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娯楽映画研究所ダイアリー 2021年9月20日(月)〜9月26日(日)

9月20日(月)更新 佐藤利明の娯楽映画研究所

生誕120年 円谷英二の東宝前夜

9月20日(月)阿佐ヶ谷ネオ書房「ザッツ・ニッポン・エンタティンメント!2021 PART2」・「スイングの少女」(1948年・MGM・リチャード・ソープ)

阿佐ヶ谷ネオ書房「ザッツ・ニッポン・エンタティンメント!2021 PART2」ご来場頂きありがとうございました。前半は、戦前のジャズ全盛時代の楽しさ、後半は東京五輪中止、贅沢は敵だ、日満友好、スパイ防止法、隣組、ジャズ禁止令、米英撃滅の歌まで、政治が娯楽に介入する横暴、無謀を時系列で検証しました。

多角的に、プロパガンダの恐ろしさについてお話しをしました。阿佐ヶ谷ネオ書房「佐藤利明の娯楽映画研究所SP」次回は10月24日(日)、ガラッと変わって「世紀の楽団 唄ふ映画スタア 岸井明」発売記念!「岸井明と笠置シヅ子 のヴェルディソングの昭和史」コミックソングの戦前、戦後史を楽しく辿ります。詳細は追って告知します! 是非是非、予定を空けておいて下さい!

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 今宵の娯楽映画研究所シアターは『スイングの少女』(1948年・MGM・リチャード・ソープ)。ジェーン・パウエルVSエリザベス・テイラー。大好きなミュージカル。ナンバーも、登場人物も、ストーリーも、何もかも最高! だから、ミュージカル観るのはやめられない。カリフォルニアの小さな街・サンタバーバラを舞台に、缶詰会社の社長・メルヴィン(ウォレス・ビアリー)の娘・ジュディ・フォスター(ジェーン・パウエル)が、ボーイフレンドのオーギー・プリングル(スコッティ・ベケット)と、父の会社が提供のラジオプログラムで音楽ショーに出演することに。ところが、その直前、ドラッグストアで働く二枚目・スティーブン(ロバート・スタック)に恋をしてしまい、トーンダウン。さらにジュディの同級生でお金持ち令嬢・キャロル(エリザベス・テーラー)もスティーブンに恋をして、ややこしいことになる。

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 といったハイティーンの恋物語だが、テイストはジュディ・ガーランドの代表作『若草の頃』(1944年・ヴィンセント・ミネリ)のような「家族がいちばん」のホームドラマ。お父さんが、お母さん・ドラ(セレナ・ロイル)のために密かに「ルンバ」をマスターしようと、ザビア・クガード楽団の歌姫・ロシータ(カルメン・ミランダ)の個人教授を受ける。ジュディはお父さんが浮気をしているのではないかと疑って、これまたひと騒動となる。

 ミュージカル・ナンバーも充実している。特に、ジュディが歌う"It's a Most Unusual Day" (作詞・ハロルド・アダムソン、作曲・ジミー・マクヒュー)はトップシーンと、エンディングで歌われる。特にエンディングでは登場人物全員が歌っての大団円で、これが最高に楽しい。

 また、カルメン・ミランダが、ザビア・クガード楽団をバックに歌う"Cuanto La Gusta" (作詞・ガブリエル・ルイズ、作曲・レイ・ギルバート)の楽しさ! FOXミュージカルのような派手なケレンはないが、カルメンの早口巻舌ヴォーカルが楽しい。

今宵の「大忠臣蔵」第11話「神文血判」(1971年3月16日・池田一朗脚本・村山三男)。赤穂城明け渡しか、自害か、城代家老・大石内蔵助(三船敏郎)の大評定の場で、五十数名の藩士たちを前に、内蔵助は決意を示す。こうして「忠臣蔵の物語」はいよいよ動き出す。

9月21日(火)『隠し砦の三悪人』(1958年・東宝・黒澤明)・『赤穂浪士』(1961年・東映・松田定次)


早起きして、錦糸町オリナスへ到着。これから『隠し砦の三悪人』4K版。午前10時の映画祭だけど9時から。「裏切り、御免!」四半世紀ぶりにスクリーンで『隠し砦の三悪人』(1958年・東宝=黒澤プロ・黒澤明)。ディティール、展開、文句なく面白い。4Kデジタルリマスター版で、画面の隅々の映像情報がハッキリクッキリ。パースペクタ・ステレオサウンドの再現効果も素晴らしく、音が右から左から聞こえてくる。モブシーンで、東宝バイプレイヤーの方々が確認できたのが嬉しい。やはり『スターウォーズ』(1977年)は、この映画が下敷きになっていたのだと、改めて実感。

 僕が最初に観たのは、黒澤明監督、上原美佐さん、千秋実さん、藤原釜足さんたちの座談会と一緒に放映された「ゴールデン洋画劇場」版だった。その時は、正直、長い映画だと思った。また上原美佐さんのエロキューションが気になって仕方なかった。しかし、その後、何度も繰り返し観てきて、それはたいして気することでもないと思うように。特に今回は、雪姫(上原美佐)がチャーミングで、男まさりのお姫様キャラのルーツでもあったのだなぁと。ああ映画を観ている醍醐味!ロングショットのクリアさよ!これはオススメです!

