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太陽にほえろ! 1973・第54話「汚れなき刑事魂」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第54話「汚れなき刑事魂」(1973.7.27 脚本・長野洋、小川英 監督・高瀬昌弘)

永井久美(青木英美)
柴田たき(菅井きん)
牧恭一(水谷豊)
戸川組幹部(堀田真三)
労務者(中島元)
戸川組組員(村山達也)
梅津圭助(門脇三郎)
由起卓也
宇留木康二
川島健太郎(草間璋夫)
木下哲也(今井和雄)
滝田染子(東静子)
平井栄三(見明凡太朗)
池上平吉(武藤章生)

予告編の小林恭治さんのナレーション
「わずか数年の空白が、男の友情を切り裂いてしまった。人を信じるとは? 失われたものは血で持って取り戻すしかない。次回『太陽にほえろ! 汚れなき刑事魂』にご期待ください。

 水谷豊さん3回目のゲスト回。門脇三郎さん、由起卓也さん、宇留木康二さん、東静子さんは、昭和20年台から東宝バイプレイヤーとして幾多の作品に出演してきた方々、オッサンこと高瀬昌弘監督ならではのキャスティング。爆弾魔VS捜査一係というダイハードなシチュエーションに、「青春学園シリーズ」の高瀬監督らしく「人を信じること」をテーマにした熱血ドラマが展開。マカロニ編では、アダルトな展開が多かったが、ジーパン編になると「青春ドラマ」度が高まり、このエッセンスが、若者や年少の視聴者を夢中にさせた。

 パチンコ屋。下駄ばきで非番のジーパンがたくさんの景品を持って帰る。母・たき(菅井きん)との食事のひととき、テレビからチェリッシュの歌声が流れている。

 滝田染子(東静子)がマダムのスナック。カウンターには常連客がぎっしり。コック見習いの学生・牧恭一(水谷豊)がじっと、客の川島健太郎(草間璋夫)、池上平吉(武藤章生)たちの様子を伺っている。店内に響く時計の音、恭一が出ていたすぐ後で、スナックは大爆発。現場に駆けつける七曲署の面々。非番のジーパンも遅れて到着する。客の3名は即死、残りは病院に運ばれたが重体。長さんから概要を聞きながら、手袋がうまくはめられないジーパン。現場検証にまだ慣れていない様子。

 現場は悲惨な状態。ボス、ゴリさんが店内で調査をしている。殿下からボスへ「山さんから連絡が入っています」向かいの公衆電話に向かうボス。ジーパンは死体を見て嘔吐しそうになる。慣れていないんだね。病院の被害者の状況を聞くボス。「お前、いいから病院へいけ」「大丈夫ですよ」「行って山さんの手伝いをしろ」(笑)

 病院で、被害者の暴力団員・池上平吉(武藤章生)から話を聞く山さん。池上は食事が終わって立とうとした瞬間に爆発に遭い、その後のことは覚えていない。ジーパンが第一外科の治療室に行く。「七曲署捜査第一係の柴田です」その声に振り向いたのは、牧恭一(水谷豊)。懐かしそうに「あんたは、柴田さん!」。バンパイアと「狼の紋章」の再会だね(笑)。二人は旧知の仲だった。恭一はひと月前からスナックでバイト。「トイレに行くのがもう少し遅かったら・・・運が良かったよ」「全くだ」と急行を温める。

 鑑識の報告によれば、爆発の中心点は店の入り口近く。爆発物はダイナマイトと断定された。目覚まし時計と乾電池を使った時限装置によるもの。殿下「目覚まし時計と乾電池じゃ、素人でも細工できますね」。しかしダイナマイトはなかなか手に入らない。犯人の狙いは? 特定の誰かを狙うために、関係のない人々も巻き添いにしたのではないかと、ボスは推理する。「被害者が増えるほど、犯人の狙いはわかりにくくなる」とボス。山さんも同意する。そこで、誰が狙われているかを割り出す必要がある。そこで長さんは、ダイナマイトの線から犯人を割り出し、ゴリさんと殿下はスナックに出入りした人々を洗い出すことに。山さんとジーパンは被害者をあたることになった。

 「頑張ってね、新米くん」と久美が拳銃をジーパンに渡そうとするが「ベー」と戯けて受け取らない。山さん「頑固なやつですな全く」。ジーパンが拳銃を携帯しない理由は、前回を見た視聴者にはわかっている(笑)。まずは「お前のポン友からだな」と牧恭一を調べようと山さん。ジーパンは「あいつはいい奴なんです」。山さん「いい奴だって狙われることはあるよ。犯人の可能性はないとは言えん」。その言葉にムキになるジーパン。「それどういう意味ですか!」「デカって商売はな、全てを疑ってかかるもんだ」。

