娯楽映画研究所ダイアリー 2021年8月2日(月)〜8月8日(日)
8月2日(月)『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』(2021・東宝)・『三羽烏三代記』(1959年10月30日・松竹大船・番匠義彰)
『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション』試写。映画版第三作だが、和製「アメコミ」の世界が、クライマックスに向かうにつれ「少年ジャンプ」のモットーである「友情・努力・勝利」の熱を帯びてきて、キャラクターたちのテンションがどんどん高まって・・・
今日は東宝の試写のあと、大阪から「なになくとも三木のり平」の共著者で、数々の著作がある作家・戸田学さんが上京されたので、銀座で懇談。同年生まれで、ほぼ同じキャリア。メッセージのやりとりは日常的にしておりますが、意外なことに今日が初対面。しかし話題は東西芸能史全般に及び、楽しい時間となりました。
『三羽烏三代記』(1959年10月30日・松竹大船・番匠義彰)
ラピュタ阿佐ヶ谷「蔵出し!松竹レアもの祭」で上映、番匠義彰監督の面白さを多くの方に体感して頂いた、傑作中のナンバーワン(笑)松竹映画3000本記念という、大層なセレブレーション作品。松竹グランドスコープ第一回作品『抱かれた花嫁』(1957年)もそうだが、この3000本記念大作を任されるほど、番匠は松竹大船娯楽映画のエース監督だった。
8月3日(火)『銀嶺の王者』(1960年4月29日・松竹大船)・『窓から飛び出せ』(1950年・新東宝)
今宵の娯楽映画研究所シアターは、番匠義彰監督、オーストリアの五輪スキーヤーから俳優に転向して大人気だったトニー・ザイラーを招聘、鳴り物入りで製作した『銀嶺の王者』(1960年4月29日・松竹大船)。ドイツでは”Der König der silbernen Berge”の題名で上映された。
昨夜の娯楽映画研究所シアターは、香川京子さんのデビュー作。大日向傳さん製作・原作、主演『窓から飛び出せ』(1950年・新東宝・島耕二)を楽しんだ。玉川学園全面協力で、学園でもロケーション。戦後五年、大日向傳さんの一家は、鶏や兎を飼育、野菜も畑で育てての自給自足。朗らかな奥さんに轟夕起子さん。手先が器用でなんでも作ってしまう大学生の弟・小林桂樹さん。大日向傳さんの子供たちが、子供役で出演。
その隣に住んでいる、岡村文子さんは船乗りだった夫を亡くし、長女・香川京子さんと、長男・大日方駿介さんと三人暮らし。夫の遺産を切り売りしてのタケノコ生活。しかも新興宗教にハマっていて、大日向傳さん一家とは犬猿の仲。香川さんは桂樹さんと仲良しなのだが・・・
その両家をめぐっての様々な出来事を微苦笑のうちに綴ったホームドラマ。フランク・キャプラの『我が家の楽園』のような、風変わりだけど、人間にとって何が一番大事かがわかっている大日向傳家と、大事なものを見失っている岡村文子さん。
戦後、民主主義啓蒙映画の一つだが、この理想主義は、眺めていて悪くはない。小林桂樹さんと香川京子さんがとにかく若い!
8月4日(水)『砂の香り』(1968年10月23日・東宝)・『渦』(1961年1月15日・松竹大船)
ラピュタ阿佐ヶ谷「昭和の銀幕に輝くヒロイン・浜美枝特集」で、岩内克己監督、渾身の野心作『砂の香り』(1968年10月23日・東宝)を久しぶりに。前回はボロボロの褪色プリントだったので、この映画の真意は分からず、今回、ピカピカのニュープリントを堪能。驚きと、興奮の連続で1968(昭和43)年“昭和元禄××年”の夏の湘南にタイムトリップした。
阿佐ヶ谷から新宿富久町へ。渥美清さん、いや田所康雄さんの墓所へお参りに。墓前で20年ほど前、山田組の御担当だった方に久しぶりにご挨拶。真夏の昼下がり。真っ青な空に白い雲。
今宵の娯楽映画研究所シアターも番匠義彰監督研究。井上靖の新聞連載小説を映画化した『渦』(1961年1月15日・松竹大船)は、モノクロのしっとりした画調(撮影は番匠組の生方敏夫さん)による倦怠期の夫婦の危機を描いた文芸調のメロドラマ。だが、物語構造や展開、クライマックスへの運び方は「花嫁シリーズ」「三羽烏もの」同様の番匠スタイル。だから、やっぱり面白い。
8月5日(木)『怪談累が淵』(1960年6月26日・大映京都)・『透明人間現わる』(1949年・大映京都)・『花の咲く家』(1963年6月13日・松竹大船)
角川シネマ有楽町「妖怪・特撮映画祭」で、安田公義監督『怪談累が淵』(1960年6月26日・大映京都)を大スクリーンで堪能した。三遊亭圓朝作の落語「真景累ヶ淵」は、これまで歌舞伎、芝居、映画、テレビ映画と幾度となく「夏の芝居」として親しまれてきた。この夏も「八月大歌舞伎」の演目で「真景累ヶ淵 豊志賀の死」が、東銀座歌舞伎座で上演されている。さて、昭和35(1960)年に、大映京都で作られた本作は、この物語のハイライトを巧みにシナリオ化、複雑な因縁で結ばれた男と女の生々流転を、89分に凝縮。しかも駆け足ではなく、タップリ!という感じで、怪談映画としても、時代劇としても良く出来ている。
角川シネマ有楽町「妖怪・特撮映画祭」シークレット上映は、敗戦四年目の円谷英二特撮が楽しめる『透明人間現わる』(1949年・大映京都・安達伸生)でした。敗戦後、チャンバラ禁止令で娯楽時代劇が撮れずに、連作されていた、スリラー映画のバリエーションで企画された空想科学映画。昔は探偵映画と呼ばれていたジャンルでもあり。HGウェルズの小説と、ユニバーサルでの映画化『透明人間』(1933年)の日本版を目指して作られた
驚きの大映特撮メイキング映像! 大特撮の大発掘!
