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これぞ日活アクションの集大成!!

 1984(昭和59)年、創立70周年を記念して、日活ファンにとっては夢のような企画が実現した。石原裕次郎、小林旭、赤木圭一郎・・・。綺羅星のごとく輝いていた日活アクションのアンソロジー『AGAIN』が製作されたのだ。

 日活は戦時中の映画界の再編にともない映画製作を中断、戦後は洋画の配給及び興業会社として運営していたが、1953(昭和28)年に東京都調布市に東洋一の規模を誇る日活撮影所を開設、映画製作に乗り出した。五社(東宝・松竹・大映・東映・新東宝)からの猛烈な反発を受けながら、新國劇や劇団民藝の強力を得ながら「信用ある日活映画」のキャッチコピーのもと、良質な文芸作を製作。ところが良い作品必ずしもヒットに繋がらなかった。

 しかし1956(昭和31)年、石原慎太郎の芥川賞を受賞作『太陽の季節』(古川卓巳)の映画化が思わぬきっかけとなる。慎太郎の弟で慶應大学在学中の石原裕次郎が長身痩躯のスタイルとルックスを買われ、端役デビューを果たしたのだ。その『太陽の季節』が公開前、裕次郎の主演作『狂った果実』(1956年・中平康)の製作が決定された。

 “太陽族”と呼ばれる戦後派若者の無軌道な青春は、新鋭・中平康のモダンな演出と相まって、センセーションを巻き起こした。裕次郎は、既存の映画スターにはない魅力を備えた、日活生え抜きの新スターとして昭和30年代の映画界を牽引していくことになる。

 この『AGAIN』は、黄金時代を彩ったエポックメイキングな日活映画の数々で綴ったアンソロジー。映画ファンにとって、名場面集は何よりの御馳走。しかし、ただの編年体やスター別カテゴリーだけでは、単なる映像資料にしかならない。小説の世界でもアンソロジストと呼ばれる目利きがいて、初めてアンソロジー集が作られるのである。

 そこで誰がセレクトするかが重要となる。構成・脚本・監督には、ホードボイルド作家であり、日活アクションの熱烈なファンとしても知られた矢作俊彦に白羽の矢が立った。戦後の日活映画は、第1作の『かくて夢あり』(1954年・千葉泰樹)から『八月の濡れた砂』(1971年・藤田敏八)まで1139本に及ぶ。アクションと限定しただけでもかなりの本数となる。矢作は構成にあたり187本の上映プリントを取り寄せて、1982(昭和57)年8月29日から10月11日までの44日間で、すべてを見直したという。

 まだビデオで気軽にチェックできる時代ではなく、矢作はそのなかから100本を絞り込み、延べ27時間分のシーンをセレクトしたという。そこから最終的に37作品に絞って、102分の映画に仕上げていくのだから、気が遠くなるような作業である。

 好きでなければ出来ないし、好きなだけでも出来ない。そこに視点が必要となる。エースの錠こと宍戸錠をホストに迎えたことで、単なる懐古ではなくなった。しかもロケーションは、日活アクションノ聖地ばかり。港町ヨコハマの新港埠頭、ホテル・ニューグランド、大桟橋、日本大通り、鎌倉・七里ケ浜でロケーション。そこに錠が立っているだけで、夢の空間が現出する。それが何より嬉しいのだ。

【登場作品紹介】

01『太陽への脱出』(1963年・舛田利雄)
 まずは、バンコックのナイトクラブでの速水士郎(裕次郎)の英語でのスピーチ。武器商人の速水がデモンストレーションでマシンガンをぶっ放すショットで、1983年の“にっかつ”マークを粉砕する。

02『狂った果実』(1956年・中平康)
 モノクロの“日活マーク”に、“They Ride Again”のタイトル。ドアを開けて入ってくるのは津川雅彦と北原三枝。裕次郎の主演デビュー『狂った果実』のパーティの場面で、ウクレレ片手に唄う「♪想い出」が流れる。続いてカメオ出演の石原(長門裕之)と長門(石原慎太郎)との喧嘩、横浜にあった裕次郎行きつけのナイトクラブ「ブルースカイ」での“太陽族”の行状がユーモラスに綴られる。そして北原三枝と裕次郎のラブシーン。
 映画館で『狂った果実』を観ていた錠が日活撮影所の13番ステージに現れ「俺か? 俺の名はエースの錠。生まれながらの殺し屋さ」と呟く。ちなみに錠がポップコーンをほおばるのは『拳銃無頼帖 不敵に笑う男』(1960年)のリフレイン。

03『拳銃は俺のパスポート』(1967年・野村孝)
宍戸錠がドアを開けてスタジオの外に出ると、傑作『拳銃は俺のパスポート』の大団円となる。追いつめられた主人公・上村(錠)が周到な計画を立てて、組織への反撃に出る。ムダな台詞を排除した傑作ハードボイルド。
 そして現在、「事の起こりは波止場の宵さ・・・」と神奈川県横浜市の新港埠頭に立つ錠。ここからのテーマは“日活映画と海”となる。

04『二人の世界』 (1966年・松尾昭典)
 殺人犯の汚名を着せられ過去を封印し、今はフィリピン人となっている北裕次郎が、客船で出会ったルリ子に、ジャーナリストの二谷から逃れるために、とっさにダンスパートナーになって欲しいと頼む。ありもしない想い出を紡ぎ出す二人、これぞ日活アクション!

