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娯楽映画研究所ダイアリー 2022年1月17日(月)〜1月23日(日)

配信動画「佐藤利明の娯楽映画研究所」今回はカツライス特集第三弾!

勝新太郎さんと田村高廣さんの「兵隊やくざ」シリーズの魅力を語ります!

1月17日(月)『ブロンコ・ビリー』(1980年・ワーナー・クリント・イーストウッド)

今宵の娯楽映画研究所シアターは、明日、遅ればせながら、クリント・イーストウッド91歳の新作『クライ・マッチョ』を観るので、50歳の時の『ブロンコ・ビリー』(1980年)を久しぶりに。いやぁ、これはイーストウッドの代表作の一つですねぇ。ニュージャージー出身の靴のセールスマンが30代で、親友と寝た女房を銃で撃って7年服役。ムショで知り合った前科者たちを集めて「ワイルド・ウェスト・ショー」を立ち上げて10数年。憧れのカウボーイとなり、ロデオ・スター、ブロンコ・ビリーとなり、一座を率いて中南部で巡業の旅。

懐かしのビジュアル

イーストウッド版『浮草物語』の哀感。給料は出せないけど、不思議な絆で結ばれた仲間たち。そこへ、亡き父の遺産相続のために、つまらない男ジョン(ジェフリー・ルイス)と結婚したものの、男に逃げられたリリー(ソンドラ・ロック)が加わってのたび暮らしが始まる。ユーモアと、仲間たちのとの絆、そして不器用な男と、高慢な女の恋を、情感たっぷりに描く。これぞ娯楽映画、これぞイーストウッド!

後半、火事で大事なテントを焼いてしまい、興行が打てなくなったからと、あろうことか大列車強盗を企てるビリーたち。まるで子供のような無謀さに、呆れ返るリリー。「あんたたち正気なの?」。特急列車に馬で挑んでも、オープンカーから弓矢を打ってもびくともしない。その稚気が嬉しい。

で、ビリーが思いついたのが、いつもボランティアで公演をしていた精神病院。患者たちが作業でアメリカ国旗を作っている。そこで院長に「テントを作って欲しい」お願いするビリー。いいじゃない!院長も喜んで引き受ける。しかし、そこにリリーを置き去りにした夫・ジョンが偽患者で入院していて・・・というクライマックス!

ラストの鮮やかさに、何度見ても感激してしまう。ソンドラ・ロックの輝いた顔! 彼女を観てびっくりするイーストウッド!

これを観たのは十七歳の夏。兎にも角にも面白くて、ロードショーで観て、名画座にも追っかけたっけ。あれから42年。僕も58歳となり、91歳のイーストウッドの新作を観れる喜びを噛み締めてます。

『ブロンコ・ビリー』から『クライ・マッチョ』へ!

1月18日(火)『クライ・マッチョ』(2021年・ワーナー・クリント・イーストウッド)・『アウトロー』(1976年・ワーナー・クリント・イーストウッド)

東陽町で打合せして、日比谷へ。待望のクリント・イーストウッド監督、主演『クライ・マッチョ』。夢のような映画時間を堪能した。小学生の頃からイーストウッド映画を観続けてきて、91歳のヒーローに多くを教わろうとは! 1979年の物語だが、作り方は紛れもなく西部劇。わが、長谷川伸先生の股旅映画にも通じる。『ブロンコ・ビリー』の晩年の物語でもあり、60年もの歳月、西部の男であり続けたイーストウッドの人生そのもの。

愛の薄い幼少期を過ごしてきた少年と、マッチョであることの無意味さを知った老人の旅。そして、わずかの間だけどユートピアのような暮らし。「俺は、ドリトル先生か?」に大笑い。

ロマンスもある。サスペンスもある。イーストウッドが怒りの拳をぶちかますシーンもある。素晴らしい映画であります!

