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娯楽映画研究所ダイアリー 2021 5月24日(月)〜30日(日)

5月24日(月)『歌ふ狸御殿』(1942年・大映)・『初春狸御殿』(1959年・大映)

 ザッツ・ニッポン・ミュージカル! 木村恵吾監督・原作・脚本の本家本元『歌ふ狸御殿』(1942年・大映)。不幸な身の上のお黒(高山広子)は、継母・おたぬ(豆千代)にいじめられ、義姉・きぬた(草笛美子)には下女扱い。ある日、白木蓮に嫉妬したきぬたが、河童ぶく助(益田喜頓)に命じて白木蓮を切らせようとする。しかし、心優しきお黒は、それを辞めさせ、恩義を感じた白木蓮の精である白妙姫(雲井八重子)により、狭霧姫に化けて晴れて狸御殿での宴に参加。狸御殿の王子様・狸吉郎(宮城千賀子)は、狭霧姫に一目惚れ。しかし夜明けまでに帰らないと狭霧姫はお黒に戻ってしまう。

 阿波狸伝説を、新興キネマ時代に娯楽映画に仕立てた立役者・木村恵吾監督が、シンデレラ姫をベースに歌と踊りの絢爛豪華なミュージカル映画にした夢のページェント! 戦時下にも関わらず、ハリウッドミュージカルのような、ハッピーエンドの御伽噺に! これが原点となり、狸御殿映画は戦後にかけて大映映画の名物に!

 ヒロインを演じた高山弘子さんは、1939年(昭和14年)には、同年4月13日公開『阿波狸合戦』(寿々喜多呂九平)、同年10月12日に公開『狸御殿』(木村恵吾)で大人気に!

 狸吉郎の宮城千賀子さんは、宝塚歌劇団(第25期)で東風うらゝとして活躍した男役、1940年には日活で片岡千恵蔵さんの『宮本武蔵』のお通役で一世を風靡。狸御殿映画の二枚目として戦後まで活躍。意地悪なきぬた役の草笛美子さんは、宝塚歌劇団(第16期)の娘役で、藤原歌劇団でも活躍した実力派で、狸御殿には欠かせない歌姫となる。楠木繁夫さん、伊藤久男さん、美ち奴さんなど、流行歌のスターたちが、古賀政男先生のメロディーを次々と歌って、楽しき哉、嬉しき哉!

 原作・脚本・木村恵吾監督『初春狸御殿』(1959年・大映)。日本映画黄金時代に作られた昭和35年の正月大作。カチカチ山の泥右衛門狸・菅井一郎さんの娘・お黒は、狸御殿のきぬた姫(若尾文子二役)と瓜二つ。狸社会に嫌気が差して、人間界に家出したアプレ狸のきぬた姫に仕立てられて、若君・狸吉郎(市川雷蔵)とお見合いして相思相愛に。お黒ちゃんには、薬売り狸の栗助(勝新太郎)という想い人ならぬ想い狸もいて…

 正月映画に相応しく、市川雷蔵さんの美しき日舞、若尾文子さんのウットリする可愛らしさ、フランク永井さんばりの勝新太郎さんの美声が楽しめる。他愛のなさが、最高のご馳走の狸御殿映画の進化系。ミュージカル場面のあでやかさ。

 中村玉緒さん! 水谷良重さん! 松尾和子さん! 和田弘とマヒナスターズの皆さん!佐伯孝夫作詞、吉田正作曲のビクターサウンドが何よりのご馳走。

 トニー谷さん、三遊亭金馬さん、江戸屋猫八さんがコメディリリーフ。そして中村鴈治郎さん、菅井一郎さんの古狸ぶり!

大映で連綿と作られた狸御殿映画の戦後の代表作!

