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『ハモニカ小僧』(1940年7月10日・東宝映画京都・齋藤寅次郎)

齋藤寅次郎監督研究。『ハモニカ小僧』(1940年7月10日・東宝・齋藤寅次郎)久しぶりにスクリーン投影。「あきれたぼういず」が、新興キネマ芸能部にひき抜かれて空中分解したのが、1939年春のこと。吉本興業では、残留をしてくれたリーダー川田義雄のために、主演映画『東京ブルース』(1939年)を企画。その好評を受けて、再び齋藤寅次郎監督によるアチャラカ音楽喜劇『ハモニカ小僧』を企画した。前作はヒット曲をフィーチャーした歌謡映画だったが、今回は、浪曲ジャズで一世を風靡した川田義雄のコメディアンとしての個性を全面に打ち出した、エノケンやロッパ映画のような「喜劇人映画」でもある。

松寿司の主人・松吉(芦ノ家雁玉)
女房・お兼 (水町庸子)
大学を出た伜・竹雄(川田義雄)
タバコ屋の主人・西村(林田十郎)
娘・綾子(山根寿子)
結髪さん お仙(清川虹子)
その亭主(高勢実乗)
芸者・花勇 (笠原英子)
芸者・三千代(酒井光子)
半玉・桃太郎(井上よし江)
芸者・花勇の父 (土屋守)
芸者・花勇の母 (馬野都留子)
大学教授(山田好良)
勉強家(若宮金太郎)
魚屋・虎公 (若月輝夫)
碁会所の客(田中弁楽)

 タイトルバックに流れるのは主題歌「ハモニカ小僧」のインスト版。アメリカのフォークソング「オクラホマミキサー」をハモニカをメインに演奏。これがエンディングに川田義雄によって歌われる。東宝=吉本興業共同作品。脚本は山名義郎と小林正。音楽は『初笑ひ国定忠治』『東京ブルース』と齋藤寅次郎作品を手掛けてきた平野好夫が担当。今回は、とにかく川田節が全開。戦前の川田の代表作となった。ヒロインには、1936(昭和11)年にP.C.L.に入社。『愛国六人娘』(1937年)『ロッパの大久保彦左衛門』(1939年)などに出演してきた山根寿子。川田義雄とミルクブラザースの面々はもちろん、吉本興業の人気漫才師・芦乃家雁玉、林田十郎のコンビも出演。賑やかなキャストが楽しい。

 トップシーンは大学のキャンパス。川田義雄とミルクブラザースのテーマ曲「地球の上に朝が来る」のイントロが流れる。勉強家(若宮金太郎)が教科書を手に夢中になって歩きながら勉強している。学生たちは芝生の上で、思い思いに勉強している。そのなかで、呑気に浪花節を歌っているのが、主人公で松寿司の倅・竹雄(川田義雄)である。取り巻いているのは学生服姿のミルクブラザースの面々。

(「地球の上に朝が来る」のメロディで)
♪人は青春 時は春 
ああ人生は夢なれや
胸に輝く 金ボタン
空は晴れてる 陽は高い
どっかで小鳥が 鳴いている
街には 緑の風が吹く

(ここから「スタインソング」のメロディで)
♪いつも心は 明るく楽しや
卒業試験は 朝飯前だ
普段の勉強で なんでもスラスラだよ

「♪いつも心は〜」からスタインソングのメロディとなる。浪花節とポピュラー、ジャズの融合。これぞ川田節。江戸っ子の川田は「朝飯前だ」を「朝飯まいだ」と発音しているのもいい。そこへ大学教授(山田好良)がやってきて、勉強家・若宮の成績が悪く、要領のいい竹雄の成績は満点だと褒める。チャッカリ屋の竹雄はとにかく要領がよくアイデアマン。古い石頭の父親に反発して、大学出の才能を活かそうとあの手この手。といった展開となる。さて、教授に褒められてご満悦の竹雄。また歌い出す。今度は、エノケンや岸井明が歌ったジャズソング「唄の世の中 Music Goes Round and Round」(1936年)である。

♪聞いたか 嬉しいな
ほら 満点以上の成績だよ
君たちゃ ぶらぶら遊ぶとき
ほら 僕は学びずに 毎晩謙虚に勉強
だから普段が 肝心なんだよ

(ここから浪花節に転調)
♪試験間際の 一夜漬け
できない頭の ムリをすりゃ
あいつは 論文はゼロのゼロだ
はは

(ここから「オーソレミヨ」に)
♪ オー、ソレみよ
ざまあみろ
バカは死ななきゃ 直らない
(どうでい?)

