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Jailhouse Rock『監獄ロック』(1957年・MGM・リチャード・ソープ)

6月27日(月)の娯楽映画研究所シアターは、7月1日公開、バズ・ラーマン監督『エルヴィス』への期待が高まるなか、エルヴィス・プレスリー出演映画三作目にして、本格的ロック映画となった『監獄ロック』(1957年・MGM・リチャード・ソープ)をスペシャル版DVDからスクリーン投影。

オリジナル・ロック”Jailhouse Rock”をシャウトしながら、豪快に踊る姿が、のちのスクリーンイメージを決定づけた。作詞・作曲は「ハウンド・ドック」のソングライター・チーム、ジェリー・リーバーとマイク・ストーラー。MGMとしては初のエルヴィス映画『監獄ロック』のために書き下ろされた新曲。シングルとしては「テディ・ベア」の次に当たる。全米チャートで7週間にわたって1位を記録。全英チャートでは3週間1位となった。カップリングは、ラブソングTreat Me Nice「やさしくしてね」

「監獄ロック」がリリースされたのは、映画公開の半年前、1957(昭和32)年4月30日。日本では前年にデビューした石原裕次郎さんがブレイク。ゴールデンウィーク大作ににして、日本で初めて惹句に「アクション・メロドラマ」「アクション」がつけられた『勝利者』(日活・井上梅次)の公開直前。エルヴィスと裕次郎は、生まれもほぼ同じ。裕次郎さんが1934(昭和9)年12月28日、エルヴィスが1935(昭和10)年1月8日。ブレイクしたのもほぼ同時だった。さて「監獄ロック」は日本でも次々とカヴァーされた。最初に歌ったのが、昭和32(1957)年12月31日NHK紅白歌合戦で浜村美智子さんが井田誠一訳でカヴァー(レコード発売は1958年)。続いて小坂一也さんとワゴンマスター、平尾昌晃さんは1958年3月にレコード発売、10万枚を売り上げる大ヒットとなり、昭和33年のロカビリー・ブームを牽引した。

シングル
平尾昌章盤ポスター(提供:ぐらもくらぶ)

さて映画『監獄ロック』である。「ハートブレイク・ホテル」で一躍時代の寵児となったエルヴィスにハリウッドが注目、やり手のパーカー大佐は、専属ではなく各映画会社とより良い条件でショット契約。まずは20世紀フォックスで、リチャード・イーガン主演の西部劇”The Reno Brothers”でリノ兄弟の四男を演じることに。企画当初は”The Reno Brothers”というタイトルだったが、先行発売された主題歌”Love Me Tender”「やさしく愛して」が大ヒット、シングルとしては初のミリオン・セラーとなり、急遽”Love Me Tender”『やさしく愛して』(1956年・FOX・ロバート・D・ウェッブ)とタイトルが変更された。


続いてパラマウントで、プレスリー自身のサクセス・ストーリーを虚実交えて描いた”Loving You”『さまよう青春』(1957年・パラマウント・ハル・カンター)に出演。レコード、テレビ、映画でエルヴィスはまさしく時代の寵児となっていった。

そしてミュージカル王国として、1930年代から音楽映画を得意としてきたMGMが、エルヴィスの出演権を獲得。プロデューサーのパンドロ・S・バーマンは、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの『コンチネンタル』(1934年・RKO)、『トップハット』(1935年)などを手がけ、MGMではジュディ・ガーランドの『美人劇場』(1941年)などミュージカルのエポックを手がけてきた。また、ルーツ・オブ・ロック、ロックン・ロールというジャンルを生み出したビル・ヘイリーと彼のコメッツの「ロック・アラウンド・ザ・クロック」をフィーチャーした『暴力教室』(1955年・MGM)もパンドロ・S・バーマンのプロデュース作品。つまり”新しい音楽”をいち早くスクリーンに持ち込むことにかけては、抜群のセンスを持っていた。

そのバーマンに「プレスリーの映画」を作るようにアドバイスしたのが、彼の妻だった。エルヴィスのマネージャーであるトーマス・パーカー大佐は、映画の主題歌、挿入歌の出版権を条件に、エルヴィスの出演料は25万ドルで契約。プロジェクトがスタートした。バーマンはならば「新しいロック」をフィーチャーしようと、「ハウンド・ドック」のソングライター・チーム、ジェリー・リーバーとマイク・ストーラーに、全曲書き下ろしのナンバーを依頼。

日本版ポスター

原案、ストーリーのネドリック・ヤングは、ゲイリー・クーパー主演『スプリングフィールド銃』(1952年・ワーナー・アンドレ・ド・トス)のシナリオをノンクレジットで執筆。というのも赤狩りのブラックリストに入っていたので、この翌年に『手錠のまゝの脱獄』(1958年・ユナイト・スタンリー・クレイマー)の脚本でアカデミー賞、オリジナル脚本賞を受賞するが、ネイサン・E・ダグラスの変名クレジット、受賞となった。