 爆発当時、スナックにいたのは8名、うち3名が死亡、3名が重傷者、軽症で済んだのはやくざの池上、コック見習いの恭一の二人だけ。それでもジーパンは恭一がいい奴だからと、疑うことすらできない。恭一のアパートで、事情聴取をする山さん。憮然とするジーパン。滝田染子(東静子)の葬儀で、親族から話を聞く二人。東静子さんは『ゴジラ』(1954年)で「また疎開?」という若いBGを演じていた女優さん。写真スタジオ、時代劇ドラマの控室など、被害者の関係者に次々とあたる。

 川島健太郎(草間璋夫)の勤め先「保全信用金庫」で新理事長・平井栄三(見明凡太朗)から話を聞く山さんとジーパン。川島は次の理事長に内定されていたが「その椅子をめぐって内部争いがあった」と噂が立っていると平井。「第一、それが事実としたら、この私が真っ先に怪しいということになりますな」と笑う。

 ダイナマイトの線からは犯人の身元はわからず。長さんもお手上げ状態。

 山さんたちは最後の一人、やくざの池上平吉(武藤章生)に会いに行くが、いきなりドスを手に「野郎、ぶっ殺すぞ」と戸川組組員(村山達也)を追いかける池上のショット。武藤さん、おかしいね。新宿ゴールデン街の都電線路跡に、組員を追い詰めた池上。そこへジーパンが割って入るが、組員は逃げてしまう。池上「あいつら戸川組が俺をやろうとしたに違いないんだ!」と血走って、山さんに訴える。ジーパン、組員を追いかける。ゴールデン街、新宿西口歩道橋と、前回のロケ地を走るジーパン。戸川組事務所に乗り込む。「誰だお前!」ジーパンに銃を向ける戸川組幹部(堀田真三)。事務所の壁には「人妻SEX行動専科」のポスターが貼ってある。

 「お前、池上の舎弟か?」「舎弟?俺はな・・・」「動くな!若けえの、一人で飛び込んでくるとは、いい度胸だ。ただな、一つだけ教えといてやろう。俺たちは池上のような三下をやるのに、ハッパなんて大袈裟な真似はしねえぜ。帰ってそう言ってやんな」「そいつは警察で話してもらおう。銃剣刀不法所持で逮捕する!」。しかし堀田真三さん、信用しない。「馬鹿野郎、こんなデカいるわけない」(笑)そこで戸川組でジーパン、大暴れ。組員たちをボコボコにする。拳銃を構える堀田さんに飛び蹴りを食らわす。さすが、空手二段! 結果的に暴力団退治に!

 やがて、池上の竜神会と戸川組の抗争と爆破事件は関係ないことが判明。捜査は行き詰まりに。動機も、犯人も、一歳わからない。「ちょっとした完全犯罪だわ」と推理小説を読んでいた久美のひとことに「完全犯罪か」と山さん。しかしボスは「まあ見てろ、今に必ずボロが出る。うまく仕組まれた犯罪ほど、つまらんことでボロが出る」と。

 恭一がパチンコをしている。BGMは山本リンダさんの「狙い撃ち」。そこへ山さんがやってくる。「あのデカ、俺を疑っているらしいな。いくら付け回しても無駄なのにな」と恭一の心の声。そのとき「よお」と声をかけてきたのがヘルメット姿の労務者。恭一は工事現場で働いていたのだ。その労務者に「今の男、知り合いか?」。丹沢の飯場で二、三日、一緒に働いていた学生によく似ているという。

 捜査一係、長さんのメモによると、しばらく前に丹沢の飯場で、ダイナマイトの数と帳簿が合わなかったことがあったという。時期も恭一らしい男が働いていた「先月の半ば」とぴったり。「被害者よりも加害者の方が早く決まりましたな」と山さん。ボスはすぐに恭一の逮捕礼状を手配する。「やっぱり山さんのカンが当たったな」と長さん。みんなで話しているとジーパンの姿がない。その話を聞いていたのだ。

 恭一のアパート。「計画は完全だったんだ。なんで、あんなところであいつと・・・」と恭一の心の声。有り金を全部持って、荷造りをして逃げようとする恭一。そこへジーパンが訪ねてくる。「あんた何しにここへ来たんだ」「あの日のことで何か思い出したことはないかと思ってね」「悪いけど話している暇はないんだ」。母親が急病なので4時半の汽車で田舎に帰ると聞いたジーパン。「おい、時間がないじゃないか」と荷造りを手伝う。どこまでもお人好し。