今宵の番匠義彰監督研究は、佐田啓二さん、岡田茉莉子さん、岩下志麻さん、松竹トップスター共演の文芸メロドラマ『花の咲く家』(1963年6月13日・松竹大船)。大佛次郎さんの「サンデー毎日」連載の同名小説を、インドネシア・バリ島ロケーションで、堂々たる風格で映画化。番匠映画としては、初めての、そして唯一の海外ロケ作品である。前年12月19日公開『泣いて笑った花嫁』(1962年)から半年後、しばらく間を置いての番匠映画となる。
8月6日(金)「パリのアメリカ人」(2017年・ブロードウェイシネマ)・『さまざまの夜』(1964年9月12日・松竹大船)
松竹ブロードウェイシネマ「パリのアメリカ人」はミュージカル映画の金字塔『巴里のアメリカ人』(1951年・MGM・ヴィンセント・ミネリ)をベースにした2017年のイギリス上演版。ジーン・ケリーが演じたジェリー・マリガン(ロバート・フェアチャイルド)、オスカー・レヴァントが演じたアダム・ホックバーグ(ディヴィッド・シードン=ヤング)、ジョルジュ・ゲタリーが演じたアンリ・ボレール(ハイドゥン・オークリー)の三人と、レスリー・キャロンが演じたリズ・ダッサン(リャーン・コープ)、それぞれの1945年を深掘り。戦争の影と、戦後の開放。ガーシュインのソングブックミュージカルとしても最高の選曲!ジーン・ケリーへの限りないリスペクト!ラストの後ろ姿に痺れた!
番匠義彰監督研究もいよいよ大詰め。ラピュタ阿佐ヶ谷「蔵出し!松竹レアもの祭」で上映され、色々と物議をかもした、番匠ラスト3本前の、青春メロドラマ『さまざまの夜』(1964年9月12日・松竹大船)。原作は菊村到さんの同名小説。永すぎた春の恋人たちが、結婚前に惑う、本当の愛とは? 男性のセックスと、女性の戸惑い。結婚に失敗した男と女。妻の不倫で生まれた子を自分の子として育てた夫の気持ち。男が若い時に性のはけ口にしていた女性に対する、婚約者の嫉妬。「さまざまな男女の、さまざまの夜」が錯綜する展開は、番匠監督らしい題材でもある。
8月7日(土)『見上げてごらん夜の星を』(1963年11月1日・松竹大船)
番匠義彰監督、全38作レビュー完走! まとまった文献がなかったので。これからデータを足していきます^_^
今宵の番匠義彰監督研究は、いずみたく音楽、永六輔作によるミュージカル劇をもとにした青春音楽映画の佳作『見上げてごらん夜の星を』(1963年11月1日・松竹大船)。
昭和35(1960)年7月、大阪フェスティバル・ホールで上演された労音ミュージカル「見上げてごらん夜の星を」をベースにしている。この舞台は作曲家・いずみたくさんにとって初のミュージカル。
音楽鑑賞団体・労音の舞台監督だった永六輔さんが「日本オリジナルのミュージカルを作ろう」と、盟友・いずみたくさんに持ちかけて企画された。永さんは、ボランティアとして江東区の定時制高校に通い、働きながら学ぶ若者たちと触れ合い、この物語を着想した。初演の舞台は、美術にやなせたかしさん、振付に竹部薫さん。出演は、渡辺プロダクション専属で大人気だった伊藤素道とリリオ・リズム・エアーズ、まだ8歳だった田代みどりさんも出演。
8月8日(日)『日本の熱い日々 謀殺・下山事件』(1981年11月7日・俳優座映画放送)
今宵の娯楽映画研究所シアターは、熊井啓監督『日本の熱い日々 謀殺・下山事件』(1981年11月7日・俳優座映画放送)。知人のご好意で見せていただいた。
よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。