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2020年の出版業界動向をなんとなく予想&2019年の予想の振り返り(サブタイトル:デジタルでの勝ち方を知らないボクタチは……)

2019年の予想はこちら。
https://note.com/tosh1965/n/n78674d4f4d64

2019年は、「ためし読み」、あちこちで聞きました。自社のWebサイトでも思い切って増やしましたが、かなりご覧いただけています。よかった。とはいえ、販売にどれぐらいつながっているかと言われると……。単にためし読みを公開するだけでなく、もう少し色々と工夫が必要のようです。

JPROの「Books(PubDBから改名)」も、2020年はためし読み拡大です。有料サービスになるそうですが、どうしようかなあ、乗るかなあ。自社サイトにためし読み上げるだけならお金かからないからなあ。料金が気になるところです。

昨年気になった動きのひとつはオーディオブックです。流れに乗れてはいないのですが、音声データの活用という点に絞ると、弊社は昨年、無料で聞ける音声教材の数(と聴くための方法)を拡大しました。いつものように地味ですが。こちらも販売に結びつけるためには現状では工夫が足りないようです。

さて、2020年の予想です。ここから先の文章において自分のことは棚に置きます。あくまで私個人の意見です。適当なことを抜かしております。業界について若干ひどいことも書きますが、諸々お許しください。

さて、2020年の出版業界動向の予想ですが、簡単にまとめると、「デジタルの勝ち方を理解した大手がめざましいV字回復を遂げる」です。

既にその萌芽はあります。

「電子書籍や電子雑誌といった紙の本を模したパッケージはあくまでデジタルコンテンツの収益化の手法のひとつに過ぎない」と理解しただけでなく、社内の体制もそれに合わせて組み立て直しつつある大手(に限った話ではないのですが)は、今、新しい可能性に立ち向かいつつあります。もちろん、業務の手順や流れそのものも、収益化の方法と結び付けられた上で見直されています。割と重要な話なんですが、例えば、紙の雑誌では必ず「締切」を軸に諸々の仕事の期限が定まってきますが、デジタルでの掲載を優先ということであれば、そこはガラッと変わります。さらに極端な話、紙の雑誌をやめてWebサイト化した場合、DTPや印刷製本の工程は無くなります。

「電子書籍や電子雑誌といった紙の本を模したパッケージはあくまでコンテンツの収益化の手法のひとつに過ぎない」と書きましたが、これ、電子書籍や電子雑誌に限った話ではありません。まったく同じテンションで「紙の本や雑誌もあくまでコンテンツの収益化の~」に置き換え可能です。制作も流通も高コスト体質で在庫のリスクもある「紙の出版物」は、下手をするとデジタルでの収益の足かせにもなりかねません。もちろん、効率だけではない部分があるのも事実ですが。

少し、話が変わります。

現状、紙の出版物の流通は大きなターニングポイントを迎えています。輸送費問題=物流コストだけでなく、店舗を維持するための賃料や固定資産税の問題、さらにはここへ来て製本コストの問題=従来どおりの費用では製本業が成り立たなくなる可能性も聞きます。流通においても、特に書店現場の人件費の課題は、ブラックな環境や非正社員化などの問題とも絡んで深刻化しつつあります。

ちょっと前まで(というか、今でも)、「出版業界の課題は再販問題と結びついている」と言われていましたが、それ以上に大きな課題は「マージン」だったということが最近になって露呈しつつあるわけです。書店が「マージンミックス」を実践し始めているのは、本が売れる売れないだけでなく構造的な問題です。極端な話、再販だろうがそうでなかろうが、関係するそれぞれ全てに充分なマージンが確保されていれば何も問題ないわけですが、現状はそうなっていません。