『赤穂浪士』(1961年・東映・松田定次)。ここのところ、三船プロ「大忠臣蔵」(1971年)を毎日、1話ずつ観ている。そこで中村錦之助さんが久しぶりに脇坂淡路守を演じていたので、その10年前に作られた東映オールスター時代劇『赤穂浪士』(1961年・松田定次)を久々に。片岡千恵蔵さんの大石内蔵助、大川橋蔵さんの浅野内匠頭、月形龍之介さんの吉良上野介の極め付きキャスティング。東映城で繰り広げられる絢爛豪華な、”ご存知””お馴染み””まってました!”の連続。なので、映画的なエモーションというより、観客の脳内で補完される絵巻物という感じ。

 松の廊下で、内匠頭の悔しさを悟った脇坂淡路守(中村錦之助)が、吉良上野介を叱るシーンがいい。このバージョンでは、脇坂淡路守と内匠頭が、長年の友人であるという設定で、その直前に、二人が酒を酌み交わし、内蔵助が釣った赤穂の鯛の浜焼きを、淡路守が所望する。それが前振りとなり、中村錦之助(まだ二十代!)のキャラクターを際立たせる。

 赤穂城明け渡しのシーンでの、内蔵助と淡路守が二人きりになる芝居場は、言わずもがなの、男と男が「わかりあう」瞬間をたっぷり描いていて、当時の観客のテンションは最高に上がっただろう。とにかく、この1961年版も、お馴染みのスターたちの腹芸、腹芸、また腹芸。多くはカタらすにお互いの気持ちを察しあう。「言わずもがなの友情」の連続で、これがあの頃の日本人にとって、たまらない見世物だったことがよくわかる。

 その中でやっぱり名場面は、市川右太衛門さんの千坂兵部と唯一共演するシーン。その直前、『実録忠臣蔵』(1922年・日活太秦)のための、マキノ省三監督が創造したキャラクター・立花左近(大河内傳次郎)との、これまたお馴染みの場面が展開される。討ち入りを決意した大石内蔵助(千恵蔵)が江戸へ向かう途中、立花左近の名前を騙っていた。本物の立花左近(傳次郎)と、東海道・鳴海宿でバッタリ。立花は、偽物をみて、赤穂浪士と察して、自分が偽物だと謝る。内蔵助が差し出す白紙の手形を見て、全てを察する立花左近。「忠臣蔵」映画ではお馴染みのこのシーン、様々なアレンジがあるが、この1961年版は、さらに鳴海宿で、盟友・千坂兵部と無言の対峙をするシーンを加えて、観客の感情を盛り上げてくれる。

 続いて「大忠臣蔵」第12話「赤穂城の落日」(1971年3月23日・土井通芳)。こちらも、中村錦之助さんの脇坂淡路守が登場。赤穂城明け渡しの名場面を、大石内蔵助(三船敏郎)と繰り広げる。脚本、監督、時代が代わろうとも、こちらも「言わずもがな」の淡路守と内蔵助、それぞれが内匠頭を想う気持ちがリンクして、涙涙の名場面となる。「忠臣蔵」は、極めて曖昧な「お互いを察し合う」という、ある時までの日本の美徳が通底している。それゆえアナクロで、それゆえ面白い。

9月22日(水)けやきホール「東京エキゾチカwith真由子」

代々木上原のけやきホールへ。「東京エキゾチカwith真由子」の久しぶりのLive。真由子さんは澤村國太郎さん、伊東深水さんのお孫さんでもあり(津川雅彦さんと朝丘雪路さんのお嬢さん)抜群の表現力のジャズシンガーであります。ジュリー・ロンドンの「クライ・ミー・ア・リバー」で始まり、お母様の隠れた名曲「別れのスナック」まで、ジャズ・スタンダード、ポップス、歌謡曲と、全て自分のものにしている真由子さんのヴォーカルを、今宵も堪能!

