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太陽にほえろ! 1973・第57話「蒸発」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

太陽にほえろ! 1973・第57話「蒸発」(1973.8.17  脚本・鴨井達比古  監督・斎藤光正)


江原邦子(長内美那子)
小坂(松本朝夫)
情報屋(鮎川浩)
倉田(木村博人)
高田助手(北川陽一郎)
西山署長(平田昭彦)
江原行夫(山本耕一)
永井久美(青木英美)
柴田たき(菅井きん)
仙波和之
川野耕司
都家歌六
石川隆昭
常陸雅史

予告篇のナレーション
「やくざの争いで、ひとりの男が消された。謎の男からの通報で七曲署は色めき立つ。蒸発した男。たまたま殺人を目撃してしまったことが、捨ててしまった過去へと男を引き戻してしまった。目撃者を消そうと、執拗に伸びる闇からの手。疾走するクルマから男を狙って、銃弾が発射された。次回「太陽にほえろ!」「蒸発」にご期待ください。」

 今回から、番組では3代目となる七曲署・西山署長が登場。東宝スターの平田昭彦さんは、特撮映画の博士役や、ミステリー映画の警部役など、知的でクールな役が多かった。そのクールさを「冷酷さ」として、日活スター・石原裕次郎の「熱さ」と二人のタイプの異なるスターのハーモニーが楽しめる。

 七曲署。久美がご機嫌で外から帰ってくる。捜査一係の皆は、事件もなく暇のようで将棋に興じている。久美はジーパンのために新しい湯呑みを買ってきたのである。「ボス、ちょっと過保護じゃないですか?」と殿下。「君、過保護だよ!」と長さん。「仕方ないでしょ。図体ばっかり大きくっても、赤ん坊と同じなんだから」。お茶を吹き出すジーパン。

 そこへ殺人事件を知らせる電話。死後、8時間から10時間。鑑識の高田助手(北川陽一郎)によれば、前夜10時前後の犯行と思われる。「至近距離から3発、即死だな」。死体の二の腕には刺青。山さんは見覚えのある男だと気づく。

 捜査一係。久美は早川ポケミスで「Yの悲劇」(エラリー・クイーン)を読んでいる。推理小説マニアなんだね。山さんが状況説明をする。殺された花巻は竜神会の幹部。殺された場所は寺林組の縄張り。暴力団同士の抗争と思われた。そこへ、目撃者(山本耕一)から電話。「犯人は寺林組の石岡です」。一メートルの至近距離から三発、発砲したのを目撃した。すぐに「石岡を逮捕してください」。犯行を目撃していることを「石岡は知っている」ので、自分の命が危ないと、男は電話を切る。

 ボスはひとまず石岡を逮捕することにして、ゴリさんと長さんは寺林組へと向かう。ゴリさん、スカーフェイスの石岡を恐喝容疑で逮捕する。「ま、とりあえず、別件逮捕ってやつだな」。おいおい、そんなこと言ったらアウトだよ!

 ゴリさんの厳しい取り調べが始まる。犯行に使われたのは38口径のS&W。しかし石岡にはアリバイがあった。もちろんでっち上げだろう。長さんは「ああいう連中は、覚えがなければ、もっとギャアギャア喚き立てるもんです」。証拠は残さず、アリバイも作っているから「あとはただ目撃者さえいなくなれば・・・」と、目撃者が消されるのを待っているのだと長さん。ボスも「奴らが目撃者を消すのが早いか、俺たちが保護するのが早いか」。別件逮捕だけに石岡拘留のタイムリミットもある。

 そこへ山さんから電話「何?男が一人消えた?」。現場近くの砂利場に通いで来ていた通称・ボケ安が、現場検証の直後に現れて仲間に貸していた2千円を取り立てて、行方をくらましたという。山さんは砂利場で不審な男を目撃する。

 パチンコ屋、ジーパンが山さんに「昼間からパチンコが打てるなんていい仕事ですね」などと軽口を叩いている。店内に流れているのは森昌子さんの「同級生」(作詞・阿久悠 作曲・遠藤実)。山さんの隣に情報屋(鮎川浩)がやってくる。ジーパンの玉を情報屋にやりながら「わかったか?」「いや、何かまずいことをしてトンズラしたみたいだ」。情報屋からボケ安の住所の書いた紙を受け取り、現金を渡す山さん。いつものようにショートピースの包みに忍ばせて・・・。