ジャズソングから「♪試験間際の」で浪花節となり、「♪ オー、ソレみよ」でイタリア民謡となる。この転調に次ぐ転調こそ、川田節の味である。勉強家の若宮くん、自分の不明を陽気な歌で指摘されて、大いにクサる。

というわけで、大学は出たけれど、松寿司の若旦那の竹雄は、父・松吉(芦ノ家雁玉)との約束通りに、店に出るも、寿司を握らせたらメチャクチャだし、出前ぐらいしかできない。近所の髪結い・お仙(清川虹子)には、綺麗な芸者衆がいつも集まっていて、竹雄の男ぶりの良さについて、お仙たちとかしましく噂している。そのお仙の「髪結いの亭主」がなんとアノネのオッサン! 場面食いのワンシーン出演ではなく、髪結いのシーンには出ずっぱりで、中盤にはオッサン史上、最高におかしい「天然痘騒動」で笑わせてくれる。

結局、大学出に寿司屋はムリ、親父と大喧嘩して、自活の道を探すべく家出をした竹雄。旅行代理店の添乗員の仕事に就く。その初仕事は、砧商店街・町内会の慰安旅行のコーディネイト。行き先は、ずっと長瀞と思っていたが、東宝映画京都の製作なので京都の保津川で撮影。バスで嵐山の渡月橋を渡るシーンもある。この頃の京都作品は、京都で撮影しても設定は東京というものが多いので、冒頭のキャンパスも早稲田風に撮っているが、京都で撮影。

さて、竹雄、添乗員として大張り切り。汽車のなかで、弁当を配るも、幹事のタバコ屋の主人・西村(林田十郎)がズルをして二つ取ってしまって、食えずじまい。その西村の娘・綾子(山根寿子)とはこの旅で出会う。つまり「タバコ屋の娘」というわけである。岸井明のヒット曲のフレーズをそのまま設定に取り入れている。

川田義雄 山根寿子

保津川でボートを漕ぐ綾子が歌うのは、アル・ジョルソンのレコードでヒットした「♪The Anniversary Song」の替え歌。それに合わせて、岸辺に立つ竹雄がハモニカで間奏を吹く。そして綾子が歌い、竹雄も船を漕いで「♪菩提樹」の替え歌を歌って綾子のボートに近づくも、舟からボッチャーンと落ちてしまう。カットが変わって、竹雄と綾子は一つのボートの上。竹雄がハモニカでイントロを吹いて、二人でデュエットするのは、カトリック聖歌集#352「♪あおばわかばに」。ジャズ、浪曲、讃美歌と多種多彩。で、また転調して綾子「♪聞かせてください 優しいメロディ〜」竹雄「♪楽しい思い出 いつの日までも〜」と、いつしか恋するふたり、になっている。歌が歌を呼び込んで連鎖していくオペレッタ映画のスタイル。

竹雄 ♪僕は寿司屋の倅です。
綾子 ♪私はタバコ屋の娘なの
竹雄 ♪たとえ商売違うとも
二人 ♪決めた心は かわりゃせぬ

で、ボートのデュエットの最後に、結婚の決意をしてしまう。ここまではロマンチックなのだが、最後の最後に、竹雄と綾子のボートは、別な老カップルのボートにぶつかって、相手方が川にボッチャーン。さらに竹雄も川へとダイブしてしまう。

その夜、町内会旅行の一行が大広間で寝ていると、朝方、隣の部屋から御題目を唱える一団の声がうるさいと、みんなが怒り出す。で、竹雄が交渉に行くことになる。それまでのプロセスがサイレント喜劇的、つまりドリフのコント的でおかしい。真夜中、寝相の悪い男が竹雄の掛け布団を奪い、竹雄が別の男の掛け布団を奪おうとする隙に、竹雄の敷布団が奪われてしまう。仕方なしに竹雄は襖を外して掛け布団にしてしまう。こうした視覚ギャグは随所にある。

