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太陽にほえろ! 1973・第65話「マカロニを殺したやつ」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第65話「マカロニを殺したやつ」(1973.10.12 脚本・長野洋、小川英 監督・山本迪夫)

永井久美(青木英美)
早見淳(萩原健一 第38話、第52話、前OPより)
木村夏子(津田京子)
糸山譲(村山達也)
井沢義男(水谷邦久)
タレコミ屋のロク(沢村いき雄)
煙草屋の店主(戸田春子)
松ヶ根荘の主婦(田畑ゆり)
ビル工事関係者(池田生二)
糸山の舎弟(藤田漸)
現場監督(亀井三郎)
夏子の恋人・学生(山西道広)
バーテンダー(桜井克明)
糸山の舎弟(島もとき)
西山署長(平田昭彦)
鑑識課員(今井和雄NC)
若尾義昭(マスターNC)

予告篇の小林恭治さんのナレーション。
「かつての仲間、マカロニを殺した犯人をいまだに挙げることができない刑事たちの苛立ちは、次第にエスカレートしてくる。次回「マカロニを殺したやつ」にご期待ください。」

 マカロニ刺殺犯を探し続けてきた山さんの本庁の栄転が決まる。そんな時に犯人へつながる糸口が朧げながら見えてくる。視聴者の「マカロニ・ロス」がこの回で一気高まった。シリーズ屈指の傑作の一つ。マカロニを殺した奴・水谷邦久さんの終始無言の演技。村山達也さん演じるチンピラの無軌道な暴走への山さんの怒り。山村刑事の矜持。とにかく露口茂さんが素晴らしい! そして一係の刑事たちの「マカロニへの想い」と「仲間たちの結束」。ドラマの展開といい、テーマといい、改めて見直しても傑作であることを再認識した。このエピソードは一年3ヶ月続いてきた「太陽にほえろ!」の成熟の証であり、番組の個性をきちんと打ち出した代表作の一つである。

 捜査第一係の部屋の前、マカロニこと早見淳(萩原健一)が遅刻してくる(38話の映像)。そしてゴリさんの復讐を果たして犯人逮捕した時の乾杯のビール(52話の映像)。住友ビル建設現場で通り魔に刺殺されるマカロニ・・・。うたた寝をした当直のゴリさんの夢だった。あれから3ヶ月。マカロニを殺した犯人はいまだに捕まっていない。「あいつ、尻を叩きにきたかな」

 ビルの建設現場。山さんが訪れている。現場監督(亀井三郎)が工事関係者(池田生二)に山さんを紹介する。マカロニ刺殺事件の話をする現場監督。関係者は「確か、捜査本部を解散すると聞きましたが・・・」。山さんはまだ犯人を個人的に追っているのだ。

 一係、ゴリさんはマカロニの夢を見た話をみんなにしている。「あいつ遅刻して入ってきやがって・・・」シンコが続きをききたがる。「あいつ最後に苦しそうな顔しやがったな」。全員無言・・・。「刺されたとき、あんな顔したんじゃないかな」とゴリさん。「かわいそうに、痛かったでしょうね」とシンコ。マカロニを知らないジーパンは久美に「みんなに好かれてたんだな・・・」。そこへ山さんが入ってくる。

 山さん、署長室に呼ばれる。山さんが本庁の捜査一課に栄転することになったのだ。西山署長「君のようなベテランを手放したくないんだが、本庁の一課長からどうしてもキミが欲しいと口説かれてな」。ボスにも相談して快く「君を出すことにした」と晴れがましい表情の西山署長。しかし山さんの顔色は曇っている。七曲署屋上。ボス「チャンスってものはそう滅多にくるもんじゃないぞ。あんたほどの人をいつまでも俺の下で働かすわけにはいかないよ」「なあ山さん、立ち入ったことを聞くようだが、あんた奥さんと結婚する時に、かなり反対されたんだろ? それでもあんたたちは結婚した。あんたも苦しいことも多かったろうが、奥さんの方がもっと辛かったんじゃないのか? 少なくとも奥さんにとっては何よりのプレゼントじゃないのか?」。ボスは心臓が悪い、山さんの妻・高子のことも考えての栄転受諾だった。「行ってくれるな?」黙って頭を下げる山さん。長さん、ゴリさん、殿下、シンコ、久美たちも屋上にやってきて、栄転を祝福する。

