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太陽にほえろ! 1973・第60話「新宿に朝は来るけれど」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第60話「新宿に朝は来るけれど」(1973.9.7 脚本・小川英、鴨井達比古 監督・竹林進)

永井久美(青木英美)
柴田たき(菅井きん)
秋山恵美(桃井かおり)
京子(山吹まゆみ)
災害対策研究所主任(片山滉)
高田鑑識助手(北川陽一郎)
ヒッピー(阿藤海)
ヒッピー(杜沢泰文)
ヒッピー・ライブハウスの歌手(六人部健一)
築地博
渋谷健三
学技術庁防災対策研究所技官・中原和己(大塚周夫)
野川(服部哲治)
中原弘子(伊井利子)

 桃井かおりさんと松田優作さんによる「最後の新宿ヒッピー族」を題材にした「時代の気分を反映」した作品。桃井かおりさんの気だるい雰囲気が1973年の若者の「退屈」を象徴している。阿藤快(当時は海)さんが、桃井さんの仲間のヒッピー役で出演。

 被害者が地震研究者という設定は、ちょうどこの年、ベストセラーになり、年末に映画化される、小松左京のディザスター小説「日本沈没」が空前のブームを巻き起こしていた。

 新聞や週刊誌では「東京に大地震が起きたら?」とセンセーショナルな特集記事が掲載されていた。その「週末感」と新宿で漂う「シラケ世代の若者」たちをだ題材にした異色作。久々にシンコが登場、ジーパンと一緒にヒッピーの集まるライブハウスに潜入捜査をする。

予告篇の小林恭治さんのナレーション。
「東京の明日に絶望して死んだ男。明日という日を信じない娘が叶えてやった男の死。新宿の夜で触れ合った愛に、虚しい朝がやってくる。次回『新宿に朝は来るけれど』どうぞご期待ください」

 捜査一係の平和な朝。ジーパンがスーツ姿で出勤してくる。みんなが冷やかす。「馬子にも衣装か」「何を着せてもデカにに見えんのが妙だな」とボス。ゴリさんが「あんまり珍しいことすんなよ。それでなくとも近頃は天変地異が多いんだからな」と笑う。そこへ地震が起きる。この頃「日本沈没」ブームで、大地震が来るという噂がしきりだった。

 ゴリさんは地震が怖くてしょうがない。そこで長さんが週刊誌の記事をボスに見せる。「大地震 死者推定三百万の過密都市」と記事の中で、科学技術庁防災対策研究所技官・中原和己(大塚周夫)が警告を発している。ボス「確かにひどいらしいな、今、東京が大地震に襲われたら」と記事を見る。

 新宿西口公園。高層ビルを見つめる中原和己(大塚周夫)と、ポンチョに白いパンツ姿の秋山恵美(桃井かおり)。「おじさん」振り向く中原。恵美の手の包丁が光る。次の瞬間、中原を刺す恵美。中原は絶命する。そこへ、ヒッピーの仲間が「恵美!」と近寄ってくる。ヒッピー(阿藤海)とヒッピー(杜沢泰文)たちは中原の死体に驚く。恵美は呆然と「死んじゃった・・・」

 現場検証。長さん、ゴリさん、ジーパンがやってくる。鑑識課の高田助手(北川陽一郎)によれば、死後約4時間、細身の刃物で一突きとのこと。殿下が被害者の身元を告げる。科学技術庁防災対策研究所技官・中原和己(大塚周夫)、35歳。先ほどの地震の記事の男だと長さんたちが気づく。財布には30,000円が入ったまま。物取りの犯行ではない。顔見知りの犯行か?

 取調室。中原の妻・弘子(伊井利子)に、山さんが事情聴取。人から恨まれることはなかった。地震のことしか頭にないひとだった。愛妻家で子煩悩、楽しみといえば新宿に飲みに行くのが関の山だったと、災害対策研究所主任(片山滉)も証言する。これといって変わった様子はなく、昨日は休んでいた。ただ電話で「主任もどうぞお元気で」「おいおい遺言みたいなことを言うなよ」と言う会話をしたことが気に掛かる。

 捜査一係。シンコの報告によれば、被害者は虫歯以外は健康体、ただワイシャツに口紅の跡がついていたが、妻のものとは違う。しかし女性関係は浮かんできていない。殿下は、もし犯人が女性だとしたら、大の男が抵抗せずに一突きで殺すことはできないのでは?と疑問を呈する。ボスは「絶対にないとは言えないな」被害者が油断していたか、刺されるのを待っていたかの場合なら可能だ、と。どちらにせよ、この謎が解けないと、事件は解決しない。手がかりは口紅の跡を残した女だけ・・・

