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娯楽映画研究所ダイアリー 2021年12月13日(月)〜12月19日(日)

12月13日(月)佐藤利明の娯楽映画研究所「忠臣蔵・シネマティックユニバース」の楽しみ

いよいよ明日、十二月十四日は赤穂浪士が、本所松坂町の吉良邸討ち入り! というわけで「忠臣蔵」マルチバースについて語ってます!

12月13日(月)『アメイジング・スパイダーマン2』(2014年・マーク・ウェブ)・「大忠臣蔵」第50話「討入り一」第51話「討入り二」

連夜の「忠臣蔵」と「スパイダーマン」連続視聴。娯楽映画研究所シアターは、アマプラで『アメイジング・スパイダーマン2』(2014年・マーク・ウェブ)をスクリーン投影。

ついこの前、劇場で観たばかりと思ったらすでに七年も歳月が過ぎていたんだ。アンドリュー・ガーフィールドの「青春映画」としてのこのシリーズ、結構好きです。今回のヴィランは、ジェイミー・フォックスの「エレクトロ」と、仕切り直しでデイン・デハーン演じるハリー・オズボーン=グリーン・ゴブリン。

物語の組み立て方も悪くない。ピーターが亡き父・リチャード・パーカー(キャンベル・スコット)と母・メアリー・パーカー(エンベス・ディヴィッツ)の失踪と死因を調べるサイドストーリー。高校を卒業して、それぞれの道を歩み始めるグウェン・ステイシー(エマ・ストーン)への想い。その辺りを、マーク・ウェブは割とじっくり、むっちり演出。

今回は『女王陛下の007』なので、クライマックスはなかなかヘビーだけど、それゆえ、5ヶ月間、スパイダーマンをやめていたピーターが、アレクセイ・シツェビッチ=ライノと対峙するラストがなかなかいい。

このままパート3になるかと思っていたら、MCUに組み込まれトム・ホランドのピーターが『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』で参戦して、現在の流れになった。それはそれで楽しいが、アンドリュー・ガーフィールドでもう一作、観たかったなぁ。

で、今度の『スパイダーマン:ノーウェイ・ホーム』には、エレクトロも登場するので、それはそれで楽しみ。

今宵は、三船プロ「大忠臣蔵」第50話「討入り一」第51話「討入り二」をスクリーンで連続投影。フィルムで撮影された90分の討入り。豪華キャスト、演出、クオリティを堪能。夏から見始めて、12月14日に最終回を観ようと逆算しての「討ち入り」だけに本懐を遂げた達成感あり(笑)

池田一朗脚本は、皆さまご存知のエピソードを描きつつ、ちゃんと柳生の隠密たちの暗闘。お蘭(上月晃)の千坂兵部(丹波哲郎)への愛を描きつつ、1年間の伏線を次々と回収。なんといっても吉良邸での小林平八郎(芦田伸介)の闘いっぷり! 橋の上で大高源吾(御木本伸介)と二刀流で立ち回り。斉藤清左衛門(今井健二)もカッコ良かった!

で、炭小屋に逃げ込んだ吉良上野介(市川小太夫)をガードする清水一学の「もはやこれまで」の一言。そして盟友・堀部安兵衛(渡哲也)との約束の対決! 天知茂さんVS渡哲也さん!これはたまらんね。

浦和から早馬を飛ばして来た千坂兵部が瀕死のお蘭に「死ぬなよ」と声をかける。ああ、名場面の連続で、浪士たちが無事、本懐を遂げるところを見届け候。

今回のベストアクトは、六代目・市村竹之丞さん!大目付・仙石伯耆守を情感たっぷりに演じてくれました! つまり五代目・中村富十郎さん。いやあ、素晴らしい。吉田久右衛門(中村伸郎)と富森助右衛門(石田太郎)の二人が、討ち入り後に自首してきた時に、労を労うシーンが素晴らしい。
あとは、表門隊で頑張る、間十次郎を演じているのは、蜷川幸雄さんでありました!

12月14日(火)『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021年・エドガー・ライト)・「大忠臣蔵」第52話「切腹」

エドガー・ライト監督『ラストナイト・イン・ソーホー』。1960年代半ばのスゥインギン・ロンドンにタイムスリップ。ロバート・ワイズやヒッチコックのサイコサスペンスのような映画体験。かなり好み!ホラーとしても60年代映画としても。描写はいろいろアレだけど。エロイーズと音楽の趣味が完全一致!

強烈、鮮烈、先の読めない展開。スインギン・ロンドンへのタイムトリップ。選曲の趣味の良さ。次第にハマー・ホラーのテイストになり、その先の切なさと哀しみ。であと口の良さ!