05『鷲と鷹』(1957年・井上梅次)
06『泣かせるぜ』(1965年・松尾昭典)
 
 ルリ子と裕次郎が初めてラブシーンを演じたのが海洋アクション『鷲と鷹』。洋上でウクレレ片手に唄う主題歌「♪海の男は行く(鷲と鷹)」。この映画では、三國連太郎と裕次郎の壮絶な殴り合いが展開されたが、そのリフレインともいえるのが、裕次郎が新人・渡哲也に胸を貸した『泣かせるぜ』だった。

07『霧笛が俺を呼んでいる』(1960年・山崎徳次郎)
 裕次郎、小林旭に次ぐ“日活第三の男”赤木圭一郎の代表作が『霧笛が俺を呼んでいる』。外国航路の二等航海士の赤木が、親友・葉山良二の自死の謎を調べるうちに、麻薬組織の陰謀が明らかになる。船から赤木が降りてヒッチハイクした車が、現在の錠の前をよぎる。こうした演出が心憎い。錠が立つのは“ハマのクィーン”と呼ばれた横浜税関の前。

08『俺は待ってるぜ』(1957年・蔵原惟繕)
その近くでレストラン“Reef”を営むのは『俺は待ってるぜ』で裕次郎が演じた元ボクサーの島木譲次。ブラジルに行ったまま消息不明の兄からの便りを待っている。二谷英明が演じているのは、その兄を亡きものした男・波多野憲二の兄でボクサーくずれの柴田。譲次の怒りのパンチが炸裂する。

09『勝利者』(1957年・井上梅次)
 日活アクションのスターはほとんどボクサーを演じている。そのきっかけが、この『勝利者』。元ボクサーの三橋達也が、無鉄砲な新人ボクサーの裕次郎をスカウトして、その夢を託してゆく。

10『太陽は狂ってる』(1961年・舛田利雄)
 裕次郎の少年時代からの隣人だったのが川地民夫。チンピラから冷徹な殺し屋まで、抜群の表現力で日活アクションを支えた俳優である。『太陽は狂ってる』は浜田光夫の高校生とチンピラ・川地がふとしたことで転落、後戻り出来なくなってしまう若者の悲劇を描いている。

11『天と地を駆ける男』(1959年・舛田利雄)
 『太陽は狂ってる』の川地が威勢良く酒をかけた相手が、『天と地を駈ける男』で裕次郎が演じた無軌道なパイロット。厳しい訓練で溜まったストレスを酒場の喧嘩で発散するシーン。続いては『太陽は狂ってる』で川地と浜田が、学生にナンパされている女子高生(吉永小百合)たちを助けるシーンとなる。

12『泥だらけの純情』(1963年・中平康)
13『錆びた鎖』(1960年・斎藤武市)

 外交官令嬢の小百合が真剣なまなざしで「やめられません?ヤクザ」と浜田に言う名場面。これぞ日活映画のヒロイン力。
続いて清純派の笹森礼子が、大衆酒場で「チュー(焼酎)一丁!」と可愛く叫ぶのは、赤木が沖仲仕の元締めとなって、父の死の真相を突き止める『錆びた鎖』のワンシーン。

14『嵐を呼ぶ男』(1966年・舛田利雄)
15『嵐を呼ぶ男』(1957年・井上梅次)
16 赤木圭一郎は生きている『激流に生きる男』(1967年・吉田憲二)
17『嵐を呼ぶ友情』(1959年・井上梅次)

 ここでは渡哲也によるリメイク版『嵐を呼ぶ男』と裕次郎のオリジナル版を巧みに編集。さらに赤木の未完に終わった『激流に生きる男』のフッテージと、小林旭・川地民夫・沢本忠雄の“三悪トリオ”の『嵐を呼ぶ友情』の演奏シーンをインサート。

