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『牡丹燈籠』(1968年・大映京都・山本薩夫) 「妖怪特撮映画祭」で上映

五反田イマジカで「妖怪特撮映画祭」で上映される、山本薩夫監督『牡丹燈籠』(1968年6月15日・大映)デジタル版の試写。大映京都撮影所の技術が成熟していたこの頃、映画界は斜陽の只中だった。


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この年1月3日にフジテレビで水木しげる先生の「ゲゲゲの鬼太郎」が始まり、子供たちに妖怪ブームが到来。3月には「妖怪百物語」が封切られ、「大魔神」三部作で昇華した大映京都撮影所の特撮が「妖怪」映画で新たな境地を迎えていた。

この年の6月興行として企画されたのが、巨匠・山本薩夫監督による「牡丹燈籠」と、東京撮影所は島耕二監督『怪談おとし穴』の二本立て。妖怪・怪奇ブームのなかの怪談映画だった。

当時、ぼくは5歳。幼稚園の年中組。この二本立てを、二つ上の兄と両親の四人で、浅草大映に観に行ったことを鮮明に憶えている。映画館の前には、カポックの井戸がしつらえられ、映画館のお兄さんが釣瓶を引っ張ると、二体の薄い襦袢をまとった骸骨が飛び出るという趣向。

ぼくは、それが面白くて、上映中も客席を抜け出して、お兄さんに骸骨を催促したことをよく覚えている。

で、山本薩夫監督の「牡丹燈籠」だが、ストーリーも、その儚さ、悲しさも、子供なりに理解していた。「牡丹燈籠」は怖くない、綺麗な女の幽霊の悲しいお話、と認識したのはこの時だった。その後、テレビ放映、ビデオ化され、繰り返し観てきた。しかしスクリーンで観たのは、今日が1968年8月以来、53年ぶり。イマジカの第2試写室という最高の環境で楽しむことが出来、改めて「完璧な娯楽映画」であると感動した。

江戸の谷中、寺町の長屋で、子供たち相手に寺子屋で教えている浪人・萩原新三郎(本郷功次郎)が、お盆で子供たちと灯籠流しをしていると、二つの灯籠が葦にかかっていたので、水の中に入って、流してやる。

すると良家の下女風のお米(大塚道子)と子女・お露(赤座美代子)が丁寧に礼をする。その夜更け、お米とお露が新三郎の長屋を訪ねて…

ご存知「牡丹燈籠」は明治期の落語家・三遊亭圓朝が25歳の時に作った名作落語。もとは、中国明代の怪奇小説集『剪灯新話』に収録された小説『牡丹燈記』を翻案したもので、江戸時代末期に、浅井了意がまとめた『御伽婢子』や、深川の米問屋に伝わる怪談をもとに創作された。

この物語を、依田義賢が脚色。山本薩夫監督が、幽霊と下級武士の悲恋物語として、丁寧に撮り上げて「ジャパニーズ・ゴースト・ストーリー」の傑作となった。

なんといっても赤座美代子さんが息を呑むような美しさで、良家の子女が借金のカタに吉原に売られ、非業の死を遂げた。というお露の悲しい物語を、正に幽明の美というべき美しさで演じている。俳優座養成所、華の15期生出身で、この頃は文学座を辞めたばかりで、大抜擢。ここから赤座美代子さんの本格的なキャリアが始まる。

新三郎とのラブシーンの艶かしさ。エロティックというより、清楚な美しさを感じる。まるで鏑木清方の美人画を愛でているような気持ちになる。

そして、圧倒的なのはお米を演じた大塚道子さん!大家の下女出身という気高さと、お露の幸せのためなら、という覚悟が毅然とした態度から感じさせてくれる。

特撮映画としては、お米とお露が、ワイヤーワークでセットを縦横無尽に動き回る。それが実に効果的。かなりのスピードで移動したり、長屋のセットを上や下に自在に飛び交う。ツイ・ハークの「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」より遥か以前、大映京都撮影所の技術の確かさを味わえる。

それから新三郎が住む、谷中の長屋のセット。ロングショットで、朝、昼、晩の全景がスクリーン一杯に写るが、このミニチュアセットが惚れ惚れするほど、素晴らしい。

怪談映画の魅力は、人間の業を背負った悪党たちにもある。本作では、新三郎になにかと世話になっている伴蔵(西村晃)の小悪党ぶりがたまらない。小心者でお人好しなのだけど、女房・おみね(小川真由美)がかなりのワルで、幽霊との取引を亭主に強いる。この二人の業の深さが、落語的でおかしい。小川真由美さんのベスト・アクトの一つだろう。

新三郎が幽霊に魅入られていると見抜く、八卦見の白翁堂を、ベテラン志村喬さんが演じて、これまたお見事!

池野成さんの音楽が、これまたすごい。アヴァンギャルドでいて、画面にピッタリ。江戸風情と、幽霊の儚さ、遊女に身をやつしたヒロインの悲劇が、情感たっぷり。

しかも妖怪ブームの最中に作られただけに、のっぺらぼうや、骸骨が飛び出てくるショック演出もあり、幼き日の僕が、飽きずにスクリーンを凝視していた理由がわかった。浅草大映の井戸の見世物は、この骸骨だったのかと!

この夏、「妖怪特撮映画祭」で上映。未見の方は、是非、スクリーンで観ることをオススメする。ホントに美しく、切なく、しかも面白い、娯楽映画としては完璧な怪談映画!

大映京都撮影所の底力に、ひれ伏したくなる筈!


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