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『エルヴィス・オン・ステージ 特別篇』(2001年・ターナー・デニス・サンダース)

6月15日(水)、バズ・ラーマン監督、待望の新作『エルヴィス』(2022年・ワーナー)を試写で堪能。帰宅後、娯楽映画研究所シアターで『エルヴィス・オン・ステージ 特別篇』(2001年・ターナー・デニス・サンダース)のDVD国内版をスクリーン投影。

この『エルヴィス・オン・ステージ 特別篇』は、新たに発見されたフッテージ、ハリウッドのカルバーシティのMGMスタジオでのリハーサル・セッション。インターナショナルホテルでのリハーサルなどを加えて、インタビューや余計な映像を大幅カットしてブラッシュアップした決定版。製作は当時、MGM映画の権利を持っていたターナー・エンタテインメント。2001年1月19日に全米公開、日本では2004年7月31日に公開された。僕も東銀座の東劇でこの『特別編』を観て、作品の印象がガラリと変わった。リハーサルでのエルヴィスは、スタッフに気遣い、ユーモアを絶やさず、スタッフをリラックスさせて、ステージを仕上げていく。実に愛すべき人物である。スーパースターの孤独や、プロの厳しさといった「ドキュメンタリー」にありがちな視点ではなく、エルヴィス・アローン・プレスリーという35歳の青年の等身大の魅力が凝縮されている。

これは修復作業を手がけた、リック・シュミドリンの功績。インタビューやステージとは関係ない取材パートをバッサリとカット。エルヴィスを中心としたリハーサルやステージ映像を増やして、ライブ映像も別テイクを加えたり、一曲を複数のステージ映像から再構築するなどして、1970年8月の空気を巧みに再現。画質のレストアも徹底していて、音質はDTS5.1chにブラッシュアップ。トラック原盤が16チャンネルで録音されていたことに感謝!

バズ・ラーマン監督『エルヴィス』の後半、ワールドツァーに出ようとしていたエルヴィスを、パーカー大佐(トム・ハンクス)が引き止め、ラスベガスで新規オープンするインターナショナルホテルでのライブのメリットを滔々と語って説得する。

その舞台裏の生々しいエピソードに触れた後に、改めてこのライブを観ると、さらなる感慨が湧いてくる。

とにかく、久しぶりの熱狂的な観客、ビッグファンを前に、エルヴィスのショウマンとしてのテンションは最高潮。まさに渾身のステージを繰り広げる。神がかりともいうべき、狂熱のライブである。

収録したステージは、1970年8月10日から14にちにかけてのディナーショー、カクテルショー。客席には、ジュリエット・プラウズ、サミー・デイビス・Jr.、ケイリー・グラントなどのビッグスターたち。

舞台に押し寄せるファンの女性たちに過剰なまでに、キスのサービスをする。彼女たちの幸福そうな顔、恍惚の表情、泣き出すほどの感激に、かつてエルヴィスが登場したときの熱狂が甦る。彼女たちは、エルヴィスとともに生きてきたのだなぁと。そうした「熱」は、映像が記録されているからこそ、である。

エルヴィスにとっては古巣でもあるMGMスタジオで、ビートルズの「ゲット・バック  Get Back」をセッションするシーン。ああ、ビートルズがこの年、解散するんだなぁと感無量となる。ビートルズとは、1965年8月27日、ロサンゼルスのプレスリーの邸宅で一度だけ、会っている。リビングでテレビを観ながら、ベースを練習していたエルヴィスの姿に、憧れのレジェンドを前に、ただただ呆然としていたビートルズの四人に「一緒に演奏しないなら、寝るよ」とエルヴィス。慌てて四人は楽器を手に、セッションを始めたという。そうした伝説が、このシーンで蘇ったり。

まさに映画はタイムマシン。1970年夏の熱気を体感して、この後に待ち構える運命に想いを馳せたり、これまでの足跡を思い出したり。エルヴィスがラスベガスのステージに立っていた頃、僕は7歳になったばかり。万博見物をして、そのまま、おふくろの故郷、高知で過ごしていた。ちょうど、東宝チャンピオンまつり「決戦!南海の大怪獣」(本多猪四郎)を観た頃である。その頃の時代の匂いが、レストアされた映像に詰まっている。

【セットリスト】

[OP]

♪ミステリー・トレイン/タイガー・マンMystery Train/Tiger Man

[リハーサル]

♪この胸のときめきを  You Don't Have to Say You Love Me

♪ザッツ・オール・ライト That's All Right

♪ポーク・サラダ・アニー Polk Salad Annie

♪恋のはた織り How the Web Was Woven

♪リトル・シスター / ゲット・バック Little Sister / Get Back

♪ワーズ  Words

♪マイ・ベイビー・レフト・ミー My Baby Left Me

♪クライング・タイム Crying Time

♪ラヴ・ミー Love Me

♪20昼夜 Twenty Days and Twenty Nights

♪明日に架ける橋 Bridge over Troubled Water

♪キャトル・コール Cattle Call

♪サンタが町に来る Santa Claus Is Back In Town

♪ワーズ Words

♪マリー・イン・ザ・モーニング Mary in the Morning

[ライブ]

♪ザッツ・オール・ライト That's All Right
♪アイ・ガット・ア・ウーマン I Got A Woman

♪ハウンド・ドッグ Hound Dog

♪ハートブレイク・ホテル Heartbreak Hotel

♪ラヴ・ミー・テンダー Love Me Tender

♪愛さずにはいられない I Can't Stop Loving You

♪ジャスト・プリテンド Just Pretend

♪ワンダー・オブ・ユー The Wonder of You

♪イン・ザ・ゲットー In The Ghetto

♪パッチ・イット・アップ Patch It Up

♪ふられた気持ち You've Lost That Lovin' Feeling

♪ポーク・サラダ・アニー Polk Salad Annie

♪ワン・ナイト One Night

♪冷たくしないで Don't Be Cruel

♪ブルー・スエード・シューズ Blue Suede Shoes

♪恋にしびれて All Shook Up

この胸のときめきを
You Don't Have to Say You Love Me

サスピシャス・マインド
Suspicious Minds

好きにならずにいられない
Can't Help Falling in Love

よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。