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娯楽映画研究所ダイアリー 2022年1月3日(月)〜1月9日(日)

YouTube「佐藤利明の娯楽映画研究所」2022年最初の配信動画は『ハワイ・マレー沖海戦』と戦記映画の円谷特撮を、切通理作さんと語り合っております。

1月3日(月)『許されざる者』(1992年・ワーナー・クリント・イーストウッド)

新春娯楽映画研究所シアター第三夜は、新作『クライ・マッチョ』が楽しみな、クリント・イーストウッド監督・主演の傑作『許されざる者』(1992年)を投影。ワーナーの試写室で観て感激してから、もう30年も経ったのかとしみじみ。

1月4日(火)『妖星ゴラス』(1962年・東宝・本多猪四郎)

年末に『ドント・ルック・アップ』を観ながら、どうしても再見したくて『妖星ゴラス』(1962年・東宝・本多猪四郎)をスクリーン投影。わずか85分で、壮大な地球の危機を描いてしまうスペクタクル映画に改めて驚嘆。しかも池部良さんと白川由美さん、久保明さんと水野久美さんのロマンスも盛り込み、怪獣マグマまで出しちゃうんだから娯楽映画のお手本のような傑作。

 プロジェクター投影で100インチサイズで観ると、南極ロケット基地建設シーンは、ミニチュアワークのディティールが素晴らしく、眺めているだけで惚れ惚れする。石井歓さんの音楽がまた良いのです。もちろん若き精鋭たちが歌う「俺ら宇宙のパイロット」も名曲だし、これまた無駄が一切ないパーフェクトな特撮映画。昭和37年の円谷英二特技監督の充実たるや! 

1月5日(水)『世界大戦争』(1961年・東宝・松林宗恵)・「日本沈没」第26話

ラピュタ阿佐ヶ谷のチラシ原稿を執筆しつつ、オンデマンド出版「番匠義彰 映画大全」校正。今年は番匠監督、生誕100年のメモリアルイヤー!

2月20日からのラピュタ阿佐ヶ谷では、全38作の番匠映画のうち「花嫁シリーズ」全8作を含む23作を上映です。

娯楽映画研究所シアターは、「ドント・ルック・アップ」の最後の晩餐の原点ということで『世界大戦争』(1961年・東宝・松林宗恵)。真摯な姿勢で作られた、見事な脚本、素晴らしい演出、最高の特殊技術。非の打ち所がない反戦映画の傑作。そして、その流れで「キングコング対ゴジラ」(1962年・東宝・本多猪四郎)4K版をスクリーン投影。ヘッドフォンのBASSを効かせると、ゼンブ、ゼンブ聴こえる。明日は、立川まで遠征して「モスラ」4K極音上映に行きます。

昨年末から視聴を続けてきたテレビ版「日本沈没」1974も、第26話「東京最後の日」(1975年3月30日・脚本:山根優一郎・監督:福田純)を持っておフィナーレ。

22話以降、グッと面白くなり、国枝(山本圭)が登場してからは、サバイバル・ドラマとして楽しめた。最終回は「死と再生」がテーマで、東京が沈みゆくなか、最後の日本人となった田所、小野寺、玲子、そして多摩川の教会で出会った小鹿番さん、曽我町子さん一家の最後の1日が描かれる。

救助に来たヘリコプターが定員いっぱいで全員が乗ることができない。果たして誰を乗せるのか? という状況で、伸子さん(大井小町)かよ! 二人分じゃないの?というツッコミどころもありながら、感動的なラストに向かってゆく。

このドラマ、ちょうど小学校五年生の時にオンエアされていて、毎回のディザスター特撮にワクワクしながら、リアルな地震への恐怖もあり、複雑な気持ちで観ていた。当時は「日本沈没」「ノストラダムスの大予言」ブームで、僕らには未来がない、と思い込んでしまったが、およそ半世紀後に、還暦目前でまた観れるとは! というか、折々に観てきたけど・・・

1月6日(木)『モスラ』4K版(1961年・東宝・本多猪四郎)極音上映

立川シネマシティ『モスラ』4K版。今日は、視覚障害者の方も生音声ガイドつきでご覧になられていて、開演前、皆さんのワクワク感が、会話から伝わって楽しい雰囲気に。昔の映画館は、こんな風に賑やかだったなぁ! では極彩色のインファント島へ、再び旅してきます。

初日にTOHOシネマズ錦糸町で観たものより、明らかに音圧がすごく、サラウンド効果抜群。パースペクタクステレオで楽しんだ昭和36年の渋谷東宝の観客も、こんな風に驚いたのかな?とにかく、すごい上映でした。今日で最終とはもったいない!