 おめでとうはいいけど、部屋を空っぽにして大丈夫か?とボス。そこへジーパンが走ってくる。「ボス、三光町で恐喝です!」。山さん、ジーパンを伴って現場へと向かう。

 一係。ゴリさんが電話を受けると。喧嘩の通報。こうして一係の日常がまた動き出す。新聞の見出し「白昼高校生 ゆすられる」。ビリヤード場からはゴリさんに連行される喧嘩の加害者、殿下が付き添う被害者。また新聞の見出し「愚連隊が大立ち回り 一人重傷!」。コインロッカーに野次馬が集まっている。長さんとシンコやってきて、中を確認。新聞には「また ロッカーに 赤ちゃんの死体」。新宿駅ホームの喧騒、見出し「駅のホームで高校生同士の乱闘!!」「この子の母親を探して」「喫煙を注意されて 乱暴!」「オートバイ 死の暴走」。ビルの建設現場のショットに「また 若者が 死んだ」。三面記事の一つ一つに、刑事たちの捜査があるのだ。

 山さんとジーパン。小田急線沿線の歩道を歩く。山さん思うところがあって「先へ帰っててくれ。ちょっと寄り道していく」とジーパンに告げて、どこかへ。

 一係。一仕事と終えたゴリさん、殿下に久美がお茶を入れている。そこへジーパンが帰ってくる。山さんが寄り道と聞いて、殿下「また例のコースじゃないんですか?」納得するボス。

 川でドブさらいをしているショベルカー。遠くから山さんが歩いてくる。刑事の地道な捜査とドブさらい重ね合わせている。タバコやのおばあちゃん(戸田春子)に「よお」と声をかける山さん。「毎日ご苦労様です」「一日一回はおばあさんの顔を見ないことには落ち着かないんでね」。山さん、
マカロニが刺殺された現場へ。「マカロニ、お前が死んだ場所もうすぐなくなってしまうぞ。それにな、本庁勤務になれば、俺ももう毎日は来られん」と山さんの心の声。山さんは毎日、聞き込みを続けながら、マカロニが亡くなった場所へ立ち寄っていたのだ。

 その話を殿下から聞くジーパン。「知らなかったなぁ」。一係へゴリさん宛に電話。タレコミ屋のロクさん(沢村いき雄)から、スナックで若者が酔った勢いで「前にデカを刺したことがある」と自慢話をしているとの情報だった。ベテラン・バイプレイヤー・沢村いき雄さんは、東宝映画の歴史そのもののような人。出てくるだけで嬉しい。

 七曲署に帰ってくる山さんに、殿下が運転する覆面からゴリさんが顔を出し「乗ってください」と山さんを乗せて発進! 後部座席にはジーパンも乗っていた。ロクさんと会うゴリさんたち。その様子を店内から見ていた若者が逃げ出す。その仲間たちが「なんだよテメエは!」ゴリさん。張り倒す「邪魔すんな!」派手なアクションがスナックで繰り広げられる。山さん「もたもたすんな!」とジーパンを怒鳴りつける。みんな殺気だっている。

 スナックの通用口から、糸山譲(村山達也)が逃げようとすると殿下が待ち構えている。「待て!」と殿下が追いかける。遅れてジーパンが後を追う。新宿東口の協和銀行前、糸山は走る、殿下も走る。飲み屋街で子供にぶつかる糸山。殿下、泣き出す子供を無視して男を追う。しかしジーパン、見て見ぬ振りはできない。殿下、糸山を追い詰めて銃を構える。逃げ出そうとしたので発砲!「撃たないでくれ」