 ボケ安のアパート。小田急線の線路沿いにある。競馬新聞が散乱する部屋で「底本・種田山頭火 句集」を見つける山さん。「なんですか?」「乞食同然の一生を送った放浪の俳人だ」。そうだけど、山さんの解説がダイレクトすぎ。「競馬に山頭火」。本の中から期限の切れた免許証が出てくる。砂利屋の連中の証言によれば、免許証の写真はボケ安だった。

 瀟洒な住宅。「江原」の表札がある。こんな立派な家を持ちながら、なぜボケ安はボロアパートに住んでいたのか? ジーパンが無理矢理、江原家に入ろうとしていると「もし、何か御用ですか?」と、小さな男の子・一夫を連れた江原邦子(長内美那子)が日傘をさして帰ってくる。

 「江原行夫さん、ご在宅でしょうか」と山さん。「パパ、死んじゃったよ」と息子。「ええ、先月一周忌を済ませました」と邦子。山さんが刑事と知ると、邦子は二人を家にあげて、免許証を確認する。「ご主人はどうしてお亡くなりになったんですか?」。よくわからないが、信州の山の中で「多分、転落死だろうと」。詳しい状況を聞き出そうとする山さん。「実は主人は三年ほど前から行方不明になっているんです」。警察に捜索願いも出したが、結局、自分たちの生活もある。2年経ったある日、警察から呼び出しを受けた。身元不明の白骨死体の背広とセーター夫・行夫のもので、背格好も同じだったので葬儀を出した。しかし・・・「刑事さん、まさか、あの人が生きてるんでしょうか?」。

 殺人事件の目撃者の浮浪者が、死んだはずの夫だった! 衝撃の展開である。その時、一夫がブランコの鎖を直して欲しいと母に言う。そこでジーパンが直してやることに。「お兄ちゃんも刑事なの?拳銃も持ってないじゃない」「新米だからな」。江原家には、生活の足しにと女子大生を下宿させていた。その娘が帰ってくる。

 邦子は夫の死後、持ち物も写真も全て処分をしていた。長さん「女ってのは冷たいもんですなぁ」。久美は「その人の奥さん、きっと新しい恋人ができたのよ!」と、今回もまた事件に首を突っ込む。ボスにそのことを叱られるが、山さん「久美ちゃん、やったぜ!」と褒める。32歳の若さで、しかも美人、もう一度幸せをつかみたいと思うのも自然じゃないか。

 江原行夫の写真を持って、聞き込みを続ける一係の面々。ジーパンは江原家で息子と遊んでいる。倒れても起き上がるプロレスラーの人形。

「身元不明の死体が、1年間に二万近くか・・・蒸発か・・・」と山さんがつぶやく。

 江原家で一夫のために、プラモデルを作っているジーパン。「俺もな、父ちゃんいないんだぞ」「へえ、やっぱり蒸発したの?」「ママが言ったのか?蒸発って?」。近所の子がそう言ってたという。

 邦子はジーパンに、思い詰めたような表情で「本当に主人は生きているのでしょうか?」。「大丈夫ですよ奥さん、もし生きているなら、きっと俺たちが探し出しますよ」とジーパン。一夫の部屋にはウルトラマンタロウのお面が飾ってある。邦子は、一人複雑な表情。一夫もパパが帰ってきても「嬉しくないよ」とジーパンに言う。「どうして?」「だって僕、パパ二人もいらないもん!」。山さんのカン、いや久美の推理は当たっていたのだ。「だって、小坂のおじちゃん、もうすぐパパになるんだもん!」

 邦子には小坂(松本朝夫)という恋人がいて、一夫も承知をしていた。ジーパンは夜、小坂に会いにいく邦子を尾行する。喫茶店で、邦子から聞いて「何?ご主人が生きてる?」と驚く小坂。邦子は「探しているのよ、警察が・・・」と涙を流す。「あなたに会った時から、いつかはこうなると思っていたの」「君が悪いんじゃない」と慰める小坂。でもどうしたらいいのか? そっとその会話を聞いているジーパン。

 柴田家。母・たきは優しい。「よそのお宅にお邪魔した時は、きちんとしていないといけない」「やたら刑事風を吹かせていたら、出来る仕事も出来なくなる」とたき。「ねえ母さん、なぜ、母さんは再婚しなかったの?」。たきは「いやだねぇ」と笑いながら、別に再婚がいけないというわけではない。誰だって幸せになる権利はあるんだからね。母さんにはそういう相手が現れなかっただけ、とアイロンをかける。母と子の優しい時間が流れる。