今宵の娯楽映画研究所シアターは、『クライ・マッチョ』の興奮冷めやらぬまま、1976年、13歳の夏に観た『アウトロー』をスクリーン投影。クリント・イーストウッド監督による西部劇では、『許されざる者』と並ぶ傑作。135分の長尺だが、それ以上のヴォリュームのエピソードが詰まっている。だけど、流れる時間は心地よく、殺伐としたヴィジュアルが続くのに、心が温まる。イーストウッドは唾を吐きまくっているのに、その優しさが沁みる。

南北戦争で何もかも分断されてしまい、心に傷を持つ女たちが、イーストウッドと共に旅をしながら擬似家族になっていく。放浪者の物語が定住していく。アウトローの物語なのに、他人同士が家族になっていく面白さ。アメリカ建国200年記念映画と銘打たれていたが、その理由がここにある。誰もが喪失して欠落している。しかしその一人一人が絆で結ばれ家族となっていく。

1860年代半ば、南北戦争下のミズーリ州。ジョージー・ウェルズ(イーストウッド)は、妻と子供とつましく暮らしている農夫。しかし北軍の名を騙り、カンザスからきたならず者集団・レッド・レッグスにより、妻と子供が惨殺されてしまう。怒りに震えるジョージーは、ミズーリー・ゲリラ部隊に加わって北軍打倒のために戦う。

この前段が手際良く展開。南北戦争が終結し、ミズーリーゲリラは、リーダーのフレッチャー(ジョン・ヴァーノン)の命で投降するが、北軍はゲリラたちを虐殺。生き残ったジョージーは賞金5000ドルのお尋ね者となる。

負傷した青年・ジェイミー(サム・ボトムズ)とともに、北軍に追われて逃亡の旅を続けるジョージー。ジェイミーは亡くなってしまうが、いつしか先住民の酋長・ローン(チーフ・ダン・ジョージ)や、売り飛ばされた先住民の娘・リトル・ムーンライト(ジェラルディン・キームズ)たちと旅を続ける。さらにカンザス移民の祖母・サラ(ポーラ・トルーマン)と孫娘・ローラ(ソンドラ・ロック)を助け一行は牧場に落ち着くが・・・

孤高のアウトローが、いつしか大家族になっていくのがいい。クライマックス、ジョージーを追ってきた北軍大尉となったレッド・レッグスのリーダー・テリル(ビル・マッキニー)たちとの闘いは、先住民も、お祖母ちゃんも、ソンドラ・ロックも銃を持って、敵を迎え撃つ。

イーストウッドの抑制された演出で、この御伽噺のような展開を、リアルな西部劇として見せてくれる。久しぶりに観たが、やっぱり面白い!

1月19日(水)『ヴァジニアの血闘』(1940年・ワーナー・マイケル・カーティズ)

今宵の娯楽映画研究所シアターは、滅法面白い西部劇の傑作!マイケル・カーティズ監督『ヴァジニアの血闘』(1940年・ワーナー)を久しぶりに堪能。121分のノーカット版はおそらく初めてかも。エロール・フリン、ランドルフ・スコット、そしてハンフリー・ボガート!ヒロインはミリアム・ホプキンス。

戦前喜劇映画について、いろいろnoteにUPしてきましたが、PCL第1作「ほろよひ人生」が、まだでした! なので書き下ろしました。

1月20日(木)『廃墟の群盗』(1947年・フォックス・ウイリアム・A・ウェルマン)

アメリカ版ポスター

今宵の娯楽映画研究所シアターは、ウイリアム・A・ウェルマン監督による滅法面白い西部劇『廃墟の群盗』(1947年・フォックス)をアマプラからスクリーン投影。

グレゴリー・ペック率いる、リチャード・ウィドマークら銀行強盗団が、追っ手から逃れるために塩の砂漠地帯へ逃げる。水もなく、馬も倒れるほど苛烈な100キロの道程で、もうダメだ、というときに街にたどり着く。しかし、イエロースカイというその街は、かつてゴールドラッシュで賑わっていたが、いまはゴーストタウンに。