5月25日(火)『穴』(1957年・大映)・『泣き笑い地獄極楽』(1955年・大映)

 市川崑監督『穴』(1957年・大映)。オフビートなスクリューボール・サスペンス・コメディ。京マチ子さんのジャーナリストが、1か月行方をくらまし、誰にも見つけられなかったら50万円の懸賞金を、潮万太郎さんの三流週刊誌社長から貰えることに。29日目に姿を現すと、銀行支店長・山村聰さんと銀行員・船越英二さんたちが着服した取引先の2500万円強奪犯に仕立てられてしまう。京マチ子さんに根拠のない記事を書かれて怒り心頭の警部・菅原謙二さんのトンチンカンな捜査で、犯人と断定された京マチ子さんは、自分の無実を証明するために、真犯人たちに次々とトラップをかける。

 脚本は久里子亭(クリスティ)つまり市川崑監督のオリジナル。ヒッチコックの巻き込まれ型サスペンス風のプロットがいつしか、関係者巻き添え型サスペンスに^_^ 行動力抜群のヒロイン自らが、危険を犯して、あの手この手で山村聰さんたちを陥れていく爽快さ。

 京マチ子さん、すっぴんから、ヴァンプ、田舎のおばちゃんと、次々変装していくのもおかしい。

 光文社の「鉄腕アトム」を読むシーンがあるが、山村聰さんのブリーフケースに入っていた漫画。

 石原慎太郎さんが青年作家から、ジャズ喫茶「プレスリー」の歌手に転身する時代の寵児役でゲスト出演。弟さんとは比べ物にならない歌声を披露^_^ あまりのリズム感のなさに驚いた!

後半、あれよあれよの展開が小気味良く、落語のサゲのようなオチの「穴」に、お見事!

 浜野信彦監督デビュー作、村野鉄太郎原案、高橋二三脚本の落語家映画『泣き笑い地獄極楽』(1955年・大映)。1時間に満たないSP映画で取るに足らない他愛のない映画が、最高に光り輝く意味を持つ、重要な作品になることもある。船越英二さんの二つ目が、師匠の娘・藤田佳子さんに丘惚れしてるが、二枚目の下宿人・品川隆二さんに取られて意気消沈。本当の幸福は、自分を支えてくれり三味線弾きの伏見和子さんだった、というお話。

 だが、この映画の価値は、船越英二さんの師匠を演じているのが、古今亭志ん生師であること! 拙い芝居をしながら、本来持っている「ぞろっぺい」な我らが志ん生師が、動いているのです! もうそれだけで嬉しいのなんの。この映画のDVD、KADOKAWAから発売の「釈迦」Blu-rayの付録で同梱されてました! こりゃ凄い! 面白いかどうかを超えた「凄い」作品!

 林伊佐緒さんが、いつまでも美しい霧立のぼるさんの小料理屋「真室川」で、新曲「真室川ブギ」を披露するシーンにも大興奮!

 クライマックス、船越英二さんが師匠の名跡を襲名した高座の客席に、デビュー間もない若き日の川崎敬三さん、みっけ!

5月26日(水)『ジェントルメン』(2020年・ミラマックス)・『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』(2021年・ワーナー)

 TOHOシネマズ市川コルトンプラザで、ようやくガイ・リッチー監督『ジェントルメン』(2020年・ミラマックス)。大学時代から大麻ビジネスで、暗黒街を支配してきたマシュー・マコノヒーが、引退を決意してビジネスを譲渡しようとしたところから始まる、欲にまみれた男たちの争い。その真相を徹底的に追って、強請ろうとするトップ屋(古いか・笑)・ヒュー・ジャックマンの口から語られる裏の裏の物語。マコノヒーの右腕・チャーリー・ハナムが、トム・ヘイゲンみたいに(古いね・笑)見事な処理を次々と。一番の儲け役は、ストリートギャングに格闘技を教えるコーチ・コリン・ファレル! チャイニーズ・マフィアやロシア・マフィアも大混戦で、ノワール好きも大満足! ガイ・リッチーの小気味の良い演出で、大ワル、中ワル、小ワルが入り乱れて、冷えたビールの小瓶のような、キリッと引き締まった爽快作! 映画小ネタもそここに。

 アマプラで配信が始まった『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』(2021年・ワーナー)を映像特典も含め4時間28分を一気見。当初の構想はこうだったのかと、ディティールを味わいながら、各ヒーローのドラマを堪能。「丁寧」だけど「乱暴」なザック・スナイダー世界、なかなか楽しかった。特にサイボーグの物語が「丁寧」で、アクアマンにウィレム・デフォーが出ていたことを知る。やっぱりワンダーウーマンは最高!2本の映画を観た上だから余計に、格好良さが際立つ。スーパーマンが復活するまでの3時間もあっという間。

 いろんな意味でザック・スナイダーらしさ全開で、巨悪が宇宙のならず者の域を出ないので、マッチョで「乱暴」だなと終始思いつつ(笑)。ステッペンウルフに、知性や哀しみを求めてはいけないのかもしれないけど(これは個人の感想です・笑)。エピローグに凝縮されたエッセンスがなかなかで、「お!」このキャラもか!と得した気分。

 それでも力技の演出は、この世界にふさわしく、暗くて重くて冗漫に感じた『バットマンVSスーパーマン』は、ザックに取って『帝国の逆襲』だったのだと、今更ながらに気づいた(遅いって・笑)。MCUの精神的かつ現実世界に則した「進化」を、DCに求めてはいけないとわかっちゃいるけど・・・
とても楽しかった!