 労務者が通う大衆食堂。江原の目撃情報があり、ゴリさんがやってくる。ほっかむりをして、人目を気にしている男に「江原さんですか? 七曲署の石塚です」と声をかける。「俺は何もしちゃいねえよ」と逃げ出そうとする江原に「逮捕じゃないです。協力して欲しいです」とゴリさん。ところが労務者たちに取り囲まれ、江原に逃げられてしまう。そこへ、一台のクルマが近づいてきて発砲! 江原は頭部を撃たれてしまう。

 中央病院。入院した江原は一言も話さない。ショックによる一時的な記憶喪失、失語症ではないかと診断される。確認のため郁子が病院へ。躊躇する邦子。殿下に促され病室で3年ぶりに夫と対面する邦子。山さんが「奥さん、ご主人ですね」と聞くと、邦子は否定する。嘘をついているのだ。しかし、それを庇うジーパン。江原は無言のまま。だが山さんと殿下が、病室を出ると「邦子、なぜだ? なぜ・・・」。

 タクシーで江原家に邦子を送っていくジーパン。しかし邦子は「待ってください。あの人、私の主人です」「わかってました」とジーパンがタクシーで去ろうとすると、小坂がやってくる。ジーパンは小坂に「一つだけ、聞かしてください。あんた、あの人と一夫君を幸せにしてあげられますか?」。小坂はきっぱりと「できます。しかし、あなたは一体どなたなんです?」。ジーパン、納得した表情。

 捜査一係。ボスに「夫婦のご対面、どうみた?」と聞かれた山さん「私はあの夫婦は本物だと思います」。奥さんだけが嘘をついているのではなく、江原も嘘をついているのかもしれない。それを聞いているジーパン。江原は家族を巻き添えにするのを一番に恐れているのかもしれない、と山さん。

 そこでジーパンが「三年も家族を捨てていた奴に、そんな思いやりがあるはずがない」とムキになる。そこでボスに「本当の夫婦かどうか?」と聞かれるジーパン。「本人がそうだと言わないんだからそうじゃないんじゃないですか。この際、江原だとか安さんとか、この際関係ないんじゃないですか」とムキになる。

 ボスは突っ込む。「関係ないってどういうことだ?」要するに石岡を逮捕して起訴できればいい。石岡の子分は必ず江原を狙う、それを現行犯逮捕して締め上げれば、ことは簡単じゃないですか。とジーパン。唖然とする山さん、ボス、長さん。

 留置所。石岡を睨みつけるジーパン。江原の病院に現れるジーパンは、殿下と入れ替わりに見張ることに。格好つけて座ろうとすると、入院患者の男の子に椅子を引かれてコケる。

 病院の入り口、クルマから、ベンケーシー白衣を着た明らかにヤクザ風の男たちが降りてくる。この白衣は「ベンケーシー」(1961〜66年)で、主演のヴィンセント・エドワーズが着ていたもので、映画やドラマの世界では「ベンケーシー」と呼ばれている。漫談家のケーシー高峰さんが着ていたものこの形である。

 ジーパンは廊下で、さっきの男の子と遊んでいる。偽医者たちが、江原の病室へ。ジーパン「おい!」と声をかけると男たちは逃げ出す。ついに石岡の子分たちがやってきた。蒼白の江原。窓の下ではジーパンが、偽医者たちと大立ち回り。そこへ医師の白衣を着た倉田(木村博人)が、江原の病室を見上げて、上がってくる。江原、気が気ではない。

 一方、殿下は呑気にラーメン屋へ朝昼兼ねての食事へ。すると山さんが炒飯を食べている。殿下は冷やし中華を注文。山さんは「どうやったら、あの江原にしゃべらせてやろうかと」「じゃ、失語症はやっぱり仮病ですか?」ジーパンが変わってくれたと聞いて山さん。「ジーパン?待てよ」と立ち上がる。

 その頃、病院では手術室に忍び込んだ倉田が、手術着に着替えて病室へ向かう。病院の庭ではジーパンがベンケーシー白衣の二人を締め上げている。「誰に頼まれたんだ!」「知らない」そこへ山さんと殿下がやってくる。チンピラは「倉田の兄貴が白衣を着て行けって言ったんだよ」と叫ぶ。

 ジーパンに「馬鹿野郎!」と怒鳴って山さん、殿下と共に、江原の病室へ。倉田が消音銃で、江原のベッドに撃ち込む。しかし江原はいない。そこへ、殿下、山さん、ジーパン。病院の建物で倉田を追うが、倉田はクルマに乗って逃亡。ジーパンクルマにしがみつこうとするが失敗。山さんが「ジーパン、もういい!」。殿下がクルマを緊急手配することに。