さて、ここでマージンの問題を「紙の出版物」に限った中で考えます。関係各所に充分なマージンを設定するためには「定価を上げる」「販売数量を増やす」「原価を下げる」「マージンを変える=正味を変える(報奨含む)」といった対策が考えられます。が、「原価を下げる」についてはそれぞれの取り分を増やさなければ共倒れになるという話の流れからすると有り得ません。「販売数量を増やす」は、どうですか? 「定価を上げる」は取り組みとしてはすぐにでも出来ますが……。「正味を変える(報奨含む)」で書店のマージンを改善したとしても、製本や輸送はどうしたらよいのでしょうか。

「紙の出版物」に限った中で関係各所のマージンの改善というのは厳しいと考えたほうがよいでしょう。そもそも「(関係各所の)どこのマージンをどれぐらい改善すべきか」が見えていません。というか、あえて見ないようにしているのかも知れません。

「直取引なら……」「(読者への)直販なら……」という意見もあるでしょう。ですが、紙の出版物の制作・流通・販売の根本的な課題がいくつかのプレイヤーを飛ばした程度で解決するのであれば既にそういう道は提示されているはずです。直取引も直販も手法としては決して新しくはないです。万能の手法ではありません。

と、ここで、もうひとつ別の話に逸れます。

かつて、雑誌は広告で稼ぐのが当たり前でした。極端な話ですが、「手間と金のかかる雑誌そのものを印刷・製本・流通しないほうが儲かる」ぐらいの話も聞いたことがあります。それぐらい、雑誌広告が稼いでいた時代がありました。しかし、広告媒体としての雑誌にとって露出=読者との出会いは必須です。いくら「作らないほうが儲かる」みたいなことを豪語しても、書店に雑誌が並ばない(もしくは読者に雑誌が届かない)と、広告媒体としての価値はゼロです。なので、けっこうな金をかけて作り、ちょっとぐらい返品率が高くても気にせず配本し続ける、それが雑誌の正しい「勝ち方」でした。

日本と少し事情が違いますが、アメリカでは、 Controlled circulation という手法があります。広告を満載した雑誌を読者に無料で送るんです。よりステータスの高い(嫌な表現ですが)読者層に送ることで広告媒体としての雑誌の価値を高めるとともに、読者属性などを明確にしたうえで「こういう読者に届けられる(届けている)という前提で企業に広告枠を販売するわけです。昔、外資の出版社で働いていたんですが、US本社の「(無料で送るための)良質な顧客リストを確保する重要性」や「広告の乗り物としての雑誌媒体」といった考えには感心しつつ、日本とはかなり状況が違うのだなあと思ったものです。日本ではその後『R25』などのフリーマガジンが流行りましたが、あれの郵送版だと思っていただけると話が早いです。雑誌は広告の乗り物であり販売ではなく広告で稼ぐんだ、ということであれば雑誌そのものは無料でもいいわけです。程度の違いはありますが、日本の雑誌も広告収入が大きかった時代は価格を安く抑えられました。返品率が高くてもというのも同様です。(蛇足ですが、アメリカ型の Controlled circulation が日本でイマイチ普及しなかった理由は、書店の多さではなく、第三種郵便の規定だったんじゃないかと考えています。蛇足です)

紙の雑誌の広告収入が厳しい時代が続いています。が、ここで話を大きく戻しますが、デジタルでの勝ち方を理解した出版社は、かつての紙の雑誌での広告収入を取り戻すどころか、下手すると上回るという状況が見えてきたようです。もちろん、広告だけの収入ではなくデジタルコンテンツの「販売以外の収入」全体で考えると、さらに未来は広がります。ここで重要なのは、「作らないほうが儲かる」みたいなアレです。Webで紙の雑誌を超える「販売以外の収入」を確保できるようになったうえで紙の雑誌を印刷製本・流通販売しなくなるということは、つまり、そういうことです。

これが、雑誌だけでなく、コミックや単行本の世界でも起こりつつあります(単行本はまだしばらくかかりそうですが)。もちろん、それは、デジタルの勝ち方を理解したところにだけ、です。そうでないところは底の見えない奈落であえいでいます。弊社もです。

