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東京都市圏パーソントリップ調査から都市や社会の変容が見えてきた

  昭和43 (1968)年から10 年毎に実施されてきた「東京都市圏パーソントリップ(PT)調査」ですが、最新の第6回調査では、「東京都市圏の総人口が増加しているにも関わらず、総移動回数が減少に転じる」という驚くべき結果が出ていました。

東京都市圏パーソントリップ(PT)調査

  パーソントリップ調査とはどのような人がいつ、何の目的で、どこからどこへ、どのような交通手段で移動したかについて調査し、一日のすべての移動を捉えるものです。
 東京都市圏とは東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県南部で、調査は東京都市圏に居住する約1,800万世帯のうち、無作為で選ばれた約63万世帯の方を対象に行いました。
 「東京都市圏交通計画協議会」は国、1都4県5政令市、UR・高速道路会社ほかで構成しています。
 詳細は以下のページからご確認ください。
    東京都市圏交通計画協議会(https://www.tokyo-pt.jp/)
    第6回東京都市圏PT調査(平成30年実施)特設ページ
       (https://www.tokyo-pt.jp/special_6th)

「東京圏の人の移動回数が減少した」ってコロナ禍だからでしょ?……いいえ、コロナ禍の前からです!

コメント 2021-05-21 153245

 「それって……コロナ禍だからでしょ?」と言う方が多いと思いますが、調査は平成30 (2018)年の 年9~10月、つまり新型コロナウィルス感染が始まる前!なんですね。

 私のように都市計画、特に都市交通を専門にしてきた人間からすると「とうとう来たか」「ついに東京圏でも」といった感じでした。
 前回(平成20(2008)年)のPT調査では「調査開始以来初めて自動車利用トリップが減少」という、(当時としては)驚きの結果が出ましたが、今回はそれ以上の衝撃でした。

すべての年齢階層で外出率が減少、自宅でインターネット

 昨年(令和2(2020)年)9月に公表された「調査結果の概要」※では
  ※ニューズレター第35号(https://www.tokyo-pt.jp/publicity/03)


 (1) 東京都市圏の移動量の変化
   ………総トリップ数が調査開始以来初めて減少 。
 (2) 地域間のつながり
   ………鉄道利用は東京区部への集中が多く、自動車利用は
     周辺の地域間が多い。
 (3) 通勤圏の変化
   ………都心 10km圏への通勤人数は郊外部で減少傾向、
     東京区部周辺では増加傾向。
 (4) エリア間の移動
   ………鉄道移動は公共交通利便性が高いエリアと東京区部との
     間の移動が多い。
 (5) 外出率の低下
   ………外出率は調査開始以来最低となり、全ての年齢階層で減少。
 (6) 移動とモビリティ水準
   ………高齢者についてはモビ リティ水準が外出率に影響している 。
 (7) 外出していない人の過ごし方
   ………外出していない人は自宅でインターネットでの買い物や
     趣味活動を行っている 。

となっています。
 「すべての年齢階層で外出率が減少、自宅でインターネットでの買い物や趣味をしている」ということですね

シミュレーションとレポート

 今年(令和3(2021)年)3月には、将来の前提条件を様々に変化させた場合のシミュレーションを⾏い、⼈の移動の変化と課題を明らかにする検討の結果として、下記3本のレポートがまとめられました。

1 「新たなライフスタイルを実現する人中心のモビリティネットワークと生活圏」
   ―転換点を迎えた東京都市圏の都市交通戦略―
2 「暮らしにおける外出行動の分析の手引き」
   ―新たなライフスタイルを支える生活圏に向けて―
3 「駅まち回遊まちづくりの分析の手引き」
   ―データ活用による検討のポイント―

 また、都市交通戦略として「重点的取り組みが期待される3つの戦略」を示しています。
 戦略1:モビリティコネクト ~多種多様なモビリティをつなぐ~
 戦略2:リデザイン ~交通インフラを効果的に利活用する~
 戦略3:次世代地域づくり ~暮らしやすく活動しやすい機能配置~

すでに動き始めていた社会経済分野の変化を、コロナ禍は一気に加速させた

 冒頭にも述べましたように、平成30 (2018)年秋段階で既に東京都市圏の人の移動は転換期を迎えていたことになります。
 その後のコロナ禍と自宅でのテレワークによる通勤の減少などを含めて考えると、交通分野も含めて「すでに動き始めていた社会経済分野の変化を、コロナ禍は一気に加速させた」といえるのかもしれません。

まとめ

 これまで、他の大都市圏においても同様のPT調査が実施されており、その結果は鉄道計画・公共交通計画だけでなく、大規模開発に伴う交通予測などで活用されています。また、意外な分野では感染症(インフルエンザなど)のシミュレーションに活用されてきました。
 今後も、東京圏以外のPT調査が順次行われていきますが、将来の都市や市街地を計画するにあたっては、これらのPT調査結果がとても重要なデータになりそうです。


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