5月27日(木)『砂の上の植物群』(1964年・日活)・『息子の花嫁』(1952年・東宝)

 中平康監督『砂の上の植物群』(1964年・日活)。「猟人日記」に続く、中平康監督の乾いた耽美が堪能出来る。吉行淳之介の原作を、巧みに映画に置換する見事さ。横浜マリンタワーで知り合った、真っ赤な口紅の高校生・西尾三枝子さんから「姉を酷い目に遭わせて欲しい」と頼まれた、仲谷昇さんがバー勤めの稲野和子さんと… 稲野和子さんの匂い立つ色香、倒錯の世界に溺れてゆく二人。仲谷昇さんは、34歳で亡くなった画家の父が、17歳の少女をモデルにしており、彼女と父に関係があったのではないかと、今は自分の妻になっている、かつての少女に糺す。その妻に島崎雪子さん。亡父への嫉妬が、37歳になった仲谷昇さんを駆り立てて西尾三枝子さんと関係を持つ。中平康監督の技巧と、稲野和子さん、西尾三枝子さん、島崎雪子さんの肉体が放つ生々しくも魅惑的な官能。1964年、ここまでアンモラルな描写をしていたのかと、ある意味驚嘆!

 丸山誠治監督『息子の花嫁』(1952年・東宝)。越中島あたりの小さな商店街。男やもめの藤原釜足さんが、手塩にかけて育てた息子・小林桂樹さんが、向かいの毛糸屋の娘・杉葉子さんと結婚。居場所がなくて、浅草へ。吾妻橋の袂で、浅草松屋をバックに藤山一郎さんが「東京ノスタルジア」をステージバスで歌う。今度は息子夫婦を浅草に遊びに行かせると、六区でフランス映画を観て、松屋の屋上遊園地で夫婦水入らず。

 隣の八百屋の世話焼き親父・森繁久彌さんと、女房・望月優子さんが、藤原釜足さんのお見合いを仕組む。小津映画なら、歌舞伎や能だが、こっちは浅草の寄席で、古今亭志ん生師匠の落語見物。八丁堀近くの炭屋の娘・三宅邦子さんと釜足さん、結婚したはいいものの、その母・飯田蝶子さんが業つくばりで、散々な目に。

 製作は田中友幸さん。松竹映画のような微苦笑の喜劇も、東宝タッチでなかなか楽しいホームドラマに。浅草や隅田川界隈のロケがたまらない。永代橋など橋マニア必見! 巽橋も出てくるよ!

5月28日(金)『画家とモデル』(1955年・パラマウント)

 フランク・タシュリン監督のゴージャスな底抜けコンビ喜劇『画家とモデル』(1955年・パラマウント)。ニューヨークで画家として大成しようとしているディーン・マーティンと、作家志望のジェリー・ルイス。何をやっても裏目に出る二人が、同じアパートに住む、アメコミで大人気の「BAT LADY」の作者・ドロシー・マローンとその親友・シャーリー・マクレーンと知り合い、大騒動に! ディノの歌声、ジェリーのグーフ芸、シャーリー・マクレーンのコメディエンヌぶり。エバ・ガボールに、アニタ・エクバーグのお色気、ヴィスタヴィジョンの息を呑む美しさ。ついには、米国と敵対する国のスパイ戦へと発展。数あるマーティン&ルイス映画の最高峰! それもその筈、ブロードウェイの舞台の映画化!

