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『イノベーションのジレンマ』と資源依存理論

経営学書としてあまりに有名な『イノベーションのジレンマ』を再読しました。国内外問わず、ほとんどの大企業経営者は間違いなく読んでいることでしょう。そのエッセンスは多くの論文・書籍に引用されており、読んだことがなくても概要は知っている方は多いのではないでしょうか。

著者であるクレイトン・クリステンセンはBCGで戦略コンサルタントとして働き、退職後にハーバードで博士号を取得し、ハーバード・ビジネス・スクールで教鞭をとられていた方です。残念ながら2020年に亡くなられました。

本書では業界トップ企業が戦略的にきわめて重要な技術革新を無視したり、参入が遅れたりするメカニズムを事例分析によって、解き明かしています。私は学部時代に通読したのですが、改めて読み返してみて、組織論における「資源依存理論」との関わりが特に興味深いと思い、noteにまとめてみます。

まずクリステンセンはディスクドライブ業界の事例分析を通じて、業界トップ企業は顧客に束縛されているために、破壊的技術の開発、採用に遅れ、新規参入企業にリードを許していることを明らかにしました。

なぜ顧客に束縛されるのか?それは「資源依存理論」によって説明できます。資源依存理論について、以下引用です。

企業の行動の自由は、企業存続のために必要な資源を提供する社外の存在(主に顧客と投資家)のニーズを満たす範囲に限定されるという主張である。資源依存論者は、生物学的発展の概念を根拠として、組織のスタッフとシステムが、顧客や投資家が求める製品、サービス、利益を提供し、そのニーズを満たした場合にのみ、組織は存続し、繁栄すると主張している。

Christensen (1997 訳伊豆原弓 2001)『イノベーションのジレンマ』翔泳社

組織論の教科書でも扱われることの多い資源依存理論ですが、クリステンセンは以下のように問題点を指摘します。

この理論で問題となるのは、顧客の指示に逆らって企業の方向性を変える経営者は無能であると特徴づけている点だ。経営者が、企業をまったく別の方向に導こうという大胆な構想を立てたとしても、競争環境のなかで生き残ることに順応した企業では、その試みは、顧客を重視する人材やプロセスの力によって拒絶される。つまり、企業が依存する資源を提供するのが顧客であるがゆえに、実際に企業の行動を決定するのは、経営者ではなく顧客である。

Christensen (1997 訳伊豆原弓 2001)『イノベーションのジレンマ』翔泳社

「企業の行動を決定するのは、経営者ではなく顧客」
実に面白い主張だと思いませんか?でも現場のビジネスパーソンからすると、肚落ちするものではないでしょうか。

クリステンセンは問題点を指摘しつつも、本書の見解は資源依存理論を裏付けているとしています。

成功している企業では、経営陣の決定より、顧客重視の資源配分と意思決定プロセスのほうが、投資の方向を決めるうえではるかに強力な要因になるという点で一致する。

Christensen (1997 訳伊豆原弓 2001)『イノベーションのジレンマ』翔泳社

では顧客が求めていない破壊的技術が出現したとき、経営者はどうすればいいのでしょうか?以下、2つの方法があるとされています。

方法の一つは、とにかく破壊的技術を追求するべきであり、収入源である顧客が拒否しようと、上位市場の技術より収益性が低かろうと、その技術は長期戦略にとって重要であると、全社員に伝えることである。もう一つの方法は、独立した組織をつくり、その技術を必要とする新しい顧客のなかで活動させることである。

Christensen (1997 訳伊豆原弓 2001)『イノベーションのジレンマ』翔泳社

新事業のために戦略子会社を設置す動きはまさに後者の方法に該当しますね。クリステンセンは事例分析の結果から、後者の方法が成功する確率が高いのではないか、ということを示唆しています。

以上です。今回紹介したのは名著『イノベーションのジレンマ』のほんの一部です。もし興味を持たれた方は、ご一読されてみてはいかがでしょうか。


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