 小田急線が川を渡る。パトカーが走る。中にはジーパンと恭一。「おい、もっと急げないのか!」。友達のためにパトカーを手配したのだ。恭一の部屋で、家宅捜索をする山さんに、びっくりした顔の長さんが耳打ち。「何?パトカーで?」

 捜査一係、ボス(前回に続いて右手の薬指を怪我している)が、ジーパンのパトカーの行方を聞いている。「新宿駅だな、わかった」と警察無線でゴリさんに教える。新宿駅、ジーパン、恭一のお母さんへの土産を買ってやっている。振り返ると恭一はいない。ゴリさん、殿下、新宿駅地下街へ。恭一、コインロッカーの前に立っている。そこへ「どうしたんだ急にいなくなって」とジーパン。親切にもロッカーを開けて、恭一のボスとを取り出してやる。その隙に恭一がジーパンを殴ろうとするが、ゴリさんが駆けつける。「ジーパン。そいつがホシだ!捕まえろ」。しかし恭一は逃げる。追うゴリさん。やっとことの事態を飲み込むジーパン。新宿駅の地下を走る、走る、走る。西口の小田急地下商店街のあたりで、恭一と見失うゴリさん。

 恭一のボストンバッグには1000万円の現金が入っていた。「殺しの報酬か?」「そんな」とまだ恭一を信じているジーパン。「今度は狙われた男を探すんだ」とボス。その日は解散して、みんな帰って休むことに。翌朝、自宅近くの多摩川を歩くジーパン。「なんであいつが?」どうしても信じられない。そこへ山さんが「気合を入れにきたんだよ」と優しく話しかける。いいねぇ。「山さん、どうもすいませんでした」と謝るジーパン。「でもどうしてあいつが?」「お前、あの学生をいい奴だと言っていたな」「ええ」。恭一のことを語り出すジーパン。鶴岡署交番勤務時代、恭一が子供を助けたことがある。ボール遊びをしていた女の子が、トラックに引かれそうになったとき、咄嗟に恭一が女の子を抱き上げてことなきを得たのだ。あ、これは裕次郎さんの『赤い波止場』のトップシーンのリフレイン!

 それがきっかけで友達になり、子供たちと一緒にサッカーをしたり。「全くいい奴なんです」。山さん笑って「全くお前が羨ましいよ、そこまで純粋に人が信じられるとはな」と。「ジーパン、今日限りそのことは忘れろ。牧恭一はお前のいう通り、根はいい奴かもしれん。だが今の奴は殺人犯だ。そしてジーパン、お前は刑事なんだぞ」。このセリフは、ボスがマカロニやシンコに言った言葉でもある。

 一方、長さんの調べでは、亡くなった保全信用金庫の川島健太郎(草間璋夫)が、使途不明金を使い込んだことにされている。「牧は川島に罪を被せた誰かから、一千万、あるいはそれ以上の金額で殺しを請け負った。一千万もの金を自由に動かせるとなると、平職員ではあるまい」とボス。恭一と幹部クラスの関係といえば、新理事長に就任した平井栄三(見明凡太朗)が怪しい。

 平井宅を張り込む、山さんとジーパン。平井の小学生の息子を見たジーパンが思い出す。恭一と一緒にサッカーをしていて怪我をした平井の息子を、家まで送って行ったことがあると。「繋がったな」とボス。これで事件の全容は明らかになってきた。信用金庫には、昨日も恭一から平井あてに電話がかかっていた。恭一は都内に潜伏している。せっかく殺しを成功させたのに、礼金を受け取り損なった。これでは逃亡もできないだろう。一係では平井をマークして、恭一が食らいつくのを待つことに。

 保全信用金庫に張り込むジーパンと長さん。どう見てもジーパン、挙動不審の怪しい人(笑)。なかなか恭一は現れない。金のために無差別殺人も厭わない恭一が簡単に金儲けを諦めるわけがないと長さん。

 柴田家の朝。お母さんに「昨日何かあったの?」と聞かれて、素直に話し出すジーパン。「俺、牧が悪い奴だとはどうしても思えないんだ」「あんた刑事には向かないかもしれないわね・・・だけどね、母さん、そういうあなたが好きですよ。本当に亡くなった父さんにそっくり」。いいシーンだね。