「番匠義彰 映画大全」の再校の赤入れを済ませ、これから雪の降る街を帰途に。しかし、明日「スパイダーマン」IMAXで観るのに、交通機関大丈夫か? 今夜は、オンデマンド出版「佐藤利明の娯楽映画研究所」第一巻「番匠義彰 映画大全〜娯楽映画のマエストロ〜」のKindle版とペーパーバック版の入稿準備。DTP・組版を中川右介さん、表紙デザイン・イラストを近藤こうじさんにお願いして、僕も含めて初めての体験なので、色々と大変でした。なんとか山を越えて、出版の最終準備に入りました。今週末にはAmazonでの発売アナウンスができると思います。

皆さま、よろしくお頼ん申します!

1月7日(金)「番匠義彰 映画大全〜娯楽映画のマエストロ〜」発刊!・『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021年・ソニー・ジョン・ワッツ)・『三人の名付け親』(1948年・MGM・ジョン・フォード)・『男の敵』(1935年・RKO・ジョン・フォード)

DVD、Blu-ray、配信の時代になって、どんな時代の、どんな映画でも観られると思いがちです。しかし実は映画黄金時代に誰もが「面白い」と思っていた作品が、観られるチャンスを失って「取り残されている」ケースがたくさんあります。

番匠義彰監督は、1922年生まれ。今年、生誕100年を迎えます。昭和30年にメロドラマ『かりそめの唇』で監督デビュー。昭和40年の鰐淵晴子さん主演『ウナ・セラ・ディ東京』まで、わずか10年間に38作を作り、テレビ映画へと転身。

松竹初のシネスコ「松竹グランドスコープ」第1作『抱かれた花嫁シリーズ(1957年)を任されるほど、娯楽映画づくりのマエストロとして、抜群のセンスの持ち主でした。

その作風は、ハイテンポ、ハイセンス、ハイテンション。沢山の登場人物をあざやかにさばき、ラストの10分間で、「あれよあれよ」と全てがストンと収まる、面白さ! コメディ、文芸作、メロドラマ、ジャンルを越境して、その面白さは一貫しています。

しかし、DVD化されているのはわずか2作品だけ。その面白さは「知る人ぞ知る」でした。そこで昨年、ラピュタ阿佐ヶ谷「蔵出し!松竹レアもの祭」で、番匠作品を多めにラインナップ。映画ファンがその面白さを発見!ついに、この2月20日から4月2日まで、ラピュタ阿佐ヶ谷で特集上映「番匠義彰 松竹娯楽映画のマエストロ」を開催。上映可能な23作品(うちニュープリント2本も含む)をスクリーンでご覧頂けることになりました。

そこで思い立って「番匠義彰 映画大全〜娯楽映画のマエストロ〜」を刊行することにしました。観られないから語らない、ではなく、観られないからこそ、デティールまで言及して、作品の「面白さ」をお伝えしたい。僕らの少年時代の映画本のように、番匠義彰全38作の面白さ、楽しさ、素晴らしさを語り尽くしました!

作品は観れずとも観たくなる。そういう映画解説で育ってきた世代としては「観られないからこそ、語る」本にしました。

昨日の大雪で凍結した歩道を20分ほどかけて、ゆっくりと亀戸駅のバス停まで。雪かきをしてくださった方々に本当に感謝です。

これから109シネマズ木場で『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』IMAXレーザー初回を観るために、バス移動。案の定、道も混み、ダイヤも乱れてる。それでも行く。子供の頃からの映画人生だからね。

ジョン・ワッツ監督『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』。予想を遥かに超えて面白かった。

今宵の娯楽映画研究所シアターは、ジョン・フォード二本立て。まずは、クリスマス映画の傑作『三人の名付け親』(1948年・MGM)。ロバート・マーマデューク・ハイタワー(ジョン・ウェイン)、ペドロ・エンカラシオン・アランゴ(ペトロ・アルメンダリス)、ウィリアム・カーニー(ハリー・ケリーJr.)、三人にのならず者たちが銀行襲撃に失敗。カーニーは肩に被弾、三人は砂漠へと逃げる。執拗に追いかける保安官・スウィート(ワード・ボンド)。

