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『クレージーの花嫁と七人の仲間』(1962年4月15日・松竹・番匠義彰)

ラピュタ阿佐ヶ谷「蔵出し!松竹レアもの祭」で、番匠義彰監督『クレージーの花嫁と七人の仲間』(1962年4月15日・松竹)。スクリーンでは2010年以来、しかもピカピカのプリントで夢心地に!

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「スーダラ節」「ドント節」「五万節」が巷で大ヒット、テレビ「シャボン玉ホリデー」「若い季節」で茶の間の人気を独占していたクレイジーキャッツを、本格的にフィーチャー。松竹名物のスクリューボール人情喜劇(と言って良いと思います)「花嫁シリーズ」のフォーマットに、クレイジーを按配した、お見事、見事な喜劇快作!

しかもテレビ界、レコード界では飛ぶ鳥を落とす勢いの渡辺プロダクションが、映画に本格進出を考えていた頃なので、所属タレント、歌手、ミュージシャンが惜しげもなく投入されて、それが作品をゴージャスにしている。

スーダラ亭主・植木等さんの女房・峯京子さんがテレビの生コマーシャルのタレントで、いきなりフジテレビ、日曜昼12時30分「森永スパークショー」のスタジオから始まる。演奏さ、渡辺晋とシックスジョーズ、ピアノは宮川泰センセ! ザ・ピーナッツが「ふりむかないで」をご機嫌に歌う! ああ、もうたまらない。

ちなみに、この映画の封切り日である1962年4月15日から「森永スパークショー」の放映開始。つまり観客は、新番組誕生に立ち会ったことになる。生コマで、ミッキー・カーチスさんが大活躍! 当時のテレビバラエティの空気を垣間見る思い。

副調整室にディレクター、プロデューサー役で青島幸男さん。つまり、すぎやまこういちさんの役回り。フロアディレクターに石橋エータローさん。

また、倍賞千恵子さんが老舗寿司屋「にしき」の次女で、SKDの踊り子なので、久々に倍賞千恵子さんがラインダンスで美脚を高々と上げてくれる。ステージには、スマイリー小原とスカイライナーズ! 藤木孝さんがメインで登場して、スマイリー小原さんと、ツイストを踊りまくる。いやぁ藤木孝さん、最高にセクシー! 倍賞さんもツイストを!

中盤、国際劇場の舞台に、三木のり平さん、八波むと志さんが「国定忠治」を演じるが、舞台袖で鳴り物を頼まれた、谷啓さんがメタメタにしてしまうシーンがおかしい。のり平さんのリアクションがとにかく最高!

また「にしき」の寿司職人にハナ肇さん、女将・高千穂ひずるさんと、ハナさんを結婚さんようと、修善寺のおじさん・伴淳三郎が画策。伴淳さんが鼻の下を伸ばす、元芸者に淡路恵子さん。ナイトクラブでは、平岡精二クインテットがハコバンで、渡辺プロが誇るクルーカー、中島潤さんが「赤坂小唄」を披露してくれる。

またまた「森永スパークショー」では、中尾ミエさんと第一期スリーファンキーズが、「とおりゃんせ」をご機嫌に唄う!

お話は「花嫁シリーズ」のお馴染みの構成。

1 老舗に適齢期の娘がいる。

2 その娘には、恋人がいるが、稼業を継ぐ予定はない。

3 気の良い叔父さんが、トラブルをおさめようとするが、かえってトラブルが拡大。

4 老舗には経営危機や、借金など直近の悩みがある。

5 娘を密かに想う、番頭や板前がいる。

大体、いつもこのパターンだが、今回はクレイジーキャッツの「スーダラ節」イメージがあるので、植木等さんが巻き込まれたトラブル=詐欺事件が、登場人物たち、それぞれを揺るがす大騒動に発展!

しかし番匠義彰監督の見事な手腕で、拡げた風呂敷があれよあれよと収まっていく、クライマックスの爽快さがたまらない。「花嫁シリーズ」全作に共通する「あれよあれよ」の法則は、ここにも!

特に植木等さんが詐欺グループの一員に間違われて、バタ屋に身をやつして、ドヤ街のベッドハウスに泊まる。安酒を飲んで酔っ払っている労務者・大杉侃次郎さんたちが、ご機嫌で「スーダラ節」を歌う。しかし植木さんは一切乗らない^_^ 完全にショボクレている。これが番匠演出の見事さ! 労務者たちは、なんだかんだで3番まで歌ってしまう。

つまりこの映画の世界でも、クレイジーキャッツが存在していて植木等さんの「スーダラ節」が労務者たちにも支持されているという、パラドックスなのだ!

この時期に、植木等さんに「スーダラ節」を歌わせないセンス! 結構だネ!

犬塚弘さんは、植木さんの旧友の不動産会社社長、その社員に安田伸さん。伴淳三郎さんの旅館の番頭に、桜井センリさん。

で、修善寺でのクライマックス。ハナ肇さんと淡路恵子さんの芝居場に登場する修善寺橋は、4年後に、東宝クレージー映画「クレージー大作戦」で、クレージーたちの脱獄ルート! あーあークレージー!大作戦!

いろいろトラブル解決のための出し入れがあって、高千穂ひずるさんは恋人・水原弘さん!とめでたくゴールイン。店を閉めて四国へ。

その「にしき」閉店の夜、常連客が集まるのだが、渡辺晋さん、宮川泰さん、中尾ミエさん、ノンクレジットでデビュー前の伊東ゆかりさん、梓みちよさん! 植木さん、ハナさん、谷啓さんが歌うは「五万節」の替え歌バージョン。合いの手、間奏が「九ちゃんのズンタタタ」なのが嬉しい。

松竹の「花嫁シリーズ」とクレイジー、渡辺プロの人気タレントが融合しての、本当に贅沢なプログラムピクチャー。クレイジーのメンバーが総出演しているという事では「クレージー作戦」シリーズの先駆でもある。松竹だけど、東宝っぽい。むしろ東宝の「クレージー作戦 先手必勝」(1963年)の方が、松竹映画っぽい。

だのに、これから3ヶ月後の東宝『ニッポン無責任時代』のインパクトがあまりにも強く、どうしても忘れられてしまっていて、ソフトになっていないので、観る機会が少ない。それが残念無念。

同日封切り、東宝の高見順原作、豊田四郎監督「如何なる星の下で」にも植木等さんが、淡路恵子さんのスーダラ亭主役で出演している。本作同様、女房に依存しながら、うまい儲け話を探しているダメ男。これが、この頃の植木等さんのパブリックイメージだった。

僕は2009年、CSの衛星劇場で「番匠義彰を語る」という番組と「番匠義彰特集」を企画、この作品を放映。さらに2010年、神保町シアター「喜劇映画パラダイス」でも上映を企画、そして2021年、ラピュタ阿佐ヶ谷「蔵出し!松竹レアもの祭」で美麗プリント上映。今日が上映最終日となったが、ほぼ満員で、嬉しい限り!

よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。