しかし町外れに、男まさりのアン・バクスターと、祖父と二人で暮らしていた。警戒心の強い二人に、リチャード・ウィドマークは「何かを隠している」と感じるが、彼女たちは5万ドルの金塊を隠し持っていた…

金塊を奪おうとする強盗団。しかしリーダーのグレゴリー・ペックとアン・バクスターは次第に惹かれ合って…

それぞれの立場、目論み、出し抜き、そしてロマンス。グレゴリー・ペックが、ダーティだけど、次第にヒーローになり、相棒だったウィドマークが次第に本性を剥き出しにしていく。この二人の心理的な闘いがなかなか。アン・バクスターも、実に魅力的。

アパッチ族が出てくるあたりから、後半の展開がさらに面白くなってくる。これまた傑作!

1月21日(金)『欲望の谷』(1954年・コロムビア・ルドルフ・マテ)

有楽座プログラム

昨夜の娯楽映画研究所シアターは、ルドルフ・マテ監督『欲望の谷』(1954年・コロムビア)を、おそらく半世紀ぶりに。グレン・フォードの北軍の勇士が、被弾した傷を直すため、数年間滞在したとある町。そこで牧場経営をしているグレン・フォードは、使用人や農民の信頼も厚い。婚約者・メイ・ウィンの希望で、牧場を手放して東部へ行こうと決意している。

しかし、その牧場を買い取ろうとしているエドワード・G・ロビンソンと弟・ブライアン・キース兄弟はならず者で、谷一帯の支配を目論んでいる。農民たちは猛反対するが、グレン・フォードは一度は売ろうとする。しかし牧童がブライアン・キースの放った殺し屋・リチャード・シッケルたちに惨殺されてしまう。怒りに燃えるグレン・フォードたちは反撃に出るが…

この映画が面白いのは、本当のワルは、エドワード・G・ロビンソンの妻・バーバラ・スタンウィック!で、義弟・ブライアン・キースと密通していて、夫を亡きものにして、谷を手に入れようとする。つまり、悪役は、あの美しいバーバラ・スタンウィック!で邦題が「欲望の谷」というわけ。

で、ヒロインはそんな悪母に反発している娘・ダイアン・フォスター。父親想いの彼女がとてもいい。

バーバラ・スタンウィックは貫禄はついたとはいえ、変わらぬ美しさ。西部劇だけど、ファム・ファタールっぷりを堪能させてくれる。

1月22日(土)『地獄への道』(1939年・FOX・ヘンリー・キング)

今宵の娯楽映画研究所シアターは、ヘンリー・キング監督、タイロン・パワー&ヘンリー・フォンダが、ジェシー&フランク・ジェームズ兄弟を演じた『地獄への道』(1939年・FOX)。映画としての質は高い。アメリカ映画の当たり年の1939年、ジョン・フォードの『駅馬車』と同じ年に作られたが、テクニカラー作品ということもあって、こちらの方が「新しい」感じがする(笑)

南北戦争後、1876年、鉄道敷設のため、セントルイス中部鉄道会社の手先パーシー(ブライアン・ドンレビ)一味が、不当な値段で農民たちの土地を買い漁っていた。兄フランク(フォンダ)と弟ジェシー(パワー)、そして病弱な母のジェームズ農場も狙われていた。兄弟がパーシー一味への暴行容疑で保安官に追われ、逃げている間に、母が殺されてしまう。怒りに燃えるジェシーは、パーシーたちを殺すが、お尋ね者に・・・

しかし保安官・ウイル・ライト(ランドルフ・スコット)はジェシーにシンパシーを感じていた。ジェシーは恋人・ジェラルダ(ナンシー・ケリー)のために減刑を条件に自首をするが、鉄道会社の社長・マッコイ(ドナルド・ミーク)はその地位を利用して息のかかった判事を任命して、ジェシーを縛り首にしようとする。そこへフランクたちが奪還作戦を展開して・・・