ことごとく先回りされて水が手に入らず、もはやこれまでという時に、放置された馬車の中で臨月で瀕死の女性の出産を見届ける。三人は赤ちゃんの名付け親となり、逃亡から赤ちゃんの生命を救うサバイバルの旅となる。赤ちゃんの名は、ロバート・ウイリアム・ペドロと名付けられる。目指すは、ニューエルサレム。

新約聖書のイエスキリスト誕生に立ち会った「東方の三博士」の物語を西部劇に置き換え、バッドガイがグッドガイになっていく奇跡の物語となった。

この映画は子供の頃、よくテレビで放映されていて、赤ちゃんを抱いて瀕死のジョン・ウェインが、ようやく辿り着いた街の酒場で「俺にはビール、この子にはミルクを」と言ってカウンターに赤ちゃんを置くシーンが強烈な印象となっていた。「人間の善意」がテーマの佳作。最後に登場する判事をワーナー・ミュージカルでお馴染みのガイ・キビーが演じている。

続いては「人間の悪意」がテーマのヘビーな作品。ヴィクター・マクラグレン主演『男の敵』(1935年・RKO)。こちらはキリストを売ったユダの故事を、1922年のアイルランド・ダブリンを舞台に描いた「人間の弱さ」と「魂の救済」を描いている。アイルランド独立運動の組織から切り捨てられ、その日の暮らしにも困っているジポ(ヴィクター・マクラグレン)が、金に困っている恋人・ケイティ(マーゴット・グラハム)のために20ポンドで、指名手配中の親友・フランキー(ウォーレス・フォード)を警察に売ってしまう。

で、良心の呵責にかられながら、酒を飲み、金を湯水のように使ってしまい、その態度から告発者であることを、アイルランド独立運動のメンバーに見抜かれてしまう。それでも、ジポは嘘の上塗りをして、無実の善良な仕立て屋・マリガン(フォックス・ミュージカルでお馴染みのドナルド・ミーク!)を密告者に仕立て上げてしまうが・・・

ジョン・フォード映画でお馴染みのヴィクター・マクラグレンがまだ若く、顔もシュッとしている。『静かなる男』(1952年)の頃とは大違い。人間の弱さ、狡さ、苦しみを、逃避することで誤魔化そうとする。まあ、身につまされるキャラでもある。

2本ともアマプラで観たのだが、期せずして「聖書」に材を取った作品でありました。

1月8日(土)『果てなき航路』(1940年・ユナイト・ジョン・フォード)

新刊「番匠義彰 映画大全:娯楽映画のマエストロ」。本日より、ペーパーバック版が、1月20日の Kindle版発売に先駆けて先行発売開始しました。最短で月曜日にお手元に届くと思います(地域にもよりますが)。電子書籍ではなく紙の本をご希望の方は、リンクよりご購入、宜しくお願いします。

先程、Amazon Kindleペーパーバック「番匠義彰 映画大全:娯楽映画のマエストロ」見本が届きました。

中川右介さんによるDTP組版は、読みやすく流石のレイアウトです。近藤こうじさんの表紙デザインもカラフルで華やか。番匠喜劇の味わい。

ページ数は、拙著「クレイジー音楽大全」と同じ271ページ。ペーパーバックらしくハンディで読みやすいと思います。

表4は、岩下志麻さん、鰐淵晴子さん、倍賞千恵子さんをイメージした可愛いイラストです!

今宵の娯楽映画研究所シアターは、今年4本目のジョン・フォード監督作。ユージン・オニールの戯曲「長い帰りの旅路」を映画化した『果てなき航路』(1940年・ユナイト)を、本当に久しぶりに。最近のアマプラはクラシック映画が充実しているので嬉しい嬉しい。

荒くれたちが乗った貨物船が、アメリカで爆薬を積んでロンドンへ。しかし途中、ナチスのUボートが待ち受ける危険水域を通らねばならない。という戦争アクションになりうるテーマを、劣悪な環境での船員たちのドラマにしているのがいい。

ジョン・ウェインはスエーデンの故郷に帰ろうとする青年。トーマス・ミッチェルはそんなジョン・ウェインに親孝行を進める面倒見のいいアイルランド男。イギリス人のイアン・ハンターはアルコールで家庭を壊してしまい、後悔に苛まれながら酒に手を出している気弱な男。ベテラン船員のワード・ボンドは大怪我をして瀕死となる。そして陸では芽がでなかったが、海こそが人生と考えているバリー・フィッツジェラルド・・・

