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娯楽映画研究所ダイアリー 2021年8月30日(月)〜9月5日(月)

8月30日(月)『兵六夢物語』(1943年4月1日・東宝・青柳信雄)・『浪曲忠臣蔵』(1943年12月29日・東宝・石田民三)

『兵六夢物語』(1943年4月1日・東宝・青柳信雄)
戦時下に作られた特撮ファンタジーの佳作。エノケン×円谷英二の夢が拡がる。是非、ソフト化を!

 今宵は戦前・戦中の円谷英二監督が関わった作品研究。昭和18(1943)年12月29日封切り『浪曲忠臣蔵』(東宝・石田民三)の改題再上映版『元禄あばれ笠〜浪曲忠臣蔵より』(1953年)。昭和18年の年末ということは昭和19年の正月映画として、東宝=吉本提携作品として作られた。「忠義」を強調した時局映画でもあるのだが、オリジナル73分が短縮版57分に端折ったダイジェスト。

8月31日(火)『マスカレード・ナイト』(2021年・東宝・鈴木雅之)・『音楽大進軍』(1943年・東宝・渡辺邦男)・『阿片戦争』(1943年・東宝・マキノ雅弘)

鈴木雅之監督「マスカレード・ナイト」。東野圭吾原作のグランドホテル形式のミステリーの続篇。キムタク,長澤まさみコンビの刑事VSホテルマンのぶつかり合いが面白く、事件の行方も予測不能で面白かった!

円谷英二監督特撮研究で「音楽大進軍」(1943年)でロッパVS岸井明さんに笑い、中村メイコちゃんの巧さに驚き、藤原義江さんの美声を味わい、灰田勝彦さんの扱いに理不尽を感じ、国策映画のプロパガンダに💢。戦時下の銀座、箱根、丸の内を映像探検。メモ書きながら見たので94分を150分かかりました。

マキノ正博『阿片戦争』(1943年)。戦時下に作られたスペクタクル大作。阿片を清国に売りつけるイギリス人兄弟を青山杉作さん、鈴木伝明さん。新劇の赤毛ものスタイルで、日本語を喋るイギリス人たち。久しぶりに観て、その面白さに感心!円谷英二監督の特撮もたっぷり!原節子さんの美しさ!高峰秀子さんの可憐さ!

9月1日(水)『サマーフィルムにのって』(2021年・松本壮史)・『愛の世界 山猫とみの話』(1943年1月14日・青柳信雄)

 今日は映画のファーストデイ。シネコンでは理想的なプログラムを上映中。遅ればせながら松本壮史監督・脚本『サマーフィルムにのって』をほぼ満席の状態で楽しんだ。これはいい。世界中に映画の映画は数あれど、作り手が回顧の糸に巻かれたり、ノスタルジーの海に溺れる自己撞着なものになりがち。だけど、この映画の三人の女子高校生は、「勝新の時代劇が好きの映画部員」「SFオタクの天文部」「剣の道を極めたい剣道部員」と、キラキラ胸キュンラブコメの世界に背を向けている。

 で、ヒロインのハダシ監督(伊藤万理華)が、自分が納得する時代劇を撮りたいけど、理想の主演が見つからない。ある日、ついに自作シナリオ「武士の青春」に相応しい若者・凛太郎(金子大地)と出会ってしまう。

 映画トリビアを散りばめたオッサン向けの展開にとどまらず、落ちこぼれの若者たちが、ひと夏、全てをかけて、ハダシの映画作りに参加。まさに「ハダシの青春」であることが気持ちいい。

 ラブコメを否定しながら、やがて…という展開も楽しく、クライマックスのカタルシスも楽しい。傑作というわけでもなく、構成やデティールは巧みではないが、真っ直ぐな作り方が嬉しく、これでいいじゃないか! と楽しんだ。で、『座頭市物語』のラストの対決は、やっぱり最高! という話でした^_^

 noteに『音楽大進軍』(1943年)について詳細に書き始めたら、すでに5000文字を超えてしまった。映画の全貌と登場する楽曲、人物について細かすぎる解説を始めてしまった。仕事でもないのに(笑)でもまだ内幸町の放送会館での和田肇さんの演奏の部分。のんびり書くことにします。あほかいな(笑)