というわけで西部のならず者として歴史に名高い、ジェシー・ジェームズを、タイロン・パワーがヒーローとして演じている。悪辣な鉄道会社にやり口に対して、ジェームズ一味は義賊のように、庶民たちの支持を得ている。しかし逃亡者であり続けるうちに、ジェシーが生き急ぐようになって、妻となったジェラルダも耐えられなくなる・・・

覆面して列車強盗をするシーンのタイロン・パワーの格好良さ。満身創痍、手負の傷を追ったジェシー・ジェイムズを迎え入れる妻・ジェラルダの愛。ハリウッド映画では定番の描写の連続なのだけど、それゆえの風格がまたいい。

タイロン・パワーとヘンリー・フォンダ。二人の二枚目がダーティ・ヒーローを演じて、これがなかなか。ハリウッド・レジェンドの佇まいを眺めているだけでも楽しい。ジョン・キャラダインが本当の意味の悪役を演じているが、顔立ちといい、目つきといい、本当に悪辣で素晴らしい。ナナリー・ジョンソンの脚本も見事で、ハリウッド・クラシックスとしても文句なし。

1月23日(日)『地獄への逆襲』(1940年・FOX・フリッツ・ラング)

ロビーカード

今宵の娯楽映画研究所シアターは、昨夜に引き続き、ジェシー&フランク兄弟の物語の続篇『地獄への逆襲』(1940年・FOX)。監督はフリッツ・ラングにバトンタッチされ、ヘンリー・フォンダのフランク・ジェームズが弟・ジェシー(タイロン・パワー)の復讐を果たす物語。前作のラスト、仲間だったボブ(ジョン・キャラダイン)とチャーリー(チャールズ・ダネン)のフォード兄弟の裏切りにより、ジェシーが殺されるところから物語が始まる。

強盗団を引退して、名前を変えて、農場主となっていたフランクの元へ、フォード兄弟が逮捕されたが処刑寸前に特赦で釈放されたと知らせが入る。最愛の母やジェシーを死に追いやったセントルイス鉄道会社の社長・マッコイ(ドナルド・ミーク)の圧力によるものだった。フランクはその理不尽さに怒り、まだハイティーンの若者・クレム(ジャッキー・クーパー)ともに、フォード兄弟の行方を探す。

復讐の鬼となったフランクのワイルドな活躍が見られるかと思いきや、使用人だった黒人のピンキー(アーネスト・ホイットマン)が無実の罪で処刑されることになり、新聞記者志望の女子大生・エリアナ(ジーン・ティアニー)の説得で、ピンキーの無実を晴らすためにデンバーへ戻り、法廷へ。

ジャッキー・クーパーがまだあどけなくて、かつての名子役の片鱗がうかがえる。ジーン・ティアニーのモラルにヘンリー・フォンダがほだされての後半なのだけど、でも美しいのでOK(笑)

後半は、法廷劇として展開するが、これがなかなか面白くて、前作から兄弟の後見人的な存在の、新聞社主で、南北戦争の勇士・ルーファス・トッド少将(ヘンリー・ハル)が弁護士となり、鉄道会社との裁判に望む。

前作の列車強盗ほど派手なシーンはないものの、無一文のフランクが、フォード兄弟を追うための資金作りに、運送会社の事務所に押し入り、鉄道会社の給料を奪うシークエンスがある。またジェシーとフランク兄弟を悪者に仕立てた芝居に、自分たちの役でフォード兄弟が出演。フランクがそれを苦々しく観るシーンがおかしい。客席のフランクに気づいたボブが小道具のランプを客席に投げつけて劇場が火事になる。今回もまたジョン・キャラダインの悪党ぶりがなかなか。

傑作ではないけど、ハリウッド黄金時代の底力を感じさせてくれる力技の映画。


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。