そのネドリック・ヤングの原作をガイ・トロスバーが脚色。トラック運転手の主人公が、酒場の喧嘩で相手を殴り殺してしまったために、刑務所へ入る。そこでカントリー歌手と相部屋となって、彼から音楽の手解きを受ける。刑務所で出演したアトラクションがテレビ中継されてファンレターが殺到。やがて出所、レコード・プロデューサーのヒロインと出会い、ビギナーズラックでヒット。NBCテレビのショーで「監獄ロック」を歌ってブレイク、ハリウッドに呼ばれるが、主人公が慢心してしまうが、根はやさしい好青年だった… といった、メンフィスのブルーカラー出身の”兄ちゃん”というエルヴィスのパブリック・イメージを、サクセス・ストーリーの中に取り込んでいる。

MGMミュージカルとしては低予算、ストーリーも安易だが、エルヴィスがロックを歌って踊る、その一点で企画されたものなので、ヴィジュアルは素晴らしい。さて、プロジェクトはスタートしたものの、肝心のソングライター・チーム、ジェリー・リーバーとマイク・ストーラーは、ニューヨークで連日、ナイトクラブで遊興三昧。一向に曲が上がってこない。痺れを切らしたプロデューサーは、ニューヨークへ部下を派遣させて、二人にプレッシャーをかけた。追い詰められたジェリーとマイクは、4時間で "I Want to Be Free", "Treat Me Nice", "(You're So Square) Baby I Don't Care" "Jailhouse Rock."など6曲のナンバーを書き下ろした。

中盤のハイライトとなるNBCテレビスペシャルでの”Jailhouse Rock”「監獄ロック」のダンス・シークエンスは、ベテラン振付師、アレックス・ロメロ(アレハンドロ・ベルナルド・キロガ)が担当。ロメロはMGMのダンス・ディレクター、ロバート・アルトンの助手としてジーン・ケリーやフレッド・アステアのナンバーを手がけてきた。幻のジュディー・ガーランド版『アニーよ銃をとれ』(1950年・未完成)”I'm An Indian Too”のナンバーでは、ダンスも踊っている。

エルヴィスは、MGMスタイルの振り付けは「自分はダンスのプロではないし、イメージとは違う」と難色を示した。そこでロメロは、音楽に合わせて「いつものように歌って踊ってみて」と提案。エルヴィスのパフォーマンスをみて「わかった。明日までに振り付けを考えてくるよ」と一晩で、「エルヴィスらしさ」あふれる振り付けを完成させた。それにはエルヴィスも大満足。早速リハーサルを始めた。ところが、エキサイトしたエルヴィスの差し歯のキャップが折れて、エルヴィスが飲み込んでしまい、救急車で病院へまさに映画のクライマックス、映画スタジオで怒った相棒に喉を殴られ救急車で病院に運ばれる主人公と重なる。

エルヴィスが演じた主人公・ヴンンス・エヴェレットのビジネス・パートナーで音楽プロモーター、ペギー・ヴァン・オルデンを演じたジュディ・タイラー。子供向けのテレビ番組”Howdy Doody”でサマーフォール・ウィンタースプリング姫を演じて人気となり、ブロードウェイでも活躍。エルヴィスの相手役に抜擢された。彼を愛しながら、ビジネスライクなヴィンスに自分の心を閉ざしてしまうヒロインを好演。撮影が終了し、公開の三日前、ジュディは夫とともに自動車事故で非業の死を遂げてしまった。エルヴィスはショックのあまり言葉を失い、しばらくは本作を観ることができなかったという。

【サウンドトラック】

♪One More Day

作詞・作曲:シド・テッパー、ロイ・C.ベネット
パフォーマンス:ミッキー・ミッキー・ショーネシー

♪Young And Beautiful

作詞・作曲:アブナー・シルバー、アーロン・シュローダー
パフォーマンス:エルヴィス・プレスリー

♪I Want To Be Free

作詞・作曲:ジェリー・ライバー、マイク・ストーラー
パフォーマンス:エルヴィス・プレスリー

♪Don't Leave Me Now

作詞・作曲:アーロン・シュローダー、ベン・ワイズマン
パフォーマンス:エルヴィス・プレスリー

♪Treat Me Nice

作詞・作曲:ジェリー・ライバー、マイク・ストーラー
パフォーマンス:エルヴィス・プレスリー

♪Jailhouse Rock

作詞・作曲:ジェリー・ライバー、マイク・ストーラー
パフォーマンス:エルヴィス・プレスリー

♪(You're So Square) Baby I Don't Care

作詞・作曲:ジェリー・ライバー、マイク・ストーラー
パフォーマンス:エルヴィス・プレスリー

♪Don't Leave Me Now (Mickey Alba version)

作詞・作曲:アーロン・シュローダー、ベン・ワイズマン
パフォーマンス:ビル・リー



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