さて、ここからもうひとつ、2020年の予想です。

「デジタルの勝ち方を理解した大手は紙の出版物の店頭での販売にデジタルコンテンツの販促及び宣伝として新たな意味を見出す、かもしれないです。

この note でも何度か触れていますが、書店店頭の宣伝効果というのはかなり大きなものです。大手はその価値をよく知っています。なので、「読者と本(コンテンツ)との出会いの場としての書店店頭」を維持するために思い切った手段=正味の大幅引き下げに出る可能性が無いとは言えません。デジタルでの収入を維持できるのなら紙の出版物はギリギリもしくはちょっと赤でもOKという判断です。書店だけでなく、製本や輸送に関連するプレイヤーについても「デジタルでの収入」を前提に思い切った配分を提示してくる可能性、自分は、決してゼロだとは言えないと思っています。もともと雑誌の広告収入は書店にはあまり還元されていませんでした。ですが、デジタルでの収益は非常に利益率が高い場合もあるので、「(デジタルの利益の一部を還元してでも)タッチポイントを維持したい」と思うかどうかです。「書店はもういいよ」とは思ってないと思いますよ、多分。

さて、ここまでコミックも雑誌も出してデジタルで稼ぎ始めた大手の話を書きました。では、コミックも雑誌も出しておらず、「デジタルの勝ち方を知らない」多くの小零細出版社はどうなるのか、少しだけ。

「書店が「マージンミックス」を実践し始めているのは、本が売れる売れないだけでなく構造的な問題」と書きました。小零細の出版社にとってはショックですが「(現状のマージン体系の中では)本だけ売っていても利益が確保できない」という事実は受け入れるしか無い現実です。出版社には、先に触れたとおり、「定価を上げる」「販売数量を増やす」「原価を下げる」「正味を変える(報奨含む)」「(取次を飛ばして)直取引を行う」「(書店と取次を飛ばして)読者に直販する」といった選択肢があります。1月24日の出版ビジネススクール最終セミナーで提示された「協業」もそうかも知れません。協業のさらに先で、大手の傘下に入ったり合流したりすることで生き残りを図るというところもあるでしょう。マージン問題を乗り越えるためにはスケールメリットを活かせたほうが有利です。まったく逆に、極度に縮小したうえで副業なども視野に入れて乗り切るというのも考え方です。

その「副業」ですが、何もひとり出版社に限った話ではありません。書店が出版物以外でのマージンミックスを実践しつつあるのと同様に、出版社も「出版物以外」でのマージンミックスを考えてみる価値はあります。大手は「デジタル」で「紙の出版物の販売と広告以外の収益」を確保しつつあるわけですが、もしかすると小零細は、デジタルかどうかについても、あまりこだわらないほうが道は開けるのかも知れません。実はここまで書いた文章でデジタルでの収益化に関連して意図的に触れてない内容があります。そこは自分自身というか弊社でも「もしかするとイケるのかもなあ」というところです。そのあたり、なんとか形にできないもんか。今年はちょっとそのあたり、がんばってみます。

最後に3点、1月24日のセミナーで聞きたかった質問を。
1.取次社長から書店と出版社の直取引を是認する(というか後押しする)といった発言があったようですが、あの発言の真意をどう汲み取るべきか?(新文化の丸島さんに)
2.協業の例の中でWebサイトの共同運営とそこでの「広告収入」を上げられたが、集客をマネタイズする方法としてGoogle広告などはかなり厳しいのではないか。それはそれとして、書協が小零細の協業のハブというかつなぎ役的な役割を果たすといった可能性はあるのか?(書協の中町さんに)
3.デジタルでのコンテンツ展開に関しては出版社や取次・書店ではないところが取り組み急成長していると言うが、そろそろデジタルの勝ち方を理解した大手がそういうところを内部に取り込み、例えばスマホゲームにコンテンツのライツを提供するのではなく自前でゲームやプラットフォームを立ち上げるという可能性はあるのか?(コンテンツジャパンの堀さんに)

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