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『スペシャリスト』(1969年・伊・仏・モナコ・西独・セルジオ・コルブッチ)

5月18日(水)の娯楽映画研究所シアターは、セルジオ・コルブッチ監督のこれまた傑作『スペシャリスト』(1969年・伊・仏・モナコ・西独)をアマプラのシネフィルWOWOWチャンネルでスクリーン投影。

『殺しが静かにやって来る』(1968年)に続いて、山岳地帯を舞台にしたヨーロッパの寒々とした「西部」のヴィジュアルも、展開も、ヴァイオレンスも、実に結構なマカロニ・ウエスタン。今回の主演は、フランスで大人気だった歌手・ジョニー・アリディ。この年、”Que Je t'aime”が大ヒットしていた。

『続・荒野の用心棒』(1966年)のフランコ・ネロ、『殺しが静かにやって来る』のジャン=ルイ・トランティニヤン、そして本作のジョニー・アリディ。いずれもヨーロッパ顔で、その瞳がエキゾチックで特徴的。それゆえ西部の異端児ヒーローという風貌がカッコいい。

かつて、銀行強盗の濡れ衣を着せられ、故郷・ブラックストーンで殺された兄・チャーリーの敵討ちをするべく、凄腕のガンマン、ハッド・ディクソン(ジョニー・アリディ)が帰ってくる。

ブラックストーンでは拳銃の携帯が禁止され、保安官・ギデオン(ガストーネ・モスキン)が厳しい目を光らせている。ハッドが舞い戻ってきたことで、脛に傷を持つ連中は戦慄する。チャーリーが奪ったとされる現金は、果たしてどこにあるのか? 果たしてその死の真相は? といったミステリアスな謎をはらみつつ、一癖も二癖もある連中がハッドに戦いを挑んでいく。

かつてハッドと拳銃の腕を競った、メキシコ人の盗賊・エル・ディアブロ(マリオ・アドロフ)も参戦して、壮絶な闘いが繰り広げられる。なんといっても、銃の達人=スペシャリストのハッドがカッコいい。鉄製の帷子のベストを身につけ、撃たれても撃たれても立ち上がるハッド。風光明媚なヨーロッパの山々が、作品のファンタジックな世界を創出。

コルブッチ作品の「西部の街」である、ローマ郊外のスタジオ、エリオス・フィルムのオープンセットで繰り広げられるガンファイト!一番のワルは、ハッドの昔馴染みで、銀行頭取の美しき未亡人・ヴァージニア・ポリカッド(フランソワーズ・ファビアン)。欲の塊のような妖艶な悪女である。ポリカッドという名前は、『殺しが静かにやって来る』の悪徳銀行頭取・ポリカッドと同じ。世界観が繋がっているのも嬉しい。

ユニークというか1969年がビビッドに出ているのは、ハッドに憧れながらも拒絶されてしまう四人のヒッピー。作品のアクセントかと思っていたら、クライマックスに無軌道な牙をむく。銃撃戦の混乱に乗じて、町中の人々に銃を向けて、人々を全裸にさせて匍匐前進させる。そのアナーキーさは、わが「野良猫ロック」に通じる。マカロニ・ニュー・アクションともいうべきヴィジュアル。

全身傷だらけのハッドが、彼らの前に立ちはだかる。それだけで四人のヒッピーは逃げ出す。その貫禄。目的を遂げたものの、明らかに死が迫っているハッドが、黙って馬に乗り、街を出ていく。夕陽に向かって進んでいくそのシルエット。

幽明の境を彷徨うようなゴーストライダーにみえてくる。イーストウッドの『荒野のストレンジャー』『ペイル・ライダー』『許されざる者』の遥かなるルーツは、このハッドかもしれない。しみじみカッコいい。

なんといってもテーマ音楽! マカロニ・ウエスタンのそれまでの旋律とは違うテイストの1969年のイタリアン・ポップス的なメロディ、アレンジ。この時代の日本の歌謡曲にも通じるアレンジ。中学生の頃、マカロニ・ウエスタンの主題曲を集めたレコードを持っていて、サントラではなくアンサンブルプチとスクリーンランドオーケストラによるラウンジ・ミュージックのような演奏で、二十曲入りのアルバムの最後に『スペシャリスト』が入っていた。Facebookで佐々木浩久監督もこのレコードを中学生の時に聴いていたとのレスがあり、ああ同世代のマカロニ体験!と感激した次第。


CBS SONYから発売されていた「マカロニ・ウエスタン・テーマ20」アルバム


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