 円谷英二監督の戦時中の特撮担当作『愛の世界 山猫とみの話』(1943年1月14日・青柳信雄)。坪田譲治・佐藤春夫・富澤有為男原作を、如月敏さん、黒川慎(黒澤明)さんが脚色。

9月2日(木)『薔薇いくたびか』(1955年・大映・衣笠貞之助)

朝から、依頼原稿20枚を一気に書き上げる。あとは5日(日曜)に円谷英二の「かぐや姫」を観てから(お陰様で親切な方のお世話で鑑賞出来ることになりました!) 長編原稿が落ち着いたのでnote用の「音楽大進軍」執筆を再開。しかし、これってお好み焼きをオカズにご飯を食べてるみたい^_^

古川ロッパ企画の昭和18年の音楽慰問映画。詳細な解説を書いたらなんと、12.000文字になりました! DVD化されているので、ご鑑賞のお伴にしてください^_^

 今宵の娯楽映画研究所シアターは、衣笠貞之助監督『薔薇いくたびか』(1955年・大映・衣笠貞之助)。東西の大映スター総出演による若尾文子さん、根上淳さんの、腰の座ったメロドラマ。とにかく若尾さんが可愛い。カツライスも!長谷川一夫さんも!京マチ子さんも!山本富士子さんも!上野も、鶯谷も^_^ 東西大映スターが次々と!若尾文子さんと根上淳さんのメロドラマ!なかなかの眼福!学生服の勝新さん!


9月3日(金)『シャン・チー/テン・リングスの伝説』・『すみれ娘』(1935年・P.C.L.・山本嘉次郎)・『雷撃隊出動』(1944年・東宝・山本嘉次郎)

 note「佐藤利明の娯楽映画研究所」UPした記事が706本。今朝ほど20万アクセスを突破しました。基本、無償記事ですが、サポート大歓迎です! 
またメディアの皆様、原稿依頼、大歓迎ですので、お気軽にご連絡ください。

 MCU『シャン・チー/テン・リングスの伝説』。予想を超える面白さ。冒頭の桑港のバスから澳門にかけての活劇に惚れ惚れ。「アイアンマン3」観ておくとさらに楽しめます。龍の子太郎なヴィジュアル。怪竜大決戦なクライマックス。トニー・レオンも良かった!イースターエッグにも満足。IMAXで観たかったけどTCXも満足度高し!

 山本嘉次郎監督二本立て。まずは『すみれ娘』(1935年・P.C.L.・山本嘉次郎)。オペレッタ喜劇。アメリカナイズされたモダンな傑作。後半の♪ダイナは圧巻!紙恭輔指揮のP.C.Lジャズ・バンドの演奏で、リズムボーイズの歌にリキー宮川のタップ!ああ楽しき哉、ジャズ映画!

 続いて1944年11月完成『雷撃隊出動』。戦意高揚映画だが、山本嘉次郎演出は、戦局悪化、飛行機不足を描いて、悲壮感が漂う。ミニチュアワークによるクライマックスに驚嘆。被弾して炎上する飛行機のコックピットに搭乗員たちの姿。実際には撮影できない状況を映像で創出する円谷英二監督の特殊技術!

