見出し画像

『悪名無敵』(1965年10月25日・大映京都・田中徳三)

 「梅に鶯、松に鶴、牡丹に唐獅子」とは清次(田宮二郎)の口癖、「朝吉親分に清次」と続く。昭和36(1961)年にスタートした勝新太郎と田宮二郎の当たり役「悪名」コンビも年を重ねて4年。脚本・依田義賢、撮影・宮川一夫、音楽・鏑木創、監督・田中徳三のベストメンバーが揃っての第11作は、東宝のトップスターだった八千草薫がゲスト出演。メインのヒロインは藤村志保だが、この2人はのちに「男はつらいよ」シリーズでそれぞれマドンナを務めることになる。なので、寅さんファン目線では、豪華共演でもある。

画像1

 八千草薫が、初めて大映京都に出演したのが、昭和33(1958)年、市川雷蔵の『濡れ髪剣法』(加戸敏)。フリーになった昭和40(1965)年に、七年ぶりに市川雷蔵の『忍びの者 伊賀屋敷』(6月12日・森一生)に続いての「カツライス」映画への出演となった。勝新太郎とはこれが初共演となる。清楚なお嬢さま、奥さまイメージの八千草薫が本作では、ディープ大阪で、ヒモ亭主との腐れ縁で、あまり深く考えずに売春をしている朱美。とぼけた味のキャラクターも含めて、それまでのイメージを、良い意味で覆してくれる。

 一方、第一ヒロインとなる藤村志保は、血気盛んな子分たちを束ねている大阪の女親分。旅先の片山津温泉で出会った朝吉と、一夜のアヴァンチュールを過ごして、本気で惚れてしまう。しかも彼女は、八千草たちに売春をさせている組織のボス。ということで事態はややこしくなる。とはいえ、今回は、この2人の女優の「意外な面」が見もので、話はシンプル。いつものように清次が敵の組織に寝返ったり、朝吉&清次コンビの「大暴れ」まで、餡子の詰まったたい焼きのように最後まで味わえる。

 藤村志保の配下の幹部に、この頃、進捗著しかった藤岡琢也。片山津温泉のホテルの若いバーテンに、平泉征七郎時代の平泉征が登場。大阪のやくざの元締めに、ベテラン・花沢徳衛。『ドラゴン怒りの鉄拳』に出演してブルース・リー・ファンにはお馴染みの勝村淳の顔も見られる。

 競輪で大儲けした朝吉と清次の「悪名コンビ」。珍しくデパートに来ている。朝吉が気になるのは、家出らしい女の子・お君(大杉育美)。このままではスケコマシの罠で売春宿に売り飛ばされるのが関の山。なので朝吉が声をかけるも相手にされず、大いにクサる。その後、お君に再会。明らかにポン引きの常公(千波丈太郎)に声をかけられているが、お君はやはり朝吉を無視する。その夜、ジャンジャン横丁へやってきた朝吉と清次は、常公を見かけて、お君が毒牙にかかったことを知り、持ち前の男気で助け出すことに。

画像2

 ドライな現代娘・お君を演じた大杉育美は、昭和39年、大映京都フレッシュフェイス第4期生として、平泉征七郎(征)、西尋子(賀川ゆき絵)と同期の若手。ボサッとした家出娘の感じがよく出ている。

 彼女を助け出すつもりで、常公に案内させると、待ち合わせのバーには、息を呑むほどの美人・朱美(八千草薫)とお君がやってくる。旅館に上がった、朝吉&清次、朱美&お君。悪名コンビはなんとかお君を逃げ出す作戦を練る。案の定、常公がやくざたちを連れてきて早速大立ち回りとなる。朝吉は、朱美の亭主でもある常公も連れて大阪駅へ。お君は無事に逃げ出すことに成功したが、清次は、新湊組に拉致されてボコボコにされてしまう。

 朝吉は、清次のことが気がかりなまま、夜行で北陸へ。観客は、ああ、ここで清次はなんだかんだと新湊組のチンピラに収まるんだろうなと、経験上理解しているのでさほど心配ではない(笑)粟津温泉で、お君を実家へと向かうバスに乗せる朝吉。不承不承、連れてこらた常公だったが、朝吉の計らいで、朱美と夫婦のやり直しをすることに。温泉旅館の仲居となった朱美と、堅気になる決意をした常公の住む家も決まったところで、朝吉は「用事がある」と片山津温泉へ。

 湯上がりの朝吉がバーで「色のついた、シュワシュワっとした」飲み物を飲んでいると、和装の百合子(藤村志保)が声をかけてきて、彼女の部屋で花札勝負をすることに。有り金を叩いて負けてしまった朝吉に「あなたが欲しい」と、百合子は朝吉と一夜を過ごす。藤村志保がしっとりとした大人の女性、しかも堅気ではない雰囲気を漂わせている。遊びの嫌いな朝吉は、彼女の「大阪で結婚したい」の言葉に、心底うなづく。このあたりの「言わずもがな」の雰囲気は、なかなかである。

画像3

 一方、朱美と常公は、つまらないことで口論。女房に罵られてヤケクソとなった常公は、地元の親分(水原浩一)に、朱美の在処を教えてしまい、大阪の新湊組の連中に連れ戻されてしまう。

 といった展開で、今回は「朱美の足抜け」を許さない新湊組と朝吉の闘いと相成るのだが、例によって清次は、なぜだか新湊組のポン引きとなっている。ここまでは、パターン化された「悪名」なのだが、なんと新湊組のボスが、「片山津の女」つまり、百合子だったということで、後半が俄然面白くなっていく。百合子は、組の子分たちや同業者の手前、朝吉と清次、そして朱美に対してもケジメをつけなければならない。だが、百合子は朝吉に惚れ抜いていて、自分の立場と感情の間で揺れ動くこととなる。

 昭和40年の大阪を舞台にしているのだが、あくまでも「悪名」シリーズのテイストを大事にしていて、あまり現代性は強調していない。ジャンジャン横丁に流れる、田代美代子とマヒナスターズ「愛して愛して愛しちゃったのよ」バーブ佐竹「女心の唄」が、かろうじて時代を感じさせるが、宮川一夫のカメラは、いつもの「悪名」ルックを大事にしている。また、田中徳三演出も「やくざな男」の映画だが「やくざ映画」ではない。というシリーズのポジションをギリギリ守っていて、クライマックスの喧嘩でも、最初、朝吉は、百合子が清次に、朝吉に渡してくれと頼んだ拳銃で敵を脅かすが、すぐに百合子に返してしまう。あくまでも素手の殴りっこが基本なのである。

 全てが終わってのラスト、朝吉&清次、朱美&常公が、早朝、大阪駅の跨線橋を渡りながら「どこぞで朝飯でも食おう」とワイワイしている感じ。これがこのシリーズの楽しさなのである。


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。