見出し画像

太陽活動の足跡

概要

今回は日経サイエンス2022年4月号の「巨木の年輪に刻まれた太陽の異変 古文書が助けた科学分析」の要約です。

面白いポイント

同位体分析、太陽研究、古文書、の3つの重なった学際的分野であるというです。炭素14分析を行っている研究者がいます。

彼らは屋久杉のような古い樹木や生物、極地の氷等のサンプルの評価を行っています。太陽の研究者たちは太陽コロナの発生メカニズムやその地球に及ぼす影響の研究を行っています。さらに古文書の研究者たちは昔の文字の読解などを通して過去にどんなことがあったかを調べています。

一見するとバラバラの研究ですが、組み合わせる事で新しい知見を得られるということが興味深いと感じました。

同位体分析

炭素14とは??

炭素は6つの陽子、6つの中性子を持つ原子です。炭素14とは6つの陽子と8つの中性子を持つ炭素のことです。炭素14はどのようにして発生するのでしょうか?宇宙から飛んできた中性子と空気中の窒素が反応することで炭素14が発生します。

窒素(陽子7個、中性子7個)+中性子→炭素(陽子7個、中性子8個)+水素(陽子1個、中性子0個)

樹木は二酸化炭素を吸収して炭素を体内に取り込んで成長します。樹木の断面に見られる年輪は1年ごとの成長に対応しているので炭素14が急増した年を正確に決定することができます。

炭素14の濃度は地球磁場、太陽磁場の強度の変化を反映していますが、宇宙の突発的なイベント(ガンマ線バースト、超新星爆発、超巨大太陽嵐)によっても変動します。

炭素14濃度を調べる事で宇宙でどんな事が起こったのかを調べることができます。

どんな樹木サンプルを使ったか?

炭素14を調べるためにどんなサンプルを用いたのでしょうか。

炭素14の同位体分析に使われたのは「屋久杉」です。樹齢1900年年の屋久杉を用いて同位体分析を行ったところ、770年頃に炭素14の急激な濃度上昇を発見しました。

太陽の研究

太陽活動の活動とは??

さてその太陽ですが、太陽はどんな役割を果たしているのでしょうか。

太陽はそもそも巨大なプラズマの球体であり、自転運動と対流でプラズマが流動し、その結果磁場を作っています。この磁場は太陽圏と呼ばれるていますが、天の川銀河を飛び交う高エネルギーの「銀河宇宙線」の流入を防ぐ役割を果たしています。
太陽嵐は時々しか発生しませんが、宇宙銀河線は常時大量に流入しているため、太陽活動が弱まると炭素14の濃度は上昇します。

太陽嵐とは?

太陽嵐とは何でしょうか。

太陽表面では激しい「太陽フレア」と呼ばれる爆発が起こり、時に地球に大きな影響を与えます。

有名な太陽フレアの中にキャリントンイベントというものがあります。キャリントンイベントは1859年に発生した太陽フレアであり、大量のプラズマが地球の磁気圏に降り注ぎ大規模な磁気嵐を発生させました。
緯度が低い地域でもオーロラが出現する「低緯度オーロラ」が世界各地で観測され、電信・電報サービスなどの金属ケーブルに過大な誘導電流が流れて機器の損傷が起きました。

1989年3月にも大規模フレアが発生し、このときはカナダのケベック州で電力システムが約9時間に渡ってダウンしました。さらにアメリカのニュージャージー州では変圧器が焼損しました。2003年11月のフレアでは10基を超える人工衛星に障害が起きました。

このように太陽嵐はオーロラが観測されるだけでなく、電力や人工衛星といった現代社会を支えるインフラにも大きな影響を及ぼす「災害」の一つと言えます。

そのために「いつ、どのような規模」の太陽嵐が発生するか予測できることが重要となりますが、そのために「過去何回くらい、どんな規模の」太陽嵐が発生したかを調べる必要があります。

ちなみにキャリントンイベントのような大規模な太陽嵐でも炭素14濃度の上昇は観測されませんでした。

太陽嵐に関する古文書の記述

宇宙線を見る事はできませんがオーロラは見ることができます。今までどのようなオーロラが発生していたかは古文書を見ることで調べることができます。それでは今までどのような古文書が分析に使われたのでしょうか。

BC600年頃の太陽嵐

古代メソポタミアの「アッシリア占星術」、「バビロン天文日誌」などにオーロラの記述があります。前者にはBC680~BC650年にオーロラが出現したとみられる記述が、後者にはBC567年頃に赤光が西方に4時間輝いたと言う記述があります。

西暦700年代の太陽嵐

西暦700年代の太陽嵐のときに発生したオーロラは、メソポタミア、イングランド、中国でオーロラと見られる記述があります。

メソポタミアでは775年から776年に書かれた「ズークニーン年代記」に記述があります。771~772年に北の方角に赤、緑、黒、サフラン色(黄色)が見られた、773年には一年前に見られたしるしがこの年にも見られた、という記述です。

イングランドでは890年に完成した「アングロサクソン年代記」という書物に記述があります。775年3月~777年12月の間に、太陽が沈んだ後に赤いしるしが現れたというものです。

中国では10世紀半ばに編纂された「旧唐書」に記述があります。776年1月に長安でオーロラのようなものが観測されたというものです。

西暦900年代の太陽嵐

900年代の太陽嵐については、ドイツのザクセン地方の年譜に992年12月、10月にオーロラと見られる記述があります。

アイルランド北部のアルスター地方でも中世アイルランド語で書かれた書物からも読み取ることができます。

西暦1000年代の超新星爆発

太陽嵐ではありませんが日本では藤原定家が明月記に1006年、1054年の超新星爆発の記録を書いています。

今回の学び

学際的分野の面白さについて

古文書分析、太陽研究、同位体分析の3領域の人たちが協力することで太陽嵐の様子が分かるようになってきました。過去に何が起きたかをしる学術的な価値も高いですが、現代文明に影響を及ぼす太陽嵐を予測し、対策を打つという観点でも重要な研究です。

日経サイエンスには出てこなかったですが、全く別の3分野を「つなぐ」役割の研究者が居たのではないかと思います。私自身はそのような分野間を「つなぐ」、人と人を「つなぐ」ということに強い関心があります。

そういった観点でも面白い内容でした。

文化の伝承について

余り注目されないところかもしれませんが、今回の日経サイエンスの記事には以下のような記述があります

700年代のオーロラについては、日付付きで天文現象を記録したものはユーラシア大陸とアフリカ北部のごく限られた地域のものしかない。中南米では植民地支配が広がる過程で、それ以前の先住民の文字記録が失われている。

日経サイエンス

これを見てどのように思われるでしょうか。文化の破壊、抹消という事の及ぼす影響の恐ろしさを物語っていると思います。戦争や侵略のような暴力的な形意外でも、文化伝承が上手くいかずに消えてしまったものも多いのではないかと思います。
色々な文化を尊重する、継承していく、ということの大事さを改めて感じる文章でした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?