「ジーパン、お前が江原夫婦にどんな感情を持っているか知らないが、刑事にとって大切なのは、犯人逮捕よりも人命尊重なんだぞ!」

 一方、病院を抜け出した江原は、夜の新宿へ。大ガード前の横断歩道を渡り、自宅のあった方向へ。三鷹市中原一丁目、江原家の前で夜明かしをした江原。出勤する小坂と邦子と幼稚園に行く一夫の姿を、そっと影かが見つめる。「結婚式場とグアム島への新婚旅行は一応、僕がキャンセルしておきますよ」と小坂。「ご主人が帰ってきたら、僕が話します。全てのことを」「・・・」。ここで一夫が「おじちゃん、早く行こうよ」。その様子を伺って、たまらない気持ちになる江原。

 ひとり別方向へ行く邦子の後ろ姿を見つめる江原。やがて、かつてのマイホームの前に立つ。万感の思い。そこへジーパン。「江原さん。奥さんは多分、警察ですよ。あなたどう言う気持ちなんですか? 今現在、あなたが生きている人間である以上、あなたが目撃した犯罪について、証言する義務があります。行きましょう」。

 江原を連れて七曲署へ戻ってくるジーパン。なんと署の駐車場のクルマから、石岡の子分たちが降りてきて、署の中へ入る。ひとり取調室で待っている江原。一係のソファーには邦子が座っている。ジーパンに「会いますか?」と言われて頷く邦子。しかし、久美が邦子を案内している間に、石岡の子分が取調室へやってくる。署内にも関わらす、ナイフで江原を殺そうとする倉田は、なんと邦子を人質にしてしまう。緊迫の一瞬。

 江原がゆっくり近づいて「その女を離してくれ」。その隙にジーパンが、倉田、石岡の子分たちと大立ち回り。捜査二係の部屋はめちゃくちゃ。ジーパン、ブルース・リーのように裏拳をかまし、最後は部屋の外へ窓越しに投げ飛ばす。つまりブルース・リー映画のアクションの再現(笑)。まさに「ジーパン怒りの鉄拳」。派手なアクションでジーパン、暴れ放題! しかも倉田も懲りずに、反撃する。しまいには二回から飛び降りた倉田を追ってジャンプ。署の前で、大立ち回りをする。

 署長室。ボスはワイシャツの胸を開けて「暑いなぁ」と汗を拭いている。「君、釈明せんのか? 君のチームは暴れ熊を飼っているのかね?」損害を気にしているのは、新任の西山署長(平田昭彦)。「もう少しで、わが七曲署はバラバラになるところだったんだぞ!」。思わず吹き出すボス。「何がおかしいんだ?反省しとらんのかね?」「どうも、すいません署長」とボス、全く反省の色なし。

 ジーパンの蛮勇に、捜査一係のみんな大笑いしている。しかしジーパンはむくれている。スッキリしないのだ。山さん「お前の気持ちもわからんことはない。だがな、江原家が今後どうなるのかは、我々、警察が感知するところじゃないんじゃないのか」ジーパンようやく口を開き「いい奥さんだった。それに可愛い子供だ。あの男だって、悪い人間じゃなかった。それなのに・・・」。山さん「俺も一度あったよ。蒸発したいと思ったことがな」。山さんこと露口茂さんは、今村昌平監督のセミドキュメンタリー『人間蒸発』で本当に夫が蒸発してしまった奥さんと一緒に、夫探しをしたことがある。

 おし黙ったままの一係のみんな。そこへボスが受付に届けられたジーパン宛の手紙を持ってくる。江原からのものだった。

「やっぱり私は、姿を表さない方が良かったのです。でも私がもう一度消えるのは、あなたのせいではありません。自由、いや、いい加減と思われるかもしれませんが、本当に一人になりたかったのです。私を知る人々から逃げ出したかったんです。そう、弱い人間です。でも、こんなことを言えば、またあなたに叱られそうです。今はただ邦子に幸せを祈っているとだけ伝えてください。そしてお願いです。どうか私を探さないでください。」

「蒸発か。俺とかお前のような若者にはわからなくていいかもしれんぞ」とボス、自分を若者扱い。「今日はボスの奢りですよ」と笑う山さん。久美はボスに言われて、冷えた缶ビールを持ってくる。お疲れの乾杯! 

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