 新聞の輪転機が回る。「刑事殺しの 有力容疑者 逮捕さる」

 七曲署・取調室。ゴリさんの怒号が飛ぶ「惚けるな!デカを殺したって言っていたという証言があるんだ」。しかし糸山は「あれは口から出まかせだよ」。山さん、ゴリさんを静止して「口から出まかせとは大胆なことを言ったもんだなぁ」「スナックで会ったチンピラたちにハッタリを噛ませようよ思ってつい・・・」。ゴリさん「貴様がチンピラのくせに、何言ってやがんだ!」「俺はチンピラでねえ!」。熱くなるゴリさんをまたまた静止して山さん。「お前がやったんじゃないんなら、どうしてあの時逃げたんだ?」。糸山は開き直る。「そんなに俺を犯人にしたいんだったら、証拠をあげてもらおう。証拠を」

 しかし糸山には、事件当夜のアリバイが会った。供述通り、九州の博多にいることが確認された。シンコ「じゃあ、シロなんですね」。長さん「そういうことになるな」しばらく考えて「マカロニ以外の警官殺しは全部カタがついているし・・・」。シンコは納得がいかない。「じゃ、どうしてあんなことを?」。糸山は地方から出てきて間がないから、東京の人間になめられまいと「ああいう駄ボラを吹いたんじゃないのかな」と分析する長さん。他に起訴するほどの材料がないため、このまま糸山を釈放することに。糸山のナイフは街の運動具屋で売っているありふれた登山ナイフに過ぎなかった。

 身の回りの品をポケットにしまう糸山。口ずさむのはピンからトリオの「女のみち」。この歌い出しを聞いているとどうしても「8時だョ!全員集合」のカトちゃんのお巡りさんのコントを思い出してしまう。カトちゃん、これを歌いながらヨロヨロ自転車を運転してきて「どうも、スんズレイしました」(笑)この頃、破壊的ギャグとして子供たちに大流行していた。山さん、ナイフを手にして「なんなら、これ預かっておいてもいいぞ。こんなものを持っていたら、ろくなことにならん。大怪我の元だぞ!」

 糸山に「お前仕事あるのか?」「へえ、東京の警察は職安もやっているのかよ」どこまでも太々しい男だ。糸山は自分を撃ったデカに一言挨拶をしたいなどと嘯く。業を煮やしたゴリさんが胸ぐらを掴む。「呆れたなぁ、ここは暴力警察かよ!」。七曲署前で、糸山を待ち受ける舎弟(藤田漸・島もとき)たち。これでずいぶん糸山はハクを付けたようだ。

 取調室。放心状態のゴリさん。無言の山さん。二人ともマカロニのことを考えている。山さん「あんな奴かもしれんな。マカロニを殺った奴さ・・・後先を考えずに衝動的に突っ走る。そんな奴が多すぎる」。ゴリさん「今の若い連中はみんなそうですよ」。山さん「それだけが若さか・・・」。手にしていた鉛筆を二つに折る山さん。そのカットの新聞の見出し「刑事殺しの 容疑者はシロ!!」「逮捕に際して 行き過ぎ!?」。殿下の「拳銃使用が問題化」の見出しも・・・

 一係。西山署長、ボスと殿下、ゴリさんを前に激怒している。「通行人があるにも関わらず、拳銃を使用したというのは一体どういうことなんだ!」謝る殿下は「私としては絶対の自信があったからです」「その自信が失敗の元になるんだ!」。そしてゴリさんに「あんな子供みたいなチンピラを捕まえるのに、椅子やテーブルを幾つ壊せば気が済むんだ(スナックのことね)!」。弁解無用と言いながら署長はクドクドと「大体君たちはだな!」と説教を始める。ボス、それを制止するように「わかりました。全て私の責任です。申し訳ありません・・・まだ何か?」。忌々しそうに部屋を出ていく署長。

