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『人情紙風船』(1937年・PCL・山中貞雄

昨夜は4Kリマスター『人情紙風船』(1937年・PCL・山中貞雄)をスクリーン投影。2Kダウンコンバート版だけど、最高の画質、ヘッドフォンで観たのでセリフも明瞭。まさかPCL映画のBlu-rayがリリースされるとは夢にも思っていなかったので。トップのPCLマークと、前進座のロゴに感動してしまった。山中貞雄監督のマスターピースだからBlu-rayになるのは当然なのだけど、PCL映画好きとしてはついつい、それだけで嬉しくなった。

河竹黙阿弥の「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)」つまり「髪結新三」を、三村伸太郎が脚色した「人情裏長屋もの」。この人情は、薄情でもあり、儚いものである。なので『人情紙風船』。

中村翫右衛門の髪結新三がとにかくいい。トッポくて、怖いもの知らず。ヤクザの目を盗んでは、もぐりで賭場を開いては、そのたびに親分・弥太五郎源七(市川笑太朗)たちにボコボコにされる。その一の子分・百蔵(市川莚司、のちの加東大介)の薄ら笑いがイイ。

前進座のユニット作品なので、のちにお馴染みとなる役者がたくさん出ていて、眺めているだけでも楽しい。髪結新三のトッポさと対照的に、長屋の奥に住んでいる浪人・海野又十郎(河原崎長十郎)は、真面目な男。かなり性格のきつそうな女房・おたき(山岸しづ江)に暗黙のプレッシャーをかけられて、毎日、仕官のために出かけている。

頼みの綱は、亡父の知人・毛利三左衛門(橘小三郎)なのだが、ケンもほろろで歯牙にもかけてもらえない。私利私欲の塊の毛利は、質屋・白子屋久兵衛(嵐芳三郎)の娘・お駒(霧立のぼる)を、自分の口利き武家に嫁入りさせようと画策している。

で、肝心のお駒は、番頭・忠七(瀬川菊之丞)と出来ていて…。その忠七は、ちょっとした小悪党で、弥太五郎源七の賭場にも顔を出している。

とまぁ、誰もが緩やかな因縁で結ばれている。髪結新三は、白子屋とべったりの弥太五郎源七をギャフンと言わせようと、白子屋の娘・お駒を拐かして、長屋に連れ帰るが・・・

長屋の人々も生き生きとしていて、眺めているだけでも、江戸気分を味わえる。登場人物の出し入れも見事で、お駒・拐かし事件の顛末も面白い。そして、切ないラストシーン。武士の意地を貫くというより、女房の手前、という感じの又十郎の悲劇…

霧立のぼるはどこまでも可愛く可憐。河原崎長十郎夫人でもある山岸しづ江は、キッツイ女房を本当に見事に演じている。

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