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キャリア探索行動の先行研究まとめ

私が修士論文のテーマとしていたキャリア探索行動の先行研究についてまとめました。

キャリア探索行動とは?

Stumpf , Colarelli & Hartman (1983) によると、キャリア探索行動とは自分自身や仕事、職業、組織について情報を収集し理解を深めることで仕事世界への移行やその後の適応プロセスに関わりをもつ意図的行動です。さらにStumpf et al. (1983) は情報収集する対象を基にした2つの下位概念として、自己の興味や価値観、これまでの諸経験の探索などの自己理解に基づく自己キャリア探索行動企業研究や業界研究 職務・職業理解に基づく環境キャリア探索行動を提示しました。

就職活動の際に自己分析や業界分析を行った方も多いと思いますが、まさに自己分析=自己キャリア探索行動、業界分析=環境キャリア探索行動となります。

キャリア探索行動についての実証研究

ではキャリア探索行動とは、どのような変数に影響を及ぼしているのでしょうか?

Stump & Hartman (1984) は求職活動中の157名のビジネススクールの学生を対象に質問紙調査を実施し、環境キャリア探索行動が求職活動によって獲得する情報量 (Amount of information) に正の有意な影響を与え、さらに情報量が入社後の現実的な期待につながることを明らかにしています。

Zikic & Klehe (2006) は 失業者215名を対象に6カ月間隔で2回の質問紙調査を実施し、共分散構造分析を行いました 。その結果、失業中にキャリア計画を立て、環境的キャリア探索行動を行った者ほど、再就職の質 (Reemployment quality) が高いことを明らかにしました。一方で、自己キャリア探索は再就職の質に負の影響を与えていました。この結果は非常に興味深いものですが、Zikic & Klehe (2006) は自己キャリア探索行動によって現在のキャリアパスに疑問を持ち、これまでと違う分野に就職した可能性を指摘しています。

Zikic & Saks (2009) は求職活動をしている39歳までの男女795名を対象にオンラインでの質問紙調査を8カ月の間隔を空けて2回実施し、定量的な分析を行いました。その結果、自己キャリア探索行動と環境キャリア探索行動の両方に多くの時間を費やした求職者は、より高い職務探索自己効力感  (Job search self efficacy) を示したことを報告しました。職務探索自己効力感とは、自身が求職活動を成功裡に行い、内定を得ることができるという信念のことです。加えて環境キャリア探索行動に多くの時間を費やした求職者は、より高い職務探索明瞭性 (Job search clarity ) を示したことを報告しました。職務探索明瞭性とは求職者が明確な求職目的や希望するキャリア・仕事・職種の明確な考えを持っている程度を指します。

竹内・竹内 (2010) ではキャリア探索行動と一定期間における特定の職務を探索する上で必要な行動である集中的職務探索行動 (Job search intensity) を統合した包括的な研究の必要性を主張し、227名の新規学卒者を対象に質問紙調査を実施しました。 その結果、自己キャリア探索行動が集中的職務探索行動に対して正の有意な影響を与えていた。 環境キャリア探索行動は集中的職務探索行動に正の影響を与えていたが、有意傾向に留まっていました。この結果より、竹内・竹内 (2010) は初期段階でキャリアに関する自己及び環境要因についての情報を収集することによって、自己のキャリア目標がより明確になり、その後の段階で明確化されたキャリア目標の達成に向けて、実際的な行動である集中的職務探索行動を積極的に行う可能性を考察しています。 加えて集中的職務探索行動が内定企業数と会社満足度の双方に対して有意な正の影響を与えることを明らかにしています。すなわち集中的職務探索行動を行うことで内定企業数が多くなり、就職した会社への満足度も高まることを示しています。

湯口 (2022) は関西圏私立4大学の4年生232名を対象とし、質問紙調査を行いました。その結果、キャリア探索行動によって自己理解を深めることで不採用経験後の自分らしい就職態度の確立と目標の明確化へとつながっており、そこから内定先への満足・意欲を高めることで不安を低減させていました。 一方でキャリア探索行動は直接的には内定先への満足・意欲や不安に影響していませんでした。このことから湯口 (2022) は「守破離」のプロセスを援用し、キャリア探索行動はキャリア構築における「守」であるという命題を提示しました。

今後の課題

これらの結果からキャリア探索行動は求職活動に対し、ポジティブな影響を与えていることが明らかになっています。その一方で、Zikic & Klehe (2006)  が示したようにネガティブな結果をもたらす可能性が一部指摘されています。 ただし、Zikic & Klehe (2006) の研究はあくまで非自発的なキャリア形成を強いられた失業者を対象としており、必ずしも 自発的なキャリア形成を行う者にも一般化できるわけではないことに留意が必要です。

キャリア探索行動における近年のレビュー論文としては、Jiang , Newman , Le Presbitero & Zheng (2019) が挙げられます。Jiang et al. (2019) は67本の論文をレビューし、1960 年代 から70 年代にはキャリア形成過程の一部であり 青年期から成人期初期に行われるものと捉えられていたキャリア探索行動が 90 年代以降は人の生涯に亘って行われる継続的なプロセスとして受け入れられていることを指摘した。その一方で大半の実証研究が青年期と成人期初期に焦点を当てており、成人期後期のキャリア探索行動の性質と推進要因についてはほとんど知られていないことを課題として挙げました。そしてキャリア探索行動の生涯視点への貢献として、青年期や成人期初期の個人以外の集団にキャリア探索行動の研究を拡張する必要性を主張しました。事実、国内のキャリア探索行動を扱った研究はその大半が大学生を対象としています (e.g., 竹内・竹内, 2009 ; 竹内・竹内, 2010 ; 竹内, 2012 ; 矢崎・斎藤, 2014 ; 湯口,2022) 。国内においても成人期後期のキャリア探索行動の研究がほとんどなされていないことは課題として提示できるのではないでしょうか。

※本記事は私の修士論文の先行研究パートを一部改変し、執筆したものです。

参考文献

  • Stumpf, S. A. A., Colarelli, S. M. & Hartman , K. (1983). Development of the Career Exploration Survey. Journal of Vocational Behavior , 22 (2), 191-226.

  • Stumpf, S. A. & Hartman, K. (1984). Individual Exploration to Organizational Commitment or Withdrawal . The Academy of Management Journal, 27(2), 308-329.

  • 竹内倫和・竹内規彦 (2009). 「新規参入者の組織社会化メカニズムに関する実証的検討 : 入社前・入社後の組織適応要因」『日本経営学会誌』 23 , 37-49.

  • 竹内倫和・竹内規彦 (2010). 「 新規参入者の就職活動プロセスに関する実証的研究 」 『日本労働研究雑誌』52 (2・3), 85-98.

  • 竹内倫和 (2012). 「新規学卒者の組織適応プロセス:職務探索行動研究と組織社会化研究の統合の視点から」『学習院大学 経済論集』 49 (3), 143-160.

  • 矢崎裕美子・斎藤和志 (2014). 「 就職活動中の情報探索行動および入社前研修が内定獲得後の就職不安低減に及ぼす効果 」『 実験社会心理学研究 』 53 (2), 131-140.

  • 湯口恭子 (2022). 『 キャリア探索とレジリエンス 』 晃洋書房.

  • Zikic, J. & Klehe , C. (2006) Job loss as a blessing in disguise: The role of career exploration and career planning in predicting reemployment quality. Journal of Vocational Behavior , 69 (3), 391-409.

  • Zikic, J. & Saks , A. M. (2009) Job search and social cognitive theory: The role of career relevant activities. Journal of Vocational Behavior, 74, 117-127.

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