18『女を忘れろ』(1959年・舛田利雄)
 小林旭のニックネーム・マイトガイが宣伝部によってつけられたのが『女を忘れろ』。恋人・ルリ子の窮状を救う代償として、アキラが東南アジア某国の諜報機関の仕事を請け負う。恋人との別れの電話にそっと涙を拭うアキラ。主人公が“女と過去を捨て”ヒーローとなった瞬間でもある。
 これが撮影されたのが横浜の日本大通り。そこに錠が現れ「かくしてアマチュアの時代は終わった。」と宣言する。

19『口笛が流れる港町』(1961年・斎藤武市)
 アキラは『女を忘れろ』を経て、孤高のヒーロー・渡り鳥となった。その好敵手を、錠が第6作『波涛を越える渡り鳥』(1961年)まで演じた。ここでは第2作『口笛が流れる港町』のトップシークエンスが登場。

20『拳銃無頼帖 不敵に笑う男』(1960年・野口博志)
21『拳銃無頼帖 抜き射ちの竜』(1960年・野口博志)

 錠はまた赤木の『拳銃無頼帖』全四作でも、好敵手を演じている。第3作『不敵に笑う男』の冒頭、早射ちの竜(赤木)とコルトの謙(宍戸)が金沢行きの列車で出会う。アイビー・ルックのイカす殺し屋スタイルは、宍戸が考案したもの。第1作『抜き射ちの竜』での怪しげな中国人ボス・楊三元(西村晃)と剣崎竜二(赤木)のやり取りもユニーク。まだ二十歳の赤木を、西村晃ら芸達者が支えていたことがわかる。

22『鉄火場の風』(1960年・牛原陽一)
23『大草原の渡り鳥』(1960年・斎藤武市)

 裕次郎、錠、赤木がそろい踏みの『鉄火場の風』は、フィルム・ノワールの佳作。本作で裕次郎と堂々と渡り合った赤木は、ダイヤモンドラインの一翼を担うこととなる。
 続いては第5作『大草原の渡り鳥』から、ハートの政(錠)と滝伸次(旭)のカード勝負のシーン。政のイカサマを見抜いた滝のコインにもまた・・・という二人の出し抜き合いがエスカレート。

24『太平洋のかつぎ屋』(1961年・松尾昭典)
 永遠のライバルとして「渡り鳥」「流れ者」で決着のつかない戦いを繰り広げてきたアキラと錠。二人が延々と殴り合うアクションは、ジョン・ウェインとランドルフ・スコットの『スポイラース』(1942年)からのインスパイア。

25『黄金の野郎ども』(1967年・江崎実生)
 裕次郎の『黄金の野郎ども』は、ハードボイルド風味の佳作。ここで錠が“レフトの二郎”と裕次郎に声をかけるが、これはアフレコ。“レフトの二郎”とは、『赤い波止場』(1958年)で裕次郎が演じた左利きの殺し屋のニックネーム。

26『骨まで愛して』(1966年・斎藤武市)
 渡哲也との『骨まで愛して』で、久々に主人公の好敵手を錠がユーモラスに演じた。監督は「渡り鳥」の斎藤武市、錠の役名はダイスの政。 続いて『大草原の渡り鳥』のクライマックス、渡り鳥とハートの政(錠)が巨悪・高堂(金子信雄)と戦う名場面。そして『拳銃無頼帖 抜き射ちの竜』 でのコルトの銀(錠)の非情さが際立つ名場面。「俺のツラに色をつけたのは、お前で三人目だぜ」の名台詞!

27『南国土佐を後にして』(1959年・斎藤武市)
 『南国土佐を後にして』は、「渡り鳥」に連なる斎藤武市作品。このシーンで監督が「いくらでもフィルムを使ってもいい」と言ったそうだが、アキラは2テイク目で成功させたという。現在のパートで「あんなことが出来るのは奴しかいなかった」と、横浜のホテルのバーで錠がアキラを想う。この後のユーモラスな展開!

28『赤いハンカチ』(1964年・舛田利雄)
 日活アクションの最高傑作について錠さんと話したときに、迷わず上がったのがこの作品。ホテル・ニューグランド前で裕次郎とルリ子が四年ぶりに再会するシーンに主題歌が流れ、現在の錠がその空間に居合わせるという演出が心憎い。続いてヨットハーバーで、錠が怪しげなアジア系の男(榎木兵衛)と再会する。二人の“夢についての会話”が素晴らしい。

29『嵐の勇者たち』(1969年・舛田利雄)
30『危いことなら銭になる』(1962年・中平康)

小百合、裕次郎、渡のカーアクションは、和製『オーシャンと11人の仲間』(1960年)を目指した『嵐の勇者たち』より。ここからは、小百合集として 『泥だらけの純情』と『太陽は狂ってる』の浜田とのリリカルな名シーン、『嵐の勇者たち』での渡とのツーショットが綴られる。続いてルリ子のキュートな魅力が炸裂する『危いことなら銭になる』での宍戸錠とのユーモラスなやりとり。そして『拳銃無頼帖 不敵に笑う男』での、竜(赤木)とコルトの謙(宍戸)の対決シーン。