さて、竹雄がお題目の一行にクレームをつけに行くと、なんとそこにいたのは、信心深い父・松吉だった。親子の感動の再会となるが、町内会旅行のリーダー・タバコ屋の主人・西村と松吉がいがみ合うことに。ここで雁玉・十郎の漫才コンビが顔を合わせることになる。コテコテの髪形漫才のやり取りがおかしい。エンタツ・アチャコのスマートさの対極にある。

やがて二人は結婚。竹雄は寿司屋の若旦那に再び収まる。父・松吉と並んで機嫌よく寿司を握る竹雄。ここで再び川田節。イントロの結婚行進曲で、二人が結婚したことが示唆される。

♪働くというもの 楽しいもんだ
朝から晩まで 働きゃ腹減る
外米も 美味しく食べられ
よく眠る 楽しいこの世だよ
おまけに このワイフ
自慢するのじゃないが
みなさん聞いて おくんなさい
ままも炊いたり 寝ず仕事

と新妻・綾子と仲良く寿司屋の若夫婦に収まっている。そこへ綾子の父がやってきて、竹雄の父と会話を始める。ここでまた雁玉・十郎の漫才が始まる。
雁玉「なんだ、お前かいな」
十郎「お前かいな、とはなんじゃ」

で始まり、二人は大喧嘩!
十郎「どいつもこいつも寄ってバカにして!もう皆とは絶好だ!」
と店を出ていく。

雁玉・十郎コンビ!

さて、竹雄の握りは相変わらず上手くならずに、主に出前や皿の引き取りをすることに。東宝京都の製作なので、寿司も江戸前の寿司桶でなく、関西ならではの大皿で提供。ある日、髪結いの店の台所へ、皿をとりに来た竹雄。

竹雄「お皿下げに来ました」
オッサン「そんなものはないよ」
と鉢巻をして大きなおにぎりを作っている。
竹雄があたりを見渡すと、松寿司の皿が何と猫の餌入れになっている。
竹雄「汚いなぁ、どうも最近ちょいちょい皿がなくなると思ったら」と回収する。オッサン「アノネ、オッサン、猫まで持ってかれたら、わしゃかなわんよ、え? 来年はソレでも、わしゃ襟巻きにしようと…」と物騒なことを言う。このシーンは、当時の子供達にも大ウケだったことだろう。高勢實乗が「アノネ〜」と言っただけで、映画館は沸きに沸いたという。

さて、オッサン、よそ見をして特大おにぎりを作っている時に、亀の子タワシを入れて握ってしまう。やがてオッサン、ソレを風呂敷に包んで、いそいそと出かけようとする。

オッサン「あ、ちょっと行ってきますわ」
女房・お仙「どこへ行くのよ?」
オッサン「あの図書館へちょっと」
お仙「図書館?何しに行ってくるの?」
オッサン「あの、天然痘の研究にね」
お仙「何持ってるのそれ?」
オッサン「お弁当…」

ちょっと貸してごらんと、荷物を調べられ、一番大きなおにぎりを見て
「あらまぁ、お米の高い折りにまぁ、こんなにたくさん持って…」
とオッサンの特大おにぎりを「食べる?」と、傍にいた竹雄に勧めて、残りをオッサンに渡す。オッサン、ぶつぶつと「かなわんよ」「わしゃかなわんよ」と呟くのがおかしい。

お仙が竹雄に優しいのは、実は下心があってのこと。髪結いに通ってくる芸者・花勇 (笠原英子)は、芸者であることを隠していて、田舎の両親に結婚をすると嘘をついてしまい、困っていた。そこで朋輩の芸者・三千代(酒井光子)半玉・桃太郎(井上よし江)は、お仙に相談。なら今晩、父母が来た時に、偽の祝言を挙げて安心させようと画策。その婿にと、竹雄に白羽の矢を立てたのだ。しかし、新婚の竹雄は綾子の手前、それを引き受けるわけに行かない。それでもお仙に押し切られて、やむなく偽の花婿になることに。

一方、オッサンはおにぎりを手に、碁会所へ。ところが碁会所の前で転んでしまい、顔面でおにぎりを潰して、米粒が顔にぶつぶつ状に。そのオッサンの顔を見た通行人が、怪訝そうに遠巻きにオッサンを見ている。なんと天然痘患者と思い込んでしまい、誰かが保健所に通報。そんなことを知らないオッサン顔中米粒だらけのまま、碁敵(田中弁楽)にワンサイドゲームで勝ち続けてご満悦。碁敵が次の手をあぐねていると、外でサイレンの音が聞こえる。

