? 東雲?」電話が切れる。10時に、院長一人で東雲海岸の埋めて地へ来いとの指示。「私の生命と引き換えにノブオを返すそうだ」。

 ボスが地図を見ながら犯人の動きを読んでいる。広い埋立地では身の隠しようがない。ゴリさんたちがクルマに隠れて行くしか手がない。「危険だな。院長が車から降りた途端に撃たれたら、防ぎようがないな」と山さん。院長、その言葉に反応する。「防ぎようがない?あんたたちは私を守ために来たんじゃなんですか?」。ゴリさん「あなたの息子さんがもう少し、家で我慢をしてくれていたら、こんなことにはならなかったんですがね」。

ジーパン「あなたが息子さんと同じように、もう少し患者の生命を大切にしていたら、こんなことにはならなかった筈です」
ボス「やめろ、ジーパン」
ジーパン「ボス、行かしてください。俺に」

 ジーパンは車のボンネットに隠れて、院長とともに東雲に行くことに。「車から降りたら、小屋に近づくふりをして、いきなり逃げてください」「何?」「相手は弾が二発しかありません。必ず小屋から飛び出して、あなたを追ってくる筈です。奴は拳銃は素人です。数メートルの距離から走る人間を撃って、そう当たるとは思えません。相手が一発目を撃てば、二発目を撃つ前にここ(ボンネット)から飛び出して、奴を撃てる筈です」それがジーパンの作戦である。

山さん「お前が一発で相手を仕留めないと、おまが危ないぞ」
ジーパン「わかってます」
ゴリさん「お袋の仇が討ちたいのか?」
ジーパン「そんなことじゃありません!」

「ボス、いかせてくれますか?」。黙ってうなづくボス。目が潤んでいる。「太陽にほえろ!」の中でもかなり密度の濃い展開。鎌田敏夫脚本の魅力は、シーンを追うごとに登場人物の心の動きが、ちゃんと視聴者に伝わってくることでもある。

 山下院長の運転するクルマは、東雲海岸に向かう。ボンネットの中のジーパン。ゴリさん、ボス、山さんたちは、ギリギリのところでクルマを停める。だだっ広い埋立地では、近くに寄れないのだ。

 取引現場に着き、クルマを降りる山下院長。小屋を見つめて「ノブオ!」と叫ぶ。「父さん!」小屋からノブオの声がする。小屋の中では、勇一が青いショッピングバッグから拳銃を取り出して「そのまま、真っ直ぐに近づいてくるんだ!」。

 小屋に近づく院長。拳銃を構える勇一。ゆっくりと小屋に向かって歩いてきた院長が、ジーパンの指示通りに別方向へ走り出す。小屋を飛び出し拳銃を撃つ勇一。そのタイミングでジーパン、ボンネットから出てきて、勇一の腹に向けて発砲する。倒れる勇一。呆然としながら、小屋に近づいていくジーパン。目の前で冷たくなっている勇一に、自分がしたことの重さを噛み締めるようなジーパンの表情。母を愛した勇一、母を愛するジーパン。その気持ちは変わらないのに・・・ 山下院長は、息子のところに駆け寄る。三組の親子のそれぞれの物語。

呆然と立ち尽くすジーパン。

ボス「さあ、行くかジーパン。仕方がねえんだよ。肩狙うとか、脚撃つとか、そんな余裕がある場合じゃなかった」。
ジーパン「俺には、あいつの気持ちがよくわかるんです。確かに、おふくろが撃たれた時、撃った奴が殺したいほど憎かった。しかし、あいつだって同じだったんです。同じように憎かったんです。たった一人のおふくろを殺した奴が・・・」、

ボス「・・・」。海の煌めきが眩しい。ジーパン「・・・」。

 取調室。和子が俯いている。シンコが静かに入ってきて「お兄さん・・・捕まったわ」「・・・」「死んで・・・」「え?」「死んだのよ、お兄さん」。和子は立ち上がり「あいつは?あいつは死んだの?」。ゆっくり頭を振るシンコ。

「お兄ちゃん・・・お兄ちゃん・・・お兄ちゃん・・・」号泣する和子。

シンコも辛い。

 一係の廊下。長さんがボスに報告する。検事局によれば、今から山下院長を業務上過失致死で起訴するのは難しい。「だろうね」「ただ、あれだけの事件を起こしたんだから、病院も苦しくはなるでしょうね」「うん・・・」「そうでもならなきゃ、浮かばれませんよね」。

 たきの病室。ジーパン、照れながら、よそ見して「俺、母さん好きだよ」「え? なんだい、また藪から棒に」「あん時さあ、熱があるのに、人の生命を預かる仕事だから、わがまま言えないって、出かけてったろ? そんな母さんがさ、あの、俺、好きなんだ」。照れるジーパン。たき、嬉しい。でも「いい歳した男が、おふくろが好きだ、好きだなんて、気持ち悪いよ」。そこからいつもの言い合いになる。ドアの陰でそのやり取りを聞いているボス。そっと見舞いの花束を置いて立ち去る。


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