 阿佐ヶ谷ネオ書房「佐藤利明の娯楽映画研究所SP」次回10月24日(日)は、監修解説をした2枚組CD「世紀の楽団 唄ふ映画スタア 岸井明」(ビクター)発売記念。「ザッツ・ニッポン・エンタティンメント2021〜岸井明と笠置シヅ子 ノヴェルテイソングの昭和史」です!
癒しの岸井明さんとパワフルな笠置シヅ子さんフィーチャーしてのコミックソングの戦前・戦後史を、さまざまな伝説のパフォーマンスとともにご紹介、検証していきます!

10/24(日) 14:30開場15:00開演 入場料¥1500 予約¥1200
会場 阿佐ヶ谷ネオ書房 ご予約 kirira@nifty.com

今宵の「大忠臣蔵」第13話「下級武士」(1971年3月30日・池田一朗脚本・村山三男)。

9月23日(木)「MINAMATA〜ミナマタ」・『颱風圏の女』(1948年9月3日・松竹・大庭秀雄)

これからTOHOシネマズ日本橋で『MINAMATA〜ミナマタ』(アンドリュー・レヴィタス)。初日だが、漸く観れる、という感慨がある。なぜか試写の案内が来なくて・・・。製作前から、ずっと気になっていた。たまたま社会派映画について原稿を書くタイミングなので、満を侍して。

 まず語り口のうまさに唸らされた。中盤からの壮絶な展開。ユーモアを忘れずに「怒り」「悲しみ」「憤り」への共感。水俣へのアプローチが、ユージン・スミスの写真への取り組みとリンクしていく作り。山本薩夫監督作のような「映画としての面白さ」が通底している社会派作品。日本が作るべき映画だったなと。

 ジョニー・デップはもちろん素晴らしいが、國村隼さんのチッソ社長の芝居が見事。悪役の上辺ではなくさまざまな屈託や、苦悩も巧みに表現。真田広之さんも怒りだけでなく、ある種の狡猾さも匂わせる。三者の清濁併せ呑む芝居の深さが、被害の深刻さを浮き彫りに。

 アイリーン役の美波さんのヒロイン力、母のようにユージンを包み込む優しさ。見事のひとこと! セルビアで撮影している「なんちゃって日本」であることが気にならないほど、それぞれの俳優たちが、水俣と向き合っている。浅野忠信さんが、最初に家族の話をする場面で涙腺が決壊。

「入浴する智子と母」撮影を再現するクライマックスに、心揺さぶられた。
ぜひ、スクリーンで観て欲しい。

 1971年、ぼくは小学二年生。チッソによる公害は、連日ニュースで伝えられていたが、子供なりの受け止め方しかできなかった。この年、『ゴジラ対ヘドラ』(東宝・坂野義光)が作られたことを改めて納得した。


『颱風圏の女』(1948年9月3日・松竹・大庭秀雄)。特殊技術・円谷英二、音楽・伊福部昭 原節子がギャングの情婦!昭和23年ならではのギャング映画!


『鞍馬天狗』(1928年7月12日・嵐寛寿郎プロダクション)。アラカン先生大暴れ! シリーズ初期、サイレント時代の鞍馬天狗のおじさん!

 今宵の「大忠臣蔵」第14話「瑤泉院の持参金」(1971年4月6日・池田一朗脚本・丸輝夫)。瑤泉院の持参金を藩の人々に貸し付けていて、その回収をした内蔵助(三船敏郎)が、一旦返却して、改めて「貸して欲しい」と頼む。つまり、これから討ち入りのための準備金として活用したい。ということ「言わずもがな」で伝える。ああ、このシーン、どこかで観たなと既視感。あ、そうだ『社長行状記』(1966年・東宝・松林宗恵)のクライマックス、年末にようやく未収金を回収して、東野英次郎さんのところに持参した森繁社長。現金を一度は渡して、改めて「そっくりそのまま貸してほしい」と頭を下げる。「社長シリーズ」と「忠臣蔵」がここで繋がった!

