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『エルヴィス・オン・ツアー』(1972年・MGM・ロバート・エイブル、ピエール・アディッジ)

6月16日(木)、娯楽映画研究所シアターでは、バズ・ラーマン監督『エルヴィス』(2022年)の興奮冷めやらず、同作でも後半のポイントとして描かれていたエルヴィス・プレスリーの1972年の全米ツアーの記録ライブ映画『エルヴィス・オン・ツアー』(1972年・MGM・ロバート・エイブル、ピエール・アディッジ)をBlu-rayでスクリーン投影。

『エルヴィス・オン・ステージ』(1970年)で記録されていたラスベガスのインター・ナショナル・ホテルでのライブが大成功を収めたエルヴィスは、1972年春、全米15都市をめぐるツアーに出た。1960年代末、映画会社との契約を終えて、ムービー・スターとしてのキャリアを終えたエルヴィスは、ライブ・パフォーマンスに力を入れることに。その皮切りとなったNBCテレビ「1968カムバック・スペシャル」により「キング・オブ・ロックンロール」に返り咲いた。続いてのラスベガスでのパフォーマンスを記録した前作『エルヴィス・オン・ステージ』がビッグヒットとなり、エルヴィスのマネージャーであるトム・パーカー大佐は、次なるライブ映画の契約をMGMと交わした。

当初は、ラスベガス、インターナショナル・ホテルでの新しいショーのライブ映画”Standing Room Only”として企画された。MGMはパーカー大佐とエルヴィスに250,000ドルに支払うことで同意、1971年2月にパーカー大佐とエツヴィスの新たな契約で、収入の2/3はエルヴィス、1/3はパーカー大佐が受け取ることになっていた。話し合いを重ねるうちに、全米アリーナツアーのドキュメンタリーにすることとなった。ちなみにこのツアーでは、プロモーターは100万ドル(これが通常料金)で契約。パーカー大佐にとって、まさにエルヴィスはドル箱だった。このあたりの関係は映画『エルヴィス』で生々しく描かれている。

アルバムジャケット

1972年春の15都市公演にカメラが入って、その熱気とパフォーマンス、各都市でのファンの熱を記録することとなった。MGMは、1970年にジョー・コッカーの全米ツアーのライブ・ドキュメンタリーを成功させたロバート・エイブルとピエール・アディッジに演出を任せ、4都市でのショーとエルヴィスのインタビュー、バックステージやリハーサルの様子を撮影。若手監督だったマーティン・スコセッシのアイデアで、マルチスクリーンを多用。まるで博覧会のパビリオン映像のような画面分割が実に効果的で、前作以上に、エルヴィスの人柄、スタッフやミュージシャンとの親和力、優しさがクローズアップされている。

当初、ロバート・エイブルはエルヴィスに興味がなく、アディッジはラスベガスまでエイブルを連れて行って、ライブショーを見せて説得。プレスリーもツアーの映画化には積極的だったが、エイブルはエルヴィスがムービー・スターで、カメラを向けるとどうしても意識して演じてしまうことに懸念をしていた。そこで、ありのままを撮影すること、素のエルヴィスをキャメラに収めたいとの条件を出して、エルヴィスもこれを快諾した。

ツアーメンバーは、ジェームズバートン(ギター)、ジョンウィルキンソン(リズムギター)、ジェリーシェフ(ベースギター)、ロニータット(ドラム)、ラリームホベラック(ピアノ)、チャーリーホッジ(リズムギター、バックグラウンドボーカル)。そしてThe Sweet Inspirations、The Imperials、The Stamps 、KathyWestmorelandのバック・ヴォーカルチーム。さらに、30人編成のジョー・ガルシオ・オーケストラの大所帯。エルヴィスはプライベートジェット機を購入、主要メンバーは空路。オーケストラたちはグレイハウンドのバスで移動した。

35ミリ、11台のキャメラを回して撮影。その素材を70ミリにブローアップして編集をすることに。撮影が開始されたのは1972年3月30日、RCAレコードのハリウッド・スタジオのリハーサルセッションから。ツアーのセットリストをもとに、それぞれのナンバーを仕上げていった。このリハーサルの合間、エルヴィスはコーラス・チームと「アブラハムのふところ Bosom Of Abraham」のゴスペルセッションをして楽しんだが、その様子も完成作品に収録されている。エルヴィスのルーツ・ミュージックとしてのゴスペルが、いかに彼の「精神安定剤」だったかが、よくわかる。リラックスした雰囲気で楽しそうに歌うエルヴィスの姿は、本作での最大のハイライトでもある。