アノネのオッサン(高勢実乗)碁会所の前で転倒!
顔の米粒が発疹と間違えられて…

オッサン「どうだい、お前、かなわんだろ?お前、あまり長く考えてるんだったら、オレ、ちょっと火事、見に行ってくるよ。どんなもんだね」

碁会所の外には、病院の救急車。中から白衣姿の職員たちが、消毒薬を持って碁会所へ入ってくる。あちこちを消毒して、オッサンを歯がいじめにして、そのまま杖れだす。

オッサン「わしゃかなわんよ、アノネオッサン、ワシゃかなわんよ、おい」

その晩、店の仕事を終えた竹雄、綾子を誤魔化して、なんとか隣の髪結の店へ。花婿になりすます。着々と準備が進むなか、オッサンが病院から帰ってくる。家の周りは見物人で人だかり。オッサン、何かあったのではないかと、心配になる。

オッサン「ちょっと、ここの家になんぞあったのですか? お葬式とかなんとか?」
近所の男「冗談ですよ、お嫁入りですよ」
オッサン「ここの家にお嫁入り? それでもワシに一人お嫁あるのに、そんなにワシ要らんがね、こりゃ」

 と家に入っていく。座敷ではなんと魚屋・虎公 (若月輝夫)が、お仙の亭主役で紋付を着て座っている。芸者・花勇の父 (土屋守)と母 (馬野都留子)に、お仙は「私の連れ合いなんですよ」と紹介。

オッサン「おいおい、ワシは一体、どうなるんじゃ? アノネ…」

するとお仙。「訳はあとで話すから」とオッサンを押し入れに押し込んでしまう。花勇の両親には「この人、ちょっとここ(アタマ)がおかしいんですよ」と誤魔化す。押入れの戸が空いて「アノネ」しかしお仙は戸を閉めてしまう。

さて、婚礼が始まるも、口髭をつけて変装した花婿がどうも、武雄に似ていると、外で見ていた綾子が疑問を持つ。バレてはいかんと武雄、裏口から店に戻って、カウンターの中で、仕事をしているふり。で、綾子が出ていくと、また裏口から座敷へ。まるで志村けんのコントである。ドリフ的というか、何度も何度も、この竹雄の早替わりが繰り返されるが、ついには綾子にバレてしまう。ショックの綾子は「しばらく実家に帰ります」と家を出て行ってしまう。

 仕事も手につかなくなった竹雄は、綾子に会わせて欲しいと、義父に頼むもけんもほろろ、仕方なく客を装って店に行っても、すぐにバレてしまう。ならばと、学生時代の仲間、ミルクブラザースを引き連れて、綾子がいる店の二階に向かって歌い始める。つまり「ロミオとジュリエット作戦」である。「さあ、みんな、陽気で元気で頼むぞ」と竹雄のハモニカのリードで、ジャズソング「素敵なあなた」の演奏が始まる。

川田義雄とミルクブラザース 後ろの有木三太は仲代達矢の叔父さん 面影が…

(素敵なあなた)
♪ほら 元気で始まりだ
ほら みんなで歌おうよ
楽しい 僕らのリズム
ダッタラーラリラッタ
さあ ギターを掻き鳴らし
ほら 口から出まかせだ
新しい 僕らのリズム
ダッタラーラリルルラ
春夏秋冬 いつも歌い
おどる僕ら ジャズるミルクブラザース
さあ ギターを掻き鳴らし
さあ 口から出まかせだ
新しい 僕らのリズム
ダッタラーラリルルラ

(宵待草)
♪待てど暮らせど 来ぬ人を
宵待草の やるせなさ
今宵は月が 出るそうな

(雨のブルース)♪窓を開けてよ こちらを見てよ
本当に憎し あの窓め
夜毎四人が 歌っておれど
なぜにつれない 窓あかり
咽ぶ この音色

(地球の上に朝が来る)
♪自分の女房に 会えないとは
こんなべらぼうな ことはない
儚い夢よ これが浮世じゃえ
諦めしゃんせ

♪えー こんばんわ
えー お二階さん
えー こんばんわ
えー 綾子さん

♪去年の春の 汽車の旅
優しいお前の心より お前の弁当食べなけりゃ
こうした嘆きは ないものを

♪(竹雄)綾子許してくれ
(綾子)いいのよあなた 私こそあなた 許してください 
(竹雄)ああ 僕が悪い
(綾子)あたしが悪い 逢えない夜は 一人で寂しく 泣いていたのよ
(綾子)ねえ 綾子 今は 苦労も憂も晴れて
(二人)夫婦また仲良く 働きましょう