  続いて『霧笛が俺を呼んでいる』のラスト、芦川いづみと赤木の別れに、主題歌が流れる。“霧笛”“夜霧”“港町”に美しいヒロイン、これぞ日活アクション! ここからは“ヒーローの別れ”特集。横浜の波止場の波止場で錠が、船に乗って去っていった奴=赤木圭一郎のことを想う。「奴はあれきり帰ってこねぇ。俺とのカタも着けずによ」と。

31『帰らざる波止場』 (1966年・江崎実生)
32『夜霧のブルース』(1964年・野村孝)
33『夜霧よ今夜も有難う』(1967年・江崎実生)

 ムードアクション『帰らざる波止場』は、ロマンチストの江崎実生が、フランス映画『過去を持つ愛情』(1954年)を換骨奪胎。主題歌は、当時レコード化されなかった。裕次郎は麻薬組織とのいざこざで恋人を誤って射殺してしまった過去を持つジャズピアニスト、ルリ子は夫が亡くなり五億円の財産を持って海外へ行こうとしている未亡人。ラスト敵を倒して満身創痍の裕次郎が、ルリ子の待つ豪華客船に乗り込む。それを見送る志村喬の刑事。深い印象を残すムードアクションの佳作。この『帰らざる波止場』に、『夜霧のブルース』での裕次郎がルリ子にプロポーズするシーン、『夜霧よ今夜も有難う』で裕次郎とルリ子のかつての婚約者同士が四年ぶりに再会するシーンをインサート。

34『紅の流れ星』(1967年・舛田利雄)
 続いては舛田利雄監督が裕次郎の『赤い波止場』(1958年)を、渡でリメイクした『紅の流れ星』。東京で殺しの仕事をして、神戸の組織にかくまわれている渡と、ミステリアスなルリ子の気だるい日々。荒木一郎の「いとしのマックス」をスキャットで口ずさみ、退屈を持て余す主人公をシニカルに演じる渡の良い意味での軽さは、続くニューアクションの時代に開花することとなる。

 そして錠が、広い部屋にポツンと置かれたピアノで、小林旭の「ギターを持った渡り鳥」のメロディを奏でる。続いて『口笛が流れる港町』 で、滝伸次(旭)が、「渡り鳥にふるさとなんかあるかよ」とヒーローの心情を吐露。「♪ギターを持った渡り鳥」を唄い出すと、アキラとルリ子の名場面集となる。『AGAIN』公開当時のリストにもエンドロールにもクレジットされていないが、船でルリ子とアキラが微笑み交わすのは、『太陽、海を染めるとき』(1961年・舛田利雄)。そして『大草原の渡り鳥』のラスト、北海道での別れ、『口笛が流れる港町』の宮崎県えびの原で馬車を疾駆させるアキラのショットとなる。

36『都会の空の用心棒』(1960年・野村孝)
37『黒い賭博師 ダイスで殺せ』(1965年・江崎実生)

 悪漢に追われたアキラがヘリコプターの梯子に捕まるアクションを見せてくれるのは『都会の空の用心棒』。アキラは抜群の身体能力を活かして、毎回、スタント無しのボディ・アクションを見せてくれた。続いて電線を伝って隣のビルに飛び移るのは、「賭博師」第7作『ダイスで殺せ』。

38『ギターを持った渡り鳥』(1959年・斎藤武市)
 「思い出すってのは忘れてるからだろ」と函館山で渡り鳥が亡くなった恋人について話す『ギターを持った渡り鳥』の中盤から、ルリ子が「あの人の事はなんでも分かってる」という名台詞とともに、「♪ギターを持った渡鳥」が流れ、『大草原の渡り鳥』で馬に乗って去ってゆくラストへと繋いでいる。
 現在のパートでは錠の前に好敵手(藤竜也)が現れる。いよいよ対決かというそのとき、電話がかかってくる。

 藤竜也の車を拝借した錠が、ホテル・ニューグランドの前にやってくる。錠の右手の甲の傷がうずくのは『ギターを持った渡り鳥』のクライマックスの滝伸次vs.コルトの銀に由来することがわかる。そしてニューグランドの前、あの男が待っている・・・。果たして決着は?

 エンディングは『狂った果実』で逗子の港にトランジスタラジオが置かれるショットから始まる。そこに裕次郎の「♪Again」が流れる。この曲は1948年にライオネル・ニューマンが、アイダ・ルピノ主演の『ロード・ハウス/深夜の歌声』(未公開)の主題歌として作曲、ドリス・デイが唄ったスタンダード。

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