 山さんは新宿での中原の足取りを探り、長さんと殿下は中原夫人に聞き込みすることに。ジーパンは「中原さんはその口紅の女性を愛していたんじゃないんでしょうか?」とボスに言う。そんなジーパンを見つめるシンコ。「それお前のカンか?」「いや、自分でもよくわからないんですけど・・・ただ新宿っていう街には、そういうなんかこう破滅的な、それでいて真剣な、そういう若い連中がたくさんいるんです。俺、あの街が好きだから、なんとなく・・・」「口紅の女がそういう若い女の可能性があるというのか?」シンコはジーパンを手伝って聞き込みへ。

 山さんとゴリさんが中原の行きつけ居酒屋で女将(上野綾子)から、先月末ツケを全部精算したばかりだと聞く。そして殿下と長さんは中原夫人から、中原が三日前に300万の定期預金を全額解約していたことが明らかになる。中原の書斎。論文「東京大地震災害対策の現状」が机の上に置いてある。殿下が見つけたのは一枚のレコード。ザ・ディランⅡ「プカプカ」(作詞・作曲・西岡恭三)である。

 山さんとゴリさん、捜査に進展はなく、ラーメン屋で食事。ゴリさんは、中原が亡くなる二日前に行きつけの店に行ってないことに注目。「つまり、気まぐれにどこかへフラっと入った。そこで何かがあった」と山さん。ゴリさんは「中年の生真面目人間が一度は行ってみたいと思うような店が、新宿にはいくらでもありますからね。例えば、半分素人みたいな娘やフーテン娘を雇って、おじさま族を喜ばすような店ですよ」。山さん、ピンときて、片っ端から当たることに。

 何軒目かのクラブで、ママ京子(山吹まゆみ)に中原の写真を見せると、最近、きたことがわかる。しかも店には恵美がバイトしていた! 最後に来たのは先週の土曜日。恵美は「これもらっちゃった」と腕時計を見せる。中原はいつもと同じ「地震の話ばっかし」していた。中原が今朝、西口公園で殺されたと山さんから聞いてビックリする京子。しかし恵美は動じない。

 捜査一係。ディランⅡ「プカプカ」(作詞・作曲・西岡恭三)をレコードプレイヤーで聞いている山さん、殿下、長さん。そこへジーパンから電話。

 「ちょっと聞いてみろ」とジーパンにも電話越しに聞かせる山さん。ジーパン、ヒッピースタイルでジーパン姿のシンコと睦まじく夜の新宿を歩く。そこに流れてくる「プカプカ」。ライブハウス「ライトハウス」に入る二人。ステージでは、恵美の仲間のヒッピー(六人部健一)が「プカプカ」を歌っている。店員に中原のことを尋ねるジーパンとシンコ。「あの人、恵美ちゃんと一緒だから、恵美ちゃんが来たら聞いてみるといいよ」。

 ナイトクラブの仕事を終えて出てくる恵美をゴリさんが尾行する。深夜の喫茶店で京子が弟の暴力団員・野川(服部哲治)に、「犯人は恵美よ」と「早朝の公園に刺殺死体 消えた三百万円の謎!?」の見出しが踊る新聞を見せる。「殺されたのはうちのお客さん」。昨夜、中原から恵美に電話がかかってきたという。恵美は帰る時に店のキッチンから包丁を持ち出したことも京子は知っていた。京子とヤクザは、中原が持っていた300万を恵美から奪おうと算段する。

 「ライトハウス」に恵美が現れる。ヒッピーたちと楽しそうにしている。ジーパンとシンコ、近づき難い。そこへ野川が子分を連れてやってきて、恵美を連れ出そうとするが、恵美は抵抗する。チャンス到来、ジーパンが追いかける。派手な立ち回り、いつものようにヤクザたちを叩きのめす。割って入ったゴリさんもやられてしまう。恵美の手を握って逃げるジーパン。二人はいつしか仲良くなる。「すっごく強いの!」「そうでもないさ」。

 野川は竜神会の幹部であることが恵美の口から明らかになる。「うちに店のママの弟さん」「なんか狙われることないの?」とカマをかけるジーパン。恵美はとぼけて、野川は時々、店にきて自分のことを口説くなんて話をする。「あんたサツに気をつけなよ」とゴリさんが店にきたしつこい刑事であることをジーパンに教える。「さては、なんか悪いことでもしたかな?」。恵美は微笑んで「うん。人殺しちゃった」とケラケラ笑う。