 そこへ恭一から電話がかかってくる。「あんたに相談したいことがあるんだ」と自首を申し出る。「だからあんたに付き添ってほしいだ」と言われて、オートレース場に向かうジーパン。「まさか、お前一人で行く気じゃ?」「奴は俺を頼ってきたんだよ」と出ていく。心配になったお母さんはボスにそのことを知らせる。

 一方、平井が早朝、どこかへ出かける様子。タクシーを追うゴリさんと殿下のクルマ。オートレース場、ジーパンがやってくる。閑散としている。「牧!俺だ。どこだ?」そこへ恭一のクルマがやってくる。その手には時限装置がついたダイナマイトが。「わかるだろ、これを押せば、あんたも俺もパーだぜ」「牧」「大人しくするんだ。いいな」。恭一はジーパンの手錠を取り出し「自分でかけろ」。恭一は自首する気などさらさらなく、ジーパンを人質に逃亡しようと計画していた。「お前、どうして変わっちまったんだ」「変わった?」。恭一はすでに狂気の表情。「いいからかけろ」。両手に手錠をかけるジーパン。鍵を手にした恭一。「いいか、世の中、そんなに甘くないんだぜ。でもな、聞きたいっていうなら話してやる。金だ!金が俺を変えたんだ!」。

恭一の父は借金苦で自殺。小さな町工場は潰れ、親切そうにしていた連中は誰一人、恭一たちを助けてくれなかった。大学は卒業できず、内定していた就職もパー。「なぜ、俺に言ってくれなかったんだ?」「口じゃ、みんなそう言うよ!でもな、金を持っていないお前に何ができるんだよ。世の中金だよ。金がなきゃ、何にもできやしないんだ」。
その復讐心が恭一の動機だった。

そこへ平井のタクシーが到着。ダイナマイトを持ったまま恭一は、ジーパンを連れてスタンドへ。手錠をスタンドにかける恭一。そこへ現金を持った平井がくる。しかし一千万しか用意していなかった。「先に一千万は渡したはずだ。あれをなくしたのは君のせいだ」「まあいいだろう」と現金を受け取ろうとする。そこへゴリさん「動くな」拳銃を構える。殿下もやってくる。「牧、平井、もう逃げられんぞ!」しかし、恭一は動じない。

「そうかな。見ろ」とダイナマイトを掲げる。「俺を怒らせない方がいいぜ。こいつの威力はあんたたちも知っているはずだ。二人とも拳銃をすてろ!」その時、ボス、長さん、山さんたちが・・・。「ゴリ、言われたようにしろ」とボス。「あんたも捨てろ」と言われてボスも拳銃を投げる。平井から鞄を奪う恭一は、ジーパンに「あんたも一緒に来るんだ。大事な人質だからな」。しかしジーパン「俺は行かないよ。あんたを自首させるためにきたんだ。だから行かないよ」「くるんだ!死にたいのか?」「お前にはそんなことはできないよ。お前は本当はいい奴なんだ」「こいよ。くるんだよ」「お前はいい奴なんだ」ジーパンの真っ直ぐな表情。恭一はそれに気圧されて、平井を人質にして逃げようとする。

その時、ジーパンが絶叫。手すりにはめた手錠を空手チョップで切ろうとする。血だらけになるジーパンの右手。その迫力に、誰もが身動きできない。ついにジーパン、手錠の鎖を切ってしまう! その迫力に圧倒される恭一。「牧、ダイナマイトを渡せ。俺はお前を逮捕したくないんだ。俺に逮捕させないでくれ!」。感情が込み上げてくる恭一。「チキショウ、なんであんたみたいなお人好し野郎に・・・お人好しやろう」泣き叫ぶ恭一。ボス、ゴリさん、山さん、殿下、長さんが近づいてきて・・・

ジーパン「ボス」
ボス「お前の勝ちだ。最後まで信じ切ったお前が勝ったんだ」
山さん「そういうお前を、いつまでも忘れるなよ」
ボス「さ、いくぞ!」
ジーパン「はい!」

 この図式は、実は「青春学園シリーズ」の不良少年と熱血教師が「わかりあう」シーンのリフレインでもある。ボスという教師と、ジーパンというはみ出し生徒が、ぶつかり合い、理解しあっていく。今回のゲストの水谷豊さんも「飛び出せ!青春」の第4話「やるぞ見ていろカンニング」(鎌田敏夫)でカンニングを奨励する生徒・林祐三役を好演している。今回の事件も「爆弾犯」ではあるけど、最後の解決方法も含めて「青春ドラマ」のセオリーで作られている。それゆえ、小学生の頃、僕たちは共感できたのだと、改めて思った。

よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。