1960年代、スゥインギン・ロンドンの再現。「おしゃれ㊙︎探偵」のダイアナ・リグ、『蜜の味』のリタ・トゥシンハム、そして『コレクター』のテレンス・スタンプたち60年代のレジェンドの出演。『007/サンダーボール作戦』上映中の映画館。次々と流れるヒット曲。哀しくて怖くて切ない、サイコホラー映画なんだけど、センスが良くて、やっぱり好きだなぁ。

楽曲では、モチーフとなる、アニャ・テイラー=ジョイがカバーした”Down Town”もさることながら、シラ・ブラックの"You're My World"の使い方が見事。歌詞の内容と映画の展開がリンクする。60年代ポップスを大事にしてくれているのが嬉しい。レノン&マッカートニーの”A World Without Love"をピーター・アンド・ゴードンが歌ったバージョンも、歌詞が映画とリンクする。ああ、誰かと語り合いたくなる映画!

14日(火)は、小学校の同級生四人で、二年ぶりに分科会を銀座ライオンにて。楽しき哉。帰宅後、夏から鑑賞してきた三船プロ「大忠臣蔵」最終第52回「切腹」を、スクリーン投影。池田一朗脚本、村山三男監督。大石内蔵助、吉田忠左衛門(中村伸郎)、河野秋武たちが預けられた細川家の堀内伝右衛門(志村喬)がいい。ともあれ「大忠臣蔵」完走しました!

12月15日(水)「ホークアイ」第5話

両国で、久しぶりに細野辰興監督と映画談義。酒を酌み交わしながら映画の話をする楽しさを噛み締めた。話題は『キューポラのある街』(1962年・浦山桐郎)と続編『未成年』(1965年・野村孝)から、今村昌平監督と黒澤明監督。そして「忠臣蔵」映画などなど。あっという間に時間が過ぎてゆく。細野監督ともかれこれ、長いお付き合い。映画ファンとしては大先輩ではありますが、気の置けない映画仲間でもあります。

帰宅後、ディズニー+「ホークアイ」第5話。いよいよ『ブラックウィドウ』(2021年)とリンク。エレーナ・ベロワ( フローレンス・ピュー)がマカロニを食べるシーンが良かった。しかし、しかしまさかの展開に、最終回も見逃せない。

ナターシャの妹・エレーナ・ベロワ

12月16日(木)『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年・ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン)・『忠臣蔵 雪の巻』(1962年・東宝・稲垣浩)・「日本沈没」第1話・第2話

「スパイダーマン:スパイダーバース」(2018年・ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン)を劇場公開以来、久しぶりに。映画版を7本観たところで、やはりこの傑作は素通りできない。スパイダーマンがいる、別々の世界が、いわゆるマルチバースがあって、各世界のスパイダーヒーロー、ヒロインがニューヨークに集結。時空をいじくる悪党キング・ピンの策謀を打ち砕く。という「スパイダーバース」の世界。

しかも主人公はピーター・パーカーではなく、黒人の高校生・マイルズ・モラレス。地下鉄の幻の駅構内で、グラフィティを描いてるときに、クモに咬まれて、スパイダーマンの能力を授かる。で、ウィルソン・フィスク(キングピン)が加速器を使って異次元の扉を開こうとしているところを、スパイダーマン(ピーター・パーカー)が現れて阻止しようとするが失敗。ピーターは死んでしまう。ところが、マルチバースからピーターBパーカー、スパイダー・グゥエン(ステイシー)、スパイダーマン・ノワール。ペニー・パーカー、スパイダー・ハムらが次々と登場。キングピンの野望を打ち砕いて、自分達の世界へ戻るために共闘する。

奇想天外なプロットだが、ダメダメ高校生のマイルズが、叔父を喪失し、自分の「大いなる力」に「大いなる責任が伴なう」ことを悟るまでのドラマは、これまでの「スパイダーマン」のセオリー通り。マーベルらしくスーパーヒーロー軍団の共闘のクライマックスが楽しい。

ピーターBパーカーは、もはや中年でお腹もでて、M Jとの結婚が破綻してさえないオヤジになっているが、若きマイルズにかつての自分を見出して、寅さんと満男のような感じになるのがいい。スパイダー・グゥエンも、自分の世界ではピーターを死なせてしまった後悔があり、マイルズとピーターBパーカーに暖かい眼差し。アベンジャーズのブラックウィドウの役回り。

と、芯になるドラマがきちんとしているので、どんなに脱線してもブレない。それはアチャラカ劇の基本なんだけど^_^ だから、クライマックスがとにかく面白い。しかも、正月映画「スパイダーマン:ノーウェイ・ホーム」もこのマルチバースが、骨子なので、未見の方にはオススメしておきます。