 「純、飲みに行こう!私と一緒に乾杯して」と恵美。「新宿のために」「人を殺した恵美のために」乾杯する二人。「純は人殺したいと思ったことないの?」「好きで好きでたまらない人ができたら、殺したくなるよ」

 「好きだから殺したの? 誰殺したの?」真顔になるジーパン。笑って誤魔化す恵美。「明日は明日の風が吹くって。だってね、大地震がきたら、みんな死んじゃうんだもんね・・・そうでしょ」。松田優作さんと桃井かおりさんの演技はどこまでも自然。退屈を持て余している若い二人が出会って、一夜を過ごす。

「こんな娘が人を殺すだろうか?」ジーパンは疑問を抱く。

 翌朝、母・たきがジーパンが朝帰りしたこと心配する。「その娘さん、何をしている人なんだい?」「もしかしたら、殺人犯かもしれないな」。お母さん怒る。ジーパンが手にした朝刊には、中原殺しの記事。「このおじさんも新宿に乾杯した口かな?」

 捜査一係。ゴリさん「なんだお前、本人が人を殺したっていうのに、ポケッとしていたのか? どうして俺を殴ったんだい!」とジーパンに食ってかかる。山さん「ジーパンだって、やるべきことはちゃんとやってる」と弁護。恵美の住所も聞いてきているし、口紅だって手に入れてきた。刑事として捜査はちゃんとやっているとボスも「許してやれ」と擁護する。

 鑑識によって恵美の口紅が中原のワイシャツのものと一致した。動き出す一係。一方、恵美とヒッピーは竜神会から逃れるために、代々木3丁目のアパートを出る。恵美「眠い!」どこまでもマイペースである。そこへ覆面パトカー。ジーパン、長さん、ゴリさんが降りてくるところを、恵美が見ている。「純・・・」。ヒッピーが「恵美、やっぱり仲間以外は信用できない、ってわかっただろ」と慌てて逃げ出す。

 しかし路地で待ち受けていたのは竜神会・野川たちだった。やくざと刑事の挟み撃ちである。竜神会、ヒッピーたちをボコボコにして、恵美をクルマで連れ去る。空振りに終わったと長さんがボスに報告しているところにヒッピー三人組が逃げてくる。長髪、タンクトップ姿の阿藤海さんが「恵美が、竜神会の奴らに・・・」。ジーパンとゴリさん、竜神会の事務所へ。「いいか、野川は殺人犯の女を連れて逃げたんだ。お前たちも知ってて隠したんなら、共犯だぞ」。

 第三倉庫。野川は恵美に「お前、中原って男殺しただろ? 三百万どこへ隠した?」「ばっかみたい。あの人がそんな大金持っているはずないじゃない」笑う恵美を張り手する野川「舐めるんじゃねえ!」。ヤクザは怖いねぇ。

 京子のマンション。殿下に「弟が?恵美を?」と惚ける京子。そこへジーパンが真剣な顔で「恵美は、本当に中原さん殺したんすか? どうしてあの娘がそんなことをしたんだ?どうしてだ!」と激しいジーパン。京子はそれを知っているから弟・野川を使って恵美をさらったんだと、京子に詰め寄る。「なぜ恵美をさらった?庇うためか?それとも消すためか?」真剣なジーパン。殿下、それを必死に止める。

 京子、マンションから出て、クルマで出ていく。殿下とジーパンの覆面車の尾行が始まる。京子のクルマは第三倉庫へ到着。ジーパンたちも・・・。京子、弟に「こんな小娘ひとりに手こずって、あんたそれでもやくざなの?」。お金はどこ?と恵美を詰問する京子。恵美呆れ気味に「本当にみんなバッカじゃないの?お金、お金ってさ」。恵美は本当に知らないようだ。竜神会のリンチが始まる。倉庫の外ではジーパンがいてもたってもいられない。応援を待たずに、気合いだけで倉庫に突入しようとする。殿下「やめるんだジーパン」。

 ジーパン、ショベルカーに飛び乗り、倉庫をぶっ壊す。ここはミニチュア特撮。びっくりする野川たち。ジーパンを見て「純」と恵美。殿下、足を撃たれてしまう。ジーパン、丸腰で今回も「怒りの鉄拳」。殿下は京子を逮捕するが、恵美の姿は見えない。飛び出るジーパン。そこへ一係の応援が到着。山さんに怒られながらも、恵美を追っていくジーパン。

