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『妻の心』(1956年5月3日・東宝・成瀬巳喜男)

7月6日(水)の娯楽映画研究所シアターは、連夜の成瀬巳喜男特集『妻の心』(195653日・東宝)をDVDからスクリーン投影。

原作はなく、井手俊郎のオリジナル・シナリオ。舞台は群馬県桐生市の老舗・薬舗。タイトルロールの妻は、高峰秀子さん。東宝オールスターが、地方都市の窮屈な人間関係を演じるので、もちろん標準語で話す。もしも群馬の方言だったら、これほどしっとりした味わいはなかっただろうな、と思いながら堪能した。

群馬県の小さな町で一番の旧家・富田屋栄竜堂薬舗は、時代に押されて経営不振。店を切り盛りしている次男・信二(小林桂樹)と妻・喜代子(高峰秀子)は、敷地内に小さな喫茶店を開いて、これからに備えようとしている。しかし、母・こう(三好栄子)は「次男の道楽」と渋い顔。

ちょっとした会話や態度で、これまでの「嫁姑の息苦しい関係」が匂わされる。なればこそ高峰秀子さんは、喫茶店への夢を抱いてイキイキしている。メニューの勉強に「キッチンはるな」夫婦(加東大介&沢村貞子!)に通うデコちゃん! 銀行からの融資は、同級生・竹村弓子(杉葉子)の兄の銀行員・健吉(三船敏郎)の尽力でなんとか可能に。

というわけで前半、喫茶店開業のために、イキイキと活動するデコちゃんがとてもいい。頼りないけど好人物の夫を小林桂樹さんが好演。しかし、順風満帆の日々は長く続かず、若い時に稼業を弟に押し付けて東京で就職、結婚した長男・善一(千秋実)一家が帰ってくる。会社が潰れて、ぶらぶらしていた千秋実さんが、母親経由で次男・小林桂樹さんに、商売をしたいから30万円貸してくれと頼んできて・・・

「金が仇」「ダメ男」の成瀬映画の真骨頂というか、いやーな展開になってくる。「妻の心」はいかばかりか。デコちゃんはその不満、ストレスをなんとなく、三船敏郎さんに向けて、独身の三船さんも心が揺れ動く。不倫ということではないけど、夫や家庭から気持ちが離れて・・・みたいな微妙な感じ。それがこの映画の最大の魅力でもある。

クサクサした小林桂樹さんも、子供のころからの友達・国夫(田中春男)と芸者二人を連れて温泉へ。ところが相方の芸者・福子(北川町子)が帰りに行方不明となり、自殺してしまう。

といった小事がやがて大事となり、色々な意味でクライシスに・・・とはいえ、元の鞘に収まっていくのが「夫婦」という、この時代の文芸映画の定石通り。あと口の良いラストが待っている。

ロケーションは、群馬県桐生市本町通り、宮本町三丁目の桐生が岡公園などで行われている。グーグルアースで探検すると、当時の雰囲気がまだ残っている。デコちゃんと三船さんがやらずの雨で休憩した茶店(店内はセット)も休憩所として現存。「キッチンはるな」に向かう途中、三船さんが歩くのは、桐生駅にほど近い「カニ川通り」。映画を観終わったあと、ついグーグルマップでロケ地巡りをしてしまった(笑)

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