 ゴリさん「終わった終わった」。殿下「ボス、おかげで助かりました」と笑いながら礼を言うが、ボス真顔で「馬鹿者!ニタついている場合か! お前たち、糸山を逮捕に行った時、マカロニのことが頭になかったか?」。一係の全員が振り向く。「あったろ? あって当たり前だ! 誰だってマカロニを殺した奴は憎い。そいつが目の前にいたら、俺だってぶち殺してやりたいと思うかもしれん。その感情を抑えることができなかったら、俺たちはただの暴力団と一緒だ!いいか、俺たちはデカだ。そのことを絶対に忘れるな!」。ゴリさんと殿下、「はい」と頭を下げる。

 それを聞いていたジーパン。「なんか、マカロニって人が羨ましくなったな」。シンコが「どうして?」と聞く。「みんな、彼のために、一生懸命になってるでしょ?で、もし、俺が死んだら・・・」そこまで言ったところで、長さんが「馬鹿野郎!」と怒鳴る。「お前、仲間を亡くした人間の気持ちがわかっているのか?」「仲間・・・」「俺はな、長いデカ暮らしの中で、何人かの仲間を失ったよ。マカロニのように殺された奴もいれば、無理が祟ってぼっくり死んだ奴もいる。その度に、残された奴らがどんなに辛い思いをしたか。俺はもうごめんだ。これ以上、仲間を失うのはまっぴらだ。」「長さん・・・」「デカは危険な商売だ。だからこそお互いに助け合って・・・死んじゃいかん、絶対に死んじゃいかんのだ!」

 ジーパンにもその気持ちは伝わった。優しく微笑むシンコ。殿下がジーパンの肩に手をかけ、ゴリさんは頭を撫でる。みんな仲間なんだ。ジーパン、一係を出て新宿の街を走る。歩道の欄干で、じっとたたずむジーパン。思い立ち、走ってマカロニ終焉の地へ。「山さーん」。工事現場を見上げる山さんに声をかけるジーパン。二人で署に帰る。

 署長室。西山署長は山さんを捜査活動から外せとボスに命じる。「今度の行き過ぎ事件は、山村の成績にも響く、と言うことだよ。逮捕時に現場にいながら、若い連中の暴走をチェックできなかったんだからな」「本庁への栄転に影響する。ってことですか?」「これ以上、おかしなことになると、山村の転任は取り消しになるかもしれんぞ」。山さんを本庁に無事送り出すためにも、一切の捜査活動から外した方がいい。と、西山署長のことなかれ主義がここでも発動する。

 ジーパンと歩く山さん「お前も妙な奴だな。これは俺の道楽でやっているんだ。いくら付き合っても一銭にもならんぞ」。ジーパンも「俺も道楽で付き合うことに決めたんです」。いつもの川のドブさらいに、ふと目をやると、ショベルカーがアイロンを釣り上げている。不審に思った二人が確かめると、アイロンに括り付けてあったのは真っ赤に血で染まったシャツだった。

 一係。ボスがペンをいじりながら、何かの結果を待っている。ゴリさんも部屋を歩き回っている。虚な顔でタバコを加えている山さん。チラリと時計に目をやる長さん。一点を見つめたままのシンコ。じっとして微動だにしないジーパン。その静寂を破ったのは、久美が湯呑みを落としてしまった音だった。殿下が鑑識の結果を持って走ってくる。

「血液反応が出ました。マカロニの血液型と同じです。ズボンの長さから推定してホシは160センチぐらいの小柄の男です。」
「これで手がかりが三つになったな。殺されたマカロニが握っていた、一本の髪の毛。160センチ程度の小柄な男。そして、その男の足取りだ」
ボスは続ける。
「事件当時、我々は一つの仮説を立てた。つまり、ホシは殺人現場からそう遠くないところに住んでいると推定した。その理由は、マカロニの状態からみて、ホシはかなりの返り血を浴びていると思われたからだ。いくら真夜中とはいえ、そんな状態で長時間うろつけば、誰かの目に止まる。その推定は当たった。今日、衣類が発見された溝川と、殺人現場は、直線にして500メートルも離れていないからだ。にも関わらず、ホシは影さえ浮かんでこなかった。何故だ?」。

