なぜIT長者は”老化”に投資するのか?

昨今IT系企業の医療投資が活発化していますが、特にIT長者と言われるような人たちの老化研究/ビジネスに対する投資が活発化してきています。今回はなぜ彼らが”老化”に注目するのかといった点についての考察を深めてみました。

老化に投資をするIT長者

近年、IT企業の医療進出が盛んです。そして、その投資領域は加齢性疾患から老化そのものに至るまで、何かしらの形で老化に関連していることが多いです(参考)。それでは、よりダイレクトに老化をターゲットに投資しているプレイヤーを見ていきましょう。

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IT長者の老化投資の動向についてまとめてみたのが上の表になります。有名なところでは、AmazonのジェフベゾスやPayPalのピーターティールが、老化細胞除去薬を開発するUnity Biotechnologyに早い段階から投資をしてきました。また、GoogleはCalicoという老化研究の研究所を設立しています。ヨーロッパではMichael Greveが老化研究に特化したVCを設立しています。この他にもイーロンマスクが遺伝子治療による若返り技術の可能性に言及するなど名だたるIT長者が老化研究に注目し始めています。

IT長者が老化に投資をする理由

では、なぜこれらの著名なIT長者たちは老化に投資をするのでしょうか?そこにはいくつかの要因が複合的に影響しているように思います。

①そもそも健康に対する意識が高い

これはIT長者に限った話ではありませんが、一般的に高収入の人は健康に対する理解度や関心が高く、これが所得による「健康格差」の一因とも言われています。

また、(特に米国企業では)2000年代から健康経営に対する意識が高まり、多くの企業が社員の健康維持・増進を図る「ウェルネス・プログラム」を導入するようになりましたが、これも健康に対する意識を高めるきっかけになっているのではないでしょうか。有名な話としてGoogleが無料の社員食堂を提供して社員の食生活を改善しようとしましたが、このような取り組みを通じて多くの(IT企業の)経営者も健康に対する意識を高めていったことが想像されます。(その意識の高まりが、今も続くマインドフルネスブームへも繋がったようにも感じます)

②何よりも老化をビジネスチャンスとして捉えている

医療/バイオ市場の成長が見込まれる中、特に老化予防/治療は多くの疾患に対する根源的なアプローチになるため、市場可能性も大きいと捉えられていると想定されます。Bank of Americaの予想によれば、"companies working to delay human death"の市場規模はすでに1,100億ドル規模にあり、今後CAGRは28%のペースで成長を続け、2025年までに少なくとも6,000億ドル規模に成長するとのこと。「今後10年間で最大の投資のチャンスになる」と見込まれているようです。

また、下のグラフは米国立老化研究所の予算ですが、2013年と比較すると3倍以上の予算額にまで増加しており、老化研究に関連した論文数も右肩上がりの傾向にあります。こうした研究成果に裏付けされて、老化治療の社会実装への期待が高まってる背景もあるかもしれません。

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また、現在「老化」そのものは病気とみなされていないため、製薬会社による投資も限定されてきたのが実情です。こうした状況は逆に、新規参入するプレイヤーにとってはチャンスと考えられます。圧倒的な勝ち組がまだ決まっていないが、将来的には大きく花開く可能性のある市場として、IT長者たちが目をつけているのかもしれません。

③本質的/根源的なアプローチに関心がある

石川善樹さんの「問い続ける力」に書かれているように、成功しているIT長者は本質的な課題にアプローチする思考性があるように思います。彼らが老化に興味を持つのは、老化が多くの疾患の”根源的””本質的”な部分であると感じたからかもしれません。

④社会貢献性の高いテーマに興味がある

特に米国の富豪は「富を社会に還元すべき」との考えを強く持っているため、それが大きな(そして根源的な)社会的課題である老化に目を向けたのかもしれません。これまでビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグといったテック系の起業家たちは、「The Chronicle of Philanthropy」の国内慈善家トップ50のリスト首位を獲得してきました。

ITと老化ビジネスはトレンドが似ている?

ITと老化研究では①コスト、②処理速度、の2つの観点で、市場形成のトレンドが似ている可能性があります。①コストについて、PCの消費電力は、1946年と2011年を比較すると1/500になりました。一方で、バイオの分野ではかつては30万ドルかかっていた遺伝子解析が、約10年で1/300である約1000ドルで可能になりました。②処理速度についても1946年は大規模コンピューターが毎秒5,000演算だったのに対して。2011年には通常のPC等でも毎秒100億演算(注1)となり、200万倍の性能向上となっています。

このITビジネスの黎明期と同じ匂いを、IT長者は老化ビジネスにも嗅ぎ取っているのかもしれません。


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