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『クレージーの大爆発』(1969年4月27日・東宝・古澤憲吾)

深夜の娯楽映画研究所シアター。クレージー映画全30作(プラスα)連続視聴。

24『クレージーの大爆発』(1969年4月27日・東宝・古澤憲吾)

5月3日は「ウルトラアポロ喜劇」と銘打たれた「クレージー作戦シリーズ」第13作にして、ある意味、究極の到達点でもある『クレージーの大爆発』(1969年4月27日・東宝・古澤憲吾)をスクリーン投影。改めてその面白さにひれ伏した!

製作・脚本は、『ニッポン無責任時代』(1962年・古澤憲吾)の生みの親でもある田波靖男さん。演出は、どうかしているほど、エネルギッシュでパワフルな古澤憲吾監督。ゴールデンウィークのクレージー映画としては、『クレージー黄金作戦』(1967年・坪島孝)のラスベガス→『クレージーメキシコ大作戦』(1968年・坪島孝)ときて、次は? まさかの月面への飛翔はクライマックスという弾け方! 前作までのように予算がかけられない分、アイデアと、東宝のお家芸の特撮でという発想。

特殊技術として中野昭慶さんが登板。美術はもちろん井上泰幸さん。円谷英二監督が陣頭指揮を取った『大冒険』(1965年)以来の東宝特撮とクレージー映画のコラボでもある。前作『〜メキシコ大作戦』でも、メキシコの盗賊たちの村がダイナマイトで大爆破!というミニチュア特撮があった。

立看ポスター

なんといっても『クレージー大作戦』(1967年)で成功とは言い難かった、本寸法の「泥棒喜劇」になっていること。すなわち『黄金の七人』的プロフェッショナル映画として、とてもよく出来ていること。今回のクレージーは、国際秘密結社のオーダーとは知らずに、3000億円の金塊を盗み出そうとする「泥棒」! 前作『クレージーのぶちゃむくれ大発見』(1970年)同様、クレージー7人がそれぞれ機能している「全員野球」作品。

今回の植木等さんは、前年の年の瀬に発生した「三億円事件」の犯人という設定の大木健太郎。溢れる札束に嫌気が差して、競馬でスろうとして失敗してボヤく。この大言壮語ぶりは「クレージーソング」の青島幸男さんの世界! 競馬で儲けた金が「邪魔だから」と、札束をパッと撒き散らして大笑い。さらに新興宗教「宇宙真丸教」の教祖までしている。このキャラクターは、それまでの「日本一の男シリーズ」「クレージー作戦シリーズ」の無責任男に、さらに磨きをかけたもの。やはり『日本一の裏切り男』(1968年・須川栄三)後だけに、かなり弾けている。

そのキャラクターに目をつけたのが、国際的陰謀組織GIB。当時、定着していた「007シリーズ」の悪の組織「スペクター」を意識したGIBの首相・ミスターZにアンドリュー・ヒューズさん。『大冒険』でヒットラーを演じていた東宝映画ではお馴染みの外国人バイプレイヤー。その参謀格は、007のMならぬW(平田昭彦)『無責任遊侠伝』(1964年)以来のクレージー映画での悪役。のちの「愛の戦士・レインボーマン」(1972〜1973年・東宝)「死ね死ね団」のミスターKに通じる秘密結社の幹部は、平田昭彦さんにピッタリ。

そのWが司令を下す、実行部隊である女スパイ・毛利エリ子(松岡きっこ)のコードネームはX 14号。戦前、大ヒットしたスパイ映画『間諜X 27(1931年・パラマウント・ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督)で、マレーネ・デートリッヒが演じた、マタ・ハリをモデルにし悲劇の女スパイをイメージしてのネーミング。だからエリ子は、組織を裏切り、後半、あっけなく死んでしまうのだ。古澤演出だから唐突、というわけでなく「女間諜」の末路の典型として、シナリオで描かれている。

で、三億円事件実行犯で、天才的頭脳の持ち主の大木健太郎に、日比谷にある三一銀行の地下金庫にある「3,000億円の金塊」奪取作戦を持ちかける。最初は「興味ない」と断るも「宇宙真丸教」御本尊のお告げにより引き受ける。神鏡に映る御本尊(もちろん植木さん!)が歌うのは、水前寺清子さんの「いっぽんどっこの唄」(作詞:星野哲郎 作曲:富侑栄)。当時、チータこと水前寺清子さんの「人生の応援歌」的な曲が次々と大ヒット。高度成長の勢いを象徴する曲、つまり少し前のクレージーソングのような役割を果たしていた。なので、ここで植木さんがチータの歌を唄うことは、時代の変化がビビッドに出ている。またチータの曲は、劇中、ビルの管理人の由利徹さんも(しつこいほど)唄う。いかに大ヒットしていたかがわかる。

で、集められたのが「それぞれ三一銀行」に恨みがあるか「大金が必要」なプロフェッショナル(そうでもないか)たち。銀行の合併により格下げになった銀行マン・土井(桜井センリ)が手引き係。かつて三一銀行本店の設計をしたにも関わらず師匠の建築家に手柄を横取りされた設計士・三橋(石橋エータロー)が金庫の図面を用意する。さらに住宅ローン未払いで、せっかくのマイホームを差し押さえれた建築業・立花五郎(ハナ肇)と弟分・赤塚(犬塚弘)。そして銀行への地下トンネル入り口に必要な場所で歯科医を開業している中谷宏(谷啓)。大木健太郎の秘書兼運転手(ヘリコプターも!)・松田(安田伸)。この七人が「金塊奪取作戦」に参加するプロセスも、せっかちかつ有無を言わせぬ古澤演出で、コンパクトにまとまっていて小気味がいい。