 そこで山さん「女だ。アイロンだよ」。男でも持ってる奴はいるだろうが、発見されたアイロンの握りは毛糸のカバーで包んであった。男はそこまではしないだろうと推理する山さん。ゴリさん「あの近辺でボーイフレンドや恋人のいる女は徹底的に洗ったはずですよ」。山さんは「だが、どこかで落ちこぼれがあった。どこかで見落としたことがあったはずだ」

 一係は、もう一度聞き込みからやり直すことにした。ゴリさんと殿下、ジーパンは溝川中心に廻り、長さんとシンコは衣類とアイロンの線を洗うことになった。しかし山さんにボスは「あんたもうすぐ転任だ。それに、今までの残務整理もあるだろうしな」「署長命令ですか?」「・・・」「署長に伝えてください。私にとっては、マカロニのホシを挙げることが、何よりの残務整理だと」。ボスは少し考えてから「よし、行ってくれ」。男と男の言わずもがなの信頼関係。ボスは全てを飲み込んで、山さんの思い通りにさせる。こういうシーンに、子供のころ、本当に痺れた。

 新宿・伊勢丹前で、ゴリさんが聞き込み。ロングショットで時代の空気感が伝わってくる。殿下はアパートの主婦から聞き込みをしている。ジーパンは現場近くで遊ぶ小学生たちから話を聞いている。マカロニ終焉の地を歩く山さん。長さんはジーパンショップの店員に聞き込み。シンコは街の電気店でアイロンについての聞き込みをしている。刑事たちからの報告を次々と受けるボス。久美ちゃんも忙しそう。夜、聞き込みを元に、地図に犯人の行動をマッピングしていくボス。一係の面々。地道な捜査は翌日も続く。この数分間にわたるるモンタージュが素晴らしい。大野克夫さんの音楽だけで、全てが伝わってくるのだ。

 山さん、ジーパンを連れて、いつものおばあちゃん(戸田春子)のタバコ屋で一息入れている。そこへ主婦が走ってきて赤電話の受話器をあげて「おばあちゃん。これ110番かかる?」。ジーパンが警察手帳を見せると「よかったわ、空き巣に入られたのよ。ちょっときて!」。おばあちゃんによれば近くの松ヶ根荘の主婦と言うことだった。「あそこのアパートはよく空き巣に狙われるねえ」。おばあちゃんによれば、山さんが来るようになった頃、喫茶店に勤めている若い娘が、男と遊び歩いて、明け方に帰ってきたら、部屋の中に泥靴の跡がついていたという。しかも「何を盗られたか、わからないんですって」

 松ヶ根荘。ジーパンが被害のあった部屋を検証する。山さんは住人の主婦(田畑ゆり)に聞き込み。その隣の部屋の女性・木村夏子(津田京子は先月に転居していた。面倒臭いから警察に被害届も出していなかった。山さんに問われて、主婦は「後でアイロンが見当たらない」と言っていたことを思い出す。

 山さんは夏子の勤め先だった喫茶店へ。若尾義昭(マスターNC)によれば、夏子は先月に辞めていた。夏子は郷里の愛知県に帰っていた。喫茶店で流れているのはチェリッシュの「若草の髪かざり」の歌のない歌謡曲。長さん、新幹線で名古屋へ向かう。

 一係。愛知県警に行った長さんからボスに電話。木村夏子は帰郷していなかったことが判明。しかし実家には、金の無心の手紙がきていたので住所は明らかになった。神奈川県川崎市多摩区・・・。南武線の高架下を歩いて、夏子のアパートへ向かう山さんと長さん。「私、何も悪いことしてないわよ」と夏子。部屋には若い男がいるようだ。「聞きたいことがあるんだ」と夏子を外に連れ出す山さん。ジーパンは部屋の中へ入る。