それぞれのキャラが魅力的で、オールセットにも関わらず、緊迫の海洋スペクタクルが展開。ドイツ軍の機銃掃射、水雷攻撃を受けながら、戦争の爆薬が爆破しないかとドキドキする。

どうにかロンドンについて終わりではなく、せっかくの給料をキャッチバーでぼったくられて、また奴隷船のような貨物船へと逆戻りする船員たちの悲哀。ジョン・ウェインはストックホルム行くの船のチケットを買ったものの、その懐を狙っている悪い奴らに酒を飲まされて・・・

トーマス・ミッチェルがとにかく素晴らしい。1940年のアカデミー作品賞、脚色はじめ六部門にノミネートされた佳作!なお初公開時のタイトルが『果てなき航路』で、リバイバル時に『果てなき船路』と改題され、ビデオや配信でも『船路』となっている。

1月9日(日)『影なき男』(1934年・MGM・W・S・ヴァンダイク)・『待って居た男』(1942年・東宝・マキノ正博)

Amazon Kindleペーパーバックから刊行した新刊本「佐藤利明の娯楽映画研究所 第一巻 番匠義彰 映画大全:娯楽映画のマエストロ」。今まで語られる機会の少なかった「めっぽう面白い映画」を創った番匠監督の全映画を詳説しました。2月20日からラピュタ阿佐ヶ谷で特集上映!

これまで多くの書籍を出して来ましたが、今回は初の試み、Amazon限定の発売です。DVD化作品が2作しかない番匠義彰監督ですが「観ればわかる」面白さを「観られない」ことを前提に詳説しました。ラピュタ阿佐ヶ谷での特集のガイドに!これを機に「花嫁シリーズ」のソフト化、配信がなされんことを!

今宵の娯楽映画研究所シアターは、日米おしどり探偵映画合戦(笑)。まずはダシール・ハメット原作、W・S・ヴァンダイク監督のシリーズ第1作『影なき男』(1934年・MGM)。ウイリアム・パウエルの探偵ニック・チャールズと、マーナ・ロイ演じる妻ノラ、そして愛犬アスタ。発明家失踪と連続殺人の謎を解く。ロサンゼルスから休暇でニューヨークに来た二人が、かつての友人・ナンハイム(ハロルド・フーバー)の娘・ドロシー(モーリン・オサリバン)の依頼で父の失踪事件に取り組むが・・・

始終、酒を飲んで上機嫌のニックと、事件に首を突っ込みたがるノラのイチャイチャぶりが楽しい。FOXに行く前のシーザー・ロメロが優男で登場! クライマックス、関係者を集めて、ニックとノラ夫妻が、豪華な晩餐会を催して、その場でニックが真犯人を突き止める。この趣向も楽しい。

続いては、マキノ正博監督と脚本家・小国英雄さんが、この映画にインスパイアされて作った『昨日消えた男』(1941年・東宝)の姉妹編、長谷川一夫さんと山田五十鈴さん、そして我らがエノケンさんの『待って居た男』(1942年)。江戸で名高い岡っ引きの娘・山田五十鈴さんと、腕利きの目明し・長谷川一夫さんの夫婦が、江戸からとある温泉場に水入らずの休暇でやってくる。

という設定も同じで、その旅館の若奥様・山根寿子さんが、何者かに生命を狙われる。犯人と目されたのが、彼女に惚れていたが別れさせられた大工・江川宇礼雄さん。で、長谷川一夫さんは全く捜査をする気はなし。

山田五十鈴さんが女”銭形平次”を気取って、トンチンカンな捜査を始める。危なっかしくて見てられない。それが笑いを誘う。で、江川宇礼雄さんが殺されたところで、地元の目明し・エノケンさんが乗り出すが、これがやることなすこと、トンチンカン。

長谷川一夫とエノケン!

誰かに捜査情報を示唆されると「わざわざ教えてくれて有難う」と礼を言うルーティーンがおかしい。結局、昼行灯のような長谷川一夫さんがエノケンさんに推理を教えて、クライマックス、登場人物を一堂に集めて、真犯人を突き止めるのだが、このエノケンさんが抜群。少女時代の高峰秀子さんが、とにかく可愛い。

というわけで、西の人妻探偵・マーナ・ロイと、東の人妻探偵・山田五十鈴さん。どちらもチャーミングでありました!


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。