5月29日(土)『凡ては夜に始まる』(1960年・パラマウント)・『青空娘』(1957年・大映)

 ジョセフ・アンソニー監督『凡ては夜に始まる』(1960年・パラマウント)。ハル・B・ウォリス製作、脚本はエドモンド・ベロイン、シドニー・シェルダン。ニューヨークの大手出版社の社長がフロリダのホテルで急死。放蕩三昧の甥・ディーン・マーチンが社長になるが、先代社長が亡くなった夜に、ホテルの部屋からバスタオル一枚の若い女性が逃げるのを警備担当が目撃。脅迫されたら一大事と会社は戦々恐々。彼女の顔を見た警備係が、急遽出版社の調査部に雇われて対策を講じるが、なんとバスタオルの女性は調査部勤務のシャーリー・マクレーンだった! 果たして彼女は? ハリウッドのスクリューボール・コメディの伝統と、1960年26歳のシャーリー・マクレーンのコメディエンヌの才能、ディノのリラックスしたプレイボーイ芸が楽しい快作。シャーリーが感傷的で喜怒哀楽が激しく、やたら泣き上戸だったり、シャンパン呑むと豹変したり。眺めているだけで楽しいロマンチック・コメディ。黄金時代のハリウッドスタイルの最終コーナーの作品。とにかく、シャーリー・マクレーンが最高にキュート!

 増村保造第二回監督作『青空娘』(1957年・大映)。源氏鶏太原作、白坂依志夫脚本。若尾文子さんの映画で最もリピート率が高い、明朗青春篇。田舎から東京の父・信欣三を頼って上京してきた青空娘・有子(若尾文子)が継母・沢村貞子さん、義兄・品川隆二さん、義姉・穂高のり子さんに女中扱いされる。しかし彼女を見初めた御曹司・川崎敬三さん、高校の恩師・菅原謙二さんの愛情で、実母・三宅邦子さんに逢えるまでを、微苦笑の中に描いたシンデレラ物語。カラー映像が美しく、どんなつらくても青空を見上げたら、幸せになれると教えてくれた菅原謙二さんのことば通り、ポジティブに前進する若尾文子さんの可愛さ!

 当時は、当たり前だった、昭和32年の東京の青空にも、2021年の僕らには、希望を感じることが出来る。全ての屈託が、青空のようにクリアになるラストの多幸感! 映画の限りないチカラを感じる佳作!

5月30日(日)『さらば愛しきアウトロー』(2018年)・『氾濫』(1959年・大映)

 アマプラで、デヴィッド・ロウリー監督、ロバート・レッドフォード引退記念作『さらば愛しきアウトロー』(2018年)を堪能。ハリウッドの伝説として、僕らの世代では最高のスター、レッドフォードが、トム・ウエイツ、ダニー・グローバーと「黄昏ギャング団」として犯行を重ねていく。それを追いかける冴えない刑事が、ケイシー・アフレック。妻と二人の子供とのエピソードが、良い。

 レッドフォードが心を寄せる女性にシシー・スペイセク。あの「ビリティス」が!と思うが、僕にも同じ時間が流れていたのだと、感慨無量。

 拳銃で脅すが、一度も撃ったことがない主人公。ただただ泥棒と脱獄が生き甲斐の半生を過ごしてきた男の懲りない挑戦。適度なユーモアと、年輪を重ねて来たスターの放つ最高の魅力。

 映画を観る悦びにあふれている。この作品を引退作として選んだレッドフォードは、本当に映画がわかっている! キース・キャラダインの警部が、また良かった!

 増村保造監督『氾濫』(1959年・大映)。伊藤整原作、白坂依志夫脚本。革新的発明で、清貧暮らしから、画期的発明をして、化学メーカーの重役となった佐分利信さん。その妻・沢村貞子さん、娘・若尾文子さんも、にわかセレブで、寄ってくるのは金と欲にまみれた人々。上昇志向の強い大学の研究者・川崎敬三さんは叶順子さんを捨てて、若尾さんを籠絡。かなりイケすかない悪い奴。またピアノ教師・船越英二さんは沢村貞子さんを言葉巧みに誘惑。佐分利信さんも、10年前に関係があった左幸子さんが近づいてきて… とまあ、三者三様の乱れっぷり。さらに旧友の大学教授・中村伸郎さんが浮気の後始末の手切金を工面して欲しいと、博士号をちらつかせる。グロテスクなまでに、身勝手な連中が次々と出入りする。誰一人マトモなひとが出てこない。でも誰もが、自分をマトモだと思っている。増村保造監督ならではの、グロテスクな人間の欲と、その苦い顛末。大映映画の充実が味わえる文芸作。



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