メンバーが打ち合わせのために招集されたのが後楽園球場の「巨人阪神戦」のスタンド。なんと大木健太郎の財力で、球場は貸切りという豪気さ。クレージー映画の笑いと、『黄金の七人』的プロフェッショナル映画の面白さの融合がなかなか楽しい。

三一銀行の外観は、日比谷の帝劇でロケーション。谷啓さんの歯科が入っているビルが日劇。その界隈としてロケをしているのが、日比谷の三信ビル、日比谷映画、日比谷スカラ座、千代田劇場のあたり。つまり東宝の日比谷映画街である。位置はバラバラだが、幼き日から現在に至るまで、ぼくはこのエリアで映画を観て育っているので、空気感が懐かしい。

さて、どうしても金庫に到達するためには分厚い鉄板をダイナマイトで爆破する必要がある。周囲に気取られないための秘策として(かなり無理はあるが)、偽の映画のロケーション中に、花火を打ち上げて、その音でダイナマイトの爆破を誤魔化そうとする。いしだあゆみさんと、スクールメイツの女の子たちが、日比谷映画街を「恋はそよ風」(作詞:橋本淳 作曲:筒美京平)をパレードしながら唄う。おかしいのは、谷啓さんが監督役で「シュートする!」と叫ぶ。古澤憲吾監督の真似というか、谷さん流のカリカチュアがおかしい。

で、色々サスペンスがあって、無事に金塊をトラックに乗せたところで、GIBのエージェント・Y 18号(桐野洋雄)たちが配下を連れてきて、X14号が正体を明かして、金塊を奪い去ってしまう。ここも「犯罪映画」でお馴染みの「裏切り」の展開。ここからクレージー七人組による反撃が始まる。偽装パトカーで、富士山麓のGIB日本支部へ向かう金塊を積んだトラックを追いかける。このカーチェイス、カースタントも、クレージー映画の中では一番よく出来ている。X 14号は、クレージーの七人に秘密を知られすぎたために本部の司令で殺されそうになる。組織に裏切られたX 14号は、クレージーたちと共に、GIB本部に潜入して金塊奪取に協力することに。

ポスター

この映画がここから一気にスケールが大きくなる。GIBは某国の水爆を盗んで(これもスペクターみたい)それを第三国に売ろうと目論んでいた。金塊を積み込んだ輸送機には、その水爆も搭載されていた。そんなことを知らずに、クレージー七人組は、輸送機をジャックして離陸。しかし松田も大木もジェット機の操縦は初めて。乱気流に巻き込まれて往生、富士山頂に不時着する。スクランブル発進した自衛隊機の無線を傍受したクレージー七人組。自分たちが水爆を抱えていることに驚くが、ならばと水爆を「安全保障」として富士山頂に立て篭もる。

この後半が面白い。犯罪映画、スパイ映画的な世界が一転して、「水爆を抱えていることが身の安全」という「核抑止論」の壮大なカリカチュアが展開される。日本政府も対応に窮する。緊急招集された閣僚会議で、内閣官房長官(藤村有弘)は事勿れの「静観」を主張。付和雷同の総理(藤田まこと)は自分の意見など持たずに、官房長官の案に賛成する。このシーンのためだけに大臣役で高田稔、田武謙三、北竜二、森野五郎とベテラン俳優が登場。こういうキャスティングは、いくら斜陽とはいえ、手を抜かないのがいい。しかし藤田まことさんの無責任総理、やっぱりおかしい。

で、富士山頂には「進歩的文化人」たちが、クレージー七人組に賛同して食料を持ってくる。もちろん文化人代表(ミッキー安川)は売名行為なのだが。といった田波靖男さんの脚本らしい「現代風刺」が入っての、クレージー版『富士山頂』が展開される。石原プロモーションが鳴り物入りで『富士山頂』(1970年・村野徹太郎)をクランクインするのは、この『クレージーの大爆発』公開直後。つまりクレージー映画の方が早い(笑)。

結局、クレージー七人組は、GIBのエージェントたちに捕まり、秘密基地へ連行される。GIB幹部たちは金塊を積んだロケットで、某所へ逃げようと計画。しかも口封じ、証拠隠滅のために、七人組を基地に捕らえたまま水爆を爆破させようとする。タイムリミットはあとわずか…

というわけで「007映画」のような絶対絶命のピンチとなる。この顛末は映画を観るのが一番。初見の方は「え!」「まさか!」と驚愕されるかも。ある意味吹っ切れたラストは、何度見ても「!」となる。エンディング、クレージー七人が月面に降り立って唄う「キンキラキン」(作詞:田波靖男 作曲:萩原哲晶)の楽しさと、爽快さ! まさに「ウルトラアポロ喜劇」に相応しい。

劇中、クレージー七人が揃って唄う「悪気じゃないんだ」(作詞:青島幸男 作曲:萩原哲晶)のシーンは、古澤憲吾監督らしく、映画に弾みをつけるための「突然ミュージカル」としてインサートされる。久しぶりに白いユニフォームを着たメンバーが、青島幸男作詞、萩原哲晶作曲のクレージー・ソングを唄うシーンは、やっぱり楽しい。


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