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【データ法】UK Online Safety Act 2023 ー英国のデジタルサービス規制ー

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

本日は、2023年10月26日に国王の勅許を得て法律となったOnline Safety Act 2023(以下「OSA」)について、書きたいと思います。

このOSA、詳しくは後ほど解説しますが、英国でインターネットをビジネスの主戦場にする事業者にとっては、遵守しなければいけない法令の一つになろうとしています。

今回は、OSAが定める各義務の内容には触れずに、基本的なところを説明していきます。

なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。


OSAの概要

まず、こちらが条文です。

OSAの主な目的は、オンライン環境における児童の保護、及び、違法コンテンツへの対処です。

OSAを所管するのは、The Office of Communications、通称Ofcomです。日本でいう総務省(旧郵政省)ですね、

EU Digital Services Actとの関係

以前のエントリーで、2回にわたり色々と書きました。

この法律は、EUにおけるデジタル社会の健全な発展を目指して、児童ポルノを含む違法コンテンツを排除するための規定を定めていました。

そのため、OSAは、EU Digital Services Actの英国版と理解して頂いても、大きく間違ってはいないと思います。

OSAの構成

本論に入る前に、各章の構成をざっと見ておくと、OSAを俯瞰できるのではないかと思います。

ここで、事業者にとって重要なのは、第3章~第5章の規定です。

第1章(1条~2条) 序論
第2章(3条~5条) 主な定義
第3章(6条~63条) 規制されたU2Uサービス及び検索サービスの提供者:注意義務
第4章(64条~78条) 規制されたU2Uサービス及び検索サービスの提供者のその他の義務
第5章(79条~82条) 規制されたサービス提供者の義務:一定のポルノコンテンツ
第6章(83条~90条) 規制されたサービス提供者の義務:料金
第7章(91条~166条) 規制されたサービスに関するOfcomの権限及び責務
第8章(167条~171条) 不服申立て及び特別苦情
第9章(172条~178条) 規制されたサービスに関する内務大臣の機能
第10章(179条~191条) 通信犯罪
第11章(192条~225条) 補足及び一般規定
第12章(226条~241条) 解釈と最終規定
※ Schedule 1~17の記載は省略

どんなサービスが適用対象なのか?

OSAの構成を見て頂ければ分かるように、3つのサービスが適用対象です。

OSAの適用対象となるサービス
・ User to User Services (U2Uサービス
・ 検索サービス
・ ポルノコンテンツサービス

U2Uサービス

U2Uサービスとは、「an internet service by means of which content that is generated directly on the service by a user of the service, or uploaded to or shared on the service by a user of the service, may be encountered by another user, or other users, of the service」と定義されます(*1)。

OfcomがU2Uサービスの例として、次のようなものを挙げています(*2)。
こちらを見た方が分かりやすいです。

U2Uサービスの例:
ソーシャルメディア・サービス、動画共有サービス、メッセージング・サービス、マーケットプレイスとリスティングサービス、出会い系サービス、レビューサービス、ゲームサービス、ファイル共有サービス、音声共有サービス、ディスカッションフォーラムやチャットルーム、オンライン百科事典や質疑応答サービスなどの情報共有サービス、募金サービス、ユーザーが作成したポルノコンテンツを含むサービス

検索サービス

文字通り、検索エンジンを含むサービスです。
直感的に分かって頂けると思うので、ここでは検索エンジンの詳細な定義は割愛しますが、気になる方は、s. 229を見られてください。

ポルノコンテンツサービス

ポルノコンテンツ(pornographic content)とは、「もっぱら又は主に性的興奮を目的として作成されたと合理的に考えられるコンテンツ」をいいます。

OSAは、インターネットサービスに関してサービス提供者により表示されるポルノコンテンツのことを、提供者ポルノコンテンツ(provider pornographic content)と呼んでいます(*3)。ここでは、他の定義に合わせて、ポルノコンテンツサービスと呼ぶことにします。

どのサービスを提供する事業者が、どの章の義務を負うのか?

以下の通りまとめてみました。

サービス事業者が負う義務
U2Uサービス又は検索サービス:第3章、第4章(+第6章)
ポルノコンテンツサービス:第5章(+第6章)

両サービスは排他的な関係にありません。つまり、あるサービスがU2Uサービスだけではなくポルノコンテンツサービスにも該当する場合があります。そのときは、第3~5章の全ての義務を負うことになりますね。

第3章と第4章の区別

なお、U2Uサービスと検索サービスに適用される第3章と第4章の義務の違いですが、第4章の義務は、大規模事業者やハイリスクなサービスを提供する事業者のみに適用される規定です。そのため、U2Uサービスや検索サービスを提供する事業者であっても、第4章の適用がない可能性があります。第4章の義務が適用される事業者については、Ofcomの助言を基に政府が閾値を競ってするところ、まだ、確定していません。

