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『むかしの歌』(1939年・東宝京都・石田民三)

森本薫原作、脚本、石田民三監督『むかしの歌』(1939年・東宝京都)。もう見事!と言うしかない。風情の映画、映画の風情。明治維新後の大阪船場が舞台。廻船問屋の一人娘で、勝気でわがままな花井蘭子が、実は、母親公認の愛人・伊藤智子が産んだ娘で、運命の偶然で、実の妹・山根寿子と知り合う。

時代の変わり目についていけない父・進藤英太郎、許婚者・藤尾純、そして実母の夫で戊辰戦争の生き残り・高堂国天。この映画の男たちは、それぞれチャンスを逸していく。

しかし「跡取りを産む人形としての運命」に反撥しながらも、受け入れる覚悟をしていたヒロインが、家の破産を機に芸者に出ることに。これが,ジメジメした犠牲ではなく、自ら運命を切り開くチャンスだと、さっぱりした気分になるのがイイ。実母・伊藤智子が、花井蘭子に会いにくるラスト。にっこりと微笑み、お座敷に向かう花井蘭子の美しさ!

さすが「女の一生」を翻訳した森本薫の脚本は、見事! 昭和14年に、ここまで肯定的に女性の自立を描いた作品が作られていたとは!

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