9月24日(金)『大魔神』(1966年4月27日・安田公義、特撮監督・黒田義之)

大魔神封印函&妖怪封印函 到着。開封の儀。心して拝見します。南海の魔神も喜んでます^_^

『大魔神』(1966年4月27日・安田公義、特撮監督・黒田義之)。今年、KADOKAWAがイマジカのチームと4Kデジタル修復作業をして「妖怪・特撮映画祭」で上映された『大魔神』三部作4Kデジタル修復版が、Blu-rayでリリース。充実の特典は、原口智生さん所蔵の絵コンテを製本したもの、『大魔神怒る』台本などなど。特典ディスクからじっくりと拝見。スポニチニュースの現場取材映像が素晴らしく、何度も見ている映画の、初めてみる撮影現場に大興奮。静止画収録の当時のプレス資料「特別原稿」を熟読。ロケーションのエピソードなど、興味深くて、あっという間に夜が更けてしまった。本編ディスクは、流石に美しく、プロジェクター投影でも目を見張るほどの美しさ。

今宵の「大忠臣蔵」は第15話「髷切り魔」(1971年4月13日・池田一朗脚本・村山三男)。北町奉行所・与力に江原達怡さん、岡っ引きに人見きよしさん。

9月25日(土)『大魔神怒る』(1966年8月13日・大映京都・三隅研次、特撮監督・黒田義之)

『大魔神怒る』(1966年8月13日・大映京都・三隅研次、特撮監督・黒田義之)。昨夜に引き続き、デジタル4K修復版『大魔神怒る』を堪能。改めて藤村志保さんの美しさに惚れ惚れ。鐘撞き老人の寺嶋勇作さんもいい。「図々しい奴」丸井太郎さんはじめ、大映バイプレイヤーたちも4Kの高画質で! クライマックスの水の特撮は、もう「大魔神」版『滝の白糸』という感じ。特撮が至芸の域に!

 今宵の「大忠臣蔵」は第16話「柳生の隠密」(1971年4月20日・池田一朗脚本・村山三男)。ゲストに山形勲さん。浪人となった内蔵助(三船敏郎)が、釣り場で出会った浪人・滝立仙(山形勲)と仲良くなり、家族ぐるみの付き合いが始まるが、実は立仙は柳生が放った隠密で、内蔵助を殺害せよと命が下る。そのボスを演じているのは高松英郎さん。とにかくキャストが豪華。果たして立仙は内蔵助を斬ることができるのか? オチも含めて素晴らしい。池波正太郎先生の短編を読むような味わい。

9月26日(日)『地図のない町』(1960年・日活・中平康)・『大魔神逆襲』(1966年12月10日・大映京都・森一生、特撮監督・黒田義之)・『忠臣蔵 天の巻・地の巻(総集編)』(1938年3月31日・日活・マキノ正博、池田富保)

 DIMENSIONから来年3月にリリースされる、中平康監督『地図のない町』(1960年・日活)のWEB用の解説原稿執筆。先日も観たばかりだが、改めて集中して観直す。寓話的な構成による丁寧な「渡り鳥シリーズ」のような物語。橋本忍脚本がある意味完璧。悪役の滝沢修が見事。市会議員でヤクザの親分で土建屋。不法占拠をしているスラムに住む住民たちを立ち退かせてアパートを建てる。正義の医師・葉山良二の行動原理もいい。

 ロケ地は川崎市鈴木町あたり。味の素工場の建物が懐かしい。住民の小沢昭一さん、競輪の予想屋なのだけど『競輪上人行状記』を思い出す。それもそのはず、チーフ助監督は西村昭五郎監督! 元は石原裕次郎主演を想定していたシナリオ。葉山良二さんもいいけど、裕次郎さんで観たかった!

 でも裕次郎さんも登場! 葉山良二さんが張り込む映画館で『狂った果実』を上映中。ばっちり、北原三枝さん、津川雅彦さん、裕次郎さんの声が聞こえる!

妖怪封印箱の特典ディスクの静止画像を見ているうちに、時間がどんどん過ぎてゆく。ノンテロップの予告編、妖怪を眺めている楽しさ。

『大魔神逆襲』(1966年12月10日・大映京都・森一生、特撮監督・黒田義之)。デジタル4K修復版。改めてスクリーン投影。少年スター(当時の言い方)の四人が素晴らしい。「マグマ大使」のガム役を一時お休みして、この作品に取り組んだ二宮秀樹くん、その幼い弟役の長友宗之くんの可愛さ! みんなより体格の良い堀井晋次くん、そして悲しいことになってしまう飯塚真央くん。この四人が魔神の山を越えて、父や兄が苦役させられている火薬製造場へと向かう。いわば「スタンド・バイ・ミー」の前半、森一生監督の演出が素晴らしく、子供のための時代劇の最高峰ではないかと。

『忠臣蔵 天の巻・地の巻(総集編)』(1938年3月31日・日活・マキノ正博、池田富保)をアマプラで。戦前、日活京都の底力を感じるオールスター大作の『忠臣蔵』。マキノ省三監督、没後10周年を記念して、日活多摩川と太秦の東西撮影所のオールスターをキャスティング。「天の巻」をマキノ正博監督、「地の巻」を池田富保監督が別班体制で撮った絢爛豪華版。


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。