第6章の義務について

また、第6章は、Ofcomに対する規制料の支払いに関する規定で、あまり気にしなくも大丈夫です。後述のとおり、まだ適用が先の話であり、かつ、適用対象が大企業に限られるだろうと想定されているためです。

域外適用について

上記の3つサービスが、次に該当する場合には、海外事業者であっても、OSAが適用されることになります。

次のいずれかに該当する場合には、域外適用の可能性あり:
・ 相当数(significant number)の英国ユーザーがいること
・ 英国ユーザーがサービスのターゲット市場を構成していること

さらに、U2Uサービス・検索サービスの場合は、次の場合にも域外適用の可能性あり:
・ サービスが個人によって英国で利用される可能性があり、ユーザー生成コンテンツ又は検索コンテンツが個人に重大なリスクをもたらすと合理的に考えられること

相当数の英国ユーザーがいること、という要件は少し引っ掛かりますね。

多くのユーザーをかかえるU2Uサービスや検索サービスの事業者であれば、たとえ英国ユーザーをターゲットにしていなくとも、相当数のユーザーが英国にいることになるため、要件にヒットしていると判断される可能性もあるように思います。

適用の例外について

U2Uサービス及び検索サービスに関する適用の例外

たとえU2Uサービスや検索サービスに該当するサービスであっても、OSAが適用されないものがあります。

これらは、Schedule 1に定められているのですが、かなり長大な規定なので、ここでは、代表的なものだけを挙げます。

OSAが適用されないU2Uサービス及び検索サービス:
・ 電子メール、SMS
・ 1対1のオーラルコミュニケーション
・ 提供者のコンテンツに対するコメントやレビューができるサービス
・ そのようなコメントやレビューを他のサービスで共有するサービス
・ 「いいね」や絵文字等によって提供者のコンテンツに対する見解を表明できるサービス

余談ですが、絵文字は、英語でもemojiです。OSAの条文にも、そのまま"emoji"と規定されています。

ポルノコンテンツサービスに関する適用の例外

やや細かいですが、テキストのみ又は絵文字や記号のみのコンテンツについては、ポルノコンテンツサービスとしてOSAの適用対象になることはありません(*4)。

いつから適用されるのか?

OSAの条項の大部分は、既に発効しています。
上記のOSAのリンクから見て頂けると分かると思うのですが、未発効の条文は、グレーのボックスで囲まれる仕組みになっているところ、ほとんど真っ白だと思います。

もっとも、適用対象となるサービスを提供している事業者が、実際にOSAに対応を迫られるのは、もう少し後のことになりそうです。というのも、OSAの義務は、ほぼ全て第3章~第5章にまとめられているところ、これらが、まだ発効していない、又は、実際の適用時期がまだ到来していないからです。

よくよく条文を読んでもらうと、s.51において、第3章の義務のほとんどは、OfcomがOSAに関する所定のガイダンスを策定してから、有効になると定められています。また、第4章と第5章の主要な義務は、未発効のままです。

前述のとおり、第6章の義務についても、Ofcomに対する手数料の支払いは、内務大臣がガイダンスを策定してから、有効となりますので(*5)、まだ実際の対応は不要です。

今後のスケジュール

ここまで述べたとおり、Ofcomは、OSAに基づき多数のガイダンスを策定することを要請されているところ、こちらでロードマップを発表しています。

まず、第3章の義務については、現在パブコメ中であり(2024年2月23日締切)、ガイダンスが2024年末頃に策定される予定です。U2Uサービスと検索サービス事業者に対する義務が実際に生じるのはそのタイミングですね。

次に、第4章の義務については、Ofcomは、2024年末までに、適用対象となる事業者に対する登録簿が公表される予定です。施行の時期もこの辺りになるのではないかと思います。

最後に、第5章の義務については、Ofcomが、2025年にガイダンスを策定することを予定しており、発行の時期もこの辺りになるのではないかと思います。

まとめ

いかがだったでしょうか。
本当に、ざっくりですが以下のとおりまとめました。

Online Services Act 2023:
・ U2Uサービス検索サービスの事業者は、第3章及び第4章の義務を負う
・ ポルノコンテンツサービスの事業者は、第5章の義務を負う
・ 義務の発効又は実際に義務が課される時期は、2024年末以降と予想

近々に、OSAが定める義務の中身についても解説を書きたいを思っていますので、また覗いてみてください。

ここまでお読みいただきありがとうございました。
皆さまのご参考になればうれしいです。


【注釈】
*1 s. 3(1), OSA
*2 Paras 3.36-3.50, Protecting people from illegal harms online (Volume 1)、リンクはこちら
*3 s. 79(2), OSA
*4 s. 79(4) and (5), OSA
*5 s. 87, OSA


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