12月17日(金)「プレゼント・ラフター」・『土屋主悦 雪解篇』(1937年・松竹下加茂・犬塚稔)・『嫌い嫌い嫌い』(1960年・大映東京・枝川弘)・「日本沈没」第3話・第4話

松竹ブロードウェイシネマ。ノエル・カワード作、ケヴィン・クライン出演「プレゼント・ラフター」試写。お見事、見事。とにかくセリフも、シチュエーションも、役者も見事。シールドのマリア・ヒル役のコビー・スマルダーズが最高に美しい。瀬川昌治監督にお見せしたかった!これぞコメディ!

CCU・忠臣蔵シネマティック・ユニバース研究で『土屋主悦 雪解篇』(1937年・松竹下加茂・犬塚稔)をアマプラでスクリーン投影。林長二郎さんが土屋主悦と、赤穂浪士・杉野十平次の二役を演じての「隣の家の主人が見た討ち入り」外伝。なかなか面白く、吉良上野介を上山草人さんが演じている。中村芳子さんが、杉野十平次の妹・お園を演じ、土屋家に奉公。クライマックスの討ち入りが、結構ちゃんと撮影されていて1時間(現在の版)の短い尺で、浅野内匠頭一周忌から討ち入りまでをコンパクトかつ、割と丁寧に描いている。ラストに、まだ幼い林成年さんが登場、林長二郎さんと絡むサービスカットあり。

続いて、アマプラで源氏鶏太原作『嫌い嫌い嫌い』(1960年・大映東京・枝川弘)。叶順子サマは主演扱いだが、ワン・オブ・ゼムのヒロイン。三田村元さんの熱血サラリーマンは、秋田の鉱山勤務で叶順子さんに惚れていたが、社長・小川虎之助さんの命で東京勤務となる。それもグループ会社会長・菅井一郎さんの命で、孫娘・金田一敦子さんのお婿さん候補として。グループ会社から集められた候補は、伊丹十三さん、田宮二郎さん、三角八郎さん、松本幹二さんたち。面白くなりそうな題材なのだけど、さすが枝川演出、シナリオではちゃんと描かれているのに、映像になると前後の繋がりがよくわからなくなり、唐突感の連続(笑)

そして、テレビ版「日本沈没」第3話「白い亀裂」(西村潔)&第4話「海の崩れる時」(同・脚本はいずれも山根優一郎)。小松左京先生じゃなくて、菊田一夫原作といってもおかしくないほど、完全なる「すれ違いのメロドラマ」を呈してきた。特に、玲子(由美かほる)に横恋慕した吉村部長(仲谷昇)の悪意は、完全に「松竹メロドラマ」の世界。というか番匠の『渦』で岡田茉莉子さんを虎視眈々と狙う仲谷昇さんとほとんど同じようなキャラ(笑)四話のラスト、小野寺の亡くなった恋人・悦子(望月真理子)の墓前で、小野寺との交際の赦しを乞うあたり、昭和30年頃のメロドラマ感覚(笑)しかも、そこに大地震、地割れに落ちる玲子!ジープで姫路に向かう小野寺のカットバック。ああ、メロドラマの王道! テレビ版「日本沈没」は、ご当地、特撮メロドラマだったことに、今更気付いた(笑)

12月18日(土)『義士外伝 忠僕直助』(1937年・日活京都・国木田三郎)・『パワー・オブ・ザ・ドック』(2021年・ジェーン・カンピオン)・「日本沈没」第5話・第6話

CCU忠臣蔵シネマティック・ユニバース。今宵は、講談でお馴染み『義士外伝 忠僕直助』(1937年・日活京都・国木田三郎)。「松の廊下」の数年前、赤穂藩士・岡嶋八十右衛門(尾上菊太郎)が、大野九郎兵衛(瀬川路三郎)に刀のことで馬鹿にされて悔しい思いをする。八十右衛門の中間・直助(原健作)は、大阪へ行き、刀工・津田越前守助広(志村喬)に弟子入り。三年の修行の甲斐あって立派な刀工となり、浅野内匠頭の誕生祝いの名刀を作り赤穂城へ・・・ 講談そのままの展開で、主人の悔しさを晴らすカタルシスは、まさに「忠臣蔵」外伝。なかなか楽しかった。

