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家計簿で国家の経営を論ずるなかれ

当たり前のことであるが、実態をつかめない手段で測っても実態はわからないし、適切な意思決定をするはできない。現在、自民党の国会議員の間では、政府の積極的財政を推進しようとする「財政政策検討本部」と、消極財政を推進しようとする「財政健全化推進本部」がそれぞれの議論を行っている。いずれのグループも、さらには、政府の財政を司る財務省も、政府の財政収支を基にして議論を展開している。 特に、後者の「財政健全化推進本部」、また、財務省は、いずれも政府の財政収入(歳入)と財政支出(歳出)を均衡させることを財政政策の目標としている。不適当な認識・測定の手段のまま議論を行っているため、二つのグループの議論はかみ合わない。

子供や家計は、お金の出入り、すなわち、収入と支出で、お小遣いや生活費の管理を行う。子供はお小遣い帳で、また、家計は家計簿に基づいて、マネジメントや意思決定を行っている。お小遣い帳や家計簿は現金の出入りを記録するが、これが単式簿記である。

現代の企業会計では複式簿記が用いられる。複式簿記では現金の出入りだけでなく、他の資産・負債・資本などの変動、また、収益や費用の発生を認識して、それらの事象を認識し記録する。その結果、年度末には、資産・負債・資本の状態を貸借対照表(BS)、業績を損益計算書(PL)、現金の収支を資金計算書(CF)として三の計算書を作成する。これらが財務三表と呼ばれている。企業は継続することを前提としており、経営者はBSとPLを基にマネジメントや投資決定を行う。複式簿記は経済主体の活動を、ストック(BS)とフロー(PL)という二つの要素として認識し記述することになる。
資金不足で企業が破綻に瀕しているような特殊な状態を別にすれば、通常の経営状態ではPLやBSと比べてCLの重要性は低い。

複式簿記は、株式会社制度と同様、経済社会における最大の発明の一つである。複式簿記は12世紀から15世紀にイタリアで完成したといわれている。例えば、大航海時代には,一航海ごとに複数の商人から出資を仰ぎ、長期の航海が無事に終わって戻ってきたときに船舶や貿易品を売って換金し、その金を出資に応じて分配(清算)した。始めは一艘だった船が増え様々なところや時期をずらした航海が行われるようになる。すべての航海が終わって清算するのを待つのではなく、人為的な期間(会計期間)を決めて損益や財産の状態を計算し、出資者に配当を支払うことになる。一航海ごとに清算するのなら単式簿記で十分だが、永続的に事業が継続することになると複式簿記が必要になる。

日本政府は国家が存続する限り永続的に存在する。永続する政府の経済状況を認識し、政府の経営や意思決定を行うには、単式簿記の歳入歳出では無理がある。歳入歳出では国家の財政状態や経済状況を認識・把握することができない。また、金がなければ支出できないということであれば、20年・30年を費やす事業への投資、また、国家の安全を維持するための防衛支出などができなくなる。

お小遣いや家計と違って、政府には信用創造ができる。単純化して説明してみよう。政府がお金を印刷しそれで支払いをすることによって、民間から様々な資産やサービスを購入することができる。後に、政府は発行したお金を税金として回収する。政府がお金という信用をつくり出すことが、信用創造である。

政府は発行したすべての金を税金として回収することはできないが、未回収のお金は民間に残って取引の決済手段となる。未回収のお金が民間に残っても、それには政府の資本としての性質があり、政府に一定の資本があることには何の問題もはない。現在使用されている歳入歳出方式では、適切に政府の財政状況や経営状況を認識することは不可能である。国会における財政の議論をわかりやすく、かつ、実りあるものとするためには、まず、複式簿記による政府の活動状況の認識・把握が必要である。

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