 殿下「ゴリさん。あいつ行かしてやってくださいよ。恵美をただの殺人犯と思っていないんです。だからあいつは、自分で確かめたいんですよ。恵美と中原さんの間に何があったのか。何が殺人を引き起こしたのかをね」

 夜の新宿。「ライトハウス」で呆然としているジーパン。

 取調室。山さんが京子に「恵美に中原を殺させたのは、あんたじゃないのか? それを恵美が独り占めにした。だからあんたは・・・」「私は何も知らないんです」泣き崩れる京子。

 新宿、ゴリさん、殿下が張り込んでいる。ライトハウスの前の赤提灯で長さんが「親父、人類なんてどうせ長くはないんだ、楽しまなきゃそんだぞ!」と呟く。中原の記事や論文を読んでいるからね。「俺だってな、どうせ先行き、希望がない・・・」そこで長さん「わかった!こういう気持ちの時に、恵美と中原さんは出会ったんだ。そして愛し合った・・・」

 酒に酔って寝ているジーパン。

 取調室。ボスがヒッピー三人組に「じゃ恵美が中原を殺した動機は?」「金なんて一文も取っちゃいませんよ」「じゃ、なぜだ」「俺たち、人の気持ちなんてあんまり考えたことないからな」「でも恵美がそうしたかったからそうしたんじゃないの」「あのおじさんだってよ。もし逃げ出したければ逃げ出せた。でも逃げなかった。きっとああすることが二人にとって一番いいことだったんだ」。ボス「じゃ、中原は殺されるのを望んでいたというのか?」「あの人、絶望していたからね、東京に。なあ」「そう、必ず滅びるって言っていたもんな」。ボス「・・・」

 「絶望」が中原と恵美を結びつけていたのだ。ボスはジーパンが言っていたことを思い出す。大人は長い先のことまで考えているけど、新宿の若者たちはその日その日のことだけしか考えていない・・・と。「死んだ中原さんは、明日にでもくるかもしれない地震を本当に恐れていた。その中原さんが、ある日、恵美のような娘を愛し合ったなら、どうなるかな・・・」とボス。

 深夜2時30分。恵美がタクシーで新宿に戻ってくる。「ライトハウス」で恵美を待つジーパン。恵美は寝ているジーパンの前に座る。「飲んでいい?」「俺はデカだ」「仲間よ」。ウイスキーをグラスに注ぎ飲み干す恵美は、ジーパンに手を重ねる。早朝、手をつないで新宿の街を歩く二人。長さん、ゴリさん、殿下がつける。大ガード、高層ビル。西口公園、中原と最後に過ごした場所。恵美にジーパンが聞く。「教えてくれ、なぜ殺さなきゃならなかったんだ?」「楽しかったの。あの人と一緒だった二日間。あの人も本当に楽しいって言ってくれた。こんな思いのまま、死にたいって。こんな夜明けだったわ」夜明けの二人。

あの日の朝。
恵美「やっぱし、おうちに帰るの? 私のこと置いて」
中原「そうするしかないんだよ。このまま時間が止まってくれれば別だが・・・」
恵美「おじさん・・・」

恵美は包丁で中原を刺した・・・。

ジーパンと恵美。
恵美「どうして?新宿って夜はあんなに怖いに。朝はどうしてこんなに優しいの?」
ジーパン「・・・」

そこへ長さん、ゴリさん、殿下がゆっくり近づいてきて・・・
手錠をかける音。
恵美、ジーパンに微笑む。
たまらなくなったジーパン。走り去り、公園の芝生で「馬鹿野郎」とのたうち回る。

 一係。中原の妻から、三百万円が、大地震に備えた避難袋の中から出てきたとボスに電話。長さん、ゴリさん、山さん、シンコがサバイバル談義。シンコ「やっぱり本当に怖かったんですね。地震が」「そうだよ、家族と一緒に毎日を過ごすのが耐えられないくらいにね」と長さん。そこでボス。

「どうしたんだ?みんな。どんな絶望的な事態になっても、俺は生きるために戦うぞ!そうじゃなきゃ、生まれてきた甲斐がないからな。そうだろ」

 山さん「同感!飯食いに行こう」とみんなを誘って食事へ。ジーパンが戻ってきて「ボス、俺も同感です。飯食ってきます」と頭を下げる。ボス、行ってこいの手を振る。


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