続きましては、Netflixでジェーン・カンピオン監督が今年のベネチア国際映画祭コンペティション部門で銀獅子賞を受賞した『パワー・オブ・ザ・ドック』をスクリーン投影。1925年のモンタナ。独善的な牧場主・フィル(ベネティクト・カンバーバッチ)とは、対照的な、心優しき弟・ジョージ(ジェシー・プレモンス)が、未亡人・ローズ(キルスティン・ダンスト)に求婚。兄の反対をよそに牧場にローズを連れてくるが・・・ カンバーバッチが圧倒的に良い。昔ならスペンサー・トレーシーがやってたかも?というエゴイストだが実は・・・というキャラ。でローズの連れ子で、医学生でひ弱なピーター(コディ・スミット=マクフィー)が夏休みに牧場にやってきて、フィルは彼に男としての生き方を教えようとする。と、ジョン・ウェインの時代なら「男の世界」になっていくのだけど、そこはジェーン・カンピオン。表層的には「西部劇」なのだけど、それぞれの抱え込んでいる問題がチラチラと出てきて、タフガイ伝説をぶち壊していく展開。さらには、甥っ子・ピーターが・・・というクライマックスに、ふむふむ、となった。しかしキルスティン・ダンストがやたら「ピーター」と呼ぶと、スパイダーマン脳が発動して(笑)

ジェーン・カンピオン『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は、クロエ・ジャオ『エターナルズ』同様、とにかくロケーションのヴィジュアルが美しい。ハリウッドの西部劇が作り上げてきた「タフガイ」「マッチョ」ヒーローの伝説、男性中心主義を、内的に覆していく。

「これぞ西部の牧場主」という感じのカンバーバッチの主人公に、肩入れして観ていくと、彼の屈託のルーツである秘密に触れて「おお、そうなのか」と結構ショックだった。

テネシー・ウイリアムズの戯曲みたいな、キルスティン・ダンストのヒロインの壊れ方。そして、後半その息子が淡々と事態を急展開させていく構成。それも含めて優れた作品。ものすごく「乾いた」映画であるけど。

そして今宵のテレビ版「日本沈没」は、長坂秀佳脚本の第5話「いま、島が沈む」(長野卓)第6話「悲しみに哭く大地」(西村潔)。日本列島が壊れる前に、相当ドラマが壊れてきて(笑)それは、小野寺と玲子の「メロドラマ」としての「障壁」を無理やり作っているからで、まあ、これは松竹大船メロドラマと全く同じ構造なので、作り手の確信犯。仲谷昇さんだけでなく、村井國夫さんまで投入して、小野寺と玲子の恋路をメチャメチャにする。五話は、小笠原の南、南が島が沈む大特撮。老人と子供しかいない過疎の島での大パニック。戦前からの東宝俳優、神田敬二さんと、木田三千雄さんの大喧嘩はかなりの見どころ。六話は、D計画を外された田所博士が、妄言を吐いたとされて警察に勾留。担当刑事は堺三千夫さんと加藤茂雄さん。特撮に、メロドラマに、バイプレイヤー、そしてどうかしているドラマ展開。やっぱり「日本沈没」は面白い!

12月19日(日)『マトリックス』(1999年・ワーナー・ウォシャウスキー兄弟)・「日本沈没」第7話

古谷敏さんと阿佐ヶ谷ネオ書房でお目にかかり、その後、来年に向けての打ち合わせ。久しぶりの邂逅だったので話も弾んで、楽しいひととこでした。

帰宅後、1999年の試写以来、22年ぶりにウォシャウスキー兄弟『マトリックス』をスクリーン投影。改めてみると、丁寧に作られたSFアクション映画であることに驚く。当時は、実はさほどでもなく、三部作も「ふうん」という感じだったが、その後のMCUに連なるアメコミ映画を観てくると、ああ、これが原点だったのかと。娯楽映画としても、ハッタリ、スケール感、ディティールともに、親切というかきちんとしていて、本寸法。というわけで、三部作を観てから、最新作に赴くということで(笑)

そして深夜のテレビ版「日本沈没」第7話「空の牙、黒い龍巻」(西村潔)。しかし玲子(由美かおる)の災害遭遇率の高いこと! 天城山噴火→津波→姫路大地震→逗子の自宅の土砂崩れ→横浜新道陥没→箱根地震→潮来大竜巻と、毎回の見せ場に大体居合わせていますなぁ。「君の名は」の東京大空襲のように、「日本沈没」の災害は、小野寺(村野武憲)と玲子の恋愛の障害でもあるし、吉村部長(仲谷昇)の悪意も回を追うごとにエスカレート。ドラマとしてどうよ、のレベルなのだけど、それが災害シーンと同じくらい、このドラマの面白さになっている。小松左京先生のハッタリとは違う意味での昼メロ的なハッタリのために、登場人物のキャラクターや言動がブレまくっているのがすごい。というわけで次回も目が離せない(笑)


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。