 多摩川の支流のほとり。山さんが夏子の話を聞きながら歩いている。「彼氏、学生か?」「そう」「卒業したら結婚するのか?」「わかんないわ、そんなこと」。山さんは空き巣に入られた時の話を聞く。「アイロンを盗られたんだって?」「そうなのよ。だけど変な泥棒よね。アイロンとジーパンだけを奪っていくなんて」「ジーパン?」。さらに夏子は「もしかしたら、ストライプのTシャツもあの時盗られたのかしら?」。山さん、真顔になる。

 夏子のアパート。同棲している学生・学生(山西道広)は無言で少年漫画誌を読んでいる。ジーパンは上がり框に座って、学生に話しかける「あんた、身長いくつ?」「180だけど・・・俺、学生運動なんかしてないぜ」。山西道広さんはのちに松田優作さんの「探偵物語」(1979年)の松本刑事役となるが、この第65話での松田優作さんとの共演が俳優デビューでもある。「あぶない刑事」でパパさんこと吉村刑事で、お茶の間のお馴染みとなる。

 「冗談じゃないわよ。私が人殺しを庇っているっていうの?」と夏子。「そうは言っていない」と山さん。しかし犯人が夏子の部屋に入って、シャツとズボンを着替えて、自分の服をアイロンを錘がわりにして溝川へ捨てたことは間違いないと、山さん。「だって犯人は男でしょ?」「男だ。あんたと同じぐらいの背格好のな」。松ヶ根荘に住んでいた時はひとりだったので、男ものの服があるはずはないと、夏子は言い張る。「ジーパンやTシャツに男女の区別はあるのか? 犯人はあんたの部屋に忍び込んだとしよう。そこが女の部屋だと知ったら、そいつはどうする? せいぜい金目のものを掻っ攫って逃げるのがオチだ。だが、犯人はそこで着替えた。つまり、その男は、自分があんたの服を着られると言うことを知っていたんだ」と山さん。

「話してくれ。前に付き合っていた男で、誰か心当たりはないかね?」

 夏子、しばらく考えて「もしかしたら、ヨッちゃんかも?」。彼なら私の服でも着られる。本名は井沢義男。早速、井沢の勤め先の工場へ向かう山さんとジーパン。働く井沢義男(水谷邦久)の姿に、山さんの声が重なる。「井沢は事件の翌日、工場でかなり大きなミスを二度もやっています。それまでには考えられなかったミスです」。ゴリさんとシンコ、夏子の勤め先だった喫茶店へ。ゴリさんの報告「マスターの記憶がはっきりしていないんですが、7月の中頃から(井沢は)姿を見せなくなったそうです」。バーテンダー(桜井克明)に聞きこむ長さんと殿下。長さんの声で「井沢は、気が小さい割には、カッとなるタチらしくて、酒の上で二、三度喧嘩したそうです」。

 一係。それぞれの報告を受けるボス。ゴリさん「これでもまだ逮捕しちゃいかんのですか?」。肝心の決め手がまだ掴めてないのだ。自白では裁判でひっくり返される恐れもあるからとボス。「待つんだよ。奴の血液型さえ掴めれば、全て解決する。そのためにマカロニが犯人の髪の毛を残してくれたんじゃないか!」。おおCSIみたいだ!

