見出し画像

四番近本という「普通」

 最近調子の悪い阪神タイガース。良い時は何でも褒められて、悪いときは何でも悪い原因にされてしまうのが世の常。
 その中でいかにも日本の野球っぽいなと感じるのが「近本は四番タイプではない!」という批判。

 いつの間にかすっかりNPBよりもMLBを見るようになった自分としてはとても不思議な批判に感じる。そもそも「タイプ」って何だ?
 おそらく1番は軽打で足が速い人が務める、2番は犠打など小技に長けた人が務める、4番は溜まったランナーを長打で一気に返す人が務める、というようなイメージなんだと思う。
 
 そうした固定されたイメージにそぐわないと「タイプが違う!だから負けるんだ!」と悪い原因にされてしまうのだろう。

 しかし、言わずもがなMLBでは2番は犠打どころか強打者が務めるのが標準的だ。大谷もそうだし、昨年のジャッジもそうだった。ところが「ジャッジが2番だからダメだったんだ!」なんて批判を聞いたことはない。

 MLBとNPBの違いとして最も大きく感じるのが、こうしたなんとなくのイメージに対するこだわりの差である。

 「溜まったランナーを長打で返すのが四番」理論を当てはめたとしても、実は近本は阪神で最も長打率が高い。

〇6月8日終了時点の長打率
・中野 .332
・前川 .354
・森下 .413
・近本 .429
・佐藤 .321
・大山 .272
・糸原 .268

 つまり、現状において近本の4番というのは奇策でもなんでもなく、いたって常識的な采配と言っていいと思う。小柄で俊足だからといって四番を務めてはいけないなんてことはない。

 その意味で岡田監督は第一次政権の時はあまり好きではなかったけども、第二次政権においてはその柔軟性に感心させられることが多い。

 こうした「偏見」に基づく批判はNPBの発展を阻害しているような気さえする。ファンの愚痴ならいざ知らす、影響力のあるOBの野球解説者すら同じような批判が多い。「重鎮」による根拠なきイメージの押し付けが創造性の芽を摘むという構図は何やら日本社会全体の縮図のようにすら感じてしまう。
 
 そもそもNPBにおいては未だに「打率」への信仰が強すぎる。
 シングルヒットとホームランを同じ価値で測る指標なんて普通に考えてもおかしいと思うのだが、日本人は本当に打率が大好きだ。
 シングルヒットは下手をすると4本打ってやっと1点になる。1イニングにヒットが4本も出ること自体が稀であり、それではなかなか点数に結びつかない。
 ホームランは1本で1点入る。二塁打は2本で1点が入る。普通に考えたら二塁打はシングルヒットの2倍の価値があるし、本塁打は4倍の価値がある。ところが4打数1安打だと、どれでも .250という同価値の扱いを受ける。そんな馬鹿な話はない。
 
 よく試合の講評に「10安打を放つも2点しか入らず、打線がつながりを欠いた」みたいな文言を見るが、これもおかしな話である。二塁打を10本打って2点だったら「つながりを欠いた」と言えるが、仮にシングルヒットばかりが10本だったら2点しか入らなくても不思議でもなんでもない。

 MLBはとっくに打率よりもOPS(出塁率+長打率)を重視するようになっているが、野球どうこう以前に算数的に考えたら至って当たり前の判断だと思う。ちなみにOPSで見ても近本は阪神で最も高い(リーグでも6位)。これで守備力に長けて足も速いんだから本当にいい選手だ。そんなリーグ6位の「強打者」を4番に置いて重鎮から文句言われるんだから不思議な国である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?