 山本嘉次郎監督の『すみれ娘』『雷撃隊出動』。「米音楽映画」への憧れを抱いていたモダン映画から「国策映画」の時代へ。この二作の間に流れた時間を想う。映画は時代をダイレクトに反映している。戦前、戦中の映画にさまざまな思いが去来する。岸井明とPCL映画研究! ニッポン・ジャズ黄金時代!ジャズにタップ、そしてロマンス!モダン・エイジの音楽映画!「ダイナ」が圧巻! またまた長編原稿となりにけり^_^


9月4日(土)『見世物王国』(1937年・P.C.L.・松井稔)・『ハワイ・マレー沖海戦』(1942年・東宝・山本嘉次郎)

 今宵は古川緑波さん原作、岸井明さん、藤原釜足さん「見世物王国」(1937年・松井稔)。高峰秀子さんが両親と上京、浅草見物中に迷子に。父(小島洋々)はスリ(釜足)に財布をすられ、岸井明さんたちに助けてもらい取り戻す。それだけの話に、見世物小屋の怪しげなアトラクションが次々と。デコちゃん可愛く、岸井明さんが「月に告ぐ」を歌い、清川玉枝さんが女剣戟、ロッパさんがインチキマジック。活動小屋では「デブちゃんの泥棒の巻」(岸井明&藤原釜足主演!)を上映。昭和12年の浅草の賑わいを楽しむ。

 久しぶりの山本嘉次郎監督『ハワイ・マレー沖海戦』(1942年・東宝)をスクリーン投影。東宝の名子役・伊藤薫さんが予科練を志願して4年間の訓練に耐え成長する前半。建前が本音になっていく時代の国策映画の思想は史料的価値はあるが、そのロジックに辟易。しかし後半の特撮スペクタクルは圧巻。創意工夫の円谷英二さん率いる東宝特殊技術課の特撮への挑戦。必要は発明の母、というが、ミニチュアワーク、編集、真珠湾の水柱、回転するオアフの山。驚嘆の連続。昭和17年の観客が実写と思ってしまったのもよくわかる。特撮の神様の神業!

 念願の円谷英二撮影『かぐや姫』(1935年・田中喜次)を、親切な方のご好意で観ることに。藤山一郎さん研究でも、汐見洋さん研究としても重要。戦前映画を見続けてきたのは、この映画のためでもあります。心して観て参ります。

9月5日(日)『かぐや姫』(1935年・J.O.スタヂオ・田中喜次)・『ハリキリ・ボーイ』(1937年・P.C.L.・大谷俊夫)・『ゴジラ対ヘドラ』(1971年・東宝・坂野義光)

 国立映画アーカイブ。円谷英二撮影『かぐや姫』。目から鱗の連続、スクリーンプロセス、ミニチュアワーク、イメージの合成などなど。個人的には藤山一郎、徳山璉の歌声をタップリ聴けたこと。J.O音楽映画のクオリティの高さを堪能。昭和10年の映画技術の粋を味わいました。

 今宵は、ぼくが戦前の音楽喜劇映画で,一番優れていると思う、大谷俊夫監督、古川緑波原作主演『ハリキリ・ボーイ』(1937年)を初プロジェクター鑑賞。恐妻家のサラリーマン野川君(ロッパ)のハリキリデー(給料日)の一日を、ペーソスたっぷり、矢継ぎ早に、歌また歌で綴る傑作。ロッパさんは「まんざら悪くない」「酔えば大将」など、能勢妙子さんが「タイピストの唄」「とんがらかっちゃ駄目よ」を、神田千鶴子さんが「お酒よいもの」、徳山璉さんが「修養唱歌・賢夫人」、江戸川蘭子さん「花売り娘」、岸井明さんが「家へなんか帰るかい」を唄い、クライマックスはロッパの「ハリキリ・ボーイ」の連打に、トコシアワセよ! これはDVD化して欲しい!

コロナ禍で観る『ゴジラ対ヘドラ』(1971年)4K版。改めて、とてつもない異色作であることを体感。ヘドラもゴジラも出ずっぱり。公害怪獣がもたらす被害は甚大。怪獣映画だけど『美女と液体人間』(1958年)の系譜でもある。ヘドラの手のつけられない恐ろしさよ!

よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。