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『新・兵隊やくざ』(1966年1月3日・大映東京・田中徳三)

 note「佐藤利明の娯楽映画研究所」いつもご贔屓にしてくださり、ありがとうございます。この原稿がちょうど「800本目」となります。これからも日々アップしていきますので、よろしくお頼ん申します。

 昭和41(1966)年、大映の正月映画は「カツライス」二本立て市川雷蔵のシリーズ第3作『若親分喧嘩状』(大映京都・池広一夫)勝新太郎の『新・兵隊やくざ』(1966年1月3日・大映東京・田中徳三)の強力なカップリングだった。東宝は森繁久彌のシリーズ第24作『社長行状記』(東宝・松林宗恵)植木等の『無責任清水港』(東宝・坪島孝)と、これも人気シリーズの二本立て。いずれも強力番組だったが、人気スターのシリーズ映画の組み合わせは、安定した動員を狙う斜陽の映画界の台所事情もあった。

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 とはいえ、現在のぼくたちから見れば、勝新太郎に市川雷蔵、植木等に森繁久彌と、夢のような興行でもある。勝新太郎と田村高廣の「兵隊やくざ」も第3作目となり、笑いも豪快さも拍車がかかってきた。植木等の「無責任男」のように、勝新の大宮一等兵の破天荒な暴れっぷりの爽快さは、高度成長に翳りが見え始めた「東京オリンピック後」の人々が求めていたものである。
 
 勝新の大宮貴三郎と植木等の無責任男。昭和40年代の男の子(推定中学生ぐらい?)が夢中になったのは、よくわかる。「兵隊やくざ」コンビの「軍隊からの脱走の痛快さ」は、学校や会社、モラルに縛られている人々の溜飲を下げる「ファンタジー」でもあった。

 さて『新・兵隊やくざ』の製作は撮影所の都合で、第1作同様、大映東京撮影所で行われた。原作は有馬頼義「貴三郎一代」だが、プログラムピクチャーの名手・舟橋和郎が、前作に続いて自由脚色。前作で受けた、大宮一等兵(勝新)と有田上等兵(田村高廣)の脱線ぶりがさらにエスカレート。森繁久彌の薫陶を受けた藤岡琢也が、古参兵ながら万年一等兵に甘んじているユニークな男・豊後一等兵を好演、その相棒的な存在としてシャバでは坊主をしている上州一等兵を、浪曲タレントの玉川良一。コメディリリーフ役を担っている。監督は「悪名」シリーズで勝新の喜劇的な魅力を引き出し、前作『続・兵隊やくざ』(1965年)を良い意味で脱線させた田中徳三。今回のヒロインは、天津まで流れてきた娼婦・桃子、演じるは嵯峨美智子。なんと大宮と結婚をしてしまうのだ!

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 前作のラストから物語が始まる。トラックを奪って部隊から大脱走に成功した大宮と有田のコンビ。前作のフッテージではなく、新たに同じシチュエーションで撮影。なので前作の小山明子はいなかったことになっている。然りヴィジュアル的には、シケモクを吸いながらトラックを運転する大宮、助手席の有田と、前作をそのまま踏襲。しかし途中でガソリンが尽きてしまい、夜を徹して曠野を彷徨うことに。一息ついたと思ったら、八路軍の猛攻撃を受けて絶体絶命のピンチとなる。そこへ友軍が現れて、戦闘となりなんとか窮地は脱したものの、脱走兵であることは誤魔化して、また軍隊に復帰することとなる。

 ところがこの鬼頭中尉(北城寿太郎)率いる、鬼頭中隊の訓練、訓練、また訓練の日々に、二人は馬鹿馬鹿しくなり、病気のフリをして寝台に潜り込んだまま。有田は腹痛、大宮は気が変になったことにして、全くやる気がないのがおかしい。

大宮に制裁を加える木崎軍曹を演じているのは、この年、「大魔神」三部作で、大魔神として睨みを効かせる橋本力。勝新太郎との眼力の応酬が楽しい。

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このまま隊にいても仕方がないし、脱走してきたこともバレてしまうので、有田は入浴中の大宮をピックアップして、そのまま部隊から遁走。大宮が全裸なのがおかしい。そこで、歩いている農民を脅かして、中国人のスタイルで民間人に化けて、堂々と天津の街を彷徨う二人。自由になったものの、金がなくては飯も食えない。ならばと、市場の目の前にある、陸軍の野戦貨物廠で物資を調達して売っ払ってしまおうと、大宮の「悪知恵」がはたらく。この辺りの「無責任男」に通じる生活力とバイタリティーが、観ていて小気味いい。

 芸は身を助くということで、大宮と有田は「浪花節語り」で慰問にやってきたと、四年の古参兵ながらまだ一等兵の豊後に取り入って、まんまと部隊に潜り込むことに成功。責任者・堀内大尉(見明凡太朗)の身体検査にも無事パスをする。なんせ大宮は、脱走してくるときに拳銃を盗んできたので、それを隠すのに四苦八苦。それでも娯楽に飢えている兵士たちへの慰問は成功。そこで、大宮と有田は、豊後一等兵と結託して、物資を横領、市場で売って大儲けをする。

 しかし女と酒に目がない大宮の提案で、街の娼家でどんちゃん騒ぎ。そこの親父・遠藤辰雄に賭場に連れて行かれて、すっからかんとなる。で、結局、有田と大宮は、その娼家で苦力並の低賃金で、苦役をさせられる。売れっ子娼婦の桃子(嵯峨美智子)から、親父が胴元と結託してのイカサマ賭博のカモになったことを知った大宮は、怒り心頭。有田の知恵で、娼婦たち全員を足抜けさせて逃走する。さらに、大宮のアイデアで、女の子たちを使って「ピー屋」を開業。脱走兵の二人が、あろうことか兵隊相手の娼家の親父となるのがおかしい。

 というわけで、大宮&有田の「兵隊やくざ」コンビの「自由さ」がどんどんエスカレート。しかし、憲兵隊長・山本(神田隆)と憲兵兵長・青柳(成田三樹夫)は、二人が脱走兵であることを知りながら、私利私欲のために取引を持ちかける。大宮たちも相当のワルだが、その上を行くワルが、今回の成田三樹夫さん演じる青柳兵長。動機の豊後一等兵は、その脛の傷を熟知していて・・・

 「悪名」シリーズがノリノリだった時期ということもあり、田中徳三演出は、良い意味で振り切れている。後半、二人が憲兵隊に逮捕されて拷問を受けるシーンは壮絶だが、その反撃が半端ではない。

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「大宮貴三郎の制裁がどんなもんか教えてやる!」と、憲兵たちを次々と殴り倒していく。しかも、手榴弾をボンボン爆破させて、憲兵隊の建物を次々と吹き飛ばし、機関銃の弾丸を浴びながら、サイドカーを奪って、三度目の大脱走も大成功。爽快なエンディングとなる。

 この“なんでもあり感”が楽しくてしょうがない。勝新が生き生きと、やんちゃぶりを楽しんでいるのがよくわかる。シークエンスごとにカタルシスがある。前作に続いての舟橋和郎の脚本は、娯楽映画のツボを心得ていて、大笑いしながら、メチャクチャな大宮たちの行状を眺めることができる。

 また、大宮がその身体に惚れ込んだ、桃子と結婚。その挙式を執り行うのが、豊後一等兵の同僚の上州一等兵(玉川良一)。当時のテレビ演芸ブームでブレイクした浪曲タレントの玉川良一の大脱線芝居も楽しい。


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