画面分割によるマルチスクリーンは、70ミリ劇場や、シネラマ劇場では効果的だったが、通常の劇場やテレビ放映では「落ち着かない」と不評だった。1997年にリリースされたVHSでは、マルチ画面を削除したヴァージョンだったが、逆に「オリジナルを損なっている」と不評となる。2010年、ターナーエンターテインメントで、エルヴィス75歳アニバーサリーでDVD、Blu-rayがリリースされ、全米460の劇場でも上映された。このニューヴァージョンは、著作権の問題でオープニングの「ジョニー・B・グッド」(チャック・ベリー)が使用できず、エルヴィスの「冷たくしないで」に差し替えられた。またエルヴィスのショーのテーマ曲「ツァラトゥストラはかく語りき」が別なテイクに差し替えられている。なので旧版のビデオやLDもリストラできないのが、ファンにとっては悩ましいところでもある。

【ナンバー】

♪シー・シー・ライダー See See Rider

トラディショナル

♪ポーク・サラダ・アニー Polk Salad Annie

作詞・作曲:トニー・ジョー・ホワイト

♪別れの路 Separate Ways

作詞・作曲:レッド・ウェスト、リチャード・メイネグラ

♪プラウド・マリー Proud Mary

作詞・作曲:ジョン・フォーガティ

♪ネバー・ビーン・トゥ・スペイン Never Been To Spain

作詞・作曲:ホイト・アクストン

♪バーニング・ラブ Burning Love

作詞・作曲:デニス・リンデ

♪冷たくしないで Don't Be Cruel

作詞・作曲:オーティス・ブラック・ウェル、エルヴィス・プレスリー

♪レディ・ティディ Ready Teddy

作詞・作曲:ロバート”バンプス”ブラック・ウェル、ジョン・マラスカロ

♪ザッツ・オール・ライト That's All Right

作詞・作曲:アーサー・クルドップ

♪リード・ミー、ガイド・ミー Lead Me, Guide Me

作詞・作曲:ドリス・アカース

♪アブラハムのふところ Bosom Of Abraham

作詞・作曲:ウイリアム・ジョンソン、ジョージ・マックファーデン、テッド・ブルックス

♪ラブ・ミー・テンダー Love Me Tender

作詞・作曲:ケン・ダービー、ヴェラ・マトソン、エルヴィス・プレスリー

♪別れの時まで Until It's Time For You To Go

作詞・作曲:バフィー・セント・メリー

♪サスピシャス・マインド Suspicious Minds

作詞・作曲:フランシス・ザンボーン

♪アイ・ジョン I John

作詞・作曲:ビル(ウイリアム)・ゲイザー

♪明日に架ける橋 Bridge Over Troubled Water

作詞・作曲:ポール・サイモン

♪ファニー・ハウ・タイム・スリップス・アウェイ
Funny How Time Slips Away

作詞・作曲:ウイリー・ネルソン

♪アメリカン・トリロジー An American Trilogy

作詞・作曲:ミッキー・ニューブリー

♪ミステリー・トレイン Mystery Train

作詞・作曲:ジュニア・パーカー、サム・フィリップス

♪アイ・ゴット・ア・ウーマン I Got a Woman

作詞・作曲:レイ・チャールズ

♪ビッグ・ハンク・オー・ラブ A Big Hunk O' Love

作詞・作曲:アーロン・シュローダー、シド・ワイチ

♪ユー・ゲイブ・ミー・ア・マウンテン You Gave Me A Mountain

作詞・作曲:マーティ・ロビンス

♪ラウディ・ミス・クラウディ Lawdy Miss Clawdy

作詞・作曲:ロイド・プライス

♪好きにならずにはいられない Can't Help Falling In Love

作詞・作曲:ジョージ・デヴィッド・ワイス、ヒューゴ・ペレッティ、ルイージ・クレイトアー

♪メモリーズ Memories

作詞・作曲:ビリー・ストレンジ、マック(スコット)・ディヴィス

♪ハイル・エルヴィス Hail Elvis

作曲:ウィリアム・ルース


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。