見出し画像

経営企画室と新規事業への転属はお勧めしません!

 転属希望の部署について相談を受けることがある。やる気も能力もあり、前途有望な若い人が、勉強のために会社全体の動きがわかる経営企画室に行きたがり、また、自分の力を思いきり発揮できるような新規事業を希望する。サラリーマン社会で出世したければ、その二つは絶対に避けるようにと、私は諭す。かれらは怪訝に思って。その理由を尋ねる。

 サラリーマン社会で高い地位や報酬を得るためには、出世しなければならない。若い人は勘違いしているが、人が出世できるのは自分に力があるからではなく、上司が引き上げてくれるからである。いくら能力があり、実績を示しても、上司が引き上げてくれなければ昇給も昇進もない。サラリーマンの出世の法則は、力のある上司の下で働き、上司に自分の働きを認めてもらって、取り立ててもらうことである。

 残念ながら、経営企画室も新規事業も、サラリーマンの出世の法則には当てはまらない場所である。経営企画室でも新規事業でも、上司は皆、実力者のはずなのに、なぜか?それは、経営企画室の室長も新規事業部の部長も、いずれも出世できないからである。出世しない上司の元では、上司の声が上に届きにくく、部下の出世は望めない。

 経営企画室は社長のブレーンとして、会社の改革活動を主導する。改革は全社視点に立って、会社の成長のために現状維持のバランスを崩し、見込みがない事業を整理したり、成熟した基幹事業部から成長部門へと、経営資源を大きくシフトさせたりする。つぶされる事業や基幹事業部は、自分の仕事や経営資源を奪われることになり、当然怒りを感じることになるし、面白くない。
 経営者の交代によって、次の社長の時代には復讐が始まる。貴方と苦楽を共にし、貴方を買ってくれた経営企画室長は、取り換えられてしまう。もし貴方が変革活動の前面に立っていたとしたら、貴方もどこかへ飛ばされる。

 新規事業とは新しいビジネスモデルの構築である。ビジネスモデルの構築は、20年から30年をかけて、探索期、形成期、完成期という、三つのステージをたどる
 探索期には、適したモデルを探しながら、酔いどれ船のように10年以上も試行錯誤を繰り返す。すでに完成形のビジネスモデルを持つ既存事業部からは、ごくつぶし扱いされたり、詐欺師集団呼ばわりされたりして蔑まれる。多くの新規事業は日の目を見ないまま消え去っていく。
 形成期にはビジネスモデルの原型ができあがるが、まだまだ投資過程の弱小部門で肩身が狭い。完成期には、微調整を繰り返しながら、やがて新たなモデルが完成して、やっと一人前の事業部入りする。

 ステージごとに事業部長が入れ替わる。探索期や形成期における、苦労の多い事業部長の評価は驚くほど低い。貴方の努力をたたえ、能力を評価してくれてる、事業部長の発言力はとても小さく、その声はなかなか人事部には届かない。事業部長はほぼ出世しない。

 貴方が、経営企画室や新規事業で仕事そのものを楽しみたいならば、そこは得難い経験を与えてくれる。しかし、そこでの刺激が強烈すぎるので、以降の仕事がとても退屈になる。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC1877R0Y4A410C2000000/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?