5分半に及ぶ長い音楽シーンである。川田義雄とミルクブラザースのパフォーマンスの貴重な記録でもあり、宝塚出身で数多くの音楽映画で歌ってきた山根寿子のデュエットが堪能できる。ジャズと流行歌、そして浪花節。これぞ川田節のショーケース。

こうして、綾子も無事、松寿司に戻り、竹雄は若旦那として「寿司屋改革」に挑む。まず手始めにと、自動握り寿司マシーンを開発する。お米と寿司ダネの魚を機会に入れると自動的に握り寿司が完成して、ベルトコンベアで、お客の前へ。寅次郎映画ではお馴染みの役に立たない発明「無駄骨装置」なのだが、なんと現在の回転寿司の発想がすでに、昭和14年にあったとは!

これぞ元祖ロボット寿司!

しかし実験ではうまくいかず、いったんは挫折する。やっぱり寿司屋は無理と、武雄は店の裏庭でお湯が出てきたので、ミルクブラザースの面々と掘り始めると、なんとお湯が出た! そこで温泉経営に乗り出そうと、掘り進めていくと、なんと風呂屋のお湯漏れだったことが判明する。アメリカの漫画映画のようなビジュアルで、竹雄たちが穴を掘っていくシーンがおかしい。しかも、親父・松吉が銭湯の湯船に浸かっていると、どんどん水位が下がってきて、湯船の中から竹雄たちが顔を出すというオチ。これも寅次郎映画ならではのビジュアルギャグ。

結局、寿司屋が一番と、愈々完成した「握り寿司」マシーンを稼働させる竹雄。そのスタイルは工場の作業員! お客さんがカウンターのベルトコンベアで流れてくる寿司を食べると、後ろのメーター(ガソリンメーター風)にカウントされる。レジで数を誤魔化そうとすると、機械から大きなトンカチが出てきてポカリ。まさにアメリカの漫画映画である。やがて機械がオーバーヒート。爆発しはじめる。機械を直そうとしていた竹雄、電気ビリビリ(アニメーション合成)となる。戦後でもお馴染みの寅次郎喜劇のルーティーンである。

そしてエンディング。またまた出前持ちに戻った竹雄、岡持を肩から下げて、ハモニカを吹きながら京都のオフィス街を走る。タイトル音楽でも流れた「オクラホマ・ミキサー」のメロディである。

京都のオフィス街を走るハモニカ小僧

♪素敵な発明 大発明
科学万能 思ったが
科学でできない ものがあるよ
それがすなわち お寿司です
やっぱり お寿司は
握るに 限るね
残念ながら 機械では
できません できません

♪余計なことで この頭
使うのやめて 人間は
やっぱり まともに稼ぐこと
それが一番 大事です
親に 孝行
夫婦は 仲良く
産めよ 増やせよ
子宝貯金だ
国策だ 国策だ

歌いながらのエンドマークとなる。最後の「産めよ 増やせよ 子宝貯金だ 国策だ 国策だ」のフレーズが、昭和14年という時代を感じさせる。齋藤寅次郎は次に、エンタツ・アチャコ、川田義雄、柳家三亀松、柳家金語楼の『明朗五人男』(1940年11月30日・東宝映画京都)を手がけるが、そのナンセンス、風刺が内務省検閲に抵触して、一旦お蔵入りになる。国策に反するという理由だったが、結果的に中国戦線の兵士たちへの慰問映画として陸軍が買い上げて、48分に短縮再編集され公開されることとなる。

katsubenwagei@gmail.com

2023年1月21日(土)齋藤寅次郎監督のお住まいだった成城・一宮庵(いっくあん)で<キング・オブ・コメディ 映画監督・齋藤寅次郎を語る2023 ザッツ・寅次郎・エンタテインメント! VOL.1>を昼夜開催、こうした戦前作から戦中、戦後の齋藤寅次郎監督の映画人生と、笑いの足跡をたどります。お申し込みは、katsubenwagei@gmail.com まで。



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