 義男を演じているのは「レインボーマン」のヤマトタケシ! ヒーロー役者が犯人役というのは、黒部進さんもそうだけど、ドラマでは定番だったが、子供にとっては複雑な気持ちでもあった。あんなにいい人がこんなに悪いなんて! それが映画やドラマの役者さんたちを知るきっかけでもあったのだけど。

 工場で仕事をする義男。ジーパンと山さんが外で張り込んでいる。「ジーパン、奴はどうしてマカロニを殺ったのかな?」「それより、いつまで待つんですか?山さん!」「いいから待つんだ」。やがて昼休み、義男は仲間と野球をするでもなく、ひとりポツンと過ごしている。タバコの吸い殻を捨て、その場を立ち去る義男。デデデデーン(BGM)。山さん吸い殻を拾う。

 鑑識で鑑識課員(今井和雄NC)が、フィルターから義男の唾液を調べる。ボス、シンコ、山さんが固唾を飲んでみている。しばらくして「間違いありません。早見さんがつかんでいた毛髪と血液型がピッタリ一致します」。

「シンコ、逮捕状の請求だ」
「はい」

 鑑識課員に頭を下げる山さん。よかったね。ボス「あとは若い連中がやる。ゆっくり休んでくれ」「いえ、この始末だけは、私につけさせてください」と山さん。

 スナック。カウンターで水割りを飲む義男。店の外でジーパンとゴリさんが張り込んでいる。ゴリさん「遅いなあ、逮捕状一枚に何、ぐずぐずしてるんだ」と苛立っている。

 一係。井沢義男の逮捕状をボスが山さんに渡す。「行ってきます」「頼むぞ!」。山さん、殿下が義男の逮捕へと向かう。

 スナック。カウンターで飲んでいる義男。そこへなんと糸山譲(村山達也)が舎弟を連れて現れる。「おい、そっちへ寄ってくれよ。こっちは三人なんだよ」と席を詰めるように命じるが、義男は「あっちに空いてる席があるだろ?」。怒って立ち上がる糸山。

 山さんと殿下の覆面パトカー。「山さんと仕事をするのもこれが最後ですね」「そうだな」

 スナック。糸山たちが義男に「どけ!」と殴りかかる。義男の怒りの目が狂気を孕んでいる。バーテンに「乱暴はよしてください」と言われた糸山「うるせえ」と切れる。その時、義男はアイスピックを手に、糸山に挑む。さすがヤマトタケシ。ファイティングポーズが決まっている!「やるのかよ」と恐れをなす糸山たち。義男の狂気が暴走する。店内パニック! その音を聞いたジーパンとゴリさんが中へ。そのタイミングで山さんと殿下が到着。ジーパンが出てきて「山さん・・・」。山さんと殿下、店内に入ると・・・

 ゴリさん、無念そうな表情。山さんがしゃがむ。義男の胸には、あの糸山が持っていた登山ナイフが刺さっていた。山さんの無念。これは小学四年生の僕にもかなり胸に迫った。

 糸山、ついに人を殺してしまい、震えている。山さん「お前か」「・・・」「お前がやったんだな」。糸山、震えながら「俺が悪いんじゃないんだよ。俺のせいじゃないんだよ。こいつが悪いんだよ・・・」言い訳を続ける糸山。山さん、ゴリさん、殿下の無念の表情。山さん、渾身の力と悲しみをこめて糸山を殴り飛ばす。糸山の胸ぐらを掴み「貴様らはいつだってそうだ。好き勝手なことを好き勝手にやっておいて、いつでも自分が悪いんじゃない。自分のせいじゃない。自分の後始末ぐらい、自分でつけたらどうなんだ!わかったか、若造!」。

 七曲署屋上。山さんが佇んでいる。ボスがやってくる。「署長に会ってきた。本庁行きの話はご破算になったよ」「クビにならなかっただけでもマシですよ。ご迷惑をおかけしました」「しかし、山さんも出世ができない人だな」「全く、なにしろ上司が上司なもんで」。笑う二人。

「幸せもんですよ、私は。署長や世間がなんと言おうと、私にはわかってくれるボスがいる。仲間がいる。いや、こんなことを言うとマカロニに笑われますかな」

ボス、懸命に走るマカロニ(前期OP)を思い出す。
山さん、ふと下を見る。ボスも見る。
ジーパンが懸命